カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Vaaranam Aayiram】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2008/11/20 02:38   >>

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 タミル・スターのスーリヤといえば、現地では人気、実力、評価のいずれも高く、今もっとも勢いのある俳優であるにもかかわらず、劇画的なマッチョ・イメージが敬遠されてか、日本人の間で話題に上ることは少ない。だが、なるべく現地の実情を公平に伝えたい私としては、「スーリヤのおっちゃんもよろしくお願いします」と言わずにはいられない。
 新進気鋭の監督、ガウタム・メノンはスーリヤと組んで、2003年に【Kaakha Kaakha】で大ヒットを飛ばしている。本作はその二人が再びコンビを組んだ作品で、多くの紆余曲折を経てやっと公開の運びとなった話題作だ。

【Vaaranam Aayiram】 (2008 : Tamil)
作・脚本・監督 : Gautham Menon
出演 : Surya, Sameera Reddy, Divya Spandana, Simran, Prithviraj
音楽 : Harris Jayaraj
撮影 : R.Rathnavelu
編集 : Anthony
制作 : V.Ravichandran

《あらすじ》
 初老のクリシュナン(Surya)が吐血して倒れ、妻のマリニ(Simran)や娘の見守る中、ほどなく息を引き取る。クリシュナン死亡の知らせはすぐに息子のスーリヤ(Surya)にも知らされる。だが、軍人のスーリヤはヘリコプターで人質救出作戦に向かう途上だった。彼の脳裏には父の思い出が甦る。
 ・・・学生時代の父の話。父とマリニの出会い、恋愛、結婚、そしてスーリヤの誕生。自分のことを理解し、叱咤激励してくれる父。ヒーローであり、教師であり、友達でもある父・・・
 スーリヤはさらに自分の若き日のことも回想する。
 ・・・トリッチーでの大学生活を終え、実家に帰省する列車の中で、スーリヤはメーグナ(Sameera Reddy)に出会い、運命の人と定める。だが、メーグナはスーリヤの言葉を受け入れない。スーリヤはメーグナの実家にまで赴くが、彼女は大学院での勉強のため、アメリカのカリフォルニアに旅立つところだった。
 父に励まされたスーリヤは、ビジネスを始め、資金を作ったところでアメリカへ飛ぶ。スーリヤと再会したメーグナは彼のプロポーズを受け入れる。だが彼女は、プロジェクトのためオクラホマシティに行った際に、連邦政府ビル爆破事件に巻き込まれて帰らぬ人となる。1995年のことであった。空港で泣きじゃくるスーリヤをシャンカル・メノンという男が励ます。
 インドに戻ったスーリヤは、メーグナを亡くしたショックから、酒、タバコ、麻薬と、どん底の生活に転落する。父と母はスーリヤを更正させるために尽力し、彼はシュリーナガルへと転地療養することにする。
 シュリーナガルでスーリヤはシャンカル・メノンの息子が誘拐された事件を知る。彼はデリーまで行き、下町を這うように情報を集め、遂にマフィアのアサード(Prithviraj)からシャンカルの息子を奪還することに成功する。
 実家に戻ったスーリヤの前に、プリヤ(Divya)が現れる。プリヤはスーリヤの妹の友達で、学生時代からずっとスーリヤのことを愛していた。彼女はスーリヤにプロポーズするが、彼は受け入れることができなかった。
 スーリヤはメーグナのショックを断ち切るために、軍隊に入る決心をする。母は反対するが、父は賛成する。
 デリーの士官学校で訓練を受けるスーリヤ。6年後、そのスーリヤの前に再びプリヤが現れる。彼はプリヤのプロポーズを受け入れ、結婚、そして娘も誕生する。
 ちょうどそんな時、父クリシュナンが喉頭癌に侵されていることが分かる。スーリヤは父に手術を受けさせ、自分は任務のため、デリーに戻る・・・
 スーリヤは、イスラムのテロ組織に捕らわれていた外国人女性記者を無事に救出する。そして実家に戻り、父を荼毘に付す。

   *    *    *    *

 インド映画では「親子の絆」は多かれ少なかれ内容に絡んでくるが、本作はそれを主題に据えた作品だった。本作の場合、父と息子の関係が息子の人生の様々な出来事を通して描き出されている。
 タイトルの「Vaaranam Aayiram」は「千の象」という意味らしく、おそらく父子の絆の強さを象徴したものだろう。
 親子の関係はどうあるべきか、というメッセージ的なものよりも、子を愛する「親」と親を愛し尊敬する「子」の情愛を通して、「親」であるとはどういうことか、「子」であるとはどういうことか、ということをじんわり気付かせるような内容だったと思う。
 映画の最後は父に対する思わせぶりな献辞で終わっており、もしかしたらガウタム・メノン監督の何らかの体験が反映されているのかもしれない。
 監督によると、本作はアメリカ映画の【Forrest Gump】(94)から着想を得ているらしい。だが、ストーリーもテーマも全然違っており、リメイクということではない。

