カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Vel】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2007/11/23 00:37   >>

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 お祭りシーズン、タミル映画の2本目、スーリヤ主演の【Vel】。
 インドで生活していて不思議に思うことは、よく靴屋の隣に靴屋があったり、床屋の隣に床屋があったりすることだ。品揃えやサービス、値段に差があるのならそれも構わないが、実際には似たり寄ったりなので、どちらか一方の存在理由を疑うことが多い。どうして靴屋の隣に花屋を、床屋の隣に写真屋を作ろうと思わなかったのか不思議なのである。
 で、何が言いたいかというと、この間ヴィジャイが二役をやったタミル映画を観たばかりなのに、今度はスーリヤがこの作品で二役をするらしい。近日公開予定のアジット主演の【Billa】は【Don】のリメイクということなので、間違いなくアジットも二役をすることだろう。
 同じ時期に似たような手で攻めることもなかろうにと、私などは思うのだが、これはわざとだろうか?

【Vel】 (2007 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Hari
出演 : Surya, Asin, Kalabhavan Mani, Vadivelu, Aishwarya, Lakshmi, Charan Raj, Saranya, Nasser, Ambika, Raj Kapoor, Charlie
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Priyan
制作 : M. Chinthamani

《あらすじ》
 ある夫婦(Charan Raj & Saranya)に双子の男の赤ん坊がいたが、列車で移動中に片方が泥棒にさらわれてしまう。泥棒は装飾品を奪った後、赤ん坊を捨ててしまう。
 その赤ん坊はディンドゥッカル村の家族に拾われ、ヴェールと名付けられ、特に祖母(Lakshmi)によって可愛がられた。
 ヴェールを育てた一家は、土地の有力者で製糖工場を経営するチャクラヴァルティ(Kalabhavan Mani)の一家と対立関係にあった。チャクラヴァルティの賄賂事件を暴いたヴェールの養父と養母(Nasser & Ambika)がチャクラヴァルティに殺されてしまったからである。
 成人したヴェール(Surya)は、チャクラヴァルティ家との抗争の真っ只中にいた。両家は嫌がらせと暴力の応酬を繰り返していた。
 一方、双子のもう片方はヴァース(Suryaの二役)という名で、チェンナイの実父母の下で立派に成長し、民間の調査会社の役員をしていた。彼にはスワーティ(Asin)というTVレポーターの恋人がいた。
 ある日、スワーティが取材でディンドゥッカル村を訪れた際に、たまたまヴァースに瓜二つの男を目撃し、ビデオに収める。その映像を見たヴァースは自分に双子の兄弟がいた事実を知る。
 ヴァースは兄弟に会いにディンドゥッカル村へ向かう。村でヴェールに間違えられたヴァースは、チャクラヴァルティの一味から手荒い出迎えを受け、ヴェールの置かれた状況を知る。
 ヴェールの家に到達したヴァースは、ヴェールをチェンナイへ連れ戻そうとするが、それはヴェールの家族からもヴェール自身からも拒否される。
 諦めかけたヴァースは、駅へ向かう車の中で、ヴェールに「俺はヴェールのふりをして村に残るから、お前はヴァースのふりをして一度チェンナイの両親と暮らしてみろ」と提案する。ヴェールはそれを受け入れ、チェンナイへ行く。
 一方、村に残ったヴァースは、チャクラヴァルティとの抗争を続ける。しかしそれは、今までのような暴力の応酬ではなく、調査会社のノウハウを駆使した知的な解決法だった、、、。

   *    *    *    *

 素晴らしい作品だった。
 全編、力に満ち満ち、始めから終わりまで、一瞬たりとも弛むところがなかった。
 乱闘シーンが続出しながらも、重苦しくならなかったのは、ヴァディヴェールのコメディー・シーンががっちり機能していたせいか? いや、これはひとえに役者たちの気迫のこもった演技、特にセリフのやり取りに負うところが大だろう。この映画の俳優たちは、他の映画に出演したときに比べて、2倍は水を飲んだに違いない。
 これほど気合い掛かった作品はそう度々お目にかかれない。

