カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Naan Mahaan Alla】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/09/08 20:48   >>

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 去年、田舎を舞台にしたタミル映画の佳作として、スシンディラン監督の【Vennila Kabaddi Kuzhu】とパンディラージ監督の【Pasanga】が現れ、私もこのブログで高評価を与えておいた。スシンディラン監督もパンディラージ監督も新人だったが、この2人の新作が相次いで公開されるということで、大いに楽しみにしていた。
 というのも、上の2作はどちらもオフビートな作品で、趣向の新奇さがウケただけかもしれず、この2人が本当に実力のある監督かどうか、その資質を窺う上で2作目は要チェックだと思われたからである。
 残念ながら、パンディラージ監督の【Vamsam】は見逃してしまった。鑑賞したタミル人の話によると、出来はまずまずで、かなり細かなネタを配した農村ドラマだということだ。これから察するに、パンディラージ監督は引き続き田舎ネオリアリズム映画に関心を持っているようだ。
 他方、スシンディラン監督の新作が今回紹介する【Naan Mahaan Alla】。チェンナイの下町を舞台にしたスリラー物という前情報で、前作の【Vennila Kabaddi Kuzhu】とは大きく趣を変えてきたようだ。

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 主演は【Aayirathil Oruvan】【Paiyaa】でブレイクしたカールティ。ヒロインにやはりホットなカージャル・アガルワールが就いている。
 題名の「Naan Mahaan Alla」は「オレは聖人じゃない」という意味。ラジニカーント主演で1984年制作の同名作品があるが、それとは無関係のようだ。

【Naan Mahaan Alla】 (2010 : Tamil)
物語・監督 : Suseenthiran
台詞 : Bhaskar Sakthi
出演 : Karthi, Kajal Aggarwal, Jayaprakash, Lakshmi Ramakrishnan, Ravi Prakash, Neelima, Krishna Priya, Soori, Rajivan
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : Madhie
編集 : Kasi Viswanathan
制作 : K.E. Gnanavel Raja

《あらすじ》
 ジーワ(Karthi)はチェンナイ在住の気の良い若者。家庭はミドルクラスで、両親と妹の4人で手狭な団地に暮らしていた。ジーワは無職だったが、タクシー運転手の父(Jayaprakash)はそれを意に介さず、息子に愛情を注いでいた。
 ジーワは、女友達スダー(Neelima)の結婚式に出席した際に、プリヤ(Kajal Aggarwal)という女性と出会い、一目惚れする。プリヤもジーワのことが気に掛かって仕方がなく、二人は相思相愛となる。ジーワは勢い余ってプリヤの父に結婚の申し出をしてしまうが、弁護士の父(Ravi Prakash)はジーワに2つの条件を出す。まず、定職に就くこと、その上で、半年後にまだ娘のことを愛していたなら、結婚を認める、と。
 ジーワは早速就職する。それは銀行に借金をしている人からお金を取り立てる仕事だった。だが、気の良いジーワは、負債者から身の上話を聞かされると、とても金を回収するどころではなかった。結局彼は会社をクビになる。プリヤの父は、仕事柄付き合いのあったヤクザのボスを使い、ジーワを娘から遠ざけようとするが、逆にジーワはそのボスと意気投合し、友達になってしまう。
 ところで、この街に5人組の不良大学生がいた。彼らはドラッグをやり、女をレイプした後、バラバラに切り刻んで河川敷に捨てていた。遺体が発見され、ニュースとなるが、実は、ジーワの父は自分のタクシーに被害者の女性を乗せたことがあり、その時一緒にいた怪しげな若者たちの顔を覚えていたため、警察に証言しようとする。それを知った5人組は、ジーワの父を殺そうと、トラックではねる。
 幸い父は助かり、短期間の入院の後、家に戻る。それを知った5人組は、スラムにいるヤクザに相談し、その入れ知恵で首尾よく父を刺殺する。
 打ちひしがれるジーワであったが、警察の捜査を断り、自らの手で父の復讐を遂げることを誓う。彼は以前に懇意になったヤクザのボスを訪ね、事件の手掛かりを得ようとする。ところが、たまたまその場に父の殺害に関与したスラムのヤクザがやって来る。ジーワは不審人物としてこの男の顔を覚えていたため、追跡して捕まえ、絞め上げる。その結果、男の口から5人組の不良学生のことが分かる、、、。

   *    *    *    *

 レビューの評価は総じて高く、口コミ情報も「面白い」ということだったが、まぁ、面白いは面白いが、やや食い足りないものを感じた。
 上のあらすじを読んだなら、オーソドックスなアクション物・復讐物を想像するだろうし、また音楽シーンやアクション・シーンも型どおり入っているのだが、受ける印象はずいぶん違っていて、従来のタミル映画に親しんでいる人なら「ありゃ?」と思うかもしれない。

 「違い」を簡単に表現するなら、結局は「よりリアルになっている」ということになると思う。
 まず主人公(ジーワ)だが、インド映画(特に南インド映画)の中にしか存在しないような誇張されたヒーロー像ではなく、インド(チェンナイ)のどこにでもいそうな若者。ヒロイン(プリヤ)も、「Shit!」と「I hate you!」と「I love you!」の3文が重要セリフで、露出度の高い衣装が浮きまくっているようなヒロイン像ではなく、ジーワとのロマンス展開にあたふたとする普通の女の子として描かれている。
 物語は荒唐無稽なようだが、実際にあった事件に想を得ているらしく、ストーリー展開もそれほど作為的ではない。クライマックスのアクションも、殴られた悪者が10メートルもぶっ飛ぶとか、ガラスが派手に割れるとかいうことはない。

