カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Ye Maaya Chesave】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2010/03/09 02:20   >>

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 さて、今回紹介する【Ye Maaya Chesave】は、前回紹介したガウタム・メーナン監督のタミル映画【Vinnaithaandi Varuvaayaa】のテルグ語版・同時制作作品である。裏方陣はほぼ同じだが、主要キャストは総入れ替えとなっている。
 特記すべきは、タミル版【Vinnaithaandi Varuvaayaa】とテルグ版【Ye Maaya Chesave】では、クライマックスまでストーリーはほぼ同じなのに、エンディングが正反対、すなわち、前者では主役ペアのカールティクとジェシーは結ばれないのに、後者では結ばれる、ということである。時を隔てて作られたリメイク映画が結末を大きく変えているとか、【Sholay】(75)のように特定の理由があって別バージョンのクライマックスが作られた例はあるのだが、このような同時制作・同日公開の2作品が正反対の結末を持つというのは極めて珍しいのではないだろうか。
 実はかなり早くから、ガウタム監督は新作のクライマックスを2バージョン撮ったというニュースが流れ、もしや監督は1つのバージョンを公開してウケなかったら別バージョンに差し替えるのでは?との憶測もあった(これについては監督自身が、私はそんなセコいことはしない、と否定している)。
 ただ、私としては、「結末を2つ用意するのはズルいなぁ」と、すっきりしないものを感じたので、監督の意図を確かめるべく、わざわざテルグ版も観ておくことにした。
 で、鑑賞した結果、監督はセコい意図を持っていたわけではなさそうだということが分かった。タミル映画とテルグ映画のトレンドをよく読んでおり、しかも両者は背中合わせの関係で作られており、もし両方とも観たなら、よりよく監督の考えが理解できるという仕掛けになっているのである。企画の初期の段階から2バージョンを作るつもりだったのか、どちらか一方は後で思い付いたものなのかは分からないが、いずれにせよ、計算ずくものであるのは確かなようだ。ちなみに、CBFCの検閲には両バージョンとも通しているとのこと。
 「Ye Maaya Chesave」は「どんな魔術を使った?」という意味。

【Ye Maaya Chesave】 (2010 : Telugu)
物語・脚本・監督 : Gautham Vasudev Menon
台詞 : Umargee Anuradha
出演 : Naga Chaitanya, Samantha Ruth Prabhu, Krishnudu, Devan, Sanjay Swaroop, Surekha Vani, Silambarasan, Trisha, Puri Jagannadh
音楽 : A.R. Rahman
撮影 : Manoj Paramahamsa
美術 : Rajeevan
編集 : Anthony
制作 : Sanjay Swaroop, Manjula Ghattamaneni

 上で触れたとおり、テルグ語版ではカールティクとジェシーが結ばれるという結末以外、ストーリーはタミル語版と同じなので、あらすじは省くとして、異同をメモ代わりに書いておく。

 ・カールティクとジェシーの主役ペアは、それぞれナーガ・チャイタニヤとサマンタ(Samantha Ruth Prabhu)というデビューほやほやのお若い二人が演じていたが、シンブとトリシャというすでに確立したスターを起用したタミル版とのコントラストは注目すべきである。ちなみに、シンブとトリシャはこのテルグ版でも劇中劇の中でカールティクとジェシーを演じている。
 ・しかし、テルグ版のトリシャは劇中劇のヒロイン役女優としてちらっと出てきただけなのに対し、サマンタはタミル版ではもう少し意味のある役柄として使われている。これはもしかしたら重要な差異かもしれない。
 ・カールティクの友人役として、タミル版では撮影カメラマンという設定でプロデューサーのガネーシュが実名で出ていたが、テルグ版ではクリシュヌドゥが彼自身(つまり、【Vinayakudu】で主役をやったテルグ俳優)として出ている。
 ・カールティクが加わる撮影チームの監督は、タミル版ではK・S・ラヴィクマールだが、テルグ版ではプーリ・ジャガンナート。どっちも個性的なツラ構えだった。
 ・重要な役どころ、ジェシーの父は、タミル版ではバブ・アントニー、テルグ版ではやはりマラヤーラム俳優のデーヴァンが演じている。面白いことに、この二人もそれぞれ別バージョンの劇中劇の中でジェシーの父親役としてちらっと登場している。
 ・ついでに、カールティクがジェシーの父と初めて会い、お愛想の質問をする場面は、タミル版では「身長はいくらですか?」、「6フィート3インチだ」、「あはっ」、テルグ版では「失礼ですが、マラヤーラム映画に出ていませんでしたか?」、「いや、私は弁護士だ。なんで?」、「いえ、ハンサムだから」だった。
 ・ドラマの主な舞台はタミル版ではチェンナイ、テルグ版ではハイダラーバードだが、ケーララの場面はどちらもアレッピー。ただし、撮影に使われた教会は違っているようだ。
 ・なぜだか分からないが、細かい設定の違いがあり、タミル版ではジェシーはカールティクより1歳年上だったが、テルグ版では2歳年上だった。もっと細かい違いを言えば、ジェシーの勤める会社はタミル版は「Polaris」、テルグ版は「Wipro」だった。さらに細かい差異は、、、、やめとこ。

