カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Gulabi Talkies】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2008/09/24 21:16   >>

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 ギリーシュ・カーサラワッリ監督のカンナダ映画。
 ギリーシュ・カーサラワッリ監督といえば、国家映画賞の最優秀作品賞を4度も取ったことのあるカンナダ映画界の雄だ。私はそんな偉い方だとは露知らず、去年【Nayi Neralu】を観て、大いに感服した記憶がある。
 彼の作品はいわゆるアート・フィルムになるのだが、【Nayi Neralu】を観る限り、死ぬほど退屈というわけでもなく、また、映画祭に出品する手前、始めから英語字幕が付いていたりして、意外と取っ付きやすいのである。
 この【Gulabi Talkies】もすでに「10th Osian's Cinefan Festival」で「最優秀インド映画賞」と「最優秀女優賞」を獲得しており、やはり押さえておくことにした。
 (写真下:カーサラワッリ監督近影。)

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【Gulabi Talkies】 (2008 : Kannada)
原作 : Vaidehi
脚本・監督 : Girish Kasaravalli
出演 : Umashree, K.G. Krishnamurthy, M.D. Pallavi
音楽 : Issac Thomas Kottukapalli
撮影 : S. Ramachandra Aithal
編集 : S. Manohar, M.N. Swamy
制作 : Basanthkumar Patil

《あらすじ》
 舞台は1990年代後半、カルナータカ州、クンダプラにある小さな漁村。
 グラービ(Umashree)はこの村で助産婦をしているイスラーム教徒の女性。結婚しているが、夫のムーサ(K.G. Krishnamurthy)は彼女を捨て、第2夫人と共に近所で暮らしていた。それでもグラービは悪びれることなく、夫の生活に干渉することはなかった。
 グラービはイスラーム教徒ということで、村のヒンドゥー社会からは無視されていた。しかし、彼女の助産婦としての技量は村社会には欠かせないものだった。
 グラービの生きがいは映画だった。彼女は毎日夕刻になるとボートに乗り、近くの町の映画館で映画を楽しんでいた。その時ばかりは産婆の仕事もお断りだった。
 ある日、グラービが映画を観ているときに、町の有力者、カリヤニの娘が産気付き、グラービは無理やり映画館から連れ出される。むずかる彼女に、カリヤニはお礼にカラーテレビを買ってやると約束する。
 果たして約束どおりに、グラービのうちに巨大なパラボラ・アンテナと共にカラーテレビがやって来た。すると、それまで彼女を避けていたヒンドゥー教徒の女性たちも彼女の家にテレビを見に集まるようになる。あまつさえ、夫のムーサもテレビ見たさにグラビの家に戻って来る。
 この漁村はワサンナという男が猟師たちの親方格だった。しかし、近ごろ湾岸からやって来た外国漁船が沖合いで操業を始めたため、ワサンナたちの漁は上がったりだった。ムーサは外国船の元締め、スレーマンと手を組んでいた。ワサンナの仲間たちもムーサの口車に乗って、スレーマンの船に乗りたがる者も現れ、静かな漁村に波風が立つ。
 そんなある日、グラービの近所に住むネトルーという女性が失踪する。ネトルーはグラービとも親しかったが、夫が出稼ぎに出ており、姑との関係はよくなかった。だが、ちょうど同じ時にムーサも行方不明になったため、村人たちはムーサとネトルーが駆け落ちしたのだと噂する。
 村人たちはネトルーを見つけ、捕まえて家に戻そうとする。ネトルーはグラービに会い、「ムーサと駆け落ちしたのではない」と打ち明ける。しかし、その晩、ネトルーは自殺する。
 ムーサの親類たちは、ムーサの件でヒンドゥー教徒からの迫害を恐れて、村を出る準備を始めるが、グラービは残ることにする。だが、村の男たちは力ずくで彼女を村から追い出してしまう。グラービの家には、ただカラーテレビだけが残される。

