カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Sarvam】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2009/05/29 02:26   >>

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 ヴィシュヌヴァルダン監督、アーリヤ主演のタミル映画。
 タミル人情報によると、今年上半期のナンバル・ワン・タミル映画といえば、アーリヤ主演の【Naan Kadavul】らしい。この映画は上映時期がテルグ映画の【Arundhati】とかぶってしまい、残念ながら私の鑑賞リストから落ちてしまった。アーリヤよりアヌーシュカを優先した選択に後悔はないが、タミル人が異口同音に【Naan Kadavul】を褒めそやしているのを聞くと、アーリヤとバーラ監督を見くびってしまったかな、という後ろめたさを感じないこともない。
 ところで、ヴィシュヌヴァルダン監督といえば、アジット主演の【Billa】(07)で大ヒットを飛ばした若手監督だが、彼はどうもアーリヤがお気に入りらしく、【Arinthum Ariyamalum】(05)と【Pattiyal】(06)で彼を起用し、ヒット作としている。目下、ハットトリック中のヴィシュヌヴァルダンだが、この【Sarvam】は続くことができるか?
 また、ヒロインのトリシャはいいとして、脇役陣に、主にテルグ映画界で活躍するJ.D.Chakravarthyと、マラヤラム映画界で活躍するIndrajithを配し、その異色なキャスティングも話題の一つとなっている。

【Sarvam】 (2009 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Vishnuvardhan
出演 : Arya, Trisha, J.D.Chakravarthy, Indrajith, Rohan, Krishna, Wasim, Raviprakash, Sriranjani, Anu Hassan, Prathap Pothan, その他
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Nirav Shah
美術 : Manu Jagadh
衣装 : Anu Vardhan
編集 : Sreekar Prasad
制作 : K.Karunamoorthy, C.Arunpandian

《あらすじ》
 建築技師のカルティク(Arya)は気楽な若者。ある日、ゴーカート・レースをしているときに、彼は美しい女性に出会い、一目惚れしてしまう。その後、教会でも彼女を見かけ、車のナンバーから、その女性はサンディヤ(Trisha)という名の、小児科の医師だということを知る。
 カルティクは早速サンディヤにアタックをかけるが、仕事と子供を何よりも愛していた彼女は彼を受け入れず、また彼の気持ちを信じてもいなかった。だが、自分の前に何度も現れるカルティクにサンディヤも関心を持ち始め、両親が縁談を決めようとした折に、遂に自分が愛しているのはカルティクだと悟る。
 一方、ソフトウェア技術者のナウシャド(Indrajith)と8歳の息子・イマーン(Rohan)は、イーシュワル(J.D.Chakravarthy)という男に付き纏われ、命を狙われていた。実は、ナウシャドは以前にイーシュワルの妻と子供を車ではね殺していた。それは不可避な事故だったのだが、イーシュワルは復讐のため、イマーンを殺すことを誓っていた。ナウシャドとイマーンは安全確保のため、エリオット・ビーチにある友人の家に身を隠す。
 カルティクとサンディヤは結婚について相談するようになっていたが、式の日取りについて意見が対立する。そこで二人は自転車レースをして、負けた方が勝った方の意見に従うということに決め、エリオット・ビーチの通りをスタートする。
 ちょうどその頃、近くのアパートの屋上でイマーンたちが凧揚げをして遊んでいた。その時、もともと体の悪かったイマーンが倒れ、病院に運ばれる。子供たちが遊んでいた凧は下の道路に落ちて引っかかり、その糸がたまたま自転車レースで通りかかったサンディヤの首筋を切ってしまう。彼女は病院へ運ばれるが、ほどなく死亡する。
 6ヵ月後、絶望していたカルティクの許にサンディヤの父がやって来、彼女の心臓がある少年に移植され、その子の命を救ったという話を聞く。その少年とは他ならぬイマーンだった。ナウシャドとイマーンは療養も兼ねて、ケーララ州のムンナールに引っ越していた。サンディヤの体の一部が今も生きていることを知ったカルティクは、早速イマーンに会いにムンナールへと向かう。だが、その後をイーシュワルも追っていた。
 カルティクはイマーンとナウシャドに会い、感極まって、イマーンの胸に手を当てる。だが、カルティクがチェンナイに帰ろうとした際に、イーシュワルが車でナウシャド親子を襲撃し、ナウシャドは怪我で入院してしまう。ナウシャドからイーシュワルの件を聞いたカルティクは、イマーンを守る決意をする、、、。

   *    *    *    *

 かなりの話題作だったはずなのだが、私の見立てでは失敗作、それも大失敗作に近いのではないかと思う。簡単に言うと、めちゃめちゃ退屈で、非力な映画なのである。
 内容的にはロマンティック・スリラーと言うべきもので、前半はロマンス色が強く、後半はがらりと雰囲気を変えてスリラーとなっている。だが、そのスリラーに迫り来る恐怖感がない。かといって、前半のロマンスもとろとろとした展開で、これで音楽シーンでも、と期待したいところだが、それも体が乗っていけないものなのである。

 実は、本作の強みは「美術」と「撮影」で、全編を通して(特に音楽シーンは)非常に美しい映像で貫かれている。ヴィシュヌヴァルダン監督はSantosh Sivanの弟子だったようで、映像志向なのも分からないでもないが、それにしても本作はインド臭いと言える部分がほとんどなく、完璧にミドル・アッパークラス以上の、日頃ハリウッド映画なんかを楽しんでいる層を当て込んだ作品だと思われる。
 その点、ヴィシュヌヴェルダン監督のやろうとしていることははっきりしていて、ある意味では成功作なのかもしれない。それで面白ければ私も文句は言わないのだが、華麗と滑稽は紙一重とでも言うべきか、映像に力を注ぐあまり、ストーリーと脚本が疎かになり、テンポと勢いを失った作品はもはやインド娯楽映画とは呼ばれ得ず、少なくとも私はこんな「タミル映画」は観たくない。
 ストーリー的に、死んだフィアンセの心臓を守るために格闘するというアイデアそのものは面白いだけに、残念だ。(ちなみに、この心臓移植ネタはハリウッド映画の【21 Grams】(03)から着想を得ているらしい。)