 最も大きな違いは、クライマックスの音楽シーンを挟んだ2場面(アメリカでのカールティクとジェシーの会話と、カールティクが撮った映画‘Jessie’の上映会後のエピソード)なのだが、これについてはここでは具体的に書かない。ただ、ひと言だけ言っておくと、本作(テルグ語版)のほうがストレートな感じで受け入れやすく、テルグの若者映画のトレンドにも合致しており、概ね好評なのに対し、アンハッピーエンドのタミル語版のほうはやはり賛否両論あるようだ。
 使用言語はタミル語/テルグ語にマラヤーラム語が少し混ざるものだが、セリフに英語が混ざる頻度がテルグ版のほうが多い。これも注目すべき点だろう。

 さて、物語の結末=作者の結論(=主張)だと思っていた私は、裏表2結末を用意したガウタム監督は二枚舌的でズルいかなとも思ったが、そうではなく、結局監督が見せたかったのは、誰でも人を愛することができ、そのために傷付いたり歓喜したりするのは自然なことだ、ぐらいなことで、なにせ恋愛のこと、クリケットの試合みたいに勝つときもあれば負けるときもあり、結果よりもタラタラとしたその過程で何を経験し、どう成長していくかが大切だ、みたいな当たり前のことを、それがあまり当たり前じゃないインドにおいて、当たり前のように語ったのがこの裏表2作品だったのかな、と思う。(それに、タミル版もアンハッピーエンドだといっても、悲劇的結末ではなく、ポジティブなトーンで終わっている。)
 参考に書いておくと、この作品はガウタム・メノン監督自身の体験が色濃く反映されているらしく、実際に監督は助監督時代にケーララのシリアン・クリスチャンの女性と結婚している。

◆ パフォーマンス面
 タミル版のシンブとトリシャが、それまでの自分の固定したイメージと格闘するかのごとく緊張した演技を見せていたのに対し、本作のナーガ・チャイタニヤとサマンタは、まさに新人のみが見せるひたむきな演技で、これまた熱演だった。
 【Josh】(09)でまずまずのデビューをしたものの、家柄から言って「まずまず」では物足りないナーガ・チャイタニヤは、本作でもまだまだ未熟なものを感じた。しかし、合格点には達しているだろう。端正なハンサムというよりは個性的な風貌で、猿のように見えるときもあるのだが、時おり物凄くカッコよく見える場面もあり、このムラが消せれば良いスターになるのではないか。
 (写真下:ひとまず健闘したと言えるNaga Chaitanya。それにしても、こういうポーズがキザに決まるのはアッキネーニ家のDNAか?)

