カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Aayirathil Oruvan】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/02/20 00:58   >>

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 セルワラーガヴァン監督のタミル映画。
 セルワラーガヴァンについては、【7G Rainbow Colony】(04)や【Aadavari Matalaku Ardhale Verule】(07)などを鑑賞し、注目したい監督の一人としていた。そんな彼の3年ぶりの新作でありながら、私が本作を公開後1ヶ月以上も放置していたのは、ひとえに主演のカールティ(スーリヤの弟)とリーマー・セーンに触手が動かなかったからである。
 ところが、この作品はインドでは珍しい冒険物らしく、肯定的であれ否定的であれ、あちこちで話題となっており、特にリーマー・セーンのパフォーマンスについては絶賛する声がよく聞かれた。そして、本作のテルグ語ダビング版【Yuganiki Okkadu】がAP州でヒットを記録するに及んで、いよいよ私も無視できなくなってしまった。(この日はアジット主演の【Asal】を観る予定だったのだが。)

【Aayirathil Oruvan】 (2010 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : Selvaraghavan
出演 : Karthi, Reemma Sen, Andrea Jeremiah, R. Parthiban, Azhagam Perumal, Pratap Pothan
音楽 : G.V. Prakash Kumar
撮影 : Ramji
アクション : Rambo Rajkumar
衣装 : Erum Ali
編集 : Kola Bhaskar
制作 : R. Ravendran

《あらすじ》
 1279年、チョーラ朝はパーンディヤ朝の侵攻に遭い、滅亡寸前だった。チョーラ朝の家臣たちは王子を奉じ、知られざる土地へと落ち延びていく。
 時は下って2009年、考古学者のチャンドラマウリ(Pratap Pothan)がヴェトナムの孤島にあると言われる幻のチョーラ王国を探しに出たまま、行方不明となる。インド政府は女考古学者のアニタ・パーンディヤン(Reemma Sen)にチャンドラマウリとチョーラ王国の捜索に当たらせる。これにはラヴィシェーカラン(Azhagam Perumal)を長とするインド国軍も随行することになる。アニタは、チャンドラマウリの娘で考古学者のラーヴァンニャ(Andrea Jeremiah)も探索隊に加える。ラーヴァンニャが父からチョーラ王国に関する重要な手掛かりを譲り受けていたからである。また、荷物運搬のためポーターの一団が雇われるが、そのリーダーはムットゥ(Karthi)という男だった。
 探索隊は船でヴェトナムの孤島に到着する。しかし、ここからの進行は困難を極め、一行は様々な奇妙な現象(実はチョーラ人による黒魔術)に直面する。
 ある晩、探索隊がヘビの大群に襲われたとき、逃げ延びる過程で、アニタ、ラーヴァンニャ、ムットゥの3人は本隊からはぐれてしまう。やむなく彼らは、ラーヴァンニャの地図を頼りに前進を続け、とうとうヒンドゥー様式の都市遺跡を発見する。だが、ここで3人は奇怪な現象に襲われ、不思議な力と共に、ある岩窟へと運ばれる。
 そこは落ち延びたチョーラ朝の子孫が暮らす岩窟都市だった。3人は王(R. Parthiban)と対面する。王はこの3人を焼き殺そうとするが、その時、アニタが、実は自分こそがこの王国を救う伝説の救世主だと告げる。見ると、アニタの背中に救世主の印である虎の刺青が現れる。王はアニタを解放し、厚遇する。片や、ムットゥとラーヴァンニャは奴隷として幽閉される。
 しかし、アニタのこの話はまったくの偽りで、彼女の正体はチョーラ朝と敵対するパーンディヤ王家の末裔だった。実は、1279年にチョーラ朝が滅びたとき、チョーラ人はパーンディヤ王家の最も大切にする神像を盗み出していた。以来、チョーラ人からその神像を奪還することがパーンディヤ王家の宿願であり、この探索隊を組織した大臣も、軍隊長のラヴィシェーカランも、パーンディヤ家の末裔だったのである。アニタは、岩窟内にその神像を見つけると、秘密裏に行動を開始する。
 一方、ムットゥは殺人格闘技に駆り出されて、競技場に立っていた。そこにはラーヴァンニャの父もいた。競技は凄絶なものだったが、ムットゥは不思議な力に守られて勝利を収め、チャンドラマウリをも救う。王と観衆は彼を祝福し、奴隷の身分を解く。
 アニタはラヴィシェーカランと連絡を取り、岩窟を脱出する。裏切られたことを悟った王や民衆はムットゥを虐待するが、その時、最長老僧(アニタの仕業で昏睡状態だった)が現れ、ムットゥに権能を譲り渡して死ぬ。実はムットゥこそが、チョーラ王国を救うと信じられていた伝説の救世主だったのである。
 だが、時はすでに遅く、岩窟前にはインドの軍勢が控えていた。ここに再びチョーラ人とパーンディヤ人の戦いが始まるが、チョーラ側が敗北し、王やムットゥらは捕虜となる。
 その夜、キャンプ地は無秩序状態となり、チョーラの女たちはインド兵士にレイプされ、抵抗した王も殺される。ムットゥは王子を救い出し、暗闇に乗じて逃走する。
 
