カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Pancharangi】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2010/09/15 21:31   >>

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 ヨーガラージ・バット監督のカンナダ映画。
 【Mungaru Male】(06)、【Gaalipata】(08)、【Manasaare】(09)の連続ヒットで、カンナダ映画界では、ことに家族映画・若者映画の分野ではマスト的存在となったバット監督だが、私は【Manasaare】を観るまでは彼の作品の良さが分からなかった。しかし、1つでも面白さが分かると、それを糸口に他作品の掴みどころも分かるようになるもので、【Mungaru Male】と【Gaalipata】もそれなりに面白く再見できた。
 主演はディガント。【Mungaru Male】以来、4作連続で起用されることになったバット監督のお気に入りだ。ヒロインは二ディ・スッバイアーという、去年デビューしたばかりの新進女優。
 私にとってうれしいのは、プリヤンカ・トリウェーディ(ウペンドラの奥方)がゲスト出演していることで、結婚・出産で銀幕とは疎遠になっていたが、カンナダ映画には2004年の【Malla】以来の出演である。

【Pancharangi】 (2010 : Kannada)
物語・脚本・台詞・監督 : Yograj Bhat
出演 : Diganth, Nidhi Subbaiah, Anant Nag, Sundar Raj, Padmaja Rao, Pawan Kumar, Ramya Barna, Nagendra Shah, Sudha Belawadi, Raju Thalikote, Mitra, Nagaraj Urs, Rockline Sudhakar, Priyanka Trivedi(ゲスト出演)
音楽 : Mano Murthy
撮影 : V. Thyagarajan
編集 : Deepu S. Kumar
制作 : Yogaraj Bhat, Subramanya

《あらすじ》
 大学院でカンナダ文学を学ぶバーラト(Diganth)は、人生をシニカルに捉える偏屈者で、家族の中でも厄介者扱いだった。兄のラッキー(Pawan Kumar)はソフトウェア技術者としてアメリカで働いていた。両親(Sundar Raj & Padmaja Rao)はバーラトにも技術者になってほしいと考えていたが、人文系に進んだため、学費の援助を止める。バーラトは仕方なくサリー店でアルバイトをして学資を稼いでいた。
 ラッキーの結婚相手を決めるため、バーラトは両親とアメリカから一時帰国したラッキー、宗教家で占い師の叔父(Mitra)、それに結婚ブローカー(Raju Thalikote)らと共に、貸切バスでマンガロール近郊の海辺の村を訪れる。ラッキーはこの村でラタ(Ramya Barna)という女性と見合いをすることになっていた。
 ラタは両親(Nagendra Shah & Sudha Belawadi)と暮らしていたが、この家にはもう一人、従妹のアンビカ(Nidhi Subbaiah)もいた。アンビカは早くに両親を亡くしたため、この家で娘同然に育てられていた。
 早速、両家の交流が始まるが、バーラトはラタの顔を見知る前にアンビカに遭遇しため、彼女のことをラタだと思ってしまう。アンビカも調子に乗って自分のことをラタだと自己紹介する。このジョークはラタ本人を怒らせ、アンビカはしばらく家を追い出されることになる。彼女は浜辺で時間を潰すことにするが、一方、同様に家族から邪魔者扱いされたバーラトもやって来、二人は雑談をして時を過ごす。
 バーラトとアンビカはこの浜辺で謎のオジサン(Anant Nag)に出会う。オジサンは聖者になるためにヒマーラヤで修行をしていたと言う。バーラトとオジサンは人生観が似ていたため、すっかり意気投合する。
 ラタはラッキーのことを気に入る。ラッキーの占い師の叔父は、翌日に婚約式を行うよう提言する。ところが困ったことに、ラッキーにはソーミャという恋人がおり、彼女はこの村まで押し掛けて来ていた。両親に逆らえないラッキーはソーミャと分かれるつもりでいたが、彼女は納得しない。
 他方、バーラトにすっかり惚れてしまったアンビカは、自分の気持ちを伝えようとするが、バーラトは砂浜で寝ていたため、彼女は独り言として告白する。しかし、実はバーラトは寝たふりをしていただけであり、彼女の気持ちを知ることになる。
 翌日、とんでもないことが起きる。ラッキーの宗教家の叔父がセックス・スキャンダルで逮捕されてしまったのである。またラッキーに恋人がいることも発覚し、この縁談は見事に大破。バーラトの家族は引き上げることになる。
 家族の失態の手前、バーラトはアンビカに、自分のことは忘れ、他の人と結婚するように言って、立ち去る。打ちひしがれるアンビカであるが、再び謎のオジサンが現れ、彼女に、偏屈者のバーラトが人生において自分と同じ過ちを犯さないように、アンビカが彼を変えてやるべきだ、とアドバイスする。オジサンに励まされたアンビカは再びバーラトの前に立つ、、、。

