カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Satya Harischandra】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2008/06/13 21:40   >>

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 今年は私自身カンナダ映画重点年間と定めており、あれこれカンナダ映画にアプローチしているが、それで思うのは、やはり故ラージクマールの存在は大きいなぁ、ということだ。歴史的に見て、カンナダ映画とはラージクマール映画のことで、他の著名スターたちも畢竟はラージクマールの出入り業者にすぎなかったのかなぁ、などと思ったりもする。

 そんな偉大なラージクマールであるが、私がバンガロールに来たときにはすでに引退状態で、名前のみ聞く存在だった。
 しかし、2000年のヴィーラッパンによるラージクマール誘拐事件ではバンガロールが1ヶ月近くストライキ状態になったし、2006年4月に永眠の途についたときも街のあちこちで暴動が起き、そのカリスマ性を嫌というほど思い知らされた。
 最後の主演作【Shabdavedhi】は2000年の作品なので、観られたはずだが、その当時はまだラージクマール映画を観る価値を知らなかった。【Jogi】(05)の冒頭でちらっと特別出演していたのが私にとって唯一のラージクマール銀幕体験だった。

 そのラージクマールの代表作の一つがこうしてリバイバル公開され、映画館で観られるとは有り難いことだ。しかも、1965年公開のオリジナル白黒作品にカラー化を施してのリニューアル版である。

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 【Satya Harischandra】は、インドの叙事詩に現れるアヨーディヤの王、ハリスチャンドラのエピソードを描いた映画で、ハリスチャンドラ王はウソをつかない(ダルマを果たす)人物として知られている。「satya」は「真実」という意味なので、邦題としては「ハリスチャンドラ真実王」とでもなろうか。ラージクマールの全部で204本ある出演作のうち、61番目の作品とのことだ。
 本作は何度かリバイバルされているらしく、最近の公開は1992年のようだ。私の周りにも、子供のとき両親と観に行った、と記憶しているカンナダ人も多い。

 カラー化にはおそらくヒンディー映画の【Mughal-e-Azam】(1960年製作、2004年カラー版公開)等と同様の方法が取られたと思われるが、本作ではアメリカの「ゴールドストーン・テクノロジーズ」という会社が作業を請け負っているらしい。
 今回のリニューアルにあたっては、カラー化だけではなく、画面サイズを35ミリからシネマスコープに変え、さらに音楽もデジタル化している。そして、映画の長さも、3時間41分あったオリジナル版を2時間53分までカットしている。
 (【Satya Harischandra】という映画とリニューアルの詳細については、このWikipediaの記述を参照。)

 今回は私も気合いを入れようと思い、すでに発売されている白黒版のDVDを購入、さらに同年に製作されたテルグ語版の【Satya Harischandra】(NTR主演)のDVDも手に入れ、リニューアル・カラー版と併せて鑑賞した。

【Satya Harischandra】 (1965/2008 : Kannada)
監督 : Hunsur Krishnamurthy
出演 : Dr. Rajkumar, Udaykumar, Pandharibai, Narasimharaju, Baby Padmini, K.S. Ashwath, M.P. Shankar, Relangi Ratnakar, Dwarakish, Vanisri
音楽 : Pendyala Nageshwara Rao
撮影 : Madhav Bulbule
制作 : K.V. Reddy

《あらすじ》
 昔々、アヨーディヤにハリスチャンドラ(Rajkumar)という王がいた。ハリスチャンドラ王は信仰心厚く、聖仙を敬い、言ったことは必ず守る有徳の士として知られていた。
 ある時、インドラ神の面前で聖仙たちが人間の幸福について議論していた。その結果、「真実(正直)」ということが人間にとっての最大の徳だという結論になった。ところが、ヴィシュワミトラ仙(Udaykumar)は、人間にとって正直は不可能だと一蹴する。それに対してヴァシシュタ仙(K.S. Ashwath)は、アヨーディヤのハリスチャンドラ王はひと時も真実を離れないと反論する。ヴィシュワミトラは仙人たちに対し、ハリスチャンドラ王も嘘をつくことを証明して見せよう、と挑戦状を叩きつける。
 ヴィシュワミトラは様々な策を考え、ハリスチャンドラを陥れようとするが、王は難なく切り抜ける。
 その後、ある経緯から、ヴィシュワミトラはハリスチャンドラに対して自分の娘と結婚するよう強要する。王はすでに后がいたため拒否するが、ヴィシュワミトラは王の信仰心を逆手にとって攻め立てる。困惑したハリスチャンドラは、「それを受け入れるのが国王の義務なら、私は玉座を捨ててもいい」と言ってしまう。ヴィシュワミトラはその言葉を捉え、自分に王位を譲ることを迫る。
 ハリスチャンドラ王は王冠を脱ぎ、后チャンドラマティ(Pandharibai)と王子ローヒタ(Baby Padmini)を連れて王城を出る。ヴィシュワミトラは監視役として弟子のナクシャトリカ(Narasimharaju)を同行させる。
 一行は荒野と森をさまよい、カーシー国までやって来る。王はヴィシュワミトラに対して金を払う約束があったが、収入の当てがなかったので、自らを売るために奴隷市に立つ。后と王子はあるアーチャーリヤの家に売られ、王はヴィーラバーフ(M.P. Shankar)という火葬場を管理する役人に売られる。
 ある時、王子が毒ヘビにかまれて死んでしまう。后は王子の遺体を火葬場へと運ぶが、そこにいたのはハリスチャンドラだった。二人は息子の死を嘆き悲しむ。
 さらにヴィシュワミトラの策動は続く。彼は后とそっくりの女を作り出し、カーシー国の王子を誘拐させ、命を奪う。本物の后は逮捕され、死刑を宣せられる。
 后は火葬場へ連行される。ヴィーラバーフはハリスチャンドラに死刑囚の首をはねるよう命ずる。ハリスチャンドラは罪人が自分の妻だと知って驚愕するが、義務を果たすために斧を振り上げる、、、。

