カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Naadodigal】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2009/07/12 23:40   >>

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 近ごろのタミル映画界では「ネオ・リアリズム映画」とも呼び得るものがはっきりとしたトレンドを形作っているようだ。従来の大スター本位のマサラ的娯楽映画とは違って、特にスターを起用することにはこだわらず、ストーリー本位で、これ見よがしなアイテム・ナンバーやコメディー・シーンも作らず、日常的に遭遇し得る出来事をリアルに扱った映画のことだが、かといってアート・フィルムというわけでもなく、はっきりと興行成績を視野に収め、事実、大成功した作品も多い。
 この系列で特にパワフルな動きを見せているのが「田舎物」、つまり、タミルの田舎の過酷な実情や田舎人の情感を扱った作品である、ということはこのブログでも仄めかしてきたことだが、この動きのキー・パーソンとなるのがシャシクマールだろう。彼は【Subramaniyapuram】(08)では制作兼監督兼主演、先日紹介した【Pasanga】では制作、そしてこの【Naadodigal】では主演と、まさに牽引車の役割を果たしている。
 この【Naadodigal】も田舎の若者の友情を描いた作品のようで、早々とヒット宣言が出されている。

【Naadodigal】 (2009 : Tamil)
物語・監督 : Samuthirakani
出演 : Sasikumar, Bharani, Vijay Vasanth, Ananya, Abhinaya, Ranga, Shantini Theva, Ganja Karuppu, Jayaprakash, Jayaprabha, Niveda, その他
音楽 : Sundar C. Babu
撮影 : S.R. Kathiir
編集 : A.L. Ramesh
制作 : Michael Rayappan

《あらすじ》
 舞台はTN州のラージャパラヤム。大学で歴史を学んだカルナ(Sasikumar)は公務員の職を求めていた。彼は従妹のナーランマ(Ananya)と相思相愛だったが、叔父が結婚の条件として彼に公務員になることを要求していたからである。パンディ(Bharani)はいかれた男だったが、海外で働く夢を持っており、パスポートの申請ぐらいはしていた。エンジニアのチャンドラン(Vijay Vasanth)はコンピューター・センターを開くための準備をしていた。彼はカルナの妹、パヴィトラ(Abhinaya)を愛しており、彼女もチャンドランのことが満更でもなかった。この男三人は非常に強い友情で結ばれていた。
 ある日、カルナの親友、サラヴァナン(Ranga)がこの村にやって来る。彼にはプラバ(Shantini Theva)という恋人がいたが、互いの親に反対されて、仲を裂かれていた。サラヴァナンの母は元国会議員で、プラバの父はナマッカルの有力者だったが、二人は互いに反目し合っていたからである。それを苦にしたサラヴァナンは自殺未遂を図る。
 事情を知ったカルナたち三人は、この二人を結婚させようと、サラヴァナンを連れてプラバのいるナマッカルまで赴く。彼らは現地でもう一人の旧友(Ganja Karuppu)の援けを借りる。
 彼らは、プラバの家族がお寺参りしている好機を捉え、プラバを拉致する。そして、二人を結婚させた後、なんとかバスに乗せる。カルナたちは警察に連行されるが、すぐに釈放される。
 友人のためにひと肌脱いだカルナたちだが、払った犠牲はあまりにも大きかった。プラバを拉致する過程で、追っ手と揉み合いになった結果、チャンドランは片足を失い、パンディは聴力を失うことになる。カルナついては、この騒動が原因で、祖母が死亡し、最愛のナーランマも強制的に他の男に嫁がされることになる。それでも三人は自分たちの行為を悔いてはいなかった。
 しかし、彼らに平穏な日々が戻りつつある頃、ショッキングなニュースが届く。あれほど苦労して結びつけたサラヴァナンとプラバが喧嘩別れをし、それぞれの実家に帰ってしまったのである。カルナら三人はそれぞれの家に出向くが、親ばかりか、本人たちにまで冷たくあしらわれる。
 自分たちの犠牲が無に帰したことを知ったカルナたちは絶望する。しかし、パンディに鼓舞されて、こみ上げる怒りを晴らすために行動を開始する、、、。

   *    *    *    *

 あらすじを読めば分かるとおり、非常に単純明快なストーリーとメッセージを持った作品だ。主人公の男たちは天然記念物に指定したいほどのバカ野郎だが、彼らの人間性と行為は熱いやら美しいやらで、観ているこちらの背筋も真っ直ぐ伸びた。