 非常に起伏のある、盛りだくさんの内容を持った作品で、上映時間も3時間。たぶん、この映画を観た人はみんな2,3本の映画を観たような気分になるだろう。
 それはそれで儲けものなのだが、作品全体として評価するなら、バランスが悪い感じが強くする。前半は心地よいムードのラブ・ストーリーなのだが、後半に入って重苦しいシーンと2度のアクションシーンがあり、あの前半のロマンスは何だったんだと思ってしまう。
 しかも、父と子のキャラクター設定や主人公とヒロインのロマンス展開が意外とステレオタイプで、またネタを詰め込みすぎたため、個々のネタが響き合って全体として炸裂するのに失敗しているように思う。
 例えば、スーリヤが喉頭癌の父と別れる場面は感動的で、このままドラマティックに行ってほしかったのだが、次にテロリストとの激しい戦闘シーンがあり、「じ〜ん」とした気分が吹っ飛んでしまった。また、スーリヤとプリヤの愛の展開ももう少し丁寧に描いてほしかった。(オクラホマシティの爆弾事件を使ったのは名案だと思うが。)
 つまりは、ガウタム・メノン監督にしては練りの悪い脚本だったが、しかし【Kaakha Kaakha】と【Vettaiyaadu Vilaiyaadu】(06)を見る限り、同じようにダブつく場面はあるので、これはたぶんガウタム監督の作風(または、悪い癖)なのだろう。
 (後日付記:各方面からの批判を受けて、ガウタム監督は本作を編集し直し、12分短くすることにしたらしい。)

◆ パフォーマンス面
 本作の話題の一つは、スーリヤのおっちゃんが父と息子の一人二役を演じるということだったが、これが見事なパフォーマンスだった。
 スーリヤは前作の【Vel】(07)ですでに二役(双子)をやっており、また【Ghajini】(05)では同一人物ではあるが全くの別人格を演じており、評価もされている。本作でも期待通りの出来だった。
 父と息子の二役だが、まず父役だけでも20歳ごろから60歳までを演じ、息子役では16歳の紅顔の青年からドラッグをやって退廃した時期を経て、ムキムキの軍人として復活するまでを演じ分けている。なので、一人二役というより、実際には五役ぐらい楽しめた感じだ。特に老け役がうまく行っており、スーリヤを知らない人が本作を見たら、父と子を同じ俳優が演じていたとは気付かないかもしれない。
 演じ分けの技術がメイクと演技術に頼るだけでなく、ボディーもプヨプヨ型、シェイプアップ型、ムキムキ型と3種類ぐらい作っており、かなり計画的にウエイト・コントロールして撮影に臨んだものと思われる。(デジタル処理の可能性もあるのだが。)

 シムランも20歳ぐらいの娘役から初老の母親役まで好演している。これも老け役がうまく行っており、シムランといえばまだ若いはずなので、心配になったほどだ。(写真下)

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 二人のヒロイン、まずメーグナ役のサミーラ・レッディーは、もちろん、あのアーンドラ出身のボリウッド女優のことだが、タミル映画は初出演らしい。特に際立った役柄、演技でもなかったが、あの大柄な体格はアメリカのシーンでは映えていた。(トップの写真)

 プリヤ役のディヴィヤ・スパンダナ(カンナダではラミャ)は、特に彼女らしさが出ていたわけでもないが、無難にはこなしていた。いつものカンナダ映画のアイドル声とは違って、非常に渋い声だったが、たぶん彼女の地声だろう。(写真下)

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 クレジットに‘Prithviraj’の名前があったので、我が「オーラなきスター」、プリトヴィくんのことかと楽しみにしていたが、全然別の悪役だった。

◆ テクニカル面
 ガウタム・メノン作品の音楽といえばこの人、ハリス・ジャヤラージで、本作も悪くはなかったが、他のヒット作に比べると、やや印象度が低い。ギター(特にアコースティック)を大幅にフィーチャーした曲が多く、それは新鮮味があった。
 スーリヤはギターの上手い青年として描かれており、彼が随所でギターを弾き出すシーンは、カッコよくもあり、滑稽でもあった。
 (後日付記:ガウタム・メノンとハリス・ジャヤラージといえば良いコンビだと思っていたが、何らかの理由で本作を以ってコンビ解消したらしい。)

◆ 総評
 【Vaaranam Aayiram】はガウタム・メノン監督の作品にしてはまとまりの悪い出来で、期待を下回ってしまった。だが、部分部分を見れば映画的な面白さがぎっしりつまっており、またガウタム作品ならではの情緒も漂っているので、そんなところに反応できれば、3時間、十分楽しめる映画だ。

・満足度 : 3.0 / 5

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