カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Mayabazar】 (1957/2010 : Telugu)

<<   作成日時 : 2010/02/17 02:04   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 3 / コメント 2

 インドの白黒映画の名作をカラー化するという試みは、ヒンディー映画の【Mughal-e-Azam】(1960/2004)や【Naya Daur】(1957/2007)、カンナダ映画の【Satya Harischandra】(1965/2008)があり、さて次は、と思っていたら、ついにテルグ映画から登場した!

画像

 この【Mayabazar】は1957年の作品で、テルグ映画史上最高傑作とも謳われる不朽の名作らしい。そんな凄い作品を私如き半端者が観てもよいものかと躊躇ったが、俳優というよりは神に等しい古のテルグ・スターたちの在りし日・若き日の姿が銀幕で拝めるとあっては、やはり観ない選択肢はない。

 本作は叙事詩『マハーバーラタ』の一説話、「Sasirekha Parinayam(シャシレーカーの結婚)」を題材としているが、実はこの説話は『マハーバーラタ』の正本にはない口承伝説で、主にテルグ語地域で親しまれているものらしい(こちらの記事参照)。
 現在のテルグ人は主にこの【Mayabazar】を通して「シャシレーカーの結婚譚」に馴染んでいると思われるが、しかし、もっと昔から、神話劇を演じる旅劇団がこの説話をせっせと演じて回り、本作もそうした劇団の芝居をベースにしているらしい。
 参考に、そうした旅劇団の1つに‘Surabhi Theatre’というグループがあるが(これは120年続いているものとして有名)、一昨年、バンガロールで行われた演劇祭に彼らが登場したとき、十八番の「Maya Bazar」を鑑賞することができた。芝居は実に面白いものだったが、やはり大評判だったらしく、2回公演の予定が急遽追加公演が行われたほどだ。(‘スラビ・シアター’についてはこちらを参照。)

 なお、本作は当時タミル語版も制作され、カンナダ語とヒンディー語にも吹き替えられたらしい。
 近年にも「Mayabazar」という題名のインド映画がいくつか作られているが、本作との直接の関係はなさそう。去年公開されたテルグ映画の【Sasirekha Parinayam】では、冒頭に本作の一部がちらっと引用されている。

 カラー化の作業は、【Satya Harischandra】と同様、Goldstone Technologies社が請け負った模様。着色に加えて、音声もデジタル化されたようだ。

【Mayabazar】 (1957/2010 : Telugu)
物語・台詞 : Pingali Nagendra Rao
監督 : Kadri Venkata Reddy
出演 : S.V. Ranga Rao, N.T. Rama Rao, Akkineni Nageswara Rao, Savitri, Gummadi Venkateswara Rao, Rushyendramani, Chaya Devi, Sandhya, Relangi Venkata Ramaiah, Mukkamala, Chilakalapudi Seetha Rama Anjaneyulu, Mikkilineni, R. Nageswara Rao, Ramana Reddy, Allu Ramalingaiah, Vangara Venkata Subbaiah
音楽 : Ghantasala Venkateswara Rao, Saluri Rajeshwara Rao
撮影 : Marcus Bartley
編集 : C.P. Jambulingam, Kalyana Sundaram
制作 : Alur Chakrapani, B. Nagi Reddy

