|
またまたマラヤラム映画界が面白いことことをやってくれた! この【Kerala Cafe】は、単一のストーリーからなるものではなく、10本の短編を集めたオムニバス映画。オムニバスという形式自体は全然驚くべきことではなく、近ごろはインドでもぼつぼつ目に付くようになってきた。ただ本作の場合、その規模に気合いを感じる。10人の気鋭監督がそれぞれメガホンを取り、10人の撮影監督に10人の音楽監督、もちろん、演技陣も多数のマラヤラム・スターたちが結集し、昨年の【Twenty 20】並みの大企画だ。 全体の企画と制作は映画監督のランジットが担当している。どういう経緯でこの映画を作ることになったかは知らないが、フランス映画【Paris, je t'aime】(06)の影響が一つにはあるらしい。 【Kerala Cafe】 (2009 : Malayalam) 企画・制作 : Ranjith 映画は、まず著名な映画監督であるサティヤン・アンティッカドが登場し、ぼそぼそと作品について語るところから始まる。そして、下記の10短編が続くのだが、映画全体の上映時間は2時間25分と、そう長いものでもなく、それぞれのエピソードは10分から15分ぐらいでまとめられている。 10本のそれぞれはストーリー的に独立しているとはいえ、「旅」という一つのテーマで統一されている。ケーララ州のとある鉄道駅にある「ケーララ・カフェ」という食堂が扇の要となっている。各エピソードの登場人物は互いに他のエピソードのそれと交流することはないが、何らかの形で「ケーララ・カフェ」と関係している。 以下に各エピソードのクレジットと簡単な内容、コメントを記しておく。 @ Nostalgia ![]() 監督 : Padmakumar 出演 : Dileep, Navya Nair, Sudheesh 音楽 : Thej Mervin 撮影 : Anil Nair 編集 : Sreejith ドバイ在住の実業家・ジョニー(Dileep)が、郷愁と共に故郷のケーララに一時帰省するが、帰ったら帰ったで故郷に対して悪態をつき、古い人間関係も蔑ろにするという話。 「ふるさとは遠きにありて思ふもの」というわけでもないだろうが、NRIのインドに対する複雑なスタンスが描かれている。Venugopalという人の‘Naatuvazhikal’という詩に想を得ているらしい。 A Island Express ![]() 監督 : Shankar Ramakrishnan 出演 : Prithviraj, Rahman, Manianpillai Raju, Jayasurya, Sukumari, Geethu Christie 音楽 : Manu Ramesh 撮影 : S. Kumar 編集 : Mahesh Narayan 思わせ振りに5人の登場人物が出て来るが、それぞれまったく絡み合うことなく、別個に出来事が進行する。だが、やがて彼らはある地点に集結する。そこは「ペルモン列車事故」が起きた場所であった。 1988年に起きたケーララ史上最悪の鉄道事故と言われる‘The Peruman Train Tragedy’に材を取ったもの。 監督のShankar Ramakrishnanは新人らしい。プリトヴィラージの人物デザインには違和感を感じたが、突然象を出すセンスは面白い。 B Lalitham Hiranmayam ![]() 監督 : Shaji Kailas 出演 : Suresh Gopi, Jyothirmayi, Dhanya Mary George 音楽 : ? 撮影 : Sujith Vasudev 編集 : Samjith ラメーシュ(Suresh Gopi)は妻のラリタ(Jyothirmayi)と愛人のマイー(Dhanya)との板挟みに悩むが、ある雨の日、2人の女を残して事故死してしまう。 アッパー・クラス家庭の夫の不貞を扱ったものだが、残された女2人の「したたかさ」に注目したい。 C Mrityunjayam ![]() 監督 : Uday Ananthan 出演 : Thilakan, Fahad Fazil, Reema Kallingal, Meera Nandan, Anoop Menon 音楽 : Ouseppachan 撮影 : Hari Nair 編集 : Samjad とある村落部の不気味な出来事が起きる老屋敷に、若いジャーナリスト(Fahad Fazil)が取材に来るという話。 マラヤラム映画界といえば、ホラー映画の産地としても知られているが、やはりそれらしくホラータッチの作品もエントリーということか。この短編が何を言いたいのかよく分からなかったが、ケーララの田舎の何か物の怪が出て来そうな空気は感じられた。 ミーラ・ナンダンとアヌープ・メノンの名前もリストにあるが、ほとんど付け足し程度の出演で残念だった。 D Happy Journey ![]() 監督 : Anjali Menon 出演 : Jagathy Sreekumar, Nithya Menon, Mukundan 音楽 : Harikumar Madhavan Nair 撮影 : M. J. Radhakrishnan 編集 : B. Lenin どこにでもいそうなスケベ親爺(Jagathy Sreekumar)が長距離バスで美少女(Nithya Menon)の隣に座る。親爺は例によって美少女にちょっかいをかけようとするが、彼女と話しているうちに、この少女が実はテロリストではないかとの疑念を抱き、すっかり怯えるという話。 単純ながらヒネリの利いた、まさに掌編映画の見本ともいえる作品。