  *    *    *    *

 予想以上に凄まじい映画だった。
 面白いと言えば面白いし、よう分からんと言えばよう分からん。とにかく、インド映画では滅多にお目にかかれないイメージの連続に、唖然となるような作品だった。セルワラーガヴァン監督の【7G Rainbow Colony】と【Aadavari Matalaku Ardhale Verule】は地に足の着いたラブストーリーだっただけに、ずいぶんと飛躍したものだ。
 ただ、監督が本作に注ぎ込んだエネルギー、及び、彼のダイナミックな想像力にはひと通りの敬意を払いたいが、それでも私はこの作品を傑作とは呼びたくない。映画全体の荒唐無稽なイメージに押されてしまい、鑑賞後に爽快感が来ないのである。

 ファンタジー・アドベンチャーとして、「インディ・ジョーンズ」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズみたいなことをインド映画でやりたかったのかな、とも思えるが、雰囲気はもっとグロテスクで重々しい。
 歴史的に、確かに中世インドにおいてチョーラ朝とパーンディヤ朝はライバル関係にあり、1279年にパーンディヤ軍がチョーラ朝を滅ぼしたというのは事実だが、映画中のエピソードやネタはほぼすべてセルワラーガヴァンのファンタジーらしい。この辺、もう少し歴史的バックグラウンドを丹念についてくれれば、うるさい批評家も納得させられたのではないか。監督の想像物が根無し草的で、上滑りしている部分も多かったように思う。

 映画全体から受けるややこしい印象とは裏腹に、後で振り返ってみると、ストーリーは意外にシンプルであることが分かった。
 セルワラーガヴァンが何を言いたかったのかははっきりとは分からないが、たぶん、人類と文明の在り方について問うてみたかったのじゃないだろうか。
 本作で圧倒的に力を入れて描かれているのは、やはり亡命チョーラ王朝の人々の様子だ。彼らは孤島の隔絶した場所に外部との交渉をほぼ絶った形で生活していたため、別個の進化をたどり、所謂現代文明というものを知らない。限られた乏しい生活資源を共有するために独特の社会制度が生まれ、また、濃密な宗教感情を持ち、近代科学の代わりに黒魔術が高度に発達している。
 そんな彼らの様子は野蛮で汚らしいものと見え、たぶん、本土に暮らす「現代インド人」は「ああ、私たちの文明がいかに平和で洗練されていることか!」と胸をなでおろすだろう。だが、映画を観ているうちに、そのチョーラ人も元を糺せば自分たちと同じインド人であり、それなら、自分たちの文明も今後どんな風に進化していくか分からない、という不安を抱くようになる。そしてクライマックスで、本土インド人の兵士たちがチョーラ人を虐待している様子を見て、実は野蛮だと思えた彼らが却って自分たちよりも高貴であることに気付き、進化だと思い込んでいた我々の文明とは一体何だったのか、と疑問を感じるところで映画が終わる。

