カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Mathe Mungaru】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2010/08/27 02:26   >>

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 地方映画はその地方ならではのトピックを扱うのが一つの攻め手だと思うが、このカンナダ映画【Mathe Mungaru】もそういった作品だ。
 物語は事実に基づいたもので、カンナダ人の漁師グループがパキスタンで21年間もの捕虜収容所生活を余儀なくされた出来事を描いている。映画の主人公はその漁師グループの1人、カルナータカ州シモガ県出身の「Narayan Mandagadde」という人をモデルとしており、監督のドゥワルキ・ラーガヴは彼の証言を基に脚本を書いている。
 制作は【Mungaru Male】(06)と【Moggina Manasu】(08)という2つのヒット作を送り出したE・クリシュナッパ。特殊な題材に定評あるプロデューサーが付いたことで話題性は十分だったが、もう一つ、著名な歌手のアーシャ・ボースレが初めてカンナダ映画の歌を歌う(もちろんカンナダ語で)ということも話題となっていた。その曲を含む音楽CDはヒットしている。
 題名の「Mathe Mungaru」は「雨季、再び」という意味。ついでに記しておくと、E・クリシュナッパは過去2作がヒットした験を担ぎ、題名に頭文字のMが2つ並ぶ言葉を選んでいる。
 愛国的な内容を含む作品ということで、8月15日の独立記念日を意識して公開された。

【Mathe Mungaru】 (2010 : Kannada)
脚本・台詞・監督 : Dwarki Raghav
出演 : Srinagara Kitty, Rachana Malhotra, Neenasam Aswath, Yenagi Nataraj, Ravishankar, Muni, Anand, Sushma Bharadwaj, Roopa Devi, Achyuth Kumar
音楽 : X. Paul Raj
撮影 : Sundaranath Suvarna
制作 : E. Krishnappa

《あらすじ》
 1984年のムンバイ。カルナータカ州シモガ県出身のナーニ(Srinagara Kitty)は、同じカンナダ人の仲間と近海漁業をして生活していた。彼にはターラ(Rachana Malhotra)という名の恋人がおり、結婚の約束もしていた。
 ある日、ナーニらを乗せた漁船が操業中に嵐に遭い、パキスタン領海まで流されてしまう。ナーニを含む乗組員11人は直ちにパキスタン軍に拿捕され、カラチの陸軍本部に送られ、尋問と拷問を受けた後、捕虜収容所に収監される。
 彼らの中にイクバール(Neenasam Aswath)というイスラム教徒がいた。パキスタンの司令官はイクバールに、釈放と引き換えにインドでスパイ活動をするよう持ちかけるが、彼は拒否する。そのため、彼は舌切りの刑に処せられる。
 故郷にいるナーニの母(Roopa Devi)は、村の政治家に息子の消息を尋ねてくれるよう依頼するが、否定的な回答しか返ってこなかった。
 1984年10月にインディラ・ガンディー首相が殺害され、さらに1991年5月にラジーヴ・ガンディー元首相も暗殺される。こうした国家の一大事の中で、ナーニら11人の捕虜の件はほぼ忘れられてしまう。
 その後、彼らの許に解放の噂が届く。一抹の希望を抱く11人であったが、しかし、1992年にバーブリー・マスジッド破壊事件に端を発したコミュナル暴動が起き、彼らの解放は見送られる。さらに1999年に起きたカールギル戦争により、11人の釈放は絶望的となる。
 そんな中で歓喜の時がやって来る。ヴァージペーイー首相が進めたパキスタンとの対話路線により、2004年に遂に11人が解放される。彼らは実に21年ぶりに青空とインドの国旗を見る。
 ナーニは故郷の村に戻るが、実家に自分の遺影があるのを見て、愕然とする。母はナーニを見てもすぐには誰だか分からないが、やがて息子だと気付き、抱擁する。

   *    *    *    *

 2004年といえば、私はすでにバンガロールにいたのだが、このカンナダ人の漁師たちがパキスタンから帰還したという報道は全然知らなかった。現地人に聞いてみても、そういえばそんなニュースがあったなぁ、ぐらいのもので、むしろこの出来事はこの映画を通して広く再認識されるようになったようだ。しかし、テレビや新聞ではさらりと流せても、本作を観れば、この事件は軽く扱われるべきものではないことが分かる。その点、これを映画として残した意義は大きい。

 主人公のモデルとなった実在のナーラーヤン・マンダガッデさんは(マンダガッデは出身村の名称だと思う)、1984年に捕虜になったときは20代後半で、解放されたときは48歳、現在は55歳だという。今は結婚もして、シモガでロッジを営んでいるらしい。先日、この映画を紹介するテレビ番組に出演していたので、人となりを拝見することができた。もともとそういう人だったのかもしれないし、テレビ出演で緊張していただけかもしれないが、硬い表情で、ぽつぽつと話す様子は、今も捕虜体験のトラウマがあるようにも見えた。

