カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Baana Kaathadi】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/08/18 21:37   >>

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 往年のスター、監督、プロデューサーの2世3世のデビューが相次ぐインド映画界だが、また一人、タミル俳優であるムラリの息子、アダルヴァが本作で俳優デビューすることになった。ムラリはスーパースターというほどではなく、アダルヴァのデビューも鐘太鼓叩いての騒ぎにはなっていないのだが、私としてはちょっと注目したい訳があった。というのも、ムラリは実はカンナダ人で、その父S. Siddalingaiahはカンナダ映画界の往年の名監督で、例えばラージクマール主演の【Bangarada Manushya】(72)や【Doorada Betta】(73)などの名作を撮った人だからだ。その孫の映画界デビューとあって、挨拶がてら観ておこうと思った。
 ヒロインは、ガウタム・メノン監督のテルグ映画【Ye Maaya Chesave】(10)で大注目を集めたサマンタで、実は同作品のタミル語版【Vinnaithaandi Varuvaayaa】にもゲスト出演していたのだが、ヒロインとしてはタミル映画デビューということになる。こちらも話題となっていた。

【Baana Kaathadi】 (2010 : Tamil)
脚本・監督 : Badri Venkatesh
出演 : Atharva, Samantha, Prasanna, Karunas, T.P. Gajendran, Mounica, Manobala, Murali(カメオ出演)
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Richard Maria Nathan
編集 : Suresh Urs
制作 : T.G. Thyagarajan

《あらすじ》
 チェンナイ北部のスラム街に暮らすラメーシュ(Atharva)はプラス2の学生だが、学業はそっちのけで、情熱はすべて凧揚げに注いでいた。
 ラメーシュは、いつもの如く友人たちと凧を追っているときに、プリヤ(Samantha)とぶつかってしまい、彼女の落としたUSBメモリを知らずにポケットに入れてしまう。プリヤはファッション工学を学ぶ大学生だが、研究プロジェクトのデータを保存したUSBメモリをなくした廉で、教官からこっ酷く叱られる。彼女はなんとかラメーシュを探し出し、メモリを返してくれるよう要求するが、彼は何のことか分からない。
 しかし、後にラメーシュの母(Mounica)が洗濯物の中からメモリを見つけたので、彼はそれをプリヤに返し、謝罪する。これを機に二人は友人関係となる。
 やがてラメーシュはプリヤを愛していることに気付き、プロポーズする決意をする。彼はプリヤと会うが、この時とんでもない誤解が起き、彼女はラメーシュを拒絶することになる。
 ところで、このスラム街にラヴィ(Prasanna)というヤクザ者がおり、ラメーシュとも親交があった。ある晩、ラメーシュはラヴィが元代議士を殺害するのを目撃してしまう。ラヴィはラメーシュに口止め料を渡し、街を離れるよう諭す。
 プリヤとの件で失意の底にあったラヴィは、その金を使ってグジャラートへ行き、国際凧揚げ大会に参加する。一方、実はラメーシュのことを愛していたプリヤもグジャラートまで彼を追って行く。だが、ラメーシュは心閉ざしたままチェンナイに戻る。
 元代議士殺害の捜査が行われ、警察がこのスラム街にもやって来る。ラヴィは仲間から目撃者(ラメーシュ)がいるのはまずいと指摘される。彼はラメーシュを殺すことも考えるが、思い切れない。
 他方、ラメーシュは、友人たちの執り成しで、プリヤの愛を受け入れることにする。彼は再度プロポーズするために、意気揚々とプリヤが待っているバスへと向かうが、、、。

   *    *    *    *

 娯楽映画としてはぎりぎりセーフの、なんとか2時間半座っていられる出来だったが、いろいろな面で面白みの欠ける作品だった。

 狙ったな、と思われるのは、チェンナイのスラムに舞台を取ったことと、「凧」という比較的マイナーな競技(遊戯)をネタに取り入れ、グジャラートで毎年1月に行われているInternational Kite Festivalを紹介したことだろう。
 スラムは、チェンナイ北部のRoyapuramにあるスラムという設定で、実際にそこで撮影も行われたようだ。主演のアダルヴァもこのスラムに1ヵ月半滞在し、スラムボーイの行動を観察したらしい。割とリアルに撮られていたが、【Chennai 600028】(07)のがさついた雰囲気には敵わないと思った。
 「凧」のモチーフは、面白いと思ったが、残念ながらストーリー上はあまり膨らまされていなかった。グジャラートの凧揚げ大会は、実際の大会を撮影したようで、視覚的に面白かった。しかし、もっと派手に、心が伸び伸びするような見せ方もできただろうと思う。ただ、アダルヴァの揚げる凧が「ラジニカント」の顔を描いたもので、ここはタミル魂を感じたし、観客も沸いていた。