 もちろん、「リアル」だから悪いというわけではないが、荒唐無稽でぶっ飛んでいて、「無茶しよる」、「えげつな〜」という驚きに加えて、こってりとした満腹感がインド映画(タミル映画)の魅力でもあった(と思われる)だけに、本作にはなにかしら小ぢんまりしたものを感じた。これは近ごろのタミル・アクション映画、例えば【Sarvam】(09)や【Paiyaa】を観たときにも感じたことで、タミル人自身がこれを好むと言うのなら文句はないが、本当にこれで満足なのか?とかえって突っ込みたくなる。

 もっと象徴的なのは「悪役」で、本作の不良大学生5人組は人間性のかけらもない虫ケラ以下の存在で、人の殺し方も卑劣きわまる。こんな連中が成敗されると、やはり胸のすくものを感じて良いのだが、しかし振り返ってみると、従来の南インド映画に出てくる悪役は悪徳政治家であったり、マフィアのドンであったり、とにかく「巨悪」が多く、それを庶民のヒーローが滅ぼすところから来る爽快感があったのだが、それと本作とではずいぶんカタルシスの質が異なっている。(ちなみに、この虫ケラ以下の若者像に対して、ジーワを通して健全な人間像を描くのが本作の狙いだと思われる。)
 これも悪いとは言わないが、「猟奇殺人」を扱った似たコンセプトの作品にカマル・ハーサン主演の【Vettaiyaadu Vilaiyaadu】(06)があり、これに拍手喝采を送ったタミル人が本作に満足しているとは、どうも信じがたい。

 ただ、それでもスシンディラン監督を評価したいのは、やはりこの人は監督として上手いところがある。前半のジーワとプリヤのロマンス展開やジーワと家族の交流、後半の不良学生の冷血ぶりなど、実に上手く描いているのである。この監督は映画的効果をきちんとスクリーン上に表現できる才能を持っているようで、良いストーリー・ライターと組んだなら、秀作を撮るのではないだろうか。
 また、前作の【Vennila Kabaddi Kuzhu】では田舎の詩的な情緒を描き出していたが、本作では都会の危うさ、非情さを鋭く衝いており、テーマの取り上げ方も良かったと思う。

 ついでにもう一つ気になったことを書いておくと、本作は、前半はラブコメ風、後半は血も凍るスリラーと、がらりと雰囲気を変え、違う2本の映画を観ているようだった(気のせいか、最近こういうインド映画をよく目にする)。しかも、ジーワが不良学生を成敗したところでぷっつりと終わっており、他の登場人物(ヒロインなど)に対する言及や回顧は一切ない。これは意図的にこうしたように思われるが、なんだか玄関から入ったのに勝手口から出されたような、収まりの悪い終わり方だった。

◆ 演技者たち
 主人公のジーワは、チェンナイの下町に暮らす典型的な庶民層の若者という設定で、都会っ子の割には田舎くさく、気さくな「兄ちゃん」というキャラクターがまさにカールティにぴったりだった。この人はあまり器用ではないと思うのだが、セリフはそこそこ上手いということが分かった。ただしダンスはからっきしで、1曲で無理したダンス・シーンがあったのだが、ボツにならなかったのが不思議なくらいだ。
 どうもタミル人はカールティに典型的な「タミル男」を見出しているようで、また、映画の作り手もカールティを通して善きタミル男を描こうとしているように見える。そのために本作では「カールティと赤ん坊・子供」というモチーフを使っていたが、連発しすぎたため、鼻に付いた。(写真下)

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 ヒロインのカージャルは、何度も言って申し訳ないが、どうも私は好きになれず、スクリーンとの間に距離を感じてしまった。ただ、この苦手意識のせいでテルグ映画【Darling】を見送ってしまい、ヒット作となって後悔した経緯もあるので、今回は頑張って観た。
 パフォーマンス的には問題なかったと思う。タミルでもファン層を広げるだろう。

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 ジーワの父を演じたのはジャヤプラカーシュという俳優で、この頃マフィアのドン役や父親役でよく見かける。本作ではなかなか味のある演技をしていた。
 (写真下:主人公の家族。左よりジーワ役のKarthi、お母ちゃん役のLakshmi Ramakrishnan、お父ちゃん役のJayaprakash、妹ちゃん役のKrishna Priya。)

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◆ 音楽・撮影・その他
 ユワン・シャンカル・ラージャの音楽は良い。
 途中の音楽シーンにも良い曲が2つ3つあったが、それよりオープニングとエンディングに流れていた曲が美しいと感じた。

 撮影と編集は文句なし。スタントはまずまず。ジーワの家族が住んでいた団地の部屋のセットがリアルで良かった。
 ロケに使われたチェンナイのビーチは、廃屋が点在する殺風景な場所で、何気に見ていたが、後で「津波」の被災地だということが分かった。

◆ 結語
 【Naan Mahaan Alla】は、私は食い足りないものを感じたが、現地での評判は良く、ヒットしている。ここ数年タミル映画界が実験・試行錯誤してきた結果の、新しいタイプのタミル娯楽映画の一例として、一度観てもいいかもしれない。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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