カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Sugreeva】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2010/03/17 02:00   >>

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 シヴァラージクマール主演のカンナダ映画。
 異色作ということになり、公開前から何かと話題になっていた。
 まず、この作品はリメイクで、元ネタはハリウッド映画の【John Q】(02)。
 次に、本作は18時間という短時間で撮影を上げており、こちらのほうが話題の中心だった。何か物理的制約があって18時間の撮影期間しか取れなかったわけではなく、はっきりとギネスブック登録を狙い、映画1本を10組の監督とカメラマンのペアで撮るという、計画的な試みであった。企画・総指揮に当たったのはPrashanth Mampullyという、なぜかマラヤラム映画界の監督なのだが、彼はモハンラル主演の【Bhagavan】(09)という作品を19時間で撮り上げており、もしかしたらこういう趣向が好きな人なのかもしれない。

 ところで、シヴァラージクマールといえば、前作の【Devaru Kotta Thangi】(09)評の中で、弟のプニートが快進撃を続けている中、お兄ちゃんのほうは興行的に振るわないという趣旨のことを書いておいたが、その【Devaru Kotta Thangi】もプロップに沈み、監督のオーム・サイプラカシュが自殺未遂を図るという不幸が起きた(こちらの記事)。幸いサイプラカシュ監督は助かり、シヴァラージクマールだけでなく、スディープやダルシャンのようなスター俳優たちからも監督のためにひと肌脱ぐというエールが送られ、状況は好転しそうである。それにしても、サイプラカシュほどのベテラン監督でさえこんな苦労を強いられるとは、カンナダ映画産業の現況は本当に厳しそうである。

 なにはともあれ、皆さま、‘Happy Ugadi’でございます。

【Sugreeva】 (2010 : Kannada)
脚本 : Pramod Chakravarthy
監督 : Prashanth Mampully(企画・総監督)
出演 : Shivarajkumar, Yagna Shetty, Master Chiranjeevi, Achyuth Kumar, Prakash Heggodu, Ashwath Neenasam, Dilip Raj, Manju Bashini,
Harish Raj, Harshika Poonachcha, Sangeetha, R.G. Vijayasarathy, Kote Prabhakar, Raju Thalikote, Anita, Spoorthi, Guru Kiran
音楽 : Guru Kiran
撮影 : 10人の撮影監督
制作 : Anaji Nagraj

《あらすじ》
 平凡な自動車修理工のスグリーヴァ(Shivarajkumar)には妻のプージャ(Yagna Shetty)と9歳になる息子のキラン(Master Chiranjeevi)がいた。ダンス好きのスグリーヴァは余暇には近所の子供たちにダンスを教え、また息子にはダンサーになってほしいという夢を持っていた。
 キランはテレビ番組のダンス・コンテストに出場することになる。スグリーヴァとプージャが見守る中、キランは見事に踊るが、途中で倒れてしまい、病院に運ばれる。診察の結果、キランは心臓に深刻な疾患があることが分かり、集中治療室に入れられる。医師の診断では、心臓移植手術しか子供を救う方法はなく、治療費には300万ルピーかかるとのことだった。
 日々の生活さえやっとのスグリーヴァにとって、そんな大金はとうてい用意できるものではなかった。彼は社長(Achyuth Kumar)や友人から金を借り、貴金属も売り払うが、目標額には遠く及ばなかった。病院側は入金がなければキランを退院させるしかないと告げる。だが、キランの病状は猶予を許さないものとなり、追い詰められたスグリーヴァは、たまたま手に入れた拳銃をかざし、医師と看護師、その場にいた患者らを人質にとり、病院のロビーを施錠して立てこもる。
 病院はたちまちに警察と報道陣と野次馬に取り囲まれる。スグリーヴァはトランシーバーで警察と話し、人質解放と引き換えに、息子の速やかな手術を要求する。
 関係者の証言と状況証拠から、スグリーヴァがテロリストやマフィアではなく、息子を愛する父親の暴挙だと判断した警察本部長は、心臓外科の専門医を連れてプージャに会い、キランの手術を約束する。プージャから無線で連絡を受けたスグリーヴァは安堵する。だが、それに先立って、現場で指揮を取っていた警官(Ashwath Neenasam)が独断で狙撃隊を院内に送り込んでいたが、まさにこの時、その一人がスグリーヴァに向けて銃を撃つ。弾は腕をかすめただけだったが、これでスグリーヴァの態度は硬化し、警察本部長の解決策は崩れ去る。
 しかし、そうしているうちにキランの容態がいよいよ深刻なものとなる。スグリーヴァは自分が自殺するから、その心臓を使ってくれと申し出、手紙を書く。だが、ちょうどその時、同じ病院にいた別の子供が死亡し、両親はその心臓を移植に使ってくれるよう医師に伝える。検査の結果、拒絶反応もなく、キランの手術が決定する。プージャは無線でそのことをスグリーヴァに伝えようとするが、彼はまさに自分に向けた拳銃の引き金を引くところだった、、、。