 ジャンル分けするとラブストーリーに入るはずだが、それも怪しいと思った。変則的なストーリー展開で、結末がハッピーエンドになっていないからだ。
 すでに「インド映画はハッピーエンド」と呑気には言えない時代になっているが、殊に近ごろのタミル映画ではアンハッピーエンド作品が目立ち、「トレンド?」とも思えるほどだ。(これはハッピー率の超高いテルグ映画と比べると、際立って対照的になっている。)
 ただ、ハッピーエンドというのは、ロマンス物であれ復讐物であれ、ヒーローとヒロインが幾山越えて結ばれるとか、悪玉が滅ぼされるとか、ある目的が成就することによる満足感があるので、それ自身積極的な価値を持つものだが、アンハッピーエンドとなると、そういう悲劇的な結末を選んだ十分な理由と巧みな見せ方が必要なはずで、そこが弱いと後味が悪く、また、何が言いたいのか分からない作品になってしまう。
 本作もそんな感じだった。おそらく、スラムという、様々な問題を内包した環境に暮らす主人公が巻き込まれる出来事を通して、甘さに苦味をミックスした悲恋物語を作ろうとしたと思われるが、どうも作為的にひねっただけという印象が強い。

 監督のBadri Venkateshという人は、本作がデビューということだが、‘Film & Television Institute of Tamilnadu’の出身者で、同校で教官もやっていたらしい。【Vidiyalai Nokki】という短編映画で1997年に国家映画賞も受賞している。
 そんな有能な人の割には本作は練りが甘く、長編娯楽映画の作り手としては宿題が多いように感じた。

◆ 演技者たち
 主演のアダルヴァは、いかにもデビューといった感じのパフォーマンスだった。演技もセリフ回しもダンスも、これからといったところだ。
 思ったより好青年で、悪い印象は受けなかったが、残念ながら、やはり小粒のヒーローで、彼が大物スターに育っていくとは想像しにくい。しかも、風貌がどうもダヌーシュやラヴィ・クリシュナやシンブに似ており、ここにもう一人、中途半端なタミル・スターを加える必要があるのかなぁ、という恨みは感じないでもない。好キャラだが、俳優としては苦労するだろう。
 (写真下:Atharvaくん。音楽CD発売記者会見の写真より。)

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 サマンタは、ファッション・テクノロジーを学ぶ今どきの女子大生をそれらしく演じていた。悪くはないのだが、出来としては平凡で、【Ye Maaya Chesave】ほどの衝撃はない。これまたいかにも経験の浅い女優がありがちなヒロインを普通に演じました、といった感じだった。しかしながら、ところどころで輝く表情も見せており、やはり大物ヒロイン候補として注目していくべきだろう。(ダンスを見せようという気配が一向に見えないのが気がかりだが。)

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 脇役陣では、主人公ラメーシュの友人クマールを演じたカルナース、及び、その父親役のT.P. Gajendranがまずまずのコメディーを作っていた。プラサンナ演じるヤクザのラヴィは、本作で唯一、心理的に陰影のある役柄だった。
 総じて脇役陣はしっかり演技をしており、まさに若いアダルヴァとサマンタをサポートしている感じだった。
 アダルヴァのお父ちゃん、ムラリもちらりと顔を出している。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はユワン・シャンカル・ラージャの担当。彼にしては平凡な出来だ。個人的には1曲のみ、グジャラートを舞台にした「嘆きのサマンタ」の歌が好きだ。

 撮影は、【Angaadi Theru】(10)と同じRichard Maria Nathan。スラムや凧揚げ大会の撮影に見るべきものがあったが、この人ならもっとできるのでは、という気がした。

◆ 結語
 そもそもアダルヴァをデビューさせるという意図を持つ作品だが、それを越える価値は残念ながらない。【Ye Maaya Chesave】を観てサマンタが気にかかるという方以外、特に観る必要はないだろう。

・満足度 : 2.0 / 5

 (オマケ写真:左よりお祖父ちゃんのシッダリンガイアー、お父ちゃんのムラリ、そしてアダルヴァ。)

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