カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Yavarum Nalam】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2009/04/20 03:18   >>

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 この【Yavarum Nalam】という作品はタミル語の映画だが、実はバイリンガル作品としてヒンディー語版も同時製作されており、そちらのタイトルは【13B】。両言語版とも3月6日に公開されたはずだが、バンガロールでは【13B】のみで、【Yavarum Nalam】は上映されていなかった。私はちょっとした理由があってタミル語版のほうを観たかったので、辛抱強く本作の公開を待ち、1ヶ月以上遅れた今になってやっと鑑賞することができた。

 本作を観たかったという理由は(そんなに強い理由でもないのだが)、タミル語版にはラヴィ・バーブが出演しているということだ。ラヴィ・バーブといえば、テルグ俳優のチャラパティ・ラーオの息子で、映画監督として【Allari】(02)や【Anasuya】(07)、【Nachavule】(08)などを撮った人だが、俳優としてもちょくちょく顔を出しているようだ。特にホラー作品の【Anasuya】では不気味な雰囲気が印象的だった。
 本作もホラー映画ということで、ラヴィ・バーブがどんなキモさを出しているか、注目したかったわけである。

【Yavarum Nalam】 (2009 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : Vikram K. Kumar
出演 : Madhavan, Neetu Chandra, Saranya, Ravi Babu, Sachin Khedekar, Sanjaih Bokaria, Dhritiman Chaterjee, Deepak Dobriyal, Sampath Raj
音楽 : Shankar-Ehsaan-Loy, Tubby-Parik
撮影 : P.C. Sreeram
編集 : Sreekar Prasad
制作 : Suresh Balaji, George Bayas

《あらすじ》
 建築会社に勤めるマノーハル(Madhavan)は、妻のプリヤー(Neetu Chandra)、母、妹、それに兄家族と共に、総勢8人でとある高級アパートに引っ越して来る。部屋の番号は13B。一家揃っての共同生活はマノーハルも待望していたものだったが、引っ越した直後から、彼は自分の周りでいろいろ不思議な出来事が起きるのに気付く。
 最も不思議なことは、プリヤーや母たちが食い入るように見ていた連続テレビドラマであった。それは「Yavarum Nalam(みんな元気)」というタイトルで、午後1時(13時)に始まり、チャンネルは13、このドラマの時間帯はTVリモコンが機能せず、チャンネルを変えることもテレビを消すこともできなかった。また、内容的にも、このドラマに登場する家族はマノーハルの家族と同じ構成で、ドラマで起きたエピソードはほぼ同じ形でマノーハル一家の身の上にも起きていた。
 不審に包まれた日々を送るマノーハルだが、ドラマと同様に、懐妊していたプリヤーが流産するに及んで、不審感は恐怖心へと変わる。彼はそのドラマを制作しているテレビ会社へ問い合わせに行くが、「Yavarum Nalam」という番組はまったく別のバラエティー番組であることが分かった。また彼は、そのドラマが自分の部屋のテレビでしか見られないということに気付く。
 マノーハルは友人の警官、シヴァ(Ravi Babu)に相談する。最初は笑い飛ばしていたシヴァも、マノーハルの家で実際にドラマを見るに及んで、彼の話を信じるようになる。二人は、マノーハル家のホームドクターで、超常現象にも詳しいバルー博士(Sachin Khedekar)に話を聞きに行く。バルー博士は死んだ人間の霊魂が機械に取り憑き得る可能性を示唆する。
 マノーハルはアパート内の公園の土中から古い写真アルバムを掘り出す。驚いたことに、その写真に写っていたのはテレビドラマの家族とまったく同じ面々だった。マノーハルとシヴァはそのアルバムを手がかりに過去の記録を調べ上げ、30年前に起きた忌まわしい一家8人惨殺事件のことを知る。
 ・・・
 現在マノーハルのアパートが建っている土地は、30年前には一軒家があり、9人の家族が住んでいた。その中にはテレビ・キャスターをしているチトラという娘がおり、ラヴィチャンダル(Sampath Raj)という弁護士との結婚が決まっていた。だが、二人の婚約式の日に、チトラを愛していたサイ・ラームという男が絶望から自殺し、その晩に家族8人がハンマーで殴り殺されるという事件が起きたのである。家族の中でただ1人、センディル(Deepak Dobriyal)という男だけが生き残ったが、彼は精神障害者で、警察は彼をこの事件の容疑者として逮捕する。
 ・・・
 マノーハルとシヴァは弁護士のラヴィチャンダル、それに、今は精神障害者施設に入れられているセンディルに会いに行く。しかし、この異常現象を解く手がかりはまったく得られなかった。そして、とうとうその日の晩に、マノーハルはドラマ「Yavarum Nalam」のクライマックスを見ることになるが、そのテレビ画面に映っていたのは、血に濡れたハンマーを持つ自分自身の姿に他ならなかった、、。

