カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Kalavaani】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/07/29 21:41   >>

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 田舎を舞台にしたタミル映画というのは伝統的にコンスタントに作られてきたジャンルだが、ここ数年、ネオ・リアリズムと呼べるような作品群が現れ、一昨年、昨年とブームの頂点となっていた。その傾向は最近は落ち着いた感があり、しばらく目を引く作品が現れていなかったが、この【Kalavaani】は久々のヒット作となった。
 監督はやはり新人で、スター俳優不在の低予算作品。今回はマドゥライ近辺ではなく、タンジャーヴールから東へ数十キロほど離れた村が舞台となっている。
 公開前はそれほど話題になっていなかったようだが、公開後じわじわっと客を集め、スリーパー・ヒットとなった。その評判を受けて、バンガロールでもタミル・ナードゥ州より1ヶ月遅れで公開された。こういう田舎物の例として、私にとってはうれしいニューフェイスの「田んぼ美女」(オーヴィヤさん)も登場しており、躊躇せず観に行くことにした。
 題名の「Kalavaani」は「盗っ人」という意味らしい。

【Kalavaani】 (2010 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : A. Sarkunam
出演 : Vimal, Oviya, Thirumurugan, Ilavarasu, Saranya Ponvannan, Ganja Karuppu, Soori, Sujatha
音楽 : S.S. Kumaran
撮影 : Omprakash
編集 : Raja Mohamed
制作 : S. Nazir

《あらすじ》
 タミル・ナードゥ州東部、マンナルグディ近郊の農村に暮らすアリッキ(Vimal)は、学業などそこそこに遊び呆けている若者。彼は友人たちと昼間から酒を飲み、コソ泥をし、村の娘たちに色目を使う日々だった。父(Ilavarasu)はドゥバイに出稼ぎに出ており、家族の生活費、農作業、家の新築のための経費をせっせと仕送りしていたが、その大半はアリッキの遊興費に消えていた。母(Saranya Ponvannan)と妹はそんなアリッキを諌めもするが、金を出さないならテレビを壊すと脅迫する彼の前には、降参するしかなかった。彼はプラス2の試験にも合格していないくせに、父にはコンピューター・コースに通っているということにしていた。
 さて、アリッキはある日、隣村に住むマゲーシュ(Oviya)という娘と出会う。例によってちょっかいをかけ始めるアリッキだが、しかしすぐに、彼女に対する気持ちが真剣なものであることに気付く。マゲーシュも、村の平凡な娘として、当初はアリッキとの関係に戸惑うが、やがて彼の気持ちを受け入れる。
 ところで、マゲーシュはイランゴ(Thirumurugan)の妹であったが、これはアリッキにとってまずいことを意味した。というのも、アリッキの村とイランゴの村は昔から仲が悪く、この両人自身も何度か諍いを起こしていたからである。
 しかし、アリッキとマゲーシュが恋仲であることは、ほどなくイランゴにも知られてしまう。イランゴはすぐさま妹の結婚相手を用意し、式の手はずを整える、、、。

   *    *    *    *

 実にナイスな映画だった。
 ストーリーはもう書く必要がないと思われるほど単純でありきたりなもので、要するに仲の悪い二つ村の男と女が恋仲になって、女側の兄に強く反対されるものの、なんとか結婚にゴールインする、というだけのもの。登場人物の設定も特別なものはなく、まず南インドのどこの農村にもいそうな人々だ。しかし、この作品の面白さはストーリーより語り口にあり、また、フレッシュで活きの良い雰囲気は言葉では説明しにくく、鑑賞していてほぼ退屈に感じた瞬間はなかった。(私が上に書いたあらすじは、困ったことに映画の面白さをまったく反映していない。)

 思うに、タミルの娯楽映画では、面白さを追求する余り荒唐無稽な見世物が氾濫し、しかし、観客がそれらにも慣れっこになってしまって、退屈なものと感じている背景があるのだろう。本作のような、村では平凡とも言える出来事をカメラで切り取っただけの、「農村小話」とも呼べるような映画が、却って新鮮なものと感じられるとは、なんとも皮肉なことだ。