俗物親爺を演じたジャガティの旦那はさすがに上手いが、そんな中年男をぶるぶる震え上がらせたニティヤも見事! E Aviramam ![]() 監督 : B. Unnikrishnan 出演 : Siddique, Shweta Menon 音楽 : M. Jayachandran 撮影 : Shamdat 編集 : Manoj ソフトウェア会社を営むラヴィ(Siddique)は、不景気の影響で多額の負債を抱え、自殺を考えていた。彼は旅行に出かける妻(Shweta Menon)と2人の子供を送り出した後、首を吊ろうとするが、まさにその瞬間に玄関のベルが鳴る、、、。 経済発展を続けるインドをも襲った景気後退の問題を扱ったもの。アイデアも見せ方も単純すぎて、やや面白みに欠ける一編だが、夫に対する妻の愛情は美しかった。(というより、シュウェタ・メノンのヘソはもっと美しかった。) F Off Season ![]() 監督 : Shyamaprasad 出演 : Suraj Venjaramoodu, Frank Pietropinto, Marie Muscroft, Vindhyan 音楽 : Rahulraj 撮影 : Azhagappan 編集 : John Kutty シーズンオフのコヴァラム・ビーチ。暇を持て余すツアーガイドのクンジャーバイ(Suraj Venjaramoodu)は、西洋人のカップルを見つけ、カモとばかりにあれこれサービスを尽くす。しかし彼は、そのカップルが文無しのポルトガル人で、仕事を探しに来ていたことを知る、、、。 10編中、唯一のコメディー。単純に笑えないペーソスなのだが、それを「まぁ、ええがな」と持っていくあたり、インド的でいい。サックスを使ったBGMも心地よい。 G Bridge ![]() 物語 : Unni R 監督 : Anwar Rasheed 出演 : Salim Kumar, Kozhikode Shanthadevi, Kalpana 音楽 : Rex Vijayan 撮影 : Suresh Rajan 編集 : Vivek Harshan 息子が可愛がっている子ネコを捨てる父と、痴呆が進む老母を捨てる息子(Salim Kumar)の、2つのエピソードが平行して描かれる。 かなり沈痛な話だ。短いながら、これは泣ける。コメディアン、サリーム・クマールの超シリアス演技も見ものだ。 なお、老母と子ネコの組み合わせは映画の一番最後にも登場し、切ない余韻を残してくれる。 H Makal ![]() 物語・監督 : Revathy 脚本・台詞 : Deedi Damodaran 出演 : Sona Nair, Srinath, Augustin, Sreelakshmi 音楽 : Bombay Jaishree 撮影 : Madhu Ambat 編集 : Rajalakshmi 村の極貧家族の子供たちがこっそり売られていくという、児童売買の問題を扱ったもの。レーヴァティの見せ方は単刀直入すぎる嫌いがあるが、扱われている問題があまりに深刻であるため、ショックを受けるに十分だ。ソーナ・ナーイルの微妙な表情に注目。 I Puram Kazhchakal ![]() 物語 : C. V. Sriraman 脚本・台詞・監督 : Lal Jose 出演 : Mammootty, Sreenivasan, Sreelekha 音楽 : Bijibal 撮影 : Vijay Ullaganathan 編集 : Ranjan Abraham バスの中でかつての恋人との思い出を回想する中年男A(Sreenivasan)。そのバスに中年男B(Mammootty)が乗って来る。Bは妙に苛立ち、バスを急がせる。他の乗客はそんなBを不快な目で眺めるが、しかしBの目的地に到着したとき、真相が分かる。 締めはマムーティとシュリーニワサンの出演とあって、大いに期待したが、ちょっと文学的すぎて期待はずれだった。しかし、ヒゲなしのマムーティもいいもんだ。 【Kerala Cafe】の統一テーマは「旅」ということだが、上の内容を見て分かるとおり、「旅」の情緒そのものが描かれているわけでも、旅を通した人との出会いや旅する人の内面の変化が描かれているわけでもない。つまりは、本作が描いているのは、ある一点から眺められた雑多な人々の人間模様であり、彼らを通して窺い知れるインド(ケーララ州)の現状ということだろう。 本作の10編の内容は、お気楽なインド人気質から悲痛な社会問題まで、バランスよく配分されており、現在のケーララを興味深く概観できる。私的には『Happy Journey』と『Off Season』と『Bridge』が気に入っているが、鑑賞者それぞれで受け止め方も違ってくることだろう。 それぞれの監督のこれまでの作風と比較してみるのも面白いだろう。私はマラヤラム映画の過去作に疎いので、部分的にしか分からないが、例えば、痛快なアクション・コメディーを得意とするAnwar Rasheed監督が『Bridge』を、【Ore Kadal】(07)のShyamaprasad監督が『Off Season』を撮ったなんて、ちょっと想像しにくいことだ。 内容も面白いが、技術面はもっと注目すべきだ。映像、音楽、演技(セリフの間etc.)は、失礼な言い方になるが、もはやインド映画とは言えないほど繊細なものだ。そういった意味で、【Kerala Cafe】は、1本の面白い映画ということ以上に、マラヤラム映画の将来の可能性を感じさせてくれる作品だった。 強くオススメする。 ・満足度 : 4.0 / 5 |
| << 前記事(2009/11/22) | ブログのトップへ | 後記事(2009/11/30) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