   *    *    *    *

 よくできたホラー作品だった。
 殺された人間の霊魂が地縛霊となって、機械(主にテレビ)を通して現実界の人間に働きかけるという内容で、謎解きのような展開とクライマックスのヒネリが面白かった。
 こういう作品を作る人はさぞやホラー・オタクで、外国のホラー映画やサスペンス映画をよく研究した人だろうと思い、監督のヴィクラム・K・クマールについて調べてみたら、意外なことにプリヤダルシャン監督の弟子で、【Ishtam】(01:Telugu)や【Alai】(03:Tamil)など、ホラーとは何の関係もない作品を撮っていた人だということが分かった。(こちらのインタビュー記事参照。)

 テレビに霊魂が取り憑くという怪奇譚仕立てになっているが、本作は霊魂や怨念というレベルを越えて、もっと普遍的な「怖さ」を扱っているように思う。
 上のインタビューを読む限り、監督のターゲットはやはり現代社会におけるテレビの存在にあるようで、私たちがリモコン一つでコントロールしていると思いがちなテレビだが、実は私たちがテレビにコントロールされているのではないかという、現代文明社会の歪みこそが本当の「恐怖」なのだと、本作は示唆しているように思う。考えてみれば、人がそういう状況に気付かず、何食わぬ顔でテレビを見、日々暮らしているということは、なるほど恐ろしいことだ。
 
 すでに発表されているレビューなどには、本作の内容上の欠陥や矛盾点がいくつか指摘されている。それにはもっともな意見もあるが、中には誤解しているものもあるようだ。例えば、「マノーハル(Madhavan)が気付いた不思議な出来事を、どうして家族の他の人々が気付かなかったのか?」という指摘もあるが、これは本作の意図も「恐怖」の本質も見誤っているような気がする。
 というのも、本作の意図というのは、「気付く人」と同様に、「気付かない人」の存在も描くことにあったと思われるからだ。つまり、「恐怖」の対象となり得るものは、すべての人によって気付かれるわけではない、ということだ。
 大体、「恐怖」という感情の一つの形は、「ウラに何かあるようだが、それは何だ?」という疑問だと思う。私たちが日常的に見ている社会、意識している自分自身というのには、必ず「背後」があり、普段、それに気付くことなく生活しているものだが、何らかの形でそれが意識され、自己の信念や存在が揺るがされたと感じたときの違和感が「恐怖」なのだと思う。ただ、それがすべての人が簡単に気付くようなことなら「背後」でも「恐怖」でもなくなってしまうわけで、それは一部の限られた人が限られた状況下でしか気付かないものであるはずだ。
 それで、本作の場合、「気付いた人」というのは、凡人ながら幸か不幸か怨霊に好かれてしまったマノーハルと、隣に住む「盲人」(&その飼い犬)、それに精神障害者のセンディルだけだったというのは面白い。特に、唯一真実を知っており、テレビの怖さを敏感に感じ取っていたのが「狂人」のセンディルだったという設定は、多くのことを語っているような気がする。

