カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Psycho】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2008/11/11 20:48   >>

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 本作については、制作が発表されたのは1年前だが、秘密のヴェールに閉ざされていて、公開初日の朝まで出演者の名前もスチール写真も予告編も一切公表されていなかった。
 しかし、オーディオCDはすでに5月にリリースされており、爆発的なヒット。
 何かと話題が先行した本作がやっと全貌を現わすこととなった。

【Psycho】 (2008 : Kannada)
脚本・監督 : V.Devadatta
出演 : Dhanush, Anita, Padmaja Rao, T.N.Srinivasamurthy (Balu), R.G.Vijayasarathy
音楽 : Raghu Dixit
撮影 : Sabha Kumar
編集 : B.S.Kemparaj
制作 : Gurudutt

《あらすじ》
 郊外の古ぼけた家に、一人の男(Dhanush)が住んでいた。
 男はパーヴァナ(Anita)という女性に強い愛着を抱いており、遠くから彼女を眺め、彼女が落とした物、忘れていった物、捨てていった物を拾っては、ビニール袋に入れて保管していた。男はまた、誰かがパーヴァナに不品行を働くと、その者を叩きのめさずにはおかなかった。
 パーヴァナはテレビ番組のビデオ・ジョッキーをやっていた。男はその番組に電話をかけ、パーヴァナに自作の詩を聞かせる。
 男は番組を通してだけでなく、パーヴァナの携帯電話にも直接電話をかけるようになる。パーヴァナもこの男のことを意識するようになる。
 ある時、パーヴァナの父が急病で入院する。そして退院時には、男が密かに父を退院させ、入院費も支払う。それを知ったパーヴァナは、お金を返すために、男に銀行口座の番号を聞く。だが、男が教えた番号は、ある孤児院のものだった。
 男のこの善意に感銘を受けたパーヴァナは、会ったこともなく、電話でしか話したことのないこの男に愛情を抱くようになる。
 ある時、パーヴァナは、男が電話を通して詩を語るのを録音する。そして、録音した声を従姉に聞かせる。その従姉はインターンの医師であったが、その声を聞いて不審に思い、過去の治療記録を調べる。そして彼女は、パーヴァナの相手が精神病患者であることを突き止める、、、。

   *    *    *    *

 【Psycho】という題名から、ヒッチコック監督の有名な【Psycho】(60)を思い浮かべるが、本作はインスピレーションは受けているとはいえ、ストーリーや意図は全く違っており、リメイクや翻案ではない。
 一応、サイコ・サスペンスの体を取っているが、私の見たところ、一風、否、二風ぐらい変わったラブ・ストーリーと見たほうがよさそうだ。

 評価は二つに分かれていて、「カンナダ映画のサスペンス物では最高作の一つ」と褒め上げるものから、「技術だけ」という辛口のものまである。
 私は後者に近い。
 とにかく、撮影、編集、音楽は素晴らしく、何かとんでもない事が起こりそうな気配を感じるのだが、ストーリー・ラインが弱く、特に最後のタネ明かしはストレートすぎて、観終わった後は「それだけかい!」、「あれは何だったんだ?」と、腰砕けの感は否めない。

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 街頭に貼られたこのキモいポスターから、シュールなぶっ飛び映画を期待しないでもなかったが、冷静に観ると、単純すぎる構成のドラマだということが分かる。ストーリーが弱いというより、変に辻褄合わせのストーリーをつけてしまったのがまずかったと思う。
 ただ、ストーリーという次元を離れて観ると、監督たちがこの映画で表そうとした感覚、やろうとした意図はよく理解でき、それに向けての努力は大いに評価したい。

 私的に興味深かったのは、主人公がきわめて内向型のストーカーとして描かれていたことだ。
 インド映画のヒーローといえば、外向型というか攻撃型というか、とにかく惚れたら押しの一手でヒロインにアタックし、‘I hate you!’と言われようがとことん付き纏い、結局は‘I love you’と言わせるタイプが主流だ。しかし、それとは対照的に、遠くからヒロインを眺め、電話などの手段を通してしかヒロインと接触できないヒーロー像もたまに目にする。カンナダ映画では、今年公開された【Taj Mahal】もそんな作品だった。
 外向型、内向型、どちらも極端な愛情表現のように思えるが、インドではまだまだ自由恋愛の壁が高いことを考えると、極端な対処行動も理解できないことはない。だが、実際には壁をぶち破れるような者は少数派で、壁を前にしてたじろぐ若者のほうが主流だろう。【Taj Mahal】や【Psycho】が漂わせている暗いムードは、そんな若者たちの悲愴感・絶望感の表れと思えないこともない。

◆ パフォーマンス面
 映画の公開直前まで明かされなかったヒーローとヒロインは、DhanushとAnitaという俳優がそれぞれ演じている。どちらも新人らしい。こういうスリラー物には合ったルックスで、パフォーマンス的には悪くなかった。