   *    *    *    *

 ヨーガラージ・バット監督作品の主人公といえば、たいてい「落ちこぼれ」、「厄介者」、「余計者」として描かれた青年で、それが同世代の観客の「共感」(「夢」や「憧れ」ではなく)を呼び、支持を集める理由となっていた。本作のバーラト(Diganth)もその通りで、前作【Manasaare】の主人公とよく似た性格付けがなされている。【Manasaare】は、負け組の男と精神障害を患った女の恋だったが、本作では、優秀・従順な兄との対比で家族から「邪魔者」扱いされている男と、親類の家族に育てられ、自分のことを「邪魔者」だと感じている女の、「邪魔者」同士の出会い・触れ合い・恋だった。

 このバーラトの人物像が興味深い。彼は大学院でカンナダ文学を専攻し、特技といえば、王室のサリー着付け師をしていた祖母の影響で、サリーの着付けがやたら上手いという、今日のバンガロールで社会的に期待され、親たちが望む青年像とは正反対の人物として描かれている。これ一つでバット監督の意図が読み取れるし、また、バンガロールにいる若者というのが、カンナダ映画によく登場するような、ソフトウェア技術者とヤクザと下町のやたら腕っ節の強い兄ちゃんばかりでないことが端的に示されている。
 バーラトの人生観もはっきりと描き出されている。彼は、社会に暮らす一般人のほとんどはシステムの中でコントロールされて動く機械のようなものだと考え、人の名前にも「〜ガル」という、カンナダ語の「物」の複数形を表す接尾辞を付けて呼んでいる。そして、自分はそれと違ったものになるため、世間から一歩離れたところで好き勝手に生きている。

 もちろん、ヨーガラージ・バット監督は、バーラトのこの考え方を良しとしているわけではなく、若者にありがちな独りよがりなものとして提示している。そのためにアナント・ナーグ演じる正体不明のオジサンを登場させ、バーラトが人生において自分と同じ過ちを犯さないよう、アンビカにバーラトを導く任務を託している。このオジサンは、若い頃にバーラトとそっくりの考え方をしており、そのために他人(妻)を不幸にしただけでなく、自分も結局は幸せになれなかったからである。
 題名の「Pancharangi」は「5つの色」という意味で、喜びや悲しみ、怒りなどの人生において現れる5つの側面を象徴したもの。これに「Lifu Ishtene」(人生って、これだけのもの)という言葉が副題として付いている。人生というのは格別にありがたいものではなく、これっぽっちのものだけれど、かといって軽蔑すべきものでもない。機械的な人生を送るのはつまらないが、かといって遠くから斜に構えて眺めるものでもなく、人生の中で出会う様々な事柄に積極的に向き合うべきだ。バーラトにそれができるかどうかは、アンビカの愛を受け入れられるかどうかにかかっているのだが、それは結末で示される。

 このように、本作はコンセプトは面白いと思えるのだが、映画作品としては、面白いようなつまらないような、という感じだった。
 セリフは活き活きとしているし、音楽シーンもよくできているし、撮影も繊細で美しい。つまり、映画としての手段はうまく活用されているのだが、肝心のストーリー展開に起伏がなく、クライマックスは腰砕けだった。
 エピソードのいくつか(例えば、サブプロットのバス運転手とメイドの結婚や、バーラトの叔父のインチキ宗教家の逮捕など)もわざとらしくねじ込んだ感があり、しかもあまり効果をあげていなかった。
 バット監督作品のストーリーにはいつもこういう欠陥があり、それで賛否が分かれることになるのだが、本作も同様だと思った。