◆ パフォーマンス面
 主人公のマーダヴァンの演技は素晴らしかった。家族はみんな呑気に暮らしているのに、自分ひとり恐怖に慄き、右往左往している様は痛々しくさえあった。
 なぜかマーダヴァンの経歴はチェックしたことがなかったので、今回調べてみたら、デビューが意外と遅いことが分かった。チョコレート・スターとして、若い女性たちの心を掴んでいたときがすでに30男だったとは、驚きだ。そりゃあ、この年齢なら、太ってしまったのも仕方ないことだ。しかし、体の幅が広がると共に芸の幅も広がったようで、良い俳優になったと思う。(褒めています。)
 この【Yavarum Nalam】/【13B】は続編が作られそうな成り行きなので、もうしばらくはホラー・スターとして主役が張れるだろう。(茶化していません。)
 (写真下:MadhavanとNeetu Chandra。)

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 ヒロインの、と言えるかどうか分からないが、妻プリヤーを演じたニートゥ・チャンドラも、ホラー作品にあって、まずまずのプレゼンスだったと思う。
 さすがにこのポジションのボリウッド女優となると、私の目に触れる機会も少なく、3本しか観ていない。【Garam Masala】(05)と【Traffic Signal】(07)ではパッとしない印象を受けたが、テルグ映画の【Godavari】(06)ではそれなりに光っていたように記憶している。南との相性も悪くないようなので、本作のヒットを機に、タミルやテルグでの仕事が増えるかもしれない。

 さて、私が本作を観る動機としたラヴィ・バーブだが、ネタバレで申し訳ないが、キモさはまったくなく、警官で、主人公の誠実な友人の役だった。その点では肩透かしを食らったが、しかし、この独特の風貌は映画の雰囲気にピッタリだった。 (写真下:Madhavanと。)

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 この警官役はヒンディー語版【13B】ではムラリ・シャルマーが演じている。
 他に配役の違いとしては、マノハルの母親役が、タミル語版ではSaranya、ヒンディー語版ではPoonam Dhillonとなっている。他はよく分からないが、もしかしたら弁護士役(タミル語版ではSampath Raj)も違っているかもしれない。

◆ テクニカル面
 音楽と音楽シーンについては強い印象は残っていない。ただ、音響効果は良かった。
 本作の怖さの特徴は、ゾクゾクっとする精神的なものというより、上下左右に揺さぶられるような物理的なものだったと思うが、それは撮影と編集と音響効果の賜物だろう。

◆ 結語
 現代社会への警鐘をホラー映画という形でうまくまとめた本作は、インドを越えた普遍性を持つものとして、日本人にも理解しやすいと思う。その分、インド映画らしさが薄れている嫌いはあるが、インド人もこういう作品を作るようになったという好例として、一見をオススメしたい。

・満足度 : 4.0 / 5
 

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内 容 ニックネーム/日時
ニートゥ・チャンドラが出てるんですか。それなら儂も関心あります。

「ゴーダヴァリ」の身勝手タカビーお嬢様役はよかったですね。出来ればカマリニに代わってヒロインやって欲しかったくらい。

カマリニはテルグの衆には人気高いですから、まあ無理な話ではありましょうが。

いえ、「ゴーダヴァリ」の眼鏡っ娘姿もそれなりに好かったんですがね。ていうか、カマリニのベストパフォーマンスじゃなかったでしょうか?
メタ坊
2009/04/20 11:34
>ニートゥ・チャンドラが出てるんですか。それなら儂も関心あります。

そういえば、ニートゥさんにご注目でしたね。
ぜひご覧になってください。
すごいパフォーマンスを見せているわけではありませんが、若妻特有のエロスをむんむん発散させている場面もあって、私は感じましたよ。
 
カーヴェリ
2009/04/20 14:18

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