カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Prithvi】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2010/05/06 01:52   >>

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 ジェイコブ・ヴァルギース監督のカンナダ映画。
 ジェイコブ・ヴァルギースといえば、短編映画で国家映画賞も受賞したことのある監督だが、去年【Savari】で長編商業映画デビューを果たし、ヒットさせた。とは言っても、【Savari】はテルグ映画【Gamyam】(08)の忠実なリメイクだったため、ヴァルギース監督の能力そのものには未知の部分が残った。しかし、この【Prithvi】は自らストーリーと脚本を書いたオリジナルということで、今度こそ彼の真価が明らかになるだろう。幸い、主役には【Milana】(07)のヒット・ペア、プニート・ラージクマールとパールヴァティ・メノンを据えることができ、成功の確率はぐんと高くなっている。

【Prithvi】 (2010 : Kannada)
物語・脚本・監督 : Jacob Varghese
出演 : Puneeth Rajkumar, Parvathi Menon, Avinash, C.R. Simha, John Kokken, Srinivasa Murthy, Achyuth Kumar, Satyapriya, Ramesh Bhat, Padmaja Rao, Sadhu Kokila, その他
音楽 : Manikanth Kadri
撮影 : Sathyaraj
編集 : T.E. Kishore
制作 : Soorappa Babu, N.S. Rajakumar

《あらすじ》
 公務員志望のプリトヴィ(Puneeth)は、念願かなってインド行政官試験に合格。父(Srinivasa Murthy)は大喜びし、公僕として誠実に職務を果たすよう諭す。任地に派遣される前に、プリトヴィは幼馴染みのプリヤ(Parvathi Menon)と結婚する。
 プリトヴィは地区長官としてバッラーリ県に赴任する。バッラーリは鉱業の盛んな地域だったが、採掘業者の不正行為が野放しの状態だった。彼らは政治家と癒着し、マスコミをも抱き込んでいたため、問題の実態が十分に報道されることもなかった。
 着任早々、プリトヴィの前に有力採掘業者たちがご機嫌伺いにやって来る。その中の一つ、代議士のナーラシムハ(Avinash)とその弟ナーゲンドラ(John Kokken)が所有するイーシュワリ鉱業社が操業許可の更新を求めてやって来るが、プリトヴィは「検討した上で署名する」と言って、申請書類を保留扱いにする。
 プリトヴィは部下のシャーラッパ(Achyuth Kumar)や警官のスーリヤッパと共にバッラーリの町や採掘現場を視察して回る。その結果、町の住民は採掘による大気汚染と水質汚染でひどく健康を脅かされ、労働者たちは劣悪な環境の下で働かされ、にもかかわらず企業も行政も手を打っていないという事実を知る。プリトヴィはイーシュワリ鉱業社の操業申請を却下する。
 この措置はナーラシムハとナーゲンドラを怒らせる。彼らはプリトヴィを懐柔しようと巨額の賄賂を準備するが、無視されたため、脅迫行為を始める。また、ナーゲンドラは労働者のデモを扇動し、プリトヴィの立場を危うくする。
 プリトヴィは、ナーラシムハと結託している内務大臣(C.R. Simha)に呼び出され、イーシュワリ鉱業社の操業再開を認めるよう迫られる。だが彼は、ミネラルウォーターとバッラーリの水を別々のコップに入れ、「あなたならどちらを飲むか?」と逆に大臣に詰め寄る。
 プリトヴィは地元のジャーナリスト、バサワラージュと知り合い、彼からイーシュワリ鉱業社が違法採掘を続けていた事実を知らされる。その証拠は公務員のカーンタラージュという男が握っていたが、彼はナーゲンドラらの脅迫を恐れて、しばらく前から姿を隠していた。バサワラージュはカーンタラージュとなんとか連絡を取り、揃ってプリトヴィと会い、証拠の書類を手渡す。
 だが、その直後にバサワラージュとカーンタラージュがナーゲンドラに誘拐される。バサワラージュは殺害され、その首がプリトヴィの家に届けられる。ナーゲンドラは証拠の書類を手渡すようプリトヴィを威嚇する。
 妊娠していたプリトヴィの妻プリヤは、度重なる脅迫に耐えかね、実家に戻る決意をする。プリトヴィは妻を駅まで送り届けるが、その帰りにナーゲンドラとその一味に襲撃される。ナーゲンドラはプリトヴィが死んだと確信する。
 しかし、プリトヴィは一命を取り留める。彼は警官のスーリヤッパに命じて、証拠の書類と引き換えに人質のカーンタラージュを返すようナーゲンドラと交渉させる。はたしてナーゲンドラは指定された場所に現れるが、そこに現れたのは死んだはずのプリトヴィだった、、、。

