カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Payanam】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/02/16 18:57   >>

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 タミル・テルグ同時制作映画というのはしばしば登場するが、私はあまり好きではない。というのも、ざっと見渡した限りでもタミル映画とテルグ映画は全く違った趣向、味わいがあり、従って、どう見ても相容れない嗜好を持っているとしか見えないタミル人とテルグ人が、わざわざ同じ一つの作品を共有する必要もないと思うからである。第一、私のようにどっちの言語からも等しく部外者の者にとっては、どっちの版を観るべきか、いつも迷ってしまう。
 しかし、こうした同時制作版は、南インドの2大映画マーケットを視野に入れているだけあって、話題作であることが多い。

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 この【Payanam】も2言語同時制作作品で、やはり話題作とされていた。【Payanam】はタミル語版だが、テルグ語版は【Gaganam】という題名で、同日に公開されている。テルグ語版は観ていないので断言はできないが、両作ともスタッフ・出演者はほぼ同じであるようだ。プロデュースは、タミル語版はプラカーシュ・ラージ、テルグ語版はディル・ラージュがやっている。
 本作の話題のなり方はやや胡散臭く、「歌なし、ヒロインなし、コメディーなし」というものだった。ハイジャックをテーマにしたアクション・スリラーということで、要はハリウッド映画をお手本としているだけだろうと、この辺は捨てておいてもいいのだが、あのラーダーモーハン監督がアクション・スリラーを撮ったというのは、私的にびっくりだった。【Mozhi】(07)と【Akasamantha】(09)を見る限り、アクション系作品とは無縁の人のように思えたのだが、、、。
 主演は両言語版ともナーガールジュナ。ナグさんのコマンドー姿にもしびれそうだが、タミル語を話すナグさんというのにも興味津々だ。
 脇を固めるのはプラカーシュ・ラージ。彼はラーダーモーハン監督と殊のほか相性が良いようで、同監督のすべての作品でプロデュースし、出演者としても重要な役を演じている。
 ヒロインはいないとの触れ込みだが、一応それらしい女優として、プーナム・カウルとサナー・カーンがエントリーしている。
 題名は、「Payanam」は「旅」で、「Gaganam」は「空」という意味らしい。

【Payanam】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Radhamohan
出演 : Nagarjuna, Prakash Raj, Poonam Kaur, Sana Khan, Rishi, Talaivasal Vijay, Kumaravel, M.S. Bhaskar, Manobala, Bharath Reddy, Prithviraj, Brahmanandham, Ravi Prakash, Harshavardhan, Melkote, Chaams, Saran, Mohan Ram, Sri Lakshmi, その他
音楽 : Pravin Mani
撮影 : K.V. Guhan
美術 : Kadhir
編集 : Te. Kishore
制作 : Prakash Raj

《あらすじ》
 チェンナイ発デリー行きの旅客機が5人組のイスラム教系テロリストにハイジャックされる。彼らはパキスタンのラワルピンディまで行くよう指示したが、メンバーの1人が撃った銃弾がコックピットの計器類を破壊してしまったため、機長はやむなくアーンドラ・プラデーシュ州のティルパティに緊急着陸させる。内務大臣のヴィシュワナート(Prakash Raj)や国家保安部隊のラヴィンドラ(Nagarjuna)らが現場空港に集結し、対策本部が設置される。
 テログループの要求は、獄中にいる彼らのリーダー、ユースフ・カーン(Saran)の釈放であった。ユースフ・カーンは核兵器の知識を持つ非常に危険なテロリストであり、また、2年前にラヴィンドラ自身が苦労の末逮捕した経緯もあって、釈放はためらわれた。だが、100名近い乗客(その中には中央政府の大臣も含まれていた)の命を救うために、インド政府はユースフ・カーンの釈放を決定する。
 しかし、ジャンムー・カシミールの収容所から搬送する際に、車が雪崩に遭い、ユースフ・カーンは死亡してしまう。ティルパティの対策本部に動揺が走る。なお悪いことに、1人のテレビレポーター(Harshavardhan)が警官になりすまして空港内に侵入し、ユースフ・カーン死亡の情報を得て、それをニュースとして流してしまう。
 そのニュースを見て騒ぎ始めたテログループに対し、対策本部は、ユースフ・カーンの死亡は誤報であり、怪我を負って入院中だと伝える。そのため彼らは、ユースフ・カーンが生きている証拠をテログループに見せなければならなくなる。
 対策本部は、ユースフ・カーンの逮捕を描いた娯楽映画があり、その中でユースフ・カーンそっくりに扮している俳優がいることを知る。彼らはその大部屋俳優ランガナートを探し出し、彼の演じるユースフ・カーンが病床よりジハードを呼びかけるビデオを作成し、テログループに見せる。
 だが、実際にユースフ・カーンが死んでしまっている以上、人質交換という手は使えない。対策本部は、もはや特攻作戦しか策がないことを悟り、ラヴィンドラにすべてを託す。
 ラヴィンドラは、テログループの要求どおり逃亡用の航空機を1機用意し、その中に偽のユースフ・カーンを乗せてティルパティ空港に着陸させることにする。そして、テログループが飛行機を乗り換えるわずかの隙を突いて、彼らを射殺する作戦を立てる。しかし、乗客を巻き添えにしないためには、テログループに関する正確な情報を得、乗客に対して緻密な行動指示を与える必要があった。ラヴィンドラは、客室清掃係のラクシュミとスチュワーデスのヴィマラ(Poonam Kaur)を介して、乗客の1人である退役軍人のジャガディーシュ(Talaivasal Vijay)と密かに連絡を取り合う。
 事件発生から5日目の晩、計画どおり作戦が開始され、ランガナート扮するユースフ・カーンを乗せた飛行機がティルパティ空港に到着する、、、。