◆ 演技者たち
 主演のディガントは非常に良かった。4作連続でバット監督に起用されているといっても、主役を務めたのは前作の【Manasaare】からで、本作ではそれよりも演技、セリフ、音楽シーンでの見映えなど、すべての面でスキルアップしている。私は【Manasaare】評の中で彼のことを「『バンガロール映画』のヒーローとして欠かせないコマ」と位置付けておいたが、本作を観てその感を強くした。(ただし、バット監督作品以外では大した仕事をしていない。)

 本作で最も評価を上げたと思われるのは、ヒロインのアンビカを演じたニディだろう。彼女は去年【Chamkayisi Chindi Udayisi】でデビューし、それなりに注目を集めたが、まだ大衆的な人気を獲得するに至っていない。きつい顔立ちなので、私も敬遠しているところがあった。ところが、バット監督は彼女を高く評価し、「こんな才能のある女優がどうしてこれまで重用されてこなかったのか、不思議だ」とどこかのインタビューで述べていた。なるほど、非常に自然で表情豊かな演技をしていた。
 セリフは間違いなく吹き替えだと思われるが、この声優がまた実に上手かった。
 (写真下:「邪魔者」扱いされてココナッツの木の上でふてくされるDiganthとNidhi Subbaiah。)

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 脇役陣も総じて良かった。
 突出して目立っていたのは謎のオジサン役のアナント・ナーグ。現実離れした人物像で、デウス・エクス・マーキナーの役回りになってしまったが、忘れがたいものだ。(下)

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 【Manasaare】や【Lift Kodla】(10)にも出演し、私がサンダルウッドのコメディアンの中では今最も気に入っているラージュ・ターリコーテが、結婚ブローカー役で出ていた。特に大きな笑わせどころはなかったが、場面の雰囲気などお構いなしにマイペースで喋りまくるセリフ回しは、やはり不気味だった。
 (写真下:真ん中がRaju Thalikote。両端のお二方も味があったが。)

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 さて、私的に大注目していたプリヤンカちゃんのカムバックであるが、結局、音楽シーン1曲だけにちらっと登場しただけで、大欲求不満。学校教師という設定らしいが、それもよく分からなかった。(下のYouTube動画参照。)
 そもそもプリヤンカ・トリウェーディといえば私の「心の人」で、どのくらい心の人かと言うと、私がこのブログで使っている「カーヴェリ川長治」という名前も、実は【H2O】(02)でのプリヤンカの役名「カーヴェリ」から採ったような次第なのである(そんなこと小っ恥ずかしくて内緒にしていたが)。
 結婚して子供を2人生んでも、特に太ったわけでも老けたわけでもないので、本格的に銀幕にカムバックしてほしいものだ(ベンガリー映画にはちらほら出演しているようであるが)。

◆ 音楽・撮影・その他
 マノ・ムルティの音楽は4曲あり、ポップなものから昭和演歌風の曲まで、どれもマノ・ムルティらしい曲が並んでいる。
 音楽シーンはよくできている。‘Hudugaru Beku’はセット・小道具が面白い。‘Udisuve Belakina Seereya’はモダンダンス風振り付けがカンナダ映画では珍しい。ここではコミカルな‘Lifu Ishtene’の動画を紹介しておく(プリヤンカも出ているもの)。
 http://www.youtube.com/watch?v=MrlXV0LPQgw

 撮影も良い。特にアンビカがバーラトに恋を打ち明ける夜の砂浜のシーンが美しい。
 舞台となった海辺の正確なポイントは分からないが、ウドゥピ近くのビーチだと思われる。

◆ 結語
 【Pancharangi】は、映画というより、文体を味わい、行間を汲み取るような、短編小説を読むような感覚で鑑賞すべき作品。面白さと同時に物足りなさを感じるかもしれないが、コンセプトは良いので、南インド映画を各種楽しみたい方なら観ておいてもいいと思う。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
>人文系に進んだため、学費の援助を止める。バーラトは仕方なくサリー店でアルバイトをして学資を稼いでいた。

この箇所読んだだけでもう泣けてきました。バーラト君には仕合わせになってほすい…
メタ坊
2010/09/16 18:58
インド(バンガロール)人文系哀話ですね。
バーラト君、苦労すると思いますよ。

ちなみに、バット監督も大学ではカンナダ文学を専攻したようで、自身の体験が主人公に反映されているのかもしれません。
 
カーヴェリ
2010/09/17 13:23

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