《あらすじ》
 パーンダヴァ家のアルジュナの息子・アビマンニュ(Akkineni Nageswara Rao)は、バララーマ(Gummadi Venkateswara Rao)の娘・シャシレーカー(Savitri)と幼少の頃より仲睦まじく、両家は二人を結婚させる意向だった。ところが、バララーマの妻・レーヴァティ(Chaya Devi)はこの縁談に不満を抱くようになる。パーンダヴァ家は目下追放の身で、資産もなかったからである。時に、カウラヴァ家のドゥルヨーダナ(Mukkamala)も息子のラクシュマナ・クマーラ(Relangi Venkata Ramaiah)の結婚相手にシャシレーカーを狙っていた。そして、シャクニ(Chilakalapudi Seetha Rama Anjaneyulu)の策もあり、バララーマは娘とラクシュマナ・クマーラの結婚を決めてしまう。
 クリシュナ(N.T. Rama Rao)は結婚談義のためにアビマンニュとその母・スバドラー(Rushyendramani)を伴い、ドワーラカのバララーマ家を訪れるが、縁談が反故にされていることを知る。アビマンニュとシャシレーカーは人目を忍んで逢うが、それを察知したレーヴァティは娘を軟禁状態にする。
 一計を案じたクリシュナは、アビマンニュとスバドラーを羅刹のガトートカチャ(S.V. Ranga Rao)の許へ行かせる。ガトートカチャは最初、自分の森に侵入して来た二人に攻撃を仕掛けるが、それが身内のアビマンニュとスバドラーであることを知り、歓迎する。
 事情を知ったガトートカチャは、アビマンニュとシャシレーカーのために行動を開始する。ガトートカチャはまず、シャシレーカーをバララーマの御殿から自分の屋敷に移し、アビマンニュに会わせる。そして、自身がシャシレーカーに化けて、バララーマの御殿に入る。彼はまた弟子のチンナマイヤ(Ramana Reddy)らに命じて、妖術で‘幻の迎賓館(Mayabazar)’を出現させる。
 やがて結婚式のため、シャシレーカー(実はガトートカチャ)とラクシュマナ・クマーラ、及びその親族らが迎賓館にやって来る。だが、結婚の儀式はガトートカチャの魔術のせいで台無しとなり、ドゥルヨーダナとシャクニ、ラクシュマナ・クマーラはひどい目に遭う。
 片や、ガトートカチャの屋敷では本物のシャシレーカーとアビマンニュの結婚儀式が完了したところだった。一同はすべてを取り計らったクリシュナに対して篤い礼拝を奉げる。

   *    *    *    *

 さすがにさすが、映画にうるさいテルグ人が最高傑作と言うだけあって、文句なしに素晴らしかった。
 とにかく、面白いのである。古典叙事詩『マハーバーラタ』に材を取ったものであり、がっちりした顔の役者たちが伝統装束を身に纏い、しかも50年前の作品とあっては、重々しくスローテンポなものを予想しがちだが、なんのなんの、基本的にコメディーで(しかも、ドタバタに近い)、役者の演技、音楽シーン、特撮技術(たぶん、当時では最高峰)が効いており、最後まで一瞬たりとも退屈しなかった。

 最も素晴らしいと思えたのは俳優たちのパフォーマンスだ。キャスティングも良ければ演技も良しで、登場人物たちが活き活きとしている。
 中でも一番印象的だったのは(私如き未熟者が誰のどこか良かったと評するのもおこがましいが)、ガトートカチャ役のS.V. Ranga Raoだ。

画像

 ガトートカチャは、ビーマと羅刹女ヒディンビとの間に生まれた子で、魔術を使うおどろおどろしい存在なのだが、『マハーバーラタ』では愛すべきキャラクターとして描かれている。それをS.V. Ranga Raoが愛嬌たっぷりに見事に肉付けしている。

 二番手の紹介になってしまったが、さすがにNTR(N.T. Rama Rao)のクリシュナも美しいやら艶めかしいやらで神々しいやらで、私も思わずひれ伏してしまった。
 (写真トップ:NTRのクリシュナ(右)とGummadiのバララーム。)

 もちろん、アビマンニュ役のANR(Akkineni Nageswara Rao)も瑞々しい二枚目で、シャシレーカーに恋歌を捧げる場面は粋だった。
 (写真下:ANRのアビマンニュと母親のスバドラー。)

画像

 その他、バララーマ役のGummadi Venkateswara Rao、ラクシュマナ・クマーラ役のRelangi Venkata Ramaiah、シャクニ役のChilakalapudi Seetha Rama Anjaneyulu等々、並びにコメディー陣も良かった。
 (写真下:左よりクリシュナ、ドゥルヨーダナ、ラクシュマナ・クマーラ、シャクニ。)

画像

 他方、女優たちに目を移しても、蓮の花のように美しい人たちばかりで、しばし現実を忘れてしまった。
 もちろん、蓮華の筆頭はシャシレーカー役のサーヴィトリだが、写真を見ても分かるとおり、キラキラと輝く50年代型美人であるだけでなく、演技も上手いと感じた。特に、本物のシャシレーカーと、ガトートカチャが化けたそれとのギャップが面白い。