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 さてさて、何と言っても凄かったのはヒロインのサマンタなのだが、タミル版のトリシャ同様、ヒーローをすっかり喰う輝きだった。これがデビュー作になったはずだが、とてもそうとは思えない鮮烈な演技だ。
 超美人というわけではなく、フェロモン放出のセクシー・タイプでもないのに、私が彼女に魅力を感じたのは、たぶん彼女の発するほんのりとした「母性」のせいだと思う。今風の衣装を着たカジュアルな女神様を感じてしまった。
 テルグ人はサマンタにカマリニー・ムカルジーの面影を見出す人が多く、私も同じ印象を受けた。カマリニーの元気な妹という感じなのだが、なかなかドラマになる顔だ。
 テルグ人の父とケーララ人の母とのハーフ(?)なのだが、育ちはチェンナイと、まさに南インド映画界にうってつけの人材だ。幸い、良質なオファーが続いているようで、これからも楽しみな女優だ。

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 ところで、本作のサマンタの吹き替えはプレイバック歌手のChinmayiがやっているのだが、これがまた見事なのである。で、もしやと思って調べてみたら、やはりタミル版のトリシャも彼女が吹き替えていることが分かった。
 ということは、チンマイはタミル語とテルグ語とマラヤーラム語(それに英語)を流暢に操っていたことになるが、この辺のインド人の言語センスには毎度驚かされる。
 最優秀ダビング賞を差し上げたい。

 もう一人、Nalini Sriramの担当したトリシャとサマンタの衣装も可愛らしく、彼女にもベスト衣装賞を差し上げたい。

◆ 結語
 タミル版【Vinnaithaandi Varuvaayaa】とテルグ版【Ye Maaya Chesave】とで、どちらを観たらいいかと聞かれたら、すんなりと感動できるテルグ版のほうをまずは推しておく。ただ、タミル版のトリシャの悲痛な表情もこれまた捨て難いのである。結局、両方とも観るべし、というのが私の結論だが、これに対する文句・苦情は、こういうややこしい2作を作ってしまったガウタム監督宛てにどうぞ。

・満足度 : 3.5 / 5

¶参考
【Vinnaithaandi Varuvaayaa】
http://cauvery-south-cine.at.webry.info/201003/article_1.html
 

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
チャイタニヤ親子が監督にストーリーの改変を要求したという話もありますね。その改変が本質的なものだったかどうかは分かりませんが。
http://movies.rediff.com/slide-show/2010/feb/23/slide-show-1-south-naga-chaitanya-on-ye-maya-chesaave.htm

いずれにしろ、いつの日か両作を比べ見するのが楽しみです。
Periplo
2010/03/09 12:13
クライマックス以外、ストーリーにはほとんど差はなく、あってもナグさんまで出て来て改変を要求するような次元のものじゃないと思います。
とすると、クライマックスかなぁ、ということになりますが、チャイ太を起用することが決まった時点で、「デビュー2作目の息子を振られ役にするのだけはやめてね」ぐらいのプレッシャーはナグ・パパからガウタム監督にあったかもしれませんね。
 
カーヴェリ
2010/03/09 22:49
こんにちは。そういえば同じ監督の「Kaaka Kaaka」のDVDにもエンディングが2種類入っていました。途中で切り替えて見られるようになっていたような気がします。どういう意図かよくわかりませんが。
totohiro
2010/03/25 21:17
totohiroさま

ブログ訪問とコメント、ありがとうございます。

>そういえば同じ監督の「Kaaka Kaaka」のDVDにもエンディングが2種類入っていました。

ええっー、それはまったく知りませんでした。
DVDはAyngaran版ですか?
私のはMoser Baerのものなんですが、なかったと思います(気付いてないだけかも)。
そうなると、ちょっと気にかかるなぁ、、、。
 
カーヴェリ
2010/03/26 10:23
そうです。Ayngaran版です。確認したら2枚組でメーキングやインタビュー(ジョーティカの肉声が聴ける)が入っているという豪華版でした。しかも本編は監督のオーディオコメンタリー付き!英語ですが聞き取れないので内容は分かりません・・・
で、通常の本編を見ているとラスト近くでサインが出るので、しかるべく操作をするとコメンタリー付きトラックに切り替わって別エンディングが見れるというわけです。監督が意図を説明してくれていますが、英語力不足で聞き取れません・・・
totohiro
2010/03/27 15:43
げげっ! そんな豪華版があったんですね。
Moser Baer版は何もないです。(たった49ルピーなので、仕方ないか。)

【Vaaranam Aayiram】も、映画公開後に編集しなおした、と監督は言っていたので、Ayngaranでは2ヴァージョン入ってるかもしれませんね。
 
カーヴェリ
2010/03/28 10:54

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