   *    *    *    *

 カンナダ映画には珍しく、緊張感のある硬質の社会派娯楽作品だった。
 あらすじで触れたとおり、物語の舞台となったバッラーリ(Bellary)という地は、鉄やマグネシウム、アスベストやグラナイトなど、地下資源が豊富に採れる所で、荒っぽく稼げる地として、採掘業者と政治家・役人の利権がらみの癒着が慢性化し、環境汚染と共に、その問題性が現地の新聞やニュース番組でもしばしば報道されている。
 ストーリーを書くに当たって、ヴァルギース監督は丹念に事実調査をしたらしい。しかも、こういうローカルな社会ネタを扱った作品の場合、特定の政治家等を名指しで攻撃するようなものなので、制作の妨害を防ぐために、内容は映画公開前まで一切秘密にされ、撮影も実際のバッラーリではなく、AP州のウィシャカパトナムで行われたらしい。
 そして公開後は、バッラーリ問題に関与しているのがBJPの政治家・大臣ということで、敵対するデウェ・ゴォダ元インド首相が本作品を観て大喜びをし、早速BJP批判を展開したり、息子のクマーラスワミ元カルナータカ州首相が本作品の制作に資金援助したのではないかとの噂が流れたりと、単なる娯楽映画の域を超えた騒ぎも起きている。(ちなみに、本作はバッラーリでは上映禁止になっているらしい。)
 こうした政争はさておき、地方の問題をリアルに取り上げるというのが地方映画の攻めどころの一つであるので、バッラーリの問題を恐れずに描いたヴァルギース監督の態度は高く評価したい。

 映画作品としては、ストーリー展開はシンプルで直線的、力強いがやや単調なところがあった。退屈に陥りそうなのを、ロマンスとコメディー、アクションと音楽シーンが適宜リリーフしていた。バランスはいいが、上手すぎるというか、「教科書どおり」といった生硬さを感じないでもなかった。
 本作のユニークな点は、上述したように現実の社会問題を告発するドラマでありながら、娯楽的要素を忘れていないところだ。ただし、このことを、娯楽映画のフォーミュラで社会派ドラマを作ったと評価すべきか、社会派ドラマに娯楽的要素をくっ付けただけの折衷映画と見るべきかは、評価が分かれるところだろう。シリアス度が増した分、娯楽作品としてはスカッとした面白さに欠ける嫌いがあるが、しかし、幼稚と言われるカンナダ映画の進むべき一例を示したという点で、十分評価できると思う。
 ついでに書いておくと、本作はオリジナル作品ではあるが、作品の持つ硬くて熱いイメージやドラマ構成などからすると、ガウタム・メノン監督のタミル映画【Kaakha Kaakha】(03)をずいぶん参考にしたのでは、と思われる。

◆ 演技者たち
 第一に評価すべきはプニートのパフォーマンスだ。
 これまでは貧乏であれお金持ちであれ‘happy-go-lucky’な若者を演じていたプニートだが、主演14作目にして初めてお役人の役。プニート自身も「こんなカンナダ語しゃべったのは初めてで、緊張したぜ」と、ずいぶん演技には苦労したようだ。これまでのプニートとは一段違う質の演技の見せており、本格俳優として伸びていく出発点となったのではないだろうか。とにかく、今回ばかりは彼の怖い顔が幸いしたようだ。
 (写真下:顔の怖さではバッラーリの荒くれ者にも負けていないプニート。)

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 ヒロインのパールヴァティ・メノンは出番が少なすぎた上に、誰がやってもよさそうな役柄で、彼女には勿体なかった。しかし、演技的にはばっちりと仕事をしている。
 マラヤラム女優でありながら、カンナダ映画界での活躍が目立つパールヴァティだが、本作もラミャを抑えての起用らしい。これからも頑張ってほしい。

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 脇役はそれぞれ問題なかったが、悪役のナーゲンドラをやった人に強い印象を受けた。久々に南インド型の怖い悪役で、満足した。(しかも、ジョン・コカインという名前らしい。)

◆ 音楽・撮影・その他
 マニカーント・カドリの音楽は、【Savari】ほどフレッシュな印象は受けなかったが、なかなか良かった。やはりこの人は才能があると思う。
 日頃、カンナダ映画には悲観することの多い私だが、唯一救いだと思っているのは、ベテラン、若手とも、音楽監督に優秀な人材が揃っていることだ。このマニカーント・カドリも音楽面でカンナダ映画界をぐいぐい引っ張ってくれるであろう。
 カマル・ハーサンの娘、シュルティ・ハーサンが歌っている曲が1つあるらしいが、どれか分からなかった。

 撮影は良い。採掘地の埃っぽい様子がよく捉えられていた。
 音楽シーンの海外ロケ地は、ヨルダンのペトラ遺跡やトルコのエフェソス遺跡など、エキゾチックな場所が選ばれていた。

◆ 結語
 【Prithvi】はヴァルギース監督の能力の高さを示した社会派娯楽映画。カンナダ映画としては久々に登場した骨のある作品だ。
 デビュー以来の13作にフロップなしというプニートだが、彼の好演と相俟って、本作も100日越えは堅いだろう。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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