 ただ、言葉が分からないせいで、今のところ監督の意図をつかみかねているのだが、本作には面白そうなアイデアがいくつかあったので、メモ代わりに記しておく。

@ サンディヤ(Trisha)が登場するときに音楽が聞こえるのだが、あれは何? 音楽といっても、映画上のBGMということではなく、カルティク(Arya)がある音楽をはっきりと耳にし、それで振り返るとサンディヤがいる、という設定になっている。かといって、サンディヤ自身がラジカセか何かで音楽を鳴らしながら登場して来たわけでもなく、当惑したカルティクはこの音楽の正体について知人たちと議論しているシーンがあった。(古いタミル映画の音楽らしいのだが。)

A 主要登場人物はヒンドゥー教徒(カルティクとイーシュワル)、キリスト教徒(サンディヤとその家族)、イスラム教徒(ナウシャド親子)と、3宗教に亘り、キリスト教徒の心臓がイスラム教徒に移植され、それをヒンドゥー教徒が守るという設定は、今日の宗教対立に対するヴィシュヌヴァルダン監督の何らかの立場が表明されているのだろうか?
 これと関連して、カルティクがサンディヤの家族が通うキリスト教会でスピーチをする場面があり、あそこで彼が何を言っているのかが気にかかる。(カルティクは丁重に追い出されることになるのだが、サンディヤの母は「素晴らしいわ!」と感嘆している。)

B 本作の冒頭で、「死は新たな生の始まりにすぎない」というウパニシャッドからの引用が字幕として出される。これは輪廻転生を表現した一節だと思われるが、実は、映画中のサンディヤは輪廻転生したわけではなく、たんに死んだ彼女の心臓が他人の死を救った、というだけのことである。この一節と作品全体のテーマとはどういう関係があるのか?

 本作のモチーフは、「ほんの些細な出来事が人生をまったく変えてしまうこともある」ということのようだが、これは「バタフライ効果」を違った側面から言い表したもののように思える。バタフライ効果は科学的なものの見方なのに、ちょっとした要因が因果の連鎖で運命的な出来事を生み出していくというようなドラマの理論に転化され、タミル映画でも【Dasavathaaram】(08)や【Saroja】(08)でこの考え方が下敷きにされている。
 それはさておき、私も年を取るとともに過去を振り返りがちになり、「あのとき、あんなことにならなければ、こんなことにもならなかったのに」と悔恨の情に駆られることも多いのだが、そんな気持ちで本作を観ていたら、なんだか共感を覚える部分もあった。

◆ パフォーマンス面
 特に、どこがどうだと言うわけではないが、アーリヤはOKだった。若手のホープと見なしてもいいだろう。(写真下)

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 トリシャは非常にきれいで印象的だった。こういうセクシー・インテリ美女というのも彼女のハマリ役の一つなのだろう。
 本作のトリシャの何が良いって、映画の前半でさっさと死んでしまうところだ。ずるずると、存在感をなくしてエンディングまでいるより、こっちのほうが潔い使い方だったと思う。(写真下:AryaとTrisha。分かりにくいが、二人はガラスケースの中でダンスをしている。)

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 悪役、イーシュワルを演じたJ.D.チャクラボルティは、残念ながら精彩を欠いていた。かといって、J.D.がミスキャストだったわけでも、彼の演技力に問題があるわけでもないので、これはやはりヴィシュヌヴァルダン監督のせいだろう。
 むしろ迫力があったのは、イーシュワルが連れていた黒のロットワイラー犬だった。

 ナウシャド役のインドラジットは、演技的には申し分なかったが、なんでわざわざ彼を起用したのかは疑問の残るところだ。
 息子役のロハンは個性的で、ハマっていた。(写真下:AryaとRohan。)

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◆ テクニカル面
 上でも述べたとおり、本作のウリは意固地なまでに「視覚美」を追求した「映像」なのだが、美術監督はSabu Cyrilの弟子(?)のManu Jagadh、カメラは【Dhoom】(04:Hindi)、【Pokkiri】(07:Tamil)、【Billa】(07:Tamil)などのNirav Shahが担当している。
 白色で統一したサンディヤの病院、巨大なガラスケース内でのダンス・シーン、砂漠でのダンス・シーンなど、力作といえば力作が並んでいる。
 しかし、私はどうもこの手のアート・スクール風「ゲージュツ」が好きになれなくて、またインド映画の美学からしても、勘違いしているかなぁ、という気が強くする。(例えば下の写真。)

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 ただし、クライマックスの廃墟と化した教会のセットは良かったと思う。

◆ 結語
 【Sarvam】は、ミドル・アッパークラス以上の若者がカップルで、エアコンの利いた高級シネコンなどで観るのにいい映画。B・Cクラスの観衆にはまったくアピールしないだろう。大きなヒットは望めないと思うし、ヒットしてほしくもないのだが、もし本作がそこそこの興行成績を上げるとしたら、私のタミル映画に対する認識も修正しなければならないかもしれない。
 ヴィシュヌヴァルダン監督に対する評価はひとまず保留としておきたい。

・満足度 : 2.0 / 5
 

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