 この手の新趣向の映画にはありがちなことだが、やはり本作も外国映画から借りている部分は多いようだ。
 レビューにはいろいろ言及されているが、戦闘シーンや殺人競技のシーンは【300】や【Gladiator】、大型客船でヴェトナムに移動するシーンの1場面は【タイタニック】、戦争の狂気というイメージは【地獄の黙示録】や【プラトーン】、滅び行く人々に高貴な英雄性を見出すというコンセプトは【ラストサムライ】、等々が思い浮かぶ。(意外とセルワラーガヴァンは【千と千尋の神隠し】なんかも観ているかもしれない。)
 題名の「Aayirathil Oruvan」は「千の中の一人」という意味らしいが、同名のタミル映画に1965年制作でMGR主演のものがある。もちろんリメイクということではないが、主要登場人物のムットゥ(Karthi)は極度のMGRファンとして描かれている。(参考に、マラヤーラム映画にも【Aayirathil Oruvan】という作品があるようだ。)

◆ パフォーマンス面
 真っ先にコメントしなければならないのは、やはりあちこちで話題となっているリーマー・セーンだろう。考古学者にしてパーンディヤ王家の末裔、銃も撃てば魔術も使うというアニタ役を、なるほどしっかり演じていた。ただ、この人が善玉か悪玉か分からないところに、本作がもう一つスカッとしない原因があるのかなと、映画に単純さを求める私などは思った。

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 話題をさらった理由は、激しいキャラクターを体当たりで演じたのが良かったのだが、セクシャルにきわどいシーンも多く、特に「放尿」シーンには驚いた。
 何はともあれ、このところとんと姿を見かけなかったリーマー・セーンで、もはや「要りーませ〜ん」かなとも思っていたが、本作で大復活を遂げたに違いない。
 (写真下:「戦う女」というのが、今の南インド映画のトレンドなのか?)

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 ムットゥ役のカールティは、あまり期待していなかったのだが、期待したぐらいのパフォーマンスはしていた。ただ、上のアニタもそうだったが、このムットゥのキャラクターも明快ではなく、映画終盤になってやっと「お前がヒーローやったんかい!」と気付く始末(私の頭が鈍いのか、脚本が悪いのか)。

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 このカールティも、プリヤーマニの出世作【Paruthiveeran】(07)以来出演作がなかったので、今ごろスーリヤのマネージャーでもやっているのだろうと思っていたら、俳優として本格活動を始めたらしい。主演作が2本ほど待機しており、うち1本はタマンナーとの共演ということで、、、、ああ、嘆かわしい(珠ちゃんも、この業界で末永くやりたかったら、作品と相手役を選びなはれ)。

 古チョーラ朝の末裔王を演じたパールティバンは良かった。リーマー・セーンと共に、本作の見どころだろう。

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 もう一人のヒロイン、ラーヴァンニャ役のアンドレアも、普通な感じだが、なかなか色っぽかった。
 彼女は、女優というより歌手らしく、本作にはプレイバック・シンガーとしても参加している。撮影中、セルワラーガヴァン監督と「何か」あったらしく、それが原因でセルワラーガヴァンとソニアが離婚に至った、という風評もある。

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◆ テクニカル面
 撮影はOK。
 グラフィックスは良かったり悪かったりだが、インド映画では平均的な水準だろう。
 スタントは良かったと思う。
 音楽はG・V・プラカーシュの担当。映画を観ている間は、映像の迫力で耳がお留守になっていたが、実はかなり野心的な曲を揃えていたと思う。A・R・ラフマーンの甥っ子、いよいよ本領発揮か!?

◆ 結語
 本作は、カルト・フィルムとまでは行かないにせよ、インドではかなり新奇な部類に入る作品だ。必見!と言えないのが残念だが、怖いもの見たさで、ご覧になってもいいのでは。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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