カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Pasanga】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2009/07/01 01:18   >>

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 私がインドの田舎を舞台にした映画に関心を寄せていることは何度か書いたが、殊にこの分野ではタミル映画に期待しており、【Paruthiveeran】(07)や【Subramaniyapuram】(08)、【Vennila Kabaddi Kuzhu】(09)など、印象に残っている作品も多い。この【Pasanga】は【Subramaniyapuram】を作ったシャシクマールがプロデュースしたもので、本作がデビューのパンディラージ監督はチェランの下で助監督をしていた人だそうだ。と来れば、私好みの田舎くさい作品だと予想できる。
 「Pasanga」は「子供たち」という意味で、題名どおり子供を主役に据えた映画らしい。スチール写真や予告編を見る限り面白そうで、是非とも鑑賞したいと思っていたら、タミルナードゥ州での公開(5月1日)から1ヵ月半遅れで、やっとバンガロールでも公開してくれた。

【Pasanga】 (2009 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Pandiraj
出演 : Kishore, Sriram, Vimal, Vega, Dharani, Pandian, Murugesh, Jayaprakash, Sivakumar, その他
音楽 : James Vasanthan
撮影 : Prem Kumar
編集 : Yoga Baskar
制作 : M.Sasikumar

《あらすじ》
 タミルナードゥ州のとある村にジーワ(Sriram)という悪ガキがいた。ジーワはパッカダ(Pandian)、クッティマニ(Murugesh)の3人でイタズラの限りを尽くし、手を焼いた大人たちが警察に陳情に行くほどだった。ジーワの父(Jayaprakash)は彼が通う学校の先生だった。
 ここにアンブ(Kishore)というスマートな少年が登場する。アンブは町の私立学校の生徒だったが、父(Sivakumar)の仕事がうまくいかず、家計の都合で村の公立学校に転校して来たのである。
 アンブとジーワは同じクラスになるが、2人は初日から対立する。しかし、アンブは勉強もよくでき、性格も良かったため、クラスメイトはアンブになびく。なかんずく、ジーワの従妹、マノンマニ(Dharani)は彼の強い味方となる。
 学級委員の選挙が行われたとき、アンブが委員長に選ばれ、ジーワは負ける。また、ジーワの父はアンブを贔屓にしたため、それもジーワの癪に障るところだった。アンブはジーワに和解の手を差し伸べるが、ジーワたちは受け入れない。
 アンブにはミーナクシ・スンダラム(Vimal)という叔父がおり、同じ家に同居していた。また、ジーワにはソービカンヌ(Vega)という学校教師をしている姉がいた。この両家は道を挟んだ真向かいだったため、ミーナクシとソービカンヌは当然のごとく知り合い、携帯電話でのやり取りを通して親しくなる。
 一方、アンブとマノンマニも仲良くなるが、それが気に喰わないジーワたちはアンブの妹をいじめる。アンブは彼らに仕返しをする。これを機に、両家族は対立するようになる。
 ある晩、アンブの両親が夫婦喧嘩をしているのをジーワが聞き、翌日、それをクラスで再現してアンブをからかう。このことで子供たちは大乱闘を始めるが、マノンマニから知らせを受けた先生(ジーワの父)の機転でその場はひとまず収まる。
 そんなある時、ミーナクシとソービカンヌが恋仲になっていることが発覚する。両家族は話し合い、実はお互いに相手の若者に対して好印象を持っていた家長たちは、2人の結婚を認めることにする。しかし、この決定はジーワとアンブにはとうてい受け入れられないものだった。
 2人の対立が続く中、先生(ジーワの父)はクラスで作文を書かせ、ジーワとアンブにそれぞれ自分の作文を読み上げさせる。このことがきっかけで、ジーワの心に変化の兆しが現れる。しかしそんな時に、アンブは交通事故に遭ってしまう、、、。

   *    *    *    *

 素晴らしい! 子供たちに力をもらったよ!