   *    *    *    *

 劇中でグラービが観ていた映画が1997年製作の【America! America!!】だったこと、カラーテレビに流れていたニュースの日付が99年2月だったことから、物語は98年から99年の出来事だと分かる。ほぼ10年前のカルナータカの漁村の様子である。
 この時期の2つの社会的出来事が物語の背後に横たわっている。一つは、インド政府が外国の船にもインド近海漁業を認めたこと、もう一つは、印パのカシミール紛争(カーギル紛争)の激化である。これらのことが小さな漁村に暮らす人々の生活と意識をじわじわ変えていく様子が、グラービというイスラーム教徒の女性を軸に描かれている。
 原作はVaidehiという女流作家のカンナダ語短編小説で、カーサラワッリ監督は彼女と共同でこの映画のための脚本を書き上げたらしい。非常に丁寧にできた脚本だった。

 テーマはやはりインドの村落部が直面している「近代化」と「差別」の問題だったと思う。
 「近代化」の象徴となっていたのは船とカラーテレビ。中東からやって来たスレーマンという男が操業する近代的な船が、地元漁民の漁獲にダメージを与え、魚市場の相場も大きく変えてしまう。
 カラーテレビを通しては、村人たちのエゴが浮き彫りにされる。それまでグラービを無視していた人々が、手のひらを返したように彼女のもとに集まるようになる。
 だが、ニュースや風聞を通して伝わる印パの問題が、イスラーム教徒に対する「差別」を助長する。特にこの村では、漁民たちにとって元凶となったのがイスラーム・ネットワークだったことから、ムスリムたちは以前にも増して敵視され、結局、特に悪いことをしていないグラービも村から追い出されることになる。
 ただ、この映画では近代化そのものが悪いというより、むしろ、日和見主義的な村人たちの愚かさのほうが強調されている。スレーマンの船に付くか付かないか、グラービに近付くか近付かないか、その場の状況でころころ変わる村人の「根」の無さが批判されており、結局、遅れているのは技術やインフラではなく、人々の意識だ、というのが本作の主張だったと思う。そんな中で、一本筋の通った生き方をするグラービには肯定的な価値が与えられている。

 「カラーテレビ」を通しては、近代化とそれに伴う大衆化・画一化の現象もさりげなく風刺されている。いくつか面白いセリフがあったので、記しておく。
 例えば、初めてカラーテレビを見たお爺さんのセリフ、「今日はカラーじゃが、明日は白黒になるじゃろ。ワシの着とるシャツと同じじゃ。これも買うたときはカラフルじゃった。」
 グラービのセリフ、「前は毎日同じ映画見てても、いつも違った夢見てたものじゃが、今はテレビで毎日違う番組見てるのに、同じ夢ばっかり見とる。」
 町のおばさんのセリフ、「町じゃ、みんなケーブルテレビで同じ番組見てる。お前さんのテレビだけが特別じゃないさ。」

 演技陣では、後にも先にもグラービ役のウマーシュリーの上手さに尽きる。
 彼女は娯楽映画にも普通に出ており、近ごろではたいてい主役の母や祖母などの役で、コメディーもよくやる。今回、私は初めて彼女の女優としての真価を知った。
 (写真トップ:Umashree@グラービとKrishnamurthy@ムーサ。)

 上で書いた通り、映画中の映画として【America! America!!】が使われていたが、これはドンピシャの選択だろう。【America! America!!】もやはりカルナータカ州沿岸部の小村出身の若者がソフトウェア技術者としてアメリカに渡るという話だが、バンガロールがインドのシリコンバレーとしてバブルに突入した時期に、沿岸部の田舎はこうだったのかと、対比的に見ると面白い。

 こうして見ると、この【Gulabi Talkies】はカンナダ人にとって身近なテーマの映画であるはずなのに、ご当地カルナータカでも、本作はバンガロールのシネコン1館、1日1回こっきりの上映しかしていない。それを嘆かわしいと言うつもりはさらさらないが、いくら低予算の映画だからといって、これで採算が取れるのかどうか心配になる。
 現地でさえこういう状況なので、日本人の誰にオススメするとも言いにくいが、もし映画祭などに掛かっていたら、観ても損はないだろう。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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