カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Nayi Neralu】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2007/02/08 22:44   >>

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 インド映画といえば娯楽満載のマサラ・ムービーが主流だが、その傍らで社会問題や独自の美学を扱うアートフィルムも地道に作られており、それがインド映画を多様で奥深いものとしている。この作品もそうしたアートフィルムの1本で、2006年のカルナータカ州の最優秀映画賞と最優秀監督賞、主演女優賞(Pavitra Lokesh)を獲得している。
 原作はDr S.L.Bhyrappaの同名小説。

【Nayi Neralu】 (2006 : Kannada)
監督 : Girish Kasaravalli
出演 : Pavitra Lokesh, Sringeri Ramanna, Rameshwari Varma, Ananya Kasaravalli, Ashwin Bolar
音楽 : Issac Thomas Kottukapalli
撮影 : Ramachandra Aithal
制作 : Basanthkumar Patil

《あらすじ》
 カルナータカ州のとある村にアッチャナイア(Sringeri Ramanna)とナーガラクシュミ(ナグー:Rameshwari Varma)という老夫婦が住んでいた。アッチャナイアは敬虔なブラーミン。二人の間にはラマンナという息子がいたが、20年前に死亡しており、妻のウェンカタラクシュミ(ウェンクー:Pavitra Lokesh)が寡婦として同居していた。ウェンクーには娘のラージャラクシュミ(ラージ:Ananya Kasaravalli)がおり、町の大学で勉強していた。

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 ある日、アッチャナイアは死んだ息子の「生まれ変わり」が遠くの村にいるという話を耳にする。彼は根拠のない噂だと退けたが、妻のナグーにせがまれて、その村まで赴き、その青年をうちまで連れて帰ることにする。
 それはヴィシュワ(Ashwin Bolar)という名前の、風変わりな青年だった。
 ナグーはヴィシュワを盲目的に受け入れ、実の子のように可愛がり、寡婦のウェンクーにも「自分の夫として扱え」と命じる。
 ウェンクーは、自分の娘と同年齢の「夫」の出現に動揺し、初めは彼を「動物のようだ」と拒絶する。だが、20年間も寡婦として抑圧していたものが次第に甦り、ヴィシュワを受け入れるようになる。そしてある日、二人は結ばれ、ウェンクーは妊娠する。
 娘のラージはそんな母の行動にショックを受け、実父ラマンナのために供養祭を行う。その供養にはウェンクーもヴィシュワも同席を許されなかった。
 ウェンクーの妊娠の噂は村中に知られることになり、彼女は村社会から疎外されることになる。村人の認識では、ヴィシュワはアッチャナイアの息子としては認められていたが、ウェンクーの夫としては認められていなかったからである。
 居たたまれなくなったウェンクーは、アッチャナイアの勧めもあって、ヴィシュワとともに海岸沿いの村に引越し、二人だけの生活を始める。
 だが、ヴィシュワはウェンクーを無視するようになり、ほどなく彼は村の少女に悪戯を働き、逮捕されてしまう。
 その知らせを聞いて、ナグーはショックで死亡してしまう。
 ラージは母を取り戻すために一計を案じ、弁護士に頼んでヴィシュワを告訴させる。ヴィシュワは2年の禁固刑を言い渡される。
 そんなとき、ウェンクーに娘が生まれ、バーラティと名付けられた。
 アッチャナイアとラージはウェンクーの所を訪れ、元の村に戻るよう促すが、彼女は「たとえヴィシュワが私の元に戻って来ないことは確実でも、私はここで2年待ちます」と告げる。

   *    *    *    *

 村でごく平凡に生活している家族の前に「生まれ変わり」が現れることにより、家族が破滅的な状況へと転落していく物語。
 「輪廻転生」をネタにしているが、輪廻転生そのものというより、人々が囚われがちな「妄信」がテーマとなっているようだ。
 物語の舞台は、おそらく30〜40年前の南カルナータカの小村であろう。現在の都市部ではここまで宗教的信念や掟に囚われている人も珍しいと思われる。しかし、ある人々の間で何らかの虚妄な信念が共有されている限り、こういう異様な出来事はいつでもどこでも起こりうるはずだ。
 題名の「Nayi Neralu」は「犬の影」という意味だが、慣用句的に「逃れられないもの」という意味に使われるのだそうだ。

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 「息子」の出現により、家族間に、特に三世代の女性の間に強い葛藤が生まれ、それぞれがジレンマや自己矛盾、自己欺瞞を抱く様子が興味深く描かれている。
 例えば、祖母のナグーは盲信からヴィシュワを受け入れ、ウェンクーに「夫として扱え」と強制しながら、彼女が妊娠すると、このふしだら女が!という態度をとり始める。
 アッチャナイアは「生まれ変わり」など信じていないものの、敬虔なブラーミンである以上否定もできず、ただただ事態を見守るしかできない。
 孫娘のラージは生まれ変わりは非科学的だと激しく非難しながらも、母の「裏切り」に対する復讐心から、供養祭という非科学的な手段に訴えてしまう。
 もちろん、寡婦のウェンクーは最大の謎だ。
 彼女はヴィシュワを愛していたのであろうか?
 そもそも親子ほども年が離れ、「動物のようだ」と毛嫌いしていた男に対して、素直な愛情を抱くとは考えにくい。寡婦としての生活に終止符を打つために、ヴィシュワという存在を利用しただけなのかもしれない。
 よく知られているように、インド(ヒンドゥー教)の守旧的な共同体の中では、未亡人は悲惨な生活を強いられる。
 この映画でも、ウェンクーは定期的に剃髪し、寡婦のしるしの赤いサリーしか着ることを許されず、不吉な存在として、家人が外出するときは壁の後ろに姿を隠さねばならず、晩御飯は食べてはならぬ、、、こんな生活を20年も続けていたのである。
 だがヴィシュワは、彼女に赤いサリーを着替えさせ、晩御飯も食べさせる。そのとき、20年間眠り続けていた欲望や女性としての本能が確かに甦ったに違いない。
 ヴィシュワは、寡婦としての「生ける屍」のような生活から抜け出る唯一の命綱として感じられたのだろう。
 しかし、彼はとんだ食わせ者で、ウェンクーは結局「見捨てられた妻」としての運命を背負わなければならなくなったのは皮肉なことだ。
 逃れられないものから逃れても、また新たな逃れられないものに囚われる。タイトルの「犬の影」は、登場人物たちのそんな囚われを象徴しているのだろう。
 ただ、今や彼女は曲がりなりにも新しい子供をもうけ、自立して生きる意志を見出している。そのへんに「救い」のようなものを感じた。

・評価 : 3.5 / 5
 

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