 映画全編をとおして主人公たちの篤い友情が強調されているが、本作がテーマとして扱ってるのは「恋愛」だ。といって、これがラブ・ストーリーというわけではなく、恋愛の否定的な例をとおして、恋愛や結婚とはどういうものなのか、どうあるべきなのかを、きっぱりとしたスタンスから提示したものだ。
 カルナ(Sasikumar)たちが友情から多大な犠牲を払ってまで結びつけた二人が、あっさりと分かれて親許に帰り、新たに見合いの話を進めている。そんな無責任な二人に対して、彼らは怒りの鉄拳を振り上げる。
 言っていることは単純なのだが、これは私がインド映画に対して常に待望しているひと言だ。「恋愛はいかん」じゃなく、「責任を持て」ということなのだ。そして、恋愛の肯定的な例として、カルナの妹パヴィトラ(Abhinaya)とチャンドラン(Vijay Vasanth)の例が提示される。二人はもともとカーストの違いという逆風があったのだが、その上、チャンドランは片足をなくしてしまう。にもかかわらず、パヴィトラは彼を受け入れ、カルナの両親も説得される。

 本作のメッセージは、今どきの腰の据わらない若者に対する手厳しい警告だが、しかし、直截的にアピールしそうな説得力のあるものだ。
 クライマックスの、裏切り者とも言える二人を「懲らしめる」場面には胸のすく思いだったが、しかし欲を言えば、まだまだ生ぬるい。ここは「目には目を」、つまり「復讐する」ぐらいの残酷さがあってもよかったのでは、と思う。

◆ パフォーマンス面
 主要登場人物を演じたSasikumar(カルナ)、Bharani(パンディ)、Vijay Vasanth(チャンドラン)、それにGanja Karuppuを加えた4人は、人物造形も演技も素晴らしい。これが本作を面白くしている要因の一つだろう。
 特にシャシクマールは、【Subramaniyapuram】では監督兼務の出演ということで、控え目な演技をしている印象だったが、本作では役者としても申し分のない旨味を見せている。
 バーラニの演じたパンディは鮮烈だったし、片やヴィジャイ・ワサントもお茶目で人情味のある田舎男を好演している。ガンジャ・カルップの力を抜いたコメディー的役割も相変わらず面白い。
 (写真トップ:左よりVijay Vasanth@チャンドラン、Sasikumar@カルナ、Bharani@パンディ。)

 女優陣は、中心的なヒロインというのはおらず、その代わりAnanya(ナーランマ)、Abhinaya(パヴィトラ)、Shantini Theva(プラバ)の3人が同じぐらいの重要さで配されている。
 この中で特筆すべきはナーランマ役のアナンニャだが、ケーララ州出身らしい。顔立ちもそうだが、演技スタイルもチャルミを髣髴とさせる活き活きとしたものだ(おそらく、意図的に狙ったのでは)。本作でのインパクトはかなり強かったようで、あちこちで見かける記事によると、すでにタミルやテルグからのオファーが続いている模様。
 確実に仕事をしてくれそうな新人だ。(写真下)

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 アナンニャと匹敵するぐらいフレッシュな印象だったのは、パヴィトラ役のアビナヤだ。映画の始めのほうで、彼女が振り返って微笑む場面では、映画館内で大きな歓声が起きていた。
 実は、このアビナヤという人は聾唖だということだが、映画を見ていても全く気付かなかった。この辺、アフレコはお手の物のインド映画ならではの芸当だろう。(下)

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 プラバ役のシャンティニ・デーワはマレーシア在住のタミル人らしい。ネガティブ・ロールになって気の毒だが、それでも注目は集めているようだ(こちらの記事参照)。

◆ テクニカル面
 音楽はSundar C. Babuという、私の知らない人の担当だが、かなり良いものだ。
 カディールの撮影も良い。
 ‘Sambo Siva Sambo’という歌が使われている場面は、ストーリー進行とアクション・シーンと音楽シーンが合体したような作りで、かなり迫力のあるものだ。こればかりはYou Tubeなどで断片的に見ず、実際の映画の流れの中で見てほしい。
 もう1曲、Nivedaというむっちりした体格の女優を使ったアイテム・ナンバーがあり、タミル映画らしい面白いものだった。

◆ 結語
 やはり田舎は強かった。強くオススメする。

・満足度 : 4.0 / 5

 (オマケ画像:爽やか美女のアビナヤさんとパンチ娘のアナンニャさん。)

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