 タミルの田舎映画といえば、村落部の問題や何らかの社会的告発を含んだドラマが多く、痛々しい内容のものを思い浮かべるが、本作ではそういうことはなく、ユーモアと素朴なロマンスが中心となっている。しかも、強調されているのは若者の活力とお気楽さで、この点で本作は、【Paruthiveeran】(07)や【Subramaniyapuram】(08)の延長と言うより、【Chennai 600028】(07)の田舎版と言ったほうが適当だろう。

 強いメッセージ性はないのだが、内容としては、アリッキという田舎の放蕩者の成長記が軸となっている。アリッキは、エネルギーと頭のほとんどを無益なことにしか使わないというバカ者で、両親も手を焼いていたのだが、そんな彼にも次第に責任感が芽生え、あれよあれよと言う間に所帯を持ち、シンガポールへ出稼ぎに行って逆に両親を養うようになり、自分とそっくりの息子の父親となる。問題児も結局はいっぱしの大人(親)となるわけで、こんなふうにしてインドの農村社会は世代を受け継いでいくんだという、「テキトーに結果オーライ」な人生礼賛が本作の面白さの源なのかな、と思ったりもする。

 監督のサルグナムという人は新人で、先日紹介した【Madrasapattinam】のヴィジャイ監督の助手をやっていた人らしい。詳細は知らないのだが、本作での村と村人のリアルで繊細な描写を見る限り、やはり村落部出身の人なのだろうか?

◆ 演技者たち
 主人公アリッキを演じたヴィマルは【Pasanga】(09)でミーナクシの役をやっていた人。【Pasanga】で見たときは、この田舎顔の若者に次回作があるかどうかも覚束ないと思ったが、本作では格段にしっかりした演技をしている。似たようなタイプの俳優に【Chennai 600028】のジャイがいるのだが、ヴィマルの躍進に彼もうかうかしていられないだろう。

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 さて、ヒロイン、マゲーシュ役のオーヴィヤだが、期待どおりの劇ゾチック美少女だった。一見、普通の田舎娘にしか見えないのだが、ドラマの中ではギョロギョロした目が効いていて、ずいぶん魅力的だった。キャリアは浅いはずだが、演技的にも良い雰囲気を出している。田んぼ、畑、サボテン、牛との相性も良く、迷わず『田んぼの美女図鑑』にエントリーだ。

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 ところで、このオーヴィヤさんは実はHelenという名のケーララ人で、タミル映画ではデビューだが、過去にマラヤラム映画には出演している(私は【Apoorva】(08)しか把握していないが)。率直な性格と見えて、あるインタビューに答えて、「マラヤラム映画って、オジサン・オバサン俳優のためにデザインされてて、眠たい脚本で退屈だわ。それにあの人たちって、ちっとも若手を使おうって了見がないんだから」と、マラヤラム映画とモリウッドのことを批判している(こちらの記事)。これは、私は口が裂けても言うまいとしていたことなのだが、それをあっさり言ってのけるとは、天晴れと言うかなんと言うか、こういう若者が現れたとは、インド映画の未来も明るいというものだ。

 脇役陣では、アリッキの父親役のイラワラス、母親役のシャランニャ・ポンワンナンは共に良かった。特にシャランニャは、大雑把で楽天的な田舎女を実に愉快に演じていた。
 マゲーシュの兄イランゴをやっていたのはThirumuruganという人で、実は本作の助監督らしい。素人くさい演技だったが、見てくれはいかつくて役柄に合っていた。

 ガンジャ・カルップがコメディアンの役回りをしていた。そんなに笑えるものでもなかったが、いつもとは芸風を変えていて、ヴァディヴェールに近かった。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は、【Poo】(08)と同じS.S. Kumaranの担当。いわゆるダンスシーンというのはなく、この種の田舎リアリズム映画では常套となっている音楽シーンの挿入法が採られている。曲自体は良い。

 撮影は、田舎の風情を申し分なく捉えていて、本作の評価ポイントとなっている。

◆ 結語
 なかなか面白い。大雑把でテキトーで粗野なのに美しいという、田舎の美学を味わいたい方にお勧めしたい。

・満足度 : 3.5 / 5

 (現場レポート1:主役ペアが逢瀬に使っていたと見られる小屋。二人はここで一体何をしていたのか!?)

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 (現場レポート2:田んぼに忽然と現れた謎の文字「LC112」。一体誰が、いつ、どんな目的でこれを描いたのか!?)

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 (オマケ画像:3丁目の、もとい、タミル・ナードゥ州・字ど田舎の夕日は今日も美しかった。)

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