【Neelathaamara】 (Malayalam)
去年、映画館で観たマラヤラム映画はわずか5本に留まったが、その5本がいずれも秀作・傑作で、本数の少なさ以上に強い印象が残っている。そもそもマラヤラム映画に対しては、なにかしら見どころのあるもの、というイメージを抱いているのだが、その観念を私に植え付けたのが【Classmates】(06)だ。なので、その監督のラル・ジョーズの新作とあっては、やはり気にかかる。 本作は1979年に制作された同名のマラヤラム映画のリメイクで、原作と脚本は同じM.T. Vasudevan Nairが担当... ...続きを見る |
カーヴェリ川長治の南インド映画日記 2010/02/03 02:35 |
レビュー:Kerala Cafe
Kerala Cafe (Malayalam - 2009) 企画:Ranji... ...続きを見る |
Priyan News & Gossip... 2010/03/14 03:00 |
【Happy Husbands】 (Malayalam)
この【Happy Husbands】はマラヤラム映画の今年のヒット作第1号となった作品らしい。ケーララ州では1月14日に公開されたのだが、バンガロールでは2月19日の公開。こちらでも上映4週目に突入するヒットとなったため、観に行くことにした。 始めに言っておくと、本作はオリジナルではなく、2002年のタミル映画のヒット作【Charlie Chaplin】の翻案である(映画冒頭にちゃんと断わり書きがあった)。ただし、この3組のカップルによるホーム・コメディーはインド人の好みにフィッ... ...続きを見る |
カーヴェリ川長治の南インド映画日記 2010/03/15 01:21 |
【Apoorva Ragam】 (Malayalam)
これも待望のマラヤラム映画だったわけだが、やっとバンガロールでもシネコンのレイトショーに掛かったので、夜遊びはしたくないと思いつつ、観に行った。 観たかった理由というのが、上の写真を見て分かるとおり、「良さげなキャンパス物」と思えたからである。しかも、主要キャストがニシャンとアーシフ・アリーとニティヤ・メノン。以前にどこかで触れたと思うが、ニシャンとアーシフ・アリーが主演した【Ritu】(09)はケーララの若者映画としては進みすぎていた嫌いがあり、逆にニティヤ主演の【Vellat... ...続きを見る |
カーヴェリ川長治の南インド映画日記 2010/08/25 00:38 |
【Pranchiyettan & The Saint】 (Malayalam)
【Pazhassi Raja】、【Paleri Manikyam】、【Kutty Srank】と、批評家を唸らせる作品が続いたマンムーティだが、またさらに1つ傑作が加わったようだ。 ランジット監督の【Pranchiyettan & The Saint】。 ランジット監督の作品は私はほとんど観ておらず、【Nandanam】(02)と【Thirakkatha】(08)、それに(純粋な監督作とは言えないが)【Kerala Cafe】(09)だけで、マンムーティと組んで多数の映画賞を... ...続きを見る |
カーヴェリ川長治の南インド映画日記 2010/10/01 02:18 |
【August 15】 (Malayalam)
マンムーティ主演のマラヤーラム映画。 前回紹介した【Christian Brothers】より1週間遅れで本作の公開ということで、モーハンラールとマンムーティの同時期見比べができた。マラヤーラム映画界の二大巨頭のことだから、おそらくこれまでも数えられないほどこうした同時期公開があったはずだが、興行的な対戦成績はここしばらくマンムーティに分があるようだ。特に2009年の【Pazhassi Raja】と【Angel John】の激突はラルさんの歴史的敗北となった。 そんな近年好調... ...続きを見る |
カーヴェリ川長治の南インド映画日記 2011/03/30 20:59 |
【Urumi】 (Malayalam)
サントーシュ・シヴァン監督の話題の新作は時代劇大作の【Urumi】。 サントーシュ・シヴァンは、インド映画ファンなら誰しも認めるとおり、撮影監督としては人間業とは思えない美しい映像を撮る人で、私も非常に好きなのであるが、映画監督として見ると、評価は微妙になる。概して批評家からの評価は高く、良質の芸術的娯楽映画の作り手と目されているが、私はどうも「マニ・ラトナムの二番煎じ」といった印象を抱いており、嫌いとは言わないまでも、これまでのところインド映画史上の重要な監督だとは思っていない... ...続きを見る |
カーヴェリ川長治の南インド映画日記 2011/04/17 01:51 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
最近マラヤラム映画について書いてある「アジアのハリウッド」という本を見つけた。マラヤラム映画の作られかたや特質が、隣のタミル映画と比べてあってとても面白い。ケララでの芸術映画と娯楽映画の関わりが、モハンラール等との会話から伝わってくる。マラヤラムの女優らについてはあまり書いてないが、一読の価値があると思う。 |
映画マニア 2010/05/15 19:46 |
コメント、ありがとうございます。 |
カーヴェリ 2010/05/17 17:28 |
| << 前記事(2009/11/22) | ブログのトップへ | 後記事(2009/11/30) >> |