   *    *    *    *

 真に尊敬に値する作品だ。
 「玉に瑕」という言葉があって、この作品にもキズはあるだろうけど、キズだらけのガラス玉映画が溢れる今日において、これはまさに貴石だ。

 ヴァシシュタ仙には悪いが、実際にはウソをつかない人間なんていない。また、ヒンドゥー教徒にも悪いが、シヴァとパールヴァティが虚空に姿を現すのも怪しいもんだ。
 王でも神でもない役者が王や神を演じるのも一種のウソだし、そもそも映画という仕掛け自体がウソもウソも大ウソ。
 だが、人が「演ずる」という行為はなかなかどうして侮れないもので、あたかもそこに神がいるかのように、ウソをつかない人間がいるかのように、懸命に演じる役者たちの演技が力強くかつ純粋であればあるほど、そこからはウソとは呼べないリアリティーが立ち現れてくることがある。いわば、「虚」が「実」に転換する瞬間であるが、この接点を観客の想像力が捉えているとき、彼らは眼前に神を見、ウソをつかない人間に出会った、と十分信じることもできるのだ。
 こうしたドラマ的真実の世界を体験させてくれる映画は滅多にないが、本作はそんな稀有な作品だと思う。

 そうした意味で、俳優たちはいい仕事をしている。
 ハリスチャンドラ役のラージクマールはもちろんのこと、仙人役のウダイクマールとアシュワト、后・チャンドラマティ役のパンダリバーイの演技は素晴らしかった。
 第一、顔がいい。立派な顔をしている。
 背筋を伸ばして朗々とセリフを発する演技スタイルは、映画というより演劇に近く、古めかしいものも感じるが、近ごろの映画のセコい芝居にはない本物の味わいがある。

 この映画で描かれているのは「徳(ダルマ)」ということであるが、お硬いだけの作品ではない。
 おそらくカンナダ人たちは、悲劇的なストーリー展開と夫婦・親子の情愛に涙を流しただろうし、歌やコメディーシーンは軽妙で楽しめるものだ。その点で、ナクシャトリカ役のナラシンハラージュ、ドゥワーラキーシュ(まだ若い!)、M・P・シャンカルの活躍は大きいし、王子役の子役(Baby Padmini)も可愛いらしい。
 インドラ神の面前で舞われるアプサラ・ダンスも実に見事だ。(後日付記:これについては、カラー版DVDではかなりカットされており、失望。)

 カラー化については、私が見た限り、かなりうまく行っている。
 水彩絵の具を刷いたような彩色の施し方だが、映画自体が書き割りを背景に撮影されたような絵画的なものなので、よく合っている。
 原版フィルムのダメージをかなり修正したようで、白黒版DVDと比べるとずいぶんすっきりした映像になっている。これほどの技術なら、過去の白黒名作も次々にカラー化されないかしらと期待もする。
 もちろん、白黒には白黒の味わいがあり、今さらグル・ダットの【Pyaasa】(57)に色を着けろとは言わないが、きらびやかさと色彩が本命の作品なら歓迎したい。

◆ 再現! カラー版【Satya Harischandra】

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  王「アヨーディヤの民よ、余は『真実王』、ハリスチャンドラじゃぞ。
    だれじゃ、余を『バカ正直王』と呼ぶ奴は!」

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  女「ちょいと社長さん、寄ってらっしゃいな! 新しい娘も入ったしぃ。」
  王「ぬぬ、余は社長にあらず、王じゃぞよ。
    し、しかしその紫のブラはエッチじゃのぉ〜。」

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  この一言が禍し、哀れ、王は流浪の身に、、、。
  祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きありぃ〜。(ベンベン ←琵琶の音)

 と、上で思い切り褒め上げておいて、この落とし方もあんまりだが、こんな馬鹿ネタで遊べるのもカラー化のおかげだ。

 ところで、白黒版DVDに期待したのは3時間41分のオリジナル版だったが、私が入手した「T-Series」のものはリニューアル版と同じ2時間53分だった。
 詳しい経緯は知らないが、おそらく過去にリバイバルされたときにすでに短縮版となっており、今回のカラー化もそれを基にしたのかもしれない。
 ちょっと残念だが、たぶん3時間41分版はもう完全な形では残っていないのだろうと思う。
 NTR主演のテルグ版との比較では、主要登場人物の俳優と言語が違う以外は、ダンスシーンも音楽もセットもほぼ同じで、双子の作品と言える。
 どちらがいいかはここでは言わないとして、気にかかるのは、テルグ版のディスク(Shalimar社製)は長さが2時間29分しかなかったことだ。途中で不自然な飛び方をしている部分が何ヶ所もあり、たぶんこれも完全版が存在しないのだろう。(ちなみに、パッケージには「英語字幕付き」とあるが、そんなもんなかったぞ!)

 さて、4年前に【Mughal-e-Azam】のカラー版を観たときは、鳥肌が立つほど感動し、ここ50年のインド映画の歴史は退化の歴史か、と思ったほどだ。
 この【Satya Harischandra】はそこまでの衝撃を受けなかったが、カンナダ映画の実力を確認でき、これからクラシックを観ていく弾みになる。
 決して取っ付きにくい映画ではないが、テーマとか表現スタイルとか、現代の日本人の感覚からはかけ離れた面もあるので、うっかりすると価値を見過ごしてしまうかもしれない。
 シヴァリンガを前にして、随喜の涙を流して歌うパンダリバーイを美しいと感じられれば、しめたものだが。

・満足度 : 4.5 / 5
 

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