カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Avva】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2008/03/03 23:52   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 5 / コメント 0

 この頃カンナダ映画をよく観ていて、私のこの日記もカンナダ映画のページと化しつつある。
 私自身、今年はカンナダ映画強化年間と定めているので、そうなるのも当然のことだが、しかし、もしそうじゃなくても、やっぱりカンナダ映画の方に足が向いたかもしれない。それぐらいこの頃のカンナダ映画には勢いが感じられるのである。
 バロメーターの一つが新聞(Times of India誌)の映画欄の星印。ここ1,2年のカンナダ映画といえば星2つ、3つが当たり前で、なかなかそれ以上は出て来なかったが、今年はすでに星4つ、3つ半が複数並んでいる。ロングランしている作品も多い。

画像

 この【Avva】も4つ星が付いた作品だ。
 だが、これは娯楽作品というより、アート・フィルムに数え入れたほうがいいだろう。農村に住むある寡婦と彼女を取り巻く人々の物語。(「Avva」は「お母さん」という意味。)
 監督は女流監督のカヴィター・ランケーシュ。原作は彼女の父の故P. Lankeshが書いた‘Mussanje Kathaprasanga’(A Twilight Tale)という小説。

 実は、このカヴィター・ランケーシュが父の小説を映画化したものとしては【Deveeri】(99:Nandita Das主演)という作品がある。
 細部はもう忘れてしまったが、スラムに暮らす姉弟の物語で、深刻な問題が子供の目を通して淡々と描かれる、地味だがなかなかの佳作だった。ナンディター・ダースが主演しているという理由だけで観に行ったのだが、今思えば観ておいてよかった。
 (ついでに言っておくと、【Monalisa】(04)や【Aishwarya】(06)などのヒット作を撮ったIndrajit Lankesh監督はカヴィターの兄弟。)

 農村ドラマなど、今のインド映画のトレンドからはまったく外れているのだが、インドとインド人をより深く理解したければ、避けて通ることはできない。また、インド映画というものは、一見都会的な物語でも、多かれ少なかれ村落部の問題が反映されているので、こういう作品も機会があれば観ておいたほうがいいだろう。

【Avva】 (2008 : Kannada)
物語 : P. Lankesh
台詞 : P. Lankesh, B. Chandregowda
脚本・監督 : Kavitha Lankesh
出演 : Shruthi, Vijay, Smitha, Rangayana Raghu, Arundathi Jathkar, Master Rakesh, Yenagi Nataraj, Suchendra Prasad, Ashwath Neenasam, Hanumakka
音楽 : Isaac Thomas
撮影 : Madhu Ambat
編集 : Suresh Urs

《あらすじ》
 ランガッワ(Shruthi)はとある村に住む寡婦で、金貸し業で生計を立てていた。彼女は上級カーストに属していたが、非常にタフな女で、借金の取り立てを巡っては相手が誰であろうと容赦なく噛み付いていた。粉引き屋のバルマンナ(Rangayana Raghu)も彼女にやり込められている一人だった。
 ランガッワにはサーヴァントリ(Smitha)という娘がいたが、年頃でちょいと可愛かったため、虫がつくことを警戒していた。
 村には使い走り役のカリヤ少年(Master Rakesh)とその母で騒々しいハヌマッカ(Hanumakka)、ロリコンの学校教師(Yenagi Nataraj)、夢想家のオカマなどがいて、平和だかなんだか分からない日常が繰り返されていた。
 ランガッワはサーヴァントリを義弟(Ashwath Neenasam)と結婚させようと思っていたが、サーヴァントリにはすでにマンジャ(Vijay)という恋人がいた。だが、マンジャは低カーストの人間だったため、ランガッワは快く思っていなかった。
 サーヴァントリにはシヴィーという読書好きの女友達がいたが、お見合いをする予定の日に病気で死んでしまう。しかし、後で彼女が妊娠していたと分かり、サーヴァントリはショックを受ける。
 バルマンナにはラミ(Arundathi Jathkar)という妻がいたが、彼女は旦那から夜の相手をしてもらえず、欲求不満気味だった。彼女はとうとう浮気をしてしまうが、それがばれてしまい、平身低頭で詫びを入れる。
 バルマンナを始めとするランガッワにやり込められている男たちは、ランガッワ母子を苦々しく思っていた。彼らはある晩、サーヴァントリが低カーストのマンジャと結ばれるくらいなら、いっそ自分たちが辱めてしまおうと、寝ている彼女を誘拐する。しかし、間違えて他の女を誘拐してしまう。
 そしてある晩、マンジャとサーヴァントリが逢引しているところを村人たちが見つける。彼らは松明を灯して、マンジャたちに襲いかかる。マンジャとサーヴァントリはランガッワの家まで連れて行かれる。だが、村人たちのあまりの愚かさに辟易したランガッワは、彼らの前で、サーヴァントリとマンジャを結婚させる。