   *    *    *    *

 ハリウッド映画の【John Q】は観ていないのだが、あらすじ等を読む限り、このカンナダ映画版もストーリー的にはオリジナルとほぼ同じであるようだ。ただ、【John Q】の場合、アメリカのような高度に社会制度が整った国でさえ、雇用制度、医療制度、保険制度にアナがあり、それでこういう事件も起こり得るという皮肉な面白さがあったようだが、それがインドを舞台にすると、そもそも大きな社会格差があり(これはアメリカにもあるのだが)、社会制度そのものが未整備だったり、または制度はちゃんとあっても市民全体には十分行き渡っていないという現実があったりして、それで「貧乏人は病気になっちゃいかんのか!」という単刀直入で悲痛な訴えに変わっていた。
 映画の中では、事実と合致しているかどうか知らないが、国公立の病院には心臓移植手術をやる条件が整っておらず、勢い医療費のかさむ私立病院頼みとなり、また、低所得者のスグリーヴァ(Shivarajkumar)は医療保険に加入していなかった、という設定になっていた。インドにも保険はちゃんとあるのだが、市民の側にそれに対する意識が低いのか、スグリーヴァ家のように未加入の人も多いのだろう。それで、面白いことに、映画の途中休憩のときに「保険に入りましょう」という保険会社の広告が流された。(もしかしたら、これが本作の最大のメッセージだったかもしれない。)

 オリジナルでは、最後は裁判のシーンになっていて、事件を惹き起こした主人公に対しても一定の理解が示されるという結末だったようだが、カンナダ版ではそんな展開はなく、スグリーヴァが逮捕されるところで終わる。
 面白いのは、アメリカ版では主人公の息子は野球少年で、野球の試合中に倒れるという設定だが、カンナダ版はダンス少年だった。別にこれは「クリケット少年」と単純に置き換えてもよかったはずだが、「ダンス少年」とすれば、シヴァラージクマールがダンスを見せるシーンを2つぐらい稼げるので、こちらが選択されたのだろう。(ちなみに、ダンス・コンテストのシーンにはグル・キランが審査員役で出ていたが、相変わらずボサボサの髪が暑苦しげだった。)

◆ パフォーマンス面
 シヴァラージクマールはOK。本作のスグリーヴァのように、まったく善人なのだが、直情的で、カッとなったらとんでもないことをしでかしてしまう大馬鹿者を演じさせれば、彼は本当に上手い。(というか、そういう役しかできそうにない。)
 平凡な自動車修理工の割には拳銃の持ち方が妙に決まっていたのが気がかりだった。

 ヒロインというのはいなかったのだが、プージャ役のYagna Shettyは印象的だった。
 ヒロイン女優としてブレイクするかどうか、とか言っているうちに若妻女優になってしまった彼女だが、芝居は上手いので、こういう役柄で地味に使われていくだろう。
 (写真下:真ん中にShivarajkumar、右にYagna Shetty。)

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 脇役陣では、特に声を大にして褒め上げる人もいなかったのだが、警察本部長役の俳優(名前が分からない)が印象に残った。
 コメディー俳優役としてコメディアンのRaju Thalikoteが出ていたが、やはりこの人は腕がいい。

◆ テクニカル面
 上で触れたとおり、本作はわずか18時間で撮影されたものだが、もう少し詳しく書いておくと、主な撮影場所は病院、主人公の自宅、自動車修理工場、テレビスタジオの4箇所で、全66シーン、それを10組の監督とカメラマンで分担して撮影したもの(ちなみに、映画全体の上映時間は2時間10分と短めのもの)。監督もカメラマンもカンナダ映画界では名の通った人たちで、中には監督ではN. Omprakash RaoやP. Sathya、カメラマンではSathya HegdeやShekhar Chandruなど、エース級の人も見られる。
 映画本編の冒頭とエンディングにそれぞれ数分程度で制作シーンが流され、それによると、昨年の9月に入念な打ち合わせが行われ、10月10日に現場でのリハーサル、そして翌11日の午前6時に撮影がスタート、午後11時55分に終了したということだ。
 しかし、こうして世界記録突破を目標に頑張ったものの、ギネスブックの更新にはならなかったらしい。現在の世界記録は1999年制作のタミル映画【Suyamvaram】で(ほんまかいな?)、23時間らしい。なら、18時間の本作のほうが勝っているはずなのだが、どうもギネスのこの記録は撮影開始から公開までの最速記録のようで、公開までに時間がかかった【Sugreeva】が負けということになったらしい。
 記録狙いという意図があったにせよ、こんなふうに速撮りすることに何か意義があるのかなと考えるに、特に何もないだろう。いたずらに長引かせるのは問題だが、撮影にはしっかり時間をかけて、良質のものを見せてほしいというのが私の願いだ。参考に書いておくと、映画のところどころには雑な部分があったものの、これはカンナダ映画の標準値程度のものなので、特に速撮りの悪影響というのはなかったようだ。

◆ 結語
 オリジナルでないのが残念だが、まずまずよくできた作品だった。シヴァラージクマール主演で、この程度まで面白く作られていたら、ヒットは堅いのだが、今は【Aaptha Rakshaka】が一人勝ちしている状況で、興行的に苦戦しているらしい。しかし、もちろん故人(ヴィシュヌヴァルダン)に対する愛惜は大切だが、これ以上自殺未遂者を出さないためにも、一人でも多くのカンナダ人に本作を鑑賞してもらいたい。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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