 本作の見どころは、やはりパキスタンの収容施設での場面で、11人が拷問を受けたり、劣悪な環境下での生活を余儀なくされたりする様が描き出されている。
 ほとんど光の差さない牢獄で、飯は1回につき1人当たりチャパティー1枚程度(1日に何回出るのか分からない)。当然腹が減るので、房中を這うイモ虫やゴキブリも食うことになる。水はときどき来なくなり、渇きに耐えかねて自分の小水を飲んだりする。こんな状態が21年間も続いたわけで、よくぞこれで死ななかったものだ。(皮肉なことに、11人のうち、1人は解放の日に、もう1人は故郷へ戻るバスの中で息絶えている。)

 目を覆いたくなる光景、とも言えるが、しかしこれは予想の範囲内で、おそらく軍関係の獄中での待遇というのはどこの国でも五十歩百歩だろう。これを以って「パキスタン憎し」とは言えないわけで、映画はインド(政府)側の対応にも疑問を投げ掛けている。
 まず、いくら深刻な事件が相次ぎ、隣国との関係が悪化したとはいえ、この捕虜問題が21年間も、9代に亘る首相によって無視されてしまったという事実には驚く。
 また、解放された彼らも、「勝手に帰れ」とでも言われたかのように、ぼろぼろの服に髪や髭は伸び放題のまま、主人公のナーニなどは杖を突いて、バスに乗るときによろめくほどの有様なのに、自力で故郷まで帰っている。こういうのは政府や人権団体などが保護し、然るべき処置をした後、故郷まで送り届ける、ということはしないのだろうか。(この時に解放された捕虜は他にもわんさかいて、一人一人に目配りできなかった、というわけでもないだろうに。)

 パキスタン軍の非人道的な行為は批判の対象になるとしても、映画ではイスラム教に対する敵愾心はなく、むしろ異宗教・異民族は和合すべしという視点で描かれている。ただ、インドへの愛国精神は強く押し出されており、またカンナダ映画らしく、カルナータカ州も意識されており、ナーニがカルナータカ州に入って感慨深げに州旗を見上げる場面では、劇場内で大きな拍手が起きていた。

 映画の6,7割は陰惨な牢獄シーンだったので、明るさを出すために、冒頭のムンバイでのナーニとターラのエピソード、及びその回想シーンはきれいに撮られていた。ただし、ターラの後日談は、これも実話なのかもしれないが、映画的な作り話っぽく、全体から浮いていたように感じた。(ちなみに、21年後のムンバイの変貌ぶりが肯定的に捉えられていないことに注目。)

◆ 演技者たち
 主人公ナーニを演じたシュリーナガラ・キッティは、どことなくどんよりとした雰囲気から、私は個人的に「ミスター低気圧」と呼んでいるのだが、そんな彼がサイクロンに遭う漁師の役を演じたとは、まさに適役だった。演技的にはOK。(写真トップ:ヒロインのRachana Malhotraと。)
 他の受難者たちは、誰がどうというわけではないが、映画の枠にうまく収まっていた。彼らはたいていぱっとしない脇役やコメディー、悪役などを演じている人たちだが、本作ではとても良い味を出していた。ということは、彼らは常のカンナダ映画では仕事をさせてもらっていない(または、彼ら自身が手を抜いている)ということで、良い芝居ができるのなら日頃から見せてくれよ、と義憤を感じた。

 ヒロイン、ターラ役のラチャナ・マロートラーは、地味キャラだが初々しくて可愛く、瞼に焼く付くほどだった。出番は少なかったものの、鑑賞者に強い印象を残したのではないだろうか。
 彼女については、出身地もキャリアも把握しておらず、これからどんな活躍をするかも不明だが、もう一度どこかでお目にかかりたいものだ。(下:写真は本作品のものではない。)

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 ターラの女友達役を演じたスシュマ・バーラドワージも、限定的な出番ながら、印象的だった。この人は、私のうちの近所にあるカレッジに通う学生なのだが、テレビ女優や映画の台詞ライターなどもやっているらしい。
 もう一人、ラージクマールの後期の作品でヒロインを務めたこともあるルーパ・デーヴィが、ナーニの母親役で出ていたのには驚いた。(芝居が上手い。)
 アンバリーシュが声だけの特別出演をしている。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はX. Paul Rajという人の担当。聞いたことのない名前で、どうやら新人らしいのだが、挿入曲は非常に良かった。
 上で触れた、アーシャ・ボースレが歌う‘Helade Kaarana’の動画はこちら。
 http://www.youtube.com/watch?v=35uJBQJN00U&feature=search
 それよりも、私はこの‘Chita Pata Pata’のほうが好きだ。
 http://www.youtube.com/watch?v=_ZzeRzYJoCE&feature=search

 スンダラナート・スワルナ担当の撮影も良い。ムンバイでのロマンスシーン、嵐の場面、牢獄の様子など、それぞれ恥かしくない出来だ。
 予算的に限りがあって、25年前のムンバイを再現するのは不可能で、最新モデルの自動車が映り込んでいたり、パキスタンの軍事施設の見せ方も簡単なものだったりするが、それは言いっこなしだろう。

◆ 結語
 カンナダ映画にも、年に何本かは秀作・佳作が登場するのだが、カルナータカの地に住んでいないと、またはカンナダ映画に馴染んでいないと、良さが分からないと思われるものが多く、お勧めもしにくいことが多い。しかし、本作は日本人鑑賞者もすんなり共感できると思う。完成度の高い傑作というわけではないが、機会があれば、ぜひご覧になっていただきたい。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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