   *    *    *    *

 ほのぼのとした農村劇と思いきや、粗野でとんちんかんな田舎者の様子が狂気じみて描き出された、強烈な風刺劇だった。
 時代はいつか分からないが、様子からするとふた昔前ぐらいの設定だと思われる。(原作は30年ほど前に書かれたもの。)

 テーマは、保守的な村社会における女性蔑視の問題だろう。
 ランガッワは早くに夫と死別してしまい、女一人で娘を育てていくためには、男勝りな行動をとらなければならない。そんな女のくせに偉そうな態度が男たちの攻撃の的となる。また、バルマンナの妻・ラミやサーヴァントリの友達・シヴィーなど、生きる喜びを見失ったような女性たちが登場するが、そんな村における女性の価値は、「村人は女の子よりメス牛のほうをほしがる」という台詞によく象徴されている。

 カーストによる差別の問題も本作の大きなテーマだ。
 あんなふうに、高カーストの娘(サーヴァントリ)と低カーストの男(マンジャ)が結ばれるのを嫌い、それなら自分たちが交わろう、などという村人の発想には本当におったまげた。
 ランガッワも始めは低カーストのマンジャを快く思っていなかったが、村人たち言動が反面教師となって、真に守るべきものは何かを悟る。
 このクライマックスで、ランガッワがナタを振りかざして村人たちに大見得を切り、マンジャにサーヴァントリの首にマンガラスートラ(結婚の証の紐)を結ばせるシーンは迫力があった。それまではどちらかと言うと退屈に感じられたが、このシーンで一気に目が覚めた。
 保守的なインド(ヒンドゥー)社会では未亡人の地位というのは情けないほど惨めなものだが、この作品では「ところがどっこい」といった感じのしたたかさで、女の意地が感じられた。

 ところで、この作品は性に関する「大胆な」描写が賛否を生んでいた。
 一つは肉欲を持て余したラミが男を誘惑するくだり。
 もう一つはマンジャとサーヴァントリのキス・シーン。

画像

 これが問題のキス・シーンだ。カンナダ映画では規制として禁じられているわけではないが、一応「lips to lips」のキスは見せないことになっている。だが、こんなシーンが都合4度ほどあった。
 これらのシーンのせいで、この映画は「A指定」がついてしまった。
 実は、私が見た限り、それほど大胆でもなく、リアリズムという観点ではこれぐらいのシーンがあっても不思議ではない。しかし、非常に嫌悪感を抱いているインド人も多く、おそらくこれが躓きとなって、この映画はヒットしないだろう。

◆ パフォーマンス面
 ランガッワ役のシュルティは、上に書いたとおり、腰の据わった見事な演技だった。
 この人、つい先日観た神様映画【Navashakthi Vaibhava】ではひたすら神に祈る敬虔な妻を演じていた人で、あまりのギャップに驚いた。(写真トップの右)

