カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Anaganaga O Dheerudu】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2011/01/27 21:51   >>

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 シッダールタ主演の新作テルグ映画は【Anaganaga O Dheerudu】。
 本作の話題点は、周知のとおり、ウォルト・ディズニーが制作に加わっているということだ。3年ほど前からハリウッド資本がインド映画界に進出し始めているというのはよく知られた事実だが、それはボリウッドに限った話で、南インド映画界はまだまだ先のことかな、と思っていたら、とうとうテルグ映画界にもやって来た。ちなみにウォルト・ディズニーは、ヒンディー語作品では2008年に【Roadside Romeo】というCGアニメ映画を制作し、好評を博している。
 出演者面での話題は、2人の著名俳優の娘がそれぞれテルグ映画デビューを果たしているということだろう。すなわち、カマル・ハーサンの娘シュルティ・ハーサンと、モーハン・バーブの娘ラクシュミ・マンチュ・プラサンナである。2世といえば、本作の監督プラカーシュ・コーヴェラムーディも、テルグ映画界の高名な監督K・ラーガヴェンドラ・ラーオの息子である。
 題名の「Anaganaga O Dheerudu」は、直訳しにくいが、「昔々、ある戦士が」みたいな意味。
 事前に公表されていたスチールやトレイラーが素敵なファンタジー映画を予想させるものだったので、本編公開前から期待の膨らむ1作となっていた。

【Anaganaga O Dheerudu】 (2011 : Telugu)
物語・監督 : Prakash Kovelamudi
出演 : Siddharth, Shruti Haasan, Lakshmi Manchu, Baby Harshita, Subbaraya Sharma, Ravi Babu, Ramji, Tanikella Bharani, Ali, Brahmanandam
音楽 : Salim-Sulaiman, M.M. Keeravani, Koti, Mickey J. Meyer
撮影 : Soundar Rajan
美術 : Bhupesh R. Bhupathi
編集 : Shravan Katikaneni
制作 : Walt Disney Pictures & K. Raghavendra Rao

《あらすじ》
 昔々、アンガ国にアイレンドリ(Lakshmi Manchu)という女王がいた。アイレンドリは蛇の力を身に付けた魔女で、好き放題をして人々を苦しめていた。アガルタ村の子供たちも彼女の魔術で病魔に犯されていた。ドルキ(Ramji)は子供たちを救うため、プシュパギリに住むモークシャ(Baby Harshita)という少女を連れて来ようとする。モークシャは病気を癒す不思議な力を持っていたからである。
 プシュパギリに到着したドルキは、僧侶(Subbaraya Sharma)に会って事情を説明する。僧侶はモークシャを連れて行くことを認めるが、戦士のヨーダ(Siddharth)を伴に付けるよう指示する。ヨーダは盲目であったが、僧侶からモークシャの護衛を任されていたからである。
 ドルキとモークシャ、それにヨーダの一行はアガルタ村へと旅立つ。道中でヨーダはモークシャに、自分が盲目になった経緯と、プリヤという女性に対する愛を語って聞かせる。
 ・・・
 プリヤ(Shruti Haasan)はジプシーで占い師の娘だった。ヨーダは彼女の美しさに心奪われ、ほどなく二人は愛し合うようになる。だが、スディグンダム(Ravi Babu)という乱暴な兵士が現れ、二人を襲撃し、ヨーダの目を潰してしまう。ヨーダは僧侶に救われ、モークシャの警護に当たることになるが、プリヤの行方はそれ以来知れなかった。
 ・・・
 一方、アイレンドリは、自分の活力を維持するために、獄に繋いだ若い女の生き血を摂取していたが、ある時、モークシャの血を月食の日に摂取すれば不死身になれることを知る。彼女は様々な手段を用いてモークシャを誘拐しようとするが、その度にヨーダに阻まれる。だが、ヨーダが酒に酔い潰れている間に、モークシャはとうとう拉致されてしまう。
 モークシャはアイレンドリの宮殿の獄に繋がれる。ヨーダはモークシャが送った蝶に導かれて、アイレンドリの宮殿に到着する。そこで彼は今やアイレンドリの部下となっていたスディグンダムと相対し、戦いの末、打ち負かす。だがその時に、スディグンダムの口からプリヤも獄に繋がれていることを聞く。ヨーダはプリヤとモークシャを救い出し、宮殿を脱出する。
 モークシャは霊力でヨーダの目を治す。そして、モークシャ、ヨーダ、プリヤ、ドルキの4人はアガルタ村に到着する。だが、そこへアイレンドリがやって来、ヨーダとの間で壮絶な戦いとなる、、、。

   *    *    *    *

 まったく緊張感も張りもない、クラゲのような作品だった。
 基本的に子供向けの映画だということは予想できたので、どんなに子供じみたものが出てきても腹を立てまいと、おおらかな気持ちで鑑賞したのだが、それでも何ヶ所かで腹が立った。

 最大の過ちは、偉大なテルグ映画界がわざわざディズニー映画なんぞに手を出したことだ、などと言うつもりはない。ディズニーの制作による否定的な影響(テルグ映画の手法・テイストとのミスマッチ等)は、ないとは言えないにせよ、そう大きなこととは思えない。むしろ、CGの技術やイメージに通常のテルグ映画では見られない瞠目すべき部分があった。そうではなくて、最大の戦犯者は、プラカーシュ・コーヴェラムーディ監督であり、彼のストーリー、脚本の甘さだ。
 もっとも、物語のアイデアは面白いし、ストーリー展開もシンプルで、子供向け映画ということを考えると、悪いわけではない。しかし、語り口と見せ方はお粗末だった。例えば、モークシャはアイレンドリに誘拐されるなどして、何度か危機にさらされる、、、ということになっているのだが、その度にあっさりとヨーダが救い出して、戦士映画に不可欠な血沸き肉踊るといった緊迫感がない。この程度では、いかに子供向けとはいえ、下手すりゃ【Yamadonga】(07)や【Magadheera】(09)などのテルグ・ファンタジー映画に慣れたAP州の子供なら満足しないかもしれない。

 それに輪を掛けてひどかったのは、シッダールタだ(写真トップと下)。「盲目の戦士」という設定だったが、まったく戦士らしく見えなかったし、盲人の演技もできていない。(そもそも、内容的に、なんでヨーダが盲目である必要があるのか、分からない。)ヒーロー物であるはずなのに、はっきり言って、悪役の魔女(ラクシュミ・マンチュ演じる)に食われていた。

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 口コミ情報で裏は取っていないのだが、実は本作のヨーダ役は、マヘーシュ・バーブやNTRジュニア、プラバース、アッル・アルジュン、ラーム・チャラン・テージャなど、トリウッドの若手スターが揃ってオファーを断ったという経緯があるらしい(どうも主人公の「盲目」という設定が嫌われたようだ)。それを、【Bommarillu】(06)以来ヒット作がなく、人気も下降気味で、年齢的にもイメージチェンジを必要としていたシッダールタが引き受けたという形らしいのだが、そもそもアクション映画などやったことのないシッダのこと、まったく役の期待値にミートしていなかった。この役はNTRジュニアかプラバース、またはラーム・チャランがやれば、映画全体もある程度救われたと思う。

 対して、良かった点は、すべてのレビューで称賛されているが、魔女アイレンドリを演じたラクシュミ・マンチュだ(下)。

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 実は、演技としては大したことをやっていないはずだが、このアイレンドリという役のキャラクター造形・イメージは、他の登場人物が押しなべてイマイチだったのに対し、唯一精彩があった。
 撮影は特殊メイクに3時間、メイク落としに1時間というご苦労なものだったようだが、その甲斐あって、カットごと、シーンごとに変わる彼女の相好は見ものだった。もっとも、ものによっては【ピンク・フラミンゴ】のミス・ディヴァイン、または、紅白歌合戦の小林幸子の衣装を着た和田アキ子、女装したミスター・スポック、かしまし娘の正司花江に見えなくもなかったが、全体としては本作の見どころだと言える。

 もう一人、プリヤ役のシュルティ・ハーサンも見どころだと言える。この人も演技的には特に何もしていないのだが、その宇宙人的美貌はこういうファンタジー物にはぴったりだった。(下)

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 物語は、もしかしたらインドのなにがしかの民話などを下敷きにしているのか、またはプラカーシュ監督のオリジナルなのか、分からない。アイデアとして、ヒーローが「盲目」で悪役が「女」というのは、インド映画として珍しく、注目すべきことかもしれない。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はサリーム&スレイマン、M・M・キーラワニ、コーティ、ミッキー・J・マイヤーと、異例の大布陣。しかし残念なことに、グラフィックスで凝った映像のほうに気が取られて、音楽はほとんど印象に残っていない。

 そのグラフィックスは、インド映画にあっては確かに最高レベルだったと思うが、インパクトという点ではそれほど面白みはなかった。唯一、クライマックスのアイレンドリの変身のみ気合いが入っていた。

 屋外撮影のロケ地は、トルコの各地(カッパドキアやパムッカレなど)が大々的に使われている。

◆ 結語
 ディズニーが制作した初の南インド映画という「状況」は注目すべきだが、生の映画作品として、満足して鑑賞できるものではない。本作を楽しみにしていた邦人インド映画ファンには申し訳ないが、スチールやトレイラー以上のものは映画本編からは出て来ないので、騒ぐなら鑑賞前に騒いでおくことをお勧めする。

・満足度 : 2.0 / 5

¶参照
The Legend of a Warrior
http://southscope.in/telugu/article/legend-warrior

(オマケ写真:素顔のラクシュミ・マンチュ・プラサンナ。実はなかなかの別嬪さんでございます。)

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
>内容的に、なんでヨーダが盲目である必要があるのか

そういや、1992年のマラヤーラム映画にYodhaというのがあって、主演のモーハンラールが盲目の剣士でした。

http://www.imdb.com/title/tt0290937/

これ、なにか伝承的な下敷きがあるんでしょうかね。ちょっと興味をそそられました。
Periplo
2011/01/27 22:49
まあ、ディズニーがサウスに進出したらどんなことになるか、前から儂がゆってたやんか等と今更発言しても詮ないことですから緘黙することにして。

気になるのはシッドゥが以前からこの映画がfolklore filmだというような発言をして"Pathala Bhairavi"を引き合いに出した経緯があるということです。

socio-fantasyというのは(仮にジャンルとして成立すると仮定して)けっこうテルグ独自のものという気がするのですが、それとの連続性が本作とどうあるのかというのは気になります。

人物造形が(ヘンに)類型的だというのは一体どのジャンルの特徴なのでしょうか?その辺りから宛にならぬネット情報だけに依拠するのではなくて、インフォーマント情報をふくめて考えてみたいものです。
メタ坊
2011/01/28 00:05
Periploさん・メタ坊さん
示唆に富むコメント、ありがとうございます。

テルグ映画がこうしたファンタジー物を作った場合、まして監督がK・ラーガヴェンドラ・ラーオの息子とくれば、なんらかの伝承を下敷きにしていると考えて間違いないと思うのですが、確証が得られなかったので触れませんでした。「Pathala Bhairavi」や「Yodha」との関係も私には分かりません。

ただ、「Yamadonga」や「Arundhati」、「Magadheera」などの流れを見ていると、テルグ映画に「フォークロア」や「ソシオ・ファンタジー」の新しい傾向が生まれつつあるのは確かなようですね。

この「Anaganaga O Dheerudu」に関しても、こうした様々な考証に関心があったのですが、本編を見て意欲が失せました。
私は潔くいち抜けしますんで、後はお任せしますわ〜。
 
カーヴェリ
2011/01/28 14:35

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