 以前、カンナダ映画の【Jhossh】評の中で、インドは若者大国なのに、それらしいエネルギーがあまり映画に反映されていない、みたいなことを書いたが、これはそんなエネルギーを感じさせてくれる作品だ。しかも「若者映画」の頭を飛び越して、「ガキ映画」にそれが来るとは思ってもみなかった。

 ストーリーは単純で、田舎の第6学年の子供たち(11歳ぐらい)が喧嘩を繰り返しているだけ、と言っては言いすぎだが、そんな感じではある。
 しかし、その子供たちの暴れ回る動機というのが単純であるだけ、それだけ自然の力に近いエネルギーを感じる。しかも、この子供たちの力強さというのが、ジーワとアンブの2人のライバルだけに限られず、映画の最後では次の世代(弟の世代)にも受け継がれていくことが示唆されており、こんなふうに厄介なガキどもを再生産する力というのは、インドの大地が次々と米やバナナを産み出す力と同じようにも思え、これがインドのパワーなのかなぁ、と畏れに近いものも感じた。

 私はアホですからね、結局はその作品に力強さや気合いが感じられさえすれば、ストーリーやメッセージや技術などはどうでもいいと思ってしまう人間だ。本作もそんな私の満足中枢に触れるものだった。

 田舎の物語といっても、【Paruthiveeran】や【Subramaniyapuram】が昔の村落部の過酷な実情を扱っていたのに対し、こちらは時代が現代で、平凡な田舎人の日常がコミカルに描かれている。
 子供に大きく視点が向けられている作品だが、内容的には家族映画で、大人たちの様子もうまくストーリーに組み込まれている。特にジーワとアンブのそれぞれの父親は人情味のある好人物として描かれており、家族映画に必須の情感を生み出している。ミーナクシとソービカンヌの「田舎ロマンス」も素朴で良い。
 クライマックスのアイデアは面白く、感動的で、私もインド人と一緒に、、、手を叩いた。
 (ただし、本作はハリウッド映画からのパクリ疑惑もあり。)

◆ パフォーマンス面
 本作も見事にスター不在で、私が知っていたのはソービカンヌ役のヴェガだけだった。しかも、主要登場人物の半分は子供なのだが、、、その子供たちのパフォーマンスが素晴らしい。特にKishore(アンブ)、Sriram(ジーワ)、Pandian(パッカダ)、Dharani(マノンマニ)の4人はそうだ。
 (写真下:良い子チーム。左から2人目がアンブ、その右隣がマノンマニ。)

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 どこからこんな子供を見つけてきたのか、子役のプロか素人か、そもそも演技が上手いのか、とにかくパンディラージ監督は子供たちから見事な演技を引き出している。
 子供といっても、彼らは映画中で子役をやっていたわけではなく、よく見ると、ちゃんとヒーロー、ヒロイン、敵役、コメディアンと、インド娯楽映画のキャラクターの定型を踏んでいるのが分かる。
 (写真下:こちらは悪ガキチーム。左よりクッティマニ、パッカダ、ジーワ。)

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 同様に、大人たちの芝居も説得的なものだった。
 大人のロマンス・パートを担ったのはVimal(ミーナクシ)とVega(ソービカンヌ)。どちらも良い雰囲気を出しているが、Vegaのほうが印象に残るだろう。【Saroja】(08)では都会のお嬢様役を演じた彼女だが、本作では打って変わって田舎娘の役。評価はできるが、タミルの田舎娘にしては色が白すぎるような気がした。ちなみに、音楽シーンでは眉毛をコミカルに動かしたり、舌先を鼻に触れたりと、顔面芸を披露している。
 (写真下:VegaとVimal。)

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◆ テクニカル面
 音楽は【Subramaniyapuram】と同じJames Vasanthanが担当している。
 歌は良い。4曲あるうち、1曲でM.Balamuralikrishnaが歌うナンバーもある。
 音楽シーンは、子供たちをフィーチャーしたものと、ミーナクシ&ソービカンヌのロマンス・シーンに分かれる。前者は愉快な作りで、たぶん過去のタミル映画ヒット作のパロディーなんかも織り込まれていると思う。後者は叙情的で気持ちがいい。
 ミーナクシとソービカンヌが携帯電話を介してやり取りする場面はコミカルだが、着メロとしてイライヤラージャの曲が効果的に使われている。

 ちなみに、本作の舞台(撮影現場)となったのはタミルナードゥ州Pudukkottai近郊のVirachilaiという町で、他ならぬパンディラージ監督の田舎だそうだ。

◆ 結語
 カッコいいヒーローもうっとりするようなヒロインもいない本作は、異色作と言えるかもしれないが、奇を衒った作品ではなく、核心にあるのはインド映画本来の情緒だ。特に本作に現れた人情味とか粗野な力強さというのは、近ごろではタミル映画ぐらいにしか期待しにくいものなので、本作の存在価値は高い。オススメしたい。

・満足度 : 4.0 / 5
 

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こんな記事もあり。
http://timesofindia.indiatimes.com/Entertainment/Regional-Stars/Small-is-big-in-Kollywood/articleshow/4720269.cms
 
カーヴェリ
2009/07/01 13:14

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