 マンジャ役のヴィジャイは、この日記でもしばしば言及しているマッチョ・スター。しかし、今回はまったくアクションを封印して、素朴な田舎青年に徹していた。(それがまた彼の田舎顔にはピッタリなのだが。)
 ところで、ヴィジャイといえば、どこかで会ったことがあると常々思っていたら、数年前に私がジムへ通っていたとき、そこでインストラクターをやっていた男だということが分かった。当時はまさか彼が【Duniya】(07)でブレイクしてスターになるとは想像もできず、、、今思えば惜しいことをしたものだ。

 ヒロイン、サーヴァントリ役のスミタは【Mathad Mathadu Mallige】(07)でも気を吐いていた女優。美人タイプではないが、注目株と見ていいだろう。

画像

◆ 結語
 【Avva】は、通常のマサラ映画とは違い、みんなで観てわいわい語り合うような作品ではない。しかし、非常にパワフルでメッセージのある作品なので、もし日本でも映画祭かなんかにエントリーしていたら、観ておいても損はないだろう。特に女性にオススメしたい。

・満足度 : 3.0 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Shankar IPS】 (Kannada)
 「ブラック・コブラ」こと、ヴィジャイ主演のカンナダ映画。  インド映画にスターはあまたいれど、私の目から見て「なんでこいつがスターやねん」と思えるスターも多い。この、【Duniya】(07)でブレイクしたカンナダのヴィジャイも「なんでこいつがスターやねん名鑑」に入る一人だ。  【Duniya】一発で終わるかな、と思っていたのだが、しかし、筋骨隆々の肉体を売りにしたフル・アクション俳優というのも近ごろ珍しく、庶民派のヒーローとして、興行収入の期待できる俳優になってしまった。  し... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2010/05/26 03:40
【Huduga Hudugi】 (Kannada)
 インドラジット・ランケーシュ監督のカンナダ映画。  インドラジット・ランケーシュは、有名な作家・ジャーナリストだった故P・ランケーシュの息子。自身もジャーナリストだが、時おり思い出したように映画を撮り、【Monalisa】(04)や【Aishwarya】(06)などのヒット作をものにしている。作風はスタイリッシュかつ娯楽に徹したもので、私はけっこう好きだ。ちなみに姉(or妹?)のカヴィタ・ランケーシュもよく知られた映画監督で、こちらは【Deveeri】(99)や【Avva】(08)... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2010/11/19 22:34
【Yaarre Koogaadali】 (Kannada)
 サンダルウッドのパワースター、プニート・ラージクマールは、サムディラッカニ監督のタミル映画【Naadodigal】(09)のカンナダ版リメイク【Hudugaru】(11)に主演し、ヒットさせた。そこで、味をしめたラージクマール家のプロダクションが再び同監督作品のリメイクに取り組んだのがこの【Yaarre Koogaadali】。オリジナルは【Poraali】(11)。二匹目のドジョウ狙いが見え見えだし、【Poraali】はそれほど面白いとも思えなかったので、本作も特に触手は動かなかっ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2012/12/30 18:06
【December-1】 (Kannada)
 カンナダのP・シェーシャードリ監督といえば、ギリーシュ・カーサラワッリ監督に並ぶカンナダ・アートフィルムの作り手だが、とにかくこれまで発表した作品(7作)がすべて国家映画賞の何らかの賞を獲得している。アートフィルムといっても、彼の場合、退屈ということもなく、ユーモアと風刺感覚に冴えがあり、私はけっこう好きである(本ブログでは【Bettada Jeeva】(11)を紹介した)。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/05/01 09:24
【Shuddhi】 (Kannada)
 前回紹介した【Urvi】が女性主体の映画なら、この【Shuddhi】もそうで、この2作が同日公開されたのは全くの偶然だろうけれど、メディア上では何かとセットで語られることが多く、ならセットで観てやろうと、こちらも観て来た。  実は【Urvi】がいまいち私にはフィットしなかったので、似たような映画を観るのもなぁと、スディープ主演の【Hebbuli】に乗り換えようかとも思った。また、【Shuddhi】は小難しそうな映画だと予想されたし、ポスターに映っている白人女性の顔も怖そうだったし、... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2017/03/23 20:32

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Avva】 (Kannada) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる