カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Mynaa】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2010/11/12 21:21   >>

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 プラブ・ソロモン監督のタミル映画。
 プラブ・ソロモンといえば、オフビートな映画の作り手として知られ、【King】(02)、【Kokki】(06)、【Lee】(07)、【Laadam】(09)と発表しているが、未だにヒット作がない。ところが、私は何かの拍子で【Laadam】を観、風変わりな作品なのだが、名状しがたい感銘を受け、彼の名前は頭の中に残っていた。
 そこで、この新作【Mynaa】の登場であるが、一般公開前から大きな話題となっていた。まず、若手プロデューサーのウダヤニディ・スターリンが本作の試写を観て衝撃を受け、即座に配給権を獲得している。彼は「ショックのあまり、2日間寝られなかった」と述べている。これだけならウダヤニディのはったりとも取れるのだが、さらにカマル・ハーサンも観て、ウダヤニディの発言を受け、「いや、オレはタミルでもまだ良い映画が作られていることが分かり、安心してぐっすり寝られたよ」と返している(こちらの記事)。さらにバーラ監督や検閲局の担当官からも本作を賞賛する発言が相次ぎ、どうやらプラブ・ソロモン監督初の成功作になりそうな成り行きである。
 題名の「Mynaa」はヒロインの名前で、これに‘Journey of Love’という副題が付いている。そのヒロインを演じているのは新進女優のアマラ・ポールで、私は映画を観る前から彼女のフォトギャラリーを見て、すでに寝苦しい夜が続いている。

【Mynaa】 (2010 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : Prabu Solomon
出演 : Vidaarth, Amala Paul, Sethu, Thambi Ramaiah, Susan George, 他
音楽 : D. Imman
撮影 : M. Sukumar
編集 : LVK Dass
制作 : John Max

《あらすじ》
 テーニ近郊のクランガニ村に暮らすスルリ少年は、まったく役に立たない父のせいで、12歳で勉学を止め、白タク屋のアシスタントとして働く。スルリ少年はある日、家を追い出されて路頭に迷う母と娘を見る。少年は気の毒に思い、二人を自分の家の隣に住まわせる。そして、娘のマイナーを学校へ行かせる。
 スルリ(Vidaarth)とマイナー(Amala Paul)は一心同体のように成長する。スルリは町の市場で働き、マイナーを学校まで送り迎えするのが日課だった。スルリはいつしかマイナーのことを愛するようになる。やがてマイナーも初潮を迎え、スルリを男として意識し始める。
 スルリとマイナーは結婚する気でいたが、二人の関係に気付いたマイナーの母は、娘を隣村の金持ちと結婚させようとする。それを知ったスルリはマイナーの母に暴力をふるい、そのために逮捕され、テーニの拘置所に入れられる。しかし、マイナーの結婚式を阻止するため、スルリは出所予定日の1日前に脱走し、村に戻る。
 拘置所詰めの二人の警官、バースカル(Sethu)とラーマイヤ(Thambi Ramaiah)は、この失態が明るみに出ないよう、非公式にスルリを捜し出し、翌日までに拘置所に連れ戻すよう指示される。実はバースカルは、ディーパーワリ祭を祝うため、 新婚の妻スダー(Susan George)をマドゥライにある彼女の実家に連れて行く約束をしていた。だが、任務のためにはそんなこと構っていられなかった。
 二人はクランガニ村を目指す。そして村に辿り着いたときは、ちょうどスルリとマイナーが家族たちとひと悶着起こしているところだった。この混乱を避けるように、スルリとマイナーとバースカルとラーマイヤは、たまたま通りがかったジープに飛び乗り、村を出る。しかし、途中で車が故障してしまい、四人は徒歩で森を抜けることになる。やっとこさ町に出た四人は、バスでテーニに向かう。
 バースカルとラーマイヤはスルリに対して、大人しく拘置所に戻り、あと1日だけ服役すれば、マイナーと結婚させてやると約束していた。これはスルリを説き伏せるための口約束だったが、しかし村からテーニに戻る道中の出来事を通して、バースカルとラーマイヤはスルリが極めて善人であり、マイナーとの愛も純粋なものであることを悟る。ラーマイヤは本当に二人の結婚式を執り行うつもりになる。
 スルリは拘置所に戻り、翌日に出所する。だが、彼の前には思いがけない出来事が待ち受けていた、、、。

   *    *    *    *

 フォークボールですね、これは。しかも、米大リーグで2度のノーヒット・ノーランを達成した野茂投手級の。
 クライマックスの手前までは非常に鋭いキレのあるストレートだと見えたのに、手許でストンと落とすか。観ている私は長嶋茂雄級の大空振りをしてしまった。

 実は非常に好きなタイプの映画なのだが、それでも「こういう展開にしなきゃならんのか?」とは思う。
 つまりは、悲劇でした。
 観終わった後の感覚は、アミール・スルターン監督の【Paruthiveeran】(07)やバーラージ・シャクティヴェール監督の【Kaadhal】(04)に近い。【Kalloori】(07)や【7G Rainbow Colony】(04)、【Angaadi Theru】(10)もそんなに遠くはないと思う。観ていない方は分からないだろうから、喩えで表現すると、「鉛を呑んだような」感覚なのだが、これとて鉛を呑んだことのある人など(私を含め)ざらにはいないはずなので、どんなことか分からない。
 一番似ているのは【Paruthiveeran】だが、ストーリーの組み方や仕込まれた内容は【Paruthiveeran】のほうが複雑だし、意味がある。しかし、【Mynaa】のほうが、ネタの一つ一つが単純で美しく、面白い。

 こんな悲劇的なドラマを見ると、背後に何らかの社会問題に対する批判が込められているのではないか、と探ってしまうが、プラブ・ソロモン監督があちこちのインタビューで表明しているように、シンプルなラブストーリーと見るべきだろう(ただし、田舎人の旧弊な考え方・行動に対する辛辣な視線は強く感じられる)。「ド」が付くぐらいの田舎者の純愛物語だが、この二人が壊されなければならないとは、神も仏もあったものじゃない。と同時に、神様を信じているからこそ、こういう物語が作れるのかもしれない、とも思った。(参考に、プラブ・ソロモン監督は敬虔なクリスチャンらしい。)

 上に類例として挙げた5作と【Mynaa】の共通点として、「悲劇的結末」の他に、「リアリスティック」ということが挙げられる。ただし、こと【Mynaa】に限っては、リアリスティックと言うより、ナチュラルと言ったほうが適切だろう。
 タミル伝統のマサラ娯楽映画の定型とはずいぶん遠ざかってしまったが、しかしこれだけ類型作品が現れ、評価されたりヒットしたりしている事実を見ると、もはやこうした「写実的」「悲劇的」映画というのも一つの定型を成していると考えてもいいだろう。
 ただ、タミル映画のネオリアリズム作品群も、私が観察する限り、形はいくら変わっても、タミル映画伝統の情感は保持されていると思う。それは直線的で素朴な心性を尊ぶといったことなのだが、人の善性に対する信頼感、その信頼感が裏切られたときの率直な怒り、驕慢者に対する憤りと弱者への同情など、こうした情念は、ラジニの作品も、【Paruthiveeran】も、【Boss Engira Baskaran】(10)も、あまり変わりないように思えるのである。
 【Mynaa】も同じで、スルリとマイナーの関係、この二人とバースカル、ラーマイヤの関係など、おそらくタミル人の琴線に触れるものだと思う。

◆ 演技者たち
 スルリ役の俳優はVidaarthという人。情報はあまり得ていないが、どうも‘Koothupattarai’という劇団・演劇学校の出身(または在籍)らしい。「デビュー」と紹介している記事も多いが、すでにいくつかの映画に出演しているようだ。
 映画俳優としては微妙なキャラクターだが、個性が強いのは確か。このちりぢり頭が監督のイメージにピッタリだったらしい。本作でのパフォーマンスは印象に残るものだった。(写真下:ヒロインのアマラさんと。)

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 マイナーを演じたアマラ・ポールは、注目の大型新進女優とみていいだろう。ケーララ州出身の娘で、私は個人的に「ケーララのディーピカ」と呼んでいるのだが、デビューはおそらくマラヤーラム映画【Neelathaamara】(09)だと思う。タミル映画にはすでに【Sindhu Samaveli】(10)という作品に出演している。そこでは「Anakha」という芸名を使っていたようだが、【Mynaa】では本名(たぶん)の「Amala」でクレジットされていた。
 監督が彼女を選んだ決め手は「目」だったらしい。
 本作でのパフォーマンスは、演技がどうのこうのと言うより、とにかく非常に魅力的な田舎娘に見えた。彼女を見るために、わざわざ20ドル払ってアインガランのDVDを買ってください。
 ちなみに、本作ではノーメイクとのことで、ニキビなどもはっきり見えていた。
 (写真下:この目には川縁おじさんもイチコロさ。)

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 二人の警官も良かった。バースカラン役のセートゥは渋かったが、それよりもっとラーマイヤ役のタンビ・ラーマイヤのほうが印象に残るだろう。コメディアン的な役回りで、非常に上手かった。(左のおじさん。)

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 バースカランの新婚妻スダー(ネガティブ・ロール)を演じたのは、スーザン・ジョージという名の、バンガロール在住の女優らしい。

◆ 音楽・撮影・その他
 D・イマーンの音楽がこれまた素晴らしい。この人はどちらかと言うと騒々しい音楽を作ることが多かったが、本作では一転して、南インドの自然に溶け込むような情感たっぷりの曲を提供している。

 スルリとマイナーの村はクランガニ村となっているが、これはおそらく実在する村だろう。テーニの西方、ボーディ(Bodinayakkanur)という町の近く、ほとんどケーララ州との境に位置する村らしい。映画のイメージにぴったりのロケ地を見つけるために、ロケハンにはかなり力を入れたようだ。
 実は、本作はこの村からテーニまで行く行程がロードムービー仕立てになっているのだが、見ると分かるとおり、ロードムービーというよりはほとんど冒険映画になっている。こちらの記事で監督自身が回想しているが、撮影はそれ自身がトレッキングと言えるような、脚力を使うものだったようだ。
 ちなみに、映画全編で人工照明は一切使わず、自然光のみで撮影が行われている。

◆ 結語
 さて、ウダヤニディが「寝られなかった」、カマル・ハーサンが「よく寝られた」と語った本作だが、私はと言えば、鑑賞後に脱力感を感じ、すぐ家に帰ってベッドに横たわったら、そのまま朝まで眠ってしまった。しかし、安眠というわけではなく、ただ何をする気力も湧かなかったのである。かといって、映画に失望・落胆したわけでは全然なく、この奇妙な感覚のせいで、本作に対する評価を決めかねている。
 ところが、タミル人はすんなりと楽しんでいるようで、現地ではヒットだと伝えられている。スーパースター・ラジニカーントも本作を観て感動し、制作チームに賛辞を寄せている(こちらにラジニの直筆手紙もあり)。
 そんなわけで、日本の皆さまも「ぜひ」ご覧になって、感想を聞かせていただきたい。

・満足度 : 3.5 / 5

 (オマケ画像:化粧をしたアマラさん。やっぱりディーピカっぽいところがある。)

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
>彼女を見るために、わざわざ20ドル払ってアインガランのDVDを買ってください。

はい、買います(笑

戯れ言モードはさておき、

>ただ、タミル映画のネオリアリズム作品群も、私が観察する限り、形はいくら変わっても、タミル映画伝統の情感は保持されていると思う。こうした情念は、ラジニの作品も、【Paruthiveeran】も、【Boss Engira Baskaran】(10)も、あまり変わりないように思えるのである。

同様の関心を持っている者としてはたいへん興味深く拝読しましたが、では同一の情念が二つの異なった様式で表現されなければならない理由は何なのでしょう?困惑は深まるばかりです。

ところでプラブ・ソロモンといいアマラ・ポールといい、クリスチャンなのに部分的に典型的なヒンドゥー名が付いてるというのも、一寸珍しいのではないかと思いました。
メタ坊
2010/11/13 16:38
>では同一の情念が二つの異なった様式で表現されなければならない理由は何なのでしょう?

私の感覚では、同一の情念が、二つでも三つでも、異なった様式で表現されても何ら不都合はないと思います。

ただ、Aという様式で表現しうるものを、なぜわざわざBという様式を用いて表現しなければならないのか、その十分な理由は何か?ということになると、私もよく分かりません。
 
カーヴェリ
2010/11/14 02:00

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