画像

 音楽シーンは、この時代の映画はこれぐらいの数を入れるものなのか、それとも本作が特別なのか、次から次へとという感じだった。
 どれも美しく楽しいのだが、下のボートのシーンは特にロマンティック、かつ、ほのぼのとしたものだった。

画像

 さて、本作は技術面でも当時としてはなかなか面白いことをやっているのだが、、、
 まず、下の玉手箱は興味深かった。この黄金の箱は蓋の裏がディスプレイになっていて、開けると遠隔地の映像を見ることができる仕掛けになっている。たぶん、当時のインドでは噂にしか聞くことのなかったであろう「テレビ」をイメージしたものと思われるが、今日流行しているネットブックのことを思うと、まったく古さは感じなかった。むしろ、この装置を何気にクリシュナが持って来たのを見て、「インドIT産業の隆盛はクリシュナに起源を持つものか!」などと妄想してしまった。

画像

 ガトートカチャらの魔術の特撮映像も面白い。
 例えば、ガトートカチャとアビマンニュが戦うシーンや、ガトートカチャの食事の場面(下)など、今からすれば素朴な技術なのだが、実に効果的だった。

画像

 映画全体の構成・表現様式としては、今日のテルグ映画がどこからやって来たのかが分かるような、テルグ映画の範型があちこちに見られるものだった。
 さすがに神話劇らしく、最後はクリシュナに対する崇拝で終わっているのが泣かせる。

 色を付ければグレードアップ、と単純に言えないことは【Satya Harischandra】で経験済みだが、それでも本作もカラー化の恩恵は預かっている。宮廷人のきらびやかな衣装が映えるのはもちろんのこと、クリシュナの独特の肌の色もカラーでこそ味わえるものだ。冒頭でアビマンニュが青リンゴを射ようとするが、その緑が実に美しく見えた。
 なお、カラー版の作成にあたっては、フィルムの劣化が理由で音楽シーンが2つ削除されたらしい。また上映時間も、オリジナルは3時間ほどだそうだが、私が観たのは2時間40分だった。

◆ 結語
 どこを切っても優良印の大傑作。もちろん必見だが、インドまで飛行機に乗ってでも観に来る価値ありと信ずる。

・満足度 : 5.0 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
映画の歓び
もちろんカラー化というのは絶対条件ではなかった。ただ、劣化したモノクロ映像で字幕... ...続きを見る
Priyan News & Gossip...
2010/06/22 02:14
【Sri Rama Rajyam】 (Telugu)
 南インド映画鑑賞の楽しさの一つに、やはり「神様映画」がある。「神様映画を観ずして南インド映画を語るなかれ」とは誰も言っていないと思うが、良い神様映画に接した後などには、どこからともなくこういう声が耳に響く。  ところが、近ごろでは南インドでも神様物が現れることは稀になり、テルグとカンナダで細々と作られ、タミルとマラヤーラムではほとんど出なくなっているのではないだろうか。結局はDVD等で過去の名作を楽しむということになる。  神様物が比較的盛んに作られて来たといえばテルグ映画界になるが... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2011/11/26 20:38
【Aayirathil Oruvan】 (1965/2014 : Tamil)
 インド映画の古典的名作をデジタル・リマスタリングして再公開する企画が時々現れる。私はすべて観たわけではないが、ヒンディーの【Mughal-e-Azam】(1960/2004)、カンナダの【Satya Harischandra】(1965/2008)、テルグの【Mayabazar】(1957/2010)は映画館で観ることができたので、幸せなインド映画体験をしているほうだと言えるだろう。  今回紹介するのはタミル映画での企画で、1965年公開、MGR主演の【Aayirathil Oruva... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/03/19 22:16

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
おおっ、阿氏カウントで満点ですか!私も早う見たい!

>今日流行しているネットブックのことを思うと、まったく古さは感じなかった。

今度そちらに行くときはiPadを持っていきましょう(笑
メタ坊
2010/02/17 11:04
>おおっ、阿氏カウントで満点ですか!私も早う見たい!

ということは、これって、白黒版のDVDも出ていないんですね。

私如き粗忽者がお先に失礼してしまって恐縮です。
早くご覧になって、メタ坊さんの論評をお聞かせ願いたいです。
 
カーヴェリ
2010/02/17 23:30

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Mayabazar】 (1957/2010 : Telugu) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる