カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Unnaipol Oruvan】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2009/09/27 00:34   >>

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 現在、【Eeram】というタミル映画が公開中で、どうやらシンドゥ・メノンが浴室で殺害されるという、なんとも素敵なサスペンス物らしい。これにはシャランニャ・モハンやチャヤー・シンなど、私のお気に入り女優たちも出ていて、もう観る気満々だったのだが、頭に来ることに、ここバンガロールでは1週間で打ち切りになってしまった。それというのも、話題作のこの【Unnaipol Oruvan】が押しかけて来たからであるが、可愛いお嬢ちゃまたちを見るつもりが、毛むくじゃらのオヤジたちかぁ、、、などと意気消沈ムードでの鑑賞となった。
 本当は、カマル・ハーサンとモハンラルという、インド映画界が誇るカリスマ俳優の共演作なら、ひれ伏してでも観るべきなのだが、、、。

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 周知のとおり、本作はヒンディー映画のヒット作【A Wednesday!】(08:Neeraj Pandey監督)のタミル語版リメイク。テロの問題を扱った【A Wednesday!】は、素晴らしいアイデアと語り口を持つ傑作で、それをリメイクとしてどう処理しているか、また、ナスィールッディーン・シャーとアヌパム・ケールが演じた人物を、それぞれカマル・ハーサンとモハンラルがどう演じているか、興味は尽きない。

【Unnaipol Oruvan】 (2009 : Tamil)
物語 : Neeraj Pandey
脚本 : Kamal Haasan
台詞 : Ee.Raa.Murugan
監督 : Chakri Toleti
出演 : Kamal Haasan, Mohanlal, Ganesh Venkatraman, Bharath Reddy, Anuja Iyer, Lakshmi, Poonam Kaur, Mukhtar Khan, Santhana Bharathi, Anand Krishnamoorthi
音楽 : Shruti Haasan
撮影 : Manoj Soni
編集 : Rameshwar Bhagat
制作 : Kamal Haasan, Ronnie Screwvala

《あらすじ》
 チェンナイ市警察本部長(COP)、ラガヴァン・マラール(Mohanlal)は、ある日、匿名の男(Kamal Haasan)から脅迫電話を受ける。男はチェンナイの5ヶ所に爆弾を仕掛けたと言うのだ。マラールは直ちに対策に乗り出し、タミルナードゥ州首相と電話連絡を取る。州首相はマラールに本件の指揮を一任し、自身の代理として第一書記官(Lakshmi)を警察本部に詰めさせる。
 匿名の男はまた、ニュース番組のレポーター、ナターシャ(Anuja Iyer)にも電話を入れ、起こるべき事件を報道するよう暗示する。
 男はマラールに、服役中のテロリスト4人を釈放するよう要求する。また、これがイタズラ電話でないことを示すために、爆弾を置いた場所の1つを教える。男の言葉どおりにアンナー・サライ警察署のトイレから爆弾が発見され、警察本部内に衝撃が走る。
 マラールは男の要求を受け入れ、片腕の警官、セトゥ(Bharath Reddy)とアーリフ(Ganesh Venkatraman)に命じて、4人のテロリストを男が指定した場所へと移送させる。同時に、ハッカーの青年(Anand Krishnamoorthi)を使って、男からの電話の逆探知を試みる。
 セトゥとアーリフ、並びに4人のテロリストは指定場所に到着する。そこには車が準備してあり、男はテロリストをそれに乗せるよう指示する。だが、アーリフはテロリストの1人、イブラヒム・アブドゥッラーを拘束したままにし、他の3人だけ車に乗せる。次の瞬間、車は爆発し、3人のテロリストは死亡する。
 マラールたちはこの経緯に驚愕する。テロリストの1人が生き残ったことを知った男は、怒りと苛立ちを込めてマラールに訴える。実は、男はテロリストの一味ではなく、テロの恐怖に怯え、憤り、テロリストを始末しようと企てた「愚かな一般市民」だと明かす。
 男はイブラヒム・アブドゥッラーの殺害を要求し、さもなくば他の爆弾がある場所を教えないと言う。マラールはこれを呑み、セトゥらにイブラヒム・アブドゥッラーを射殺させる。仕事を終えた男は、マラールに「他に爆弾はない」と伝え、現場を去る。
 マラールは、ハッカーの逆探知によって男の所在をつかみ、単身、その場へ乗り込む、、、。

   *    *    *    *

 まぁ、「リメイクとしてはよくできた作品で、モハンラルもカマル・ハーサンもさすがの熱演・好演をしており、、、」と書いておけば問題はないだろうし、事実、そうなのだが、それにしても私が期待したほどの力強さはなかった。
 もっとも、【A Wednesday!】を観たかどうか、また、【A Wednesday!】に対して思い入れがあるかどうかによって、感動の度合いも変わってくると思うが、私が【A Wednesday!】を気に入っているということが【Unnaipol Oruvan】の鑑賞に不利に働いた可能性はある。ただ、それだけではないとも思える。

 【A Wednesday!】のようなアイデア本位・メッセージ本位の作品を、比較的オリジナルに忠実にリメイクし、しかも名優が配役されている場合、どうしても俳優たちの演技が注目点となるのだが、その演技的側面に違和感を感じた。
 重要登場人物は「一般市民(Common Man)」と「COP(Commissioner of Police)」の2人で、それぞれオリジナルではナスィールッディーン・シャーとアヌパム・ケール、タミル語版リメイクではカマル・ハーサンとモハンラルが演じている。
 どちらの役も非常に重要なのだが、あくまでも主役は「一般市民」のほうで、比率で言うと「一般市民」対「COP」では6対4ぐらいの重さ配分になるだろうか。それで、ヒンディー語版の2人のバランスは非常に良く、特にCOP役のアヌパム・ケールはぴったりと映画の中に納まり、ドラマのペースをキープすると同時に、作品全体のメッセージ、つまり、「一般市民」に託して表現されるメッセージを映し出す格好の反射板になっていたと思う。ところが、タミル語版リメイクではこのバランスが4対6と逆転しており、モハンラルのCOPに重点が移ってしまっている印象を受けた。それが直ちに悪いと言うわけではないが、これが意図してならまだしも、期せずしてそうなってしまったのなら、配役ミスか脚本ミスか演技ミスになる。

 個々の演技を見てみると、「一般市民」役のカマル・ハーサンは暗すぎて、存在感が乏しい(もちろん、渋い演技はしているのだが)。
 もっとも、この役は「一般市民」と自称しながら、実はこんな大それた事をしでかす一般人はもはや一般人の範疇を超えているので、カマル・ハーサンが演じたような、思いつめた確信犯的なイメージのほうがリアリティーがありそうだ。しかし、白髪の初老で、体も小さく、前かがみで歩くナスィールッディーン・シャーのほうが、一体何がこのジイサンをしてこんな大胆なことに向かわせたのか、と考えさせるに十分で、それゆえクライマックスの長台詞も生きてくるというものだ。
 (写真下・左部:【A Wednesday!】のナスィールッディーン・シャー。右部:【Unnaipol Oruvan】のカマル・ハーサン。)

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 他方、COP役のモハンラルは、オリジナルのアヌパム・ケールを凌ぐ存在感なのだが、このラルさんは妙に威勢がよすぎるというか、急ぎすぎているというか、映画全体の構図から見れば、唸るほど上手い立ち回りとも思えないのである。
 後述するように、チャクリ監督はおそらくCOP役の比重をもう少し重くし、5対5ぐらいのバランスで脚色したのではないかと私は推測しているが、ラルさんはそれを1割オーバーしてしまったようなのだ。
 それで、この2役のバランス関係がどういう結果をもたらしたかと言うと、【A Wednesday!】では作品の全エネルギーが見事にナスィールッディーン・シャーの口に収斂されていたのに対し、【Unnaipol Oruvan】では力が1本の束としてまとめ切れておらず、それが私が力不足と感じた原因なのではないかと見ている。
 二大巨星の夢の共演とはいえ、COP役には脇役を主にやる俳優(例えば、ナーサル)を使うべきだったと私は思う。

 作品の内容は、テロの問題に苦しむ一般市民が、テロを根絶する手段としてテロそのものの手法を採るという、びっくり仰天のアイデアなのだが、もちろんこれは映画上のみ有効な仮構で、【A Wednesday!】の作者、ニーラジ・パンデイ監督が実際にこの解決策を推奨しているわけではないはずだ。それは社会的に正しいとは言えないし、どだい、こうやってテロリストを4人殺したとしても、家にいるゴキブリを4匹殺してもゴキブリを根絶できないのと同様、テロリストを根絶できるわけでもないのである。
 しかし、そうは言っても、この「愚かな一般市民」が表現する不安や苛立ち、憤りはかなりリアリティーがあり、多くのインド人の共感を呼ぶものだったようで、映画のヒットがそれを裏付けている。

 その作品の中心テーマはタミル語版リメイクでも踏襲されている。ただ、ムンバイほどえげつないテロ事件が頻発していない南インドでは、テロの問題一本では現実を反映させにくいと思われたのか、この【Unnaipol Oruvan】では政治的な問題も内容に加味されている。モハンラル演じるCOP、マラールの比重が重くなっているのはそのためだろう。例えば、マラールと第一書記官とはかなり対立的に描かれており、治安サイドと政治サイドの齟齬が社会悪を許す原因となっていることが示唆されている(オリジナル版のCOPは定年退職しているのに、リメイク版のCOPは解任となっている)。
 また、4人のテロリストは、オリジナルではすべてイスラム教徒だったが、リメイクではヒンドゥー教徒が1人混じっており、テロの問題が特定の宗教に限定されない質の社会悪として捉えられている。
 ちょっとしたことだが、リメイク上のこういう変更は効果的で、面白い。

◆ パフォーマンス面
 カマル・ハーサンとモハンラルについては上に書いたので、脇役陣に目を移すと、、、セトゥとアーリフを演じた2人が印象的。特にアーリフ役のガネーシュ・ウェンカタラーマンは、【Abhiyum Naanum】(08:テルグ語版は【Akasamantha】)で注目された若手俳優だが、前作のスィク教徒役とは打って変わって、タフなコップを演じている。インドの俳優というより、ハリウッドのアクション・スターといった雰囲気で、注目度急上昇だろう。

 ヒロインはおらず、紅一点(いや、ラクシュミおばさまetc.もいたのだが)と呼べるのがテレビ・レポーター役のAnuja Iyer。詳しいことは知らないが、先日紹介した【Ninaithale Inikkum】に重要な役で出ていた。
 本作ではタバコをぷかぷかふかす、強気なキャリア・ウーマンという役柄で、悪くはないのだが、こういうところで超カワユいアイドル女優を使うとか、場違いなミニスカートをはかせるとか、遊び心を見せてくれたら、この重苦しい作品にあって、格好の息抜きポイントになったのになぁ、と思う。

◆ テクニカル面
 オリジナルと同様、いわゆる音楽シーンは一切なく、映画の上映時間も1時間40分程度だった。
 音楽(BGM)はカマル・ハーサンの娘、シュルティが担当しており、なかなか良い。エンドロールに流れる歌で、シュルティの歌声が聴ける。

◆ 結語
 要するに、カマル・ハーサンとモハンラルの組み合わせが、特に作品を持ち上げる決め手となっていないというのが私の不満点なのであるが、だからといって失敗作というわけではなく、リメイクとしては上出来、ヒットも堅いだろう。
 本作と同時にテルグ語版も制作され、そちらではウェンカテーシュがCOPの役を演じている。評判は上々のようなので、余力があれば観比べたいものだ。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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