 と、それほど気を入れて撮らなければならないほど、田舎のラウディーの存在はパワフルだということだろう。
 私はバンガロールという比較的都会に住んでおり、旅行でも観光地をぶらつく程度なので、地方にいるラウディーたちの実態はピンと来ない。だが、映画で繰り返しテーマに取り上げられているところから、ラウディーの問題の深刻さは窺い知れる。
 映画ではラウディーは、豪族ともいえる土地の有力者として現れ、地場産業を牛耳り、私腹を肥やすために政治家や警察を抱きこみ(【Vel】のチャクラヴァルティは自身が州の大臣という設定だった)、乱暴狼藉を働き、敵対者はばったばったと叩き殺す、そんな一派として描かれている。
 こんなのが実際にいるのか信じ難いものがあるが、【Vel】の舞台になったディンドゥッカル村出身のタミル人が偶然いたので、彼に聞いてみたら、「映画の通りだ」ということだった。
 恐るべし、インドの田舎。
 もちろん、ラウディー物の映画では、ヒーローが現れて、不正に敢然と立ち向かう、または、身内を殺された復讐を果たす、という筋立てが多い。この【Vel】もそうだ。
 だが、この作品の良いところは、暴力の応酬の果てにヒーローが勝利するという形ではなく、知的で合理的なアプローチを示そうとした点だろう。
 そうは言っても、クライマックスで事を決したのはヴァースの知恵ではなく、結局、ヴェールの怒りの一撃だったというのはちょっと残念だ。もっとも、インドに巣食う社会悪に立ち向かうには、合法的な手段だけでは心許なく、「毒をもって毒を制す」という手法もやむを得ないのかもしれない。

 もう一つこの映画で評価したいのは、暴力シーンが頻出しながらも、流血はほとんどなかったことである。最も印象的な流血シーンというのが、コメディアンのヴァディヴェールが石をぶつけられて鼻血を出すシーンだったほどだ。

 ちなみに、上に言及したタミル人の彼によると、ディンドゥッカル村といえば男たちがタミルナードゥ州でもっとも立派な口髭をたくわえるので有名らしい。その通り、劇中は堂々たる口髭オヤジのオンパレードで、ややたじろいでしまった。

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◆ パフォーマンス面
 ヴェールとヴァースを演じたスーリヤは文句なし。彼のキャリアからすると、こういう二役も難しくはないだろう。
 ヒーローなのでそれぐらいやってもらわなければ困るのだが、この作品の緊密なペースは間違いなくスーリヤの力によるものだと思う。(あと、ヴァディヴェールもうまかった。)
 声も素晴らしく、ヒーローたるもの、これぐらいスピーカーの音がバチバチ割れるほどの声を出すべし、というのが私の持論だ。

 スワーティを演じたアシンもお気に入り女優の一人で、再びその「ちょっと間抜けヅラ」が見られて満足している。
 男っぽい内容の作品にもかかわらず、埋没することなく、最後まで健闘していたと思う。いい女優になったものだ。

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 アシンとスーリヤとは【Ghajini】(05)以来二度目の共演。その【Ghajini】はアーミル・カーン主演のヒンディー版リメイクが制作中で、やはりヒロインはアシンが演じる。アーミル・カーンとアシンの共演とは、こりゃまたなにかと楽しみだ。

◆ テクニカル面
 音楽のYuvan Shankar Rajaといえば、やはり心にぐぐっと迫る旋律を期待してしまうが、今回はなかなかそういう曲が出て来なかった。やっとヴァースがヴェールの家族に受け入れられるシーンで彼らしい曲が聞けたので、ひと安心した。

◆ 結語
 【Vel】は、タミル映画に馴染んでいない人にはなんとも取っ付きにくい作品かもしれないが、それが逆に、タミル映画を見続けていてよかったと思わせてくれる佳作だった。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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