カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Inthi Ninna Preethiya】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2008/03/13 22:17   >>

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 カンナダ映画。スーリ監督の第2作。
 スーリといえば、ちょうど1年前に【Duniya】で見事なデビューを果たした新進監督だ。【Duniya】は大ヒットし、私にとっても去年のカンナダ映画の中で印象に残る1本となっている。
 そのスーリの才能を見極めるためにも、待望の2作目だった。

 タイトルの「Inthi Ninna Preethiya」は手紙の結句に使う表現で、英語の「Yours lovingly」などに当たる。

【Inthi Ninna Preethiya】 (2008 : Kannada)
物語・脚本・監督 : Suri
出演 : Krishna, Sonu、Bhavana, Rangayana Raghu, Kishore, Arundathi Jathkar, Lakshmidevi, Preethi, Dr.S.P.Balasubrahmanyam
音楽 : Sadhu Kokila
撮影 : Satya Hegde
美術 : Shashidhar Adapa
編集 : Deepu S.Kumar
制作 : Suri, Yogaraj Bhat

《あらすじ》
 ラジーヴ(Krishna)は美術学校で絵画を学ぶ才能豊かな若者で、母や兄と平和に暮らしていた。兄のプラカシュ(Kishore)は大学講師で、妻のパドマと娘がいた。
 ラジーヴにはスィーナッパ(Rangayana Raghu)という大好きな叔父がいた。彼は昔ラクシュミ(Arundathi Jathkar)という女性に恋し、失恋したショックから舌を切り、唖者になっていた。今は野たれ死にした死体を回収して処分する仕事に就いていた。
 ラジーヴはこのスィーナッパや大学の友人らと共に、バーに行っては楽しく酒を酌み交わしていた。
 ラジーヴにはナマナ(Sonu)という恋人がいた。彼女はラジーヴの家族からも受け入れられ、縁談としてまとまるのは時間の問題だと思われていた。だが、ナマナの兄は猛反対をし、彼女を実業家と無理やり結婚させてしまう。
 これを境に、ラジーヴは猛烈に酒を飲み始め、飲んでは売春宿に転がり込み、道でひっくり返り、喧嘩をする生活が始まった。
 ある日、ナマナはお寺の門前で倒れているラジーヴを見つけ、彼に新居の住所を教える。
 ラジーヴはなんとか酒を断とうと努力していたが、ある時、うっかりナマナの家を訪ねてしまう。そして、彼女の幸せそうな結婚生活を目にし、再び猛烈に酒を飲むようになる。
 ある日、行き倒れがいるとの通報を受けたスィーナッパはラジーヴと共に現場へ行く。だが、その死体はスィーナッパの昔の恋人、ラクシュミだった。彼はショックで自殺してしまう。ラジーヴもショックから痛飲し、真っ昼間に道で倒れてしまう。
 その知らせを受けた兄のプラカシュはラジーヴを殴り倒し、更生させるために結婚させることにする。
 ラジーヴはパリマラ(Bhavana)という女性と結婚する。だが、新婚初夜にも泥酔し、妻に似顔絵を描かせろと言って、ナマナの顔を描いてしまう。パリマラには気の休まらない日々が続いたが、それでもなんとか二人の間には女の子が誕生し、プラルタナと名付けられる。
 ラジーヴの飲酒は止まず、妻や娘が身に付けていた貴金属を売って、酒代に換えることもあった。
 ラジーヴはバブーという悪漢と付き合うようになっていたが、ある時、バブーはパリマラにちょっかいをかける。それを知ったラジーヴはバブーを叩きのめす。
 これを機に、ラジーヴは夫として、父としての責任に気付き、立ち直りの兆しを見せる。しばし平和な時が流れるが、しかしある時、不幸にも妻のパリマラが感電死してしまう。
 ラジーヴは相変わらず酒が切れない生活をしていたが、最低限、プラルタナの世話だけはしていた。
 ある日、プラルタナは歌謡コンテストに出場する。娘を会場に送り届けたラジーヴはバーに転がり込むが、テレビ中継でそのコンテストの模様を見る。プラルタナが歌った後、主催者は彼女に両親について質問する。プラルタナは「母は死んで、父は毎日ジュースを飲んでます」と答える。主催者はブラウン管を通して、ラジーヴに「この娘のためにお酒を止めてください」と語りかける。
 このコンテストを見ていたナマナはラジーヴを呼び出し、諭す。
 兄のプラカシュ夫妻はラジーヴにプラルタナを引き取りたいと申し出る、、、。

   *    *    *    *

 惜しい!
 傑作となる可能性を多く孕みながらも、観るのに骨の折れる作品に終わってしまった。
 しかし、やはりスーリ監督は良い。特にその視点が素晴らしい。
 この映画でも、アル中でぼろぼろになる男を中心に据えているだけでなく、行き倒れ死体回収者や売春婦など、社会では否定的に見られている、または見られさえしない人々に視線を向けている。
 際立っているのは、死体回収者の叔父スィーナッパとラジーヴのくだり。苦い過去を持ち、口が利けなくなったスィーナッパは、逆境にもめげず、当たり前のように死体を集めて回る。ラジーヴはその死体を一枚一枚丹念にスケッチしていく。
 これは、犬っころのように死んでしまった者でも、生きているときは泣いたり笑ったり、恋もしたりしたんだろうなぁと、彼らの人生の意味を見出そうとする努力のようで、その眼差しは温かい。社会の底辺に光を当てた社会派映画というのも珍しくないが、ここまで低空飛行した作品は初めてで、鳥肌が立つほどだった。