 気にかかるのはクレジットにあるR.G.Vijayasarathyという名前。これはカンナダ映画のレビューをずっと書いている人と同じ名前で、私はVijayasarathyのことをジャーナリストか何かだと思っていたが、本職は俳優だったのかしら? (どの役をやっていたのか特定できないが、おそらく主人公の親類の不気味な老人だろう。)

◆ テクニカル面
 監督のDevadattaはこれが監督デビュー作。‘クレージー・スター’、ラヴィチャンドランの下で助監督をやっていた人らしい。この人の才能と感性も楽しみだ。
 ちなみに、プロデューサーのGuruduttという人はソフトウェア・エンジニアらしい。

 本作の強みの一つ、映像は、Sabha KumarのカメラもKemparajの編集も素晴らしい。
 カメラワークに加えて、薄暗く不気味な主人公の家(マイソールにある築150年の家屋らしい)を演出した照明や美術も評価すべきだろう。

 もう一つの強みは音楽であるが、これも非常に素晴らしい。また、従来のカンナダ映画音楽とは全く趣を異にしており、例えばグル・キランやマノ・ムルティ、ハリクリシュナなどに馴染んでいる人が聞いたら、面食らうかもしれない。
 担当したのはRaghu Dixitというマイソール出身の作曲家・歌手。
 ラグ・ディークシトについての詳細は下記サイト等に譲るとして、興味深い点を拾っておくと、、、大学の専攻は「細菌学」で、首席卒業。青年期まではバラタナーティヤムのダンサーだったが、友人にそれを茶化されたのが音楽(ギター)を始めるきっかけになったらしい。‘Antaragni’というバンドを経て、‘The Raghu Dixit Project’というユニットで活動中にボリウッドの音楽監督、Vishal-Shekharの目に留まり、いわゆるメジャーデビュー、1枚のアルバムを発表する、云々。

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 彼の音楽はいわゆるフュージョンということになるが、オープン系で多彩な要素を取り入れているようだ。【Psycho】の音楽でもロック、ラテン、カルナータカ・フォークなどを非常に面白い形でミックスさせている。フルートの使い方が美しい。また、ラグ自身が歌う歌声も良い。
 と、音楽そのものの出来は素晴らしいのだが、映画音楽として聴いた場合、どうも映画そのものが音楽に付いて行っていない感があり、それが難と言えば難だ。

 私の印象では、サンダルウッドにとんでもない音楽監督が出現した!という感じなのだが、ヴィシャール&シェーカルやバッチャン家とのパイプからすると、そのうちボリウッドの人となるかもしれない。しかし今のところ、「オラっちはカンナディガじゃけん、カンナダ映画のために作るっぺ」という殊勝な言葉を信じよう。とにかく、引き続き2作(スディープとプラジワルの新作)が予定されているようなので、楽しみにしたい。

◆ 総評
 【Psycho】は従来のインド映画とは違った次元で作られた異色作。だが、意図とは裏腹に、もう一つふっ切れていないところがあり、失敗作とも言えるだろう。しかし、愛すべき失敗作だ。
 船酔いしそうなカメラワークとグリッピングな音楽で、頭でもハートでもなく、神経で映画を楽しむというインド映画体験をしたい人にはオススメする。
 さらに言えば、映画は観なくとも、このサントラCDは‘必買’だ。

・満足度 : 2.5 / 5

¶参考
ラグ・ディークシトについては
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Raghu_Dixit_Project
http://www.raghudixit.com/
日本語で紹介しているブログ
http://memeren.blogspot.com/2008/10/raghu-dixit-2007.html
次の2つのインタビューは興味深い
http://www.radioandmusic.com/content/editorial/news/raghu-dixit-turns-composer-kannada-movies
http://specials.rediff.com/movies/2008/oct/29sld1.htm

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
カーヴェリ川さん、こんにちは。
【Psycho】の音楽は本当に良いですねぇ、私もすっかり気に入ってしまいました。ありがとうございます。
ちなみにRaghu Dixitにはこんなブログもありました。
http://theraghudixitproject.wordpress.com/
彼が持っている音楽グループのものかな?なかなかおもしろいです。
Piyo
2009/01/18 21:15
おお、このブログはイベント情報とかもあって、ありがたいものですね。
ラグ・ディークシットは活動拠点が私にとって地元なので、ライブとか聴きに行けるじゃないですか。
ありがとうございました!
 
Cauvery
2009/01/19 10:30
いつかご一緒にラグ ライブではじける事が出来たら良いですねー。
Piyo
2009/01/20 02:50
ラグ・ディークシットのライブは、客との距離感が近くて楽しそうですね。
 
Cauvery
2009/01/20 09:54

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