 にもかかわらず、主筋のアル中男・ラジーヴの展開は苦しかった。
 ぼろぼろ人生の中にも、きらきらと美しいものが垣間見られることを期待したが、それが希薄だった。
 一体、ラジーヴがナマナの兄に結婚を反対された理由は、
 ・絵描きである (つまり、堅気ではない)
 ・低級な連中と酒ばかり飲んでいる (つまり、素行が悪い)
ということだったが、ならば、絵を描いて見返せばいいじゃないか、堂々と誇り高く酒を飲めばいいじゃないか、と私などは思ってしまうのだが、なのに、めそめそとアル中に転落していく。
 それはそれで構わない。飲酒と愚行を繰り返し、人格破綻、家庭崩壊の一歩手前まで行きながらも、この人に髪の毛一本ほどの誇りとか信念とかがあれば、物語は救いのドラマへと転換して行くはずなのに、そこのところが弱く、結局はラジーヴを見て「あんな男にはなりたくないなぁ」と感じた人も多いだろう。
 すると、受け取られるメッセージとしては「酒を飲むのはよくない」ということになってしまい、おそらくスーリが言いたいのはそんなことじゃなかったろうし、これなら2500年前にすでにお釈迦様が言っている。
 残念に思うのは、ラジーヴは画家という設定なのに、それが十分活かされていなかったことだ。これを膨らませて伏線を張っておけば、悲惨な物語が感動的なものへと浮揚するチャンスがぐっと高くなっただろうにと思う。

◆ パフォーマンス面
 ラジーヴ役のクリシュナ(以前はSrinagara Kittyという芸名だったらしい)の演技は良かった。悲惨で重苦しい雰囲気が強すぎたとしても、それはクリシュナのせいではないだろう。

 注目したいのは三人の女優。
 恋人ナマナ役のソーヌは新人だが光っていた。面白い使い方ができそうで、将来が楽しみな女優だ。
 妻パリマラ役のバーヴァナはキャリアは長いが、いい役が付かなかったので、しばらくスクリーンから遠ざかっていたらしい。だが、今回の役柄は十分印象に残るもので、私の目頭も熱くなった。
 娼婦役のプリーティは、映画よりTVドラマで活躍している女優。1シーンだけの登場だったが、掃き溜めに鶴といった美しさだった。(実際にあんな娼婦はいないだろうけど。)
 この三人の女たちを見る限り、どうやらスーリは女優を活かす才能があるようだ。
 (写真トップ:KrishnaとSonu。下:KrishnaとBhavana。)

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 脇役陣では、スィーナッパを演じたランガーヤナ・ラグは見事の一言。
 この人についても一度書いておきたかったが、スカッとした二枚目以外なら何でもこなせる芸達者だ。いつもは冗舌なセリフ回しで有名だが、今回はなんと唖者の役。それでも面白い芝居をしており、なんかの映画賞で助演男優賞を取るのは確実だろう。
 ラジーヴの兄を演じたキショールは、我が愛する強面俳優。役作り・演技とも悪くはなかったが、ラジーヴを張り倒すシーンなどを見ると、やはりこの人は大学講師よりヤクザや警官役がぴったりだ。

 ちなみに、クライマックスの重要な場面になった歌謡コンテストは実在する地元のテレビ番組で、司会者のS.P.Balasubrahmanyam(有名な歌手)が映画でも実名で登場している。

◆ テクニカル面
 音楽はサードゥ・コキラ。はっきり言って、久々に(?)良い仕事をしています。
 撮影もユニークで、登場人物たちの不安定な心理描写を狙ったのか、カメラをちょいと傾けた構図を多用していた。

 ところで、私の会社のすぐ近くに古ぼけた穴蔵のようなバーがあり、通勤時にいつも「小汚ねぇバーだなぁ」と思いながら前を通っているが、ある時、まさにこの映画のロケ隊がここに撮影にやって来、私たちもぞろぞろと見学(ほとんど野次馬)に出かけたことがある。
 で、映画を観ながら、あのバーが出てくるか楽しみにしていたら、ばっちり出てきました!
 つまりはスーリ監督のメガネに適うほどの汚さだったというわけね。地元の誉れだ。

◆ 総評
 【Inthi Ninna Preethiya】は、上で述べたようなマイナス点はあるものの、泥沼であえぐ者たちへの真摯な眼差しや、俳優の個性の引き出し方の上手さなどで、スーリ監督の非凡さが窺い知れる作品だった。
 彼は次作ではきっと大きな仕事をしてくれるだろう。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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