   *    *    *    *

 はっきり言って、面白かった。
 インドでハイジャックをテーマにした映画がどれだけ作られたか定かでないが、題名が思い浮かぶだけでも、ヒンディー映画の【Zameen】(03)と【Hijack】(08)、マラヤーラム映画の【Kandahar】(10)がある。どれも観ていないので勝手なことは言えないが、レビューを読む限り、あまり芳しくない出来のようである。もしかしたら、この【Payanam】はインド初のハイジャック映画の成功例になるかもしれない。
 【Zameen】と【Kandahar】は、実際に1999年に起きた「インディアン・エアラインズ・814便ハイジャック事件」に材を取ったものらしく、この【Payanam】もそうではないかと言われていたが、直接に事件をなぞったものではなかった。むしろ、インドで起こりそうなハイジャック・ケースをラーダーモーハン監督が自身の視点でまとめたものだと言えそうだ。

 それにしても、ほのぼのとした家族ドラマやロマンスを作ってきたラーダーモーハン監督が、こういうスリリングなアクション映画でも冴えを見せるとは驚きだ。大体においてスリラーらしい緊張感が持続できている。
 しかも、単純なアクション仕立てに終わらず、ラーダーモーハン監督らしいヒューマニスティックなメッセージも随所に盛り込まれている。テーマ上、テロ批判というのが第一にあり、それに絡めて政府高官の有事に対する無能ぶりやマスコミの無責任な行動に対する批判もあるが、なんといっても、人と人との間に垣根を作らない監督の「友愛」主義といったものが、本作でも効いている。
 ただ、難を言えば、集団演出が上手くないように見えた。例えば、機内の人質となった乗客100人の様子や、クライマックスのパニックシーンなど、あまりリアリティーの感じられないものだった。
 そして、やけに晴れ晴れとした爽快感のある作品なのだが、逆に引っ掛かるものがほとんどなく、1回観れば十分かなぁ、とも思える。どこか「優等生の作った優良作品」という感じがしなくもなかった。

 私的に気に入っている点は、本作が映画的な要素を物語の中に取り込んでいることだ。
 例えば、テログループを欺くトリックとして、大部屋俳優ランガナートを使ったドラマを用いている点だが、実際のテロ事件でこんな手は使えないとは思うが、映画作品としてのアイデアは面白かった。また、このシーンに絡めて、ブラフマーナンダムがちんけな映画監督役で登場しており、適当な息の抜きどころとなっていた(写真下)。この場面は「全体の緊張感を弱めている」といった批判もあるようだが、もしこの展開がなければハリウッド映画と変わらなくなってしまうので、私は良かったのではないかと見ている。

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 また、人質となった乗客の中に‘Shining Star’チャンドラカーントという名の映画スターがおり、彼は出演映画の中では数々の無敵のヒーローを演じ、ユースフ・カーンを逮捕する役までやっていながら、実際はゴキブリを見ても怖がる小心者で、同乗していたファンからも冷たい目で見られることになる。これだけならインドの映画スターに対する皮肉で終わるのだが、クライマックスでこの男が意外な活躍を見せ、「ヒーローはやっぱりヒーロー」でオチを付けているところがインド映画(特に南インド映画)らしかった。

◆ 演技者たち
 ラヴィンドラ役のナーガールジュナについては、詳述不要、カッコいいの一言に尽きる。戦闘服姿のナグさんも珍しいと思うが、ベレー帽が非常に粋だった(写真下)。
 ちなみに、タミル語版の本作でもナグさん自身がタミル語のセリフをアフレコしている。(という前情報だったが、私はどうも他人のアフレコとなったのでは?と訝っている。)

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 プラカーシュ・ラージについても特に語ることはない。きっちり仕事をしていたと言っておこう。
 他の脇役陣では、乗客の1人、退役軍人役のタライヴァーサル・ヴィジャイ、クリスチャン役のM・S・バースカル、それにクマーラヴェールが印象的だった。この辺はラーダーモーハン監督作品の常連俳優。医師役のRishiもまずまずだった。

 綺麗どころのお二方では、サナー・カーンのほうが目立った使われ方だった。
 スチュワーデス役のプーナム・カウルは、ストーリー上重要な役割を演じるが、もっと活用できたのではないかと思う(下)。

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 上に書いたとおり、ブラフマーナンダムがちょっとしたコメディーを演じている。
 大部屋俳優のランガナートは、かなり重要な役回りなのに、演じている俳優の名前さえ分からない。彼は偽のユースフ・カーンに扮することになるのだが、もしかして本物のユースフ・カーンを演じた俳優と同一の俳優が演じているのかもしれない。なんであれ、上手い駒の使い方だった。

 クレジットにあるPrithvirajの名前は、例のマラヤーラム映画界の「ヤング・スーパースター」プリトヴィくんのことではなく、別の俳優だった。「シャイニング・スター」チャンドラカーント役を演じていた。(それにしても、誰のパロディーじゃ、これは?)

◆ 音楽・撮影・その他
 確かに歌もダンスシーンもなかったが、BGMはなかなか良かったと思う。

 撮影はトップクラス。
 撮影に使われた空港は、当然、実際のティルパティの空港ではなく、ラモジ・フィルムシティーに建てられたセットらしい。3000万ルピー使ったとのこと。機内での撮影は、実際の航空機を使ったのかセットなのか分からないが、もしセットなら、かなりの力作だ。

 映画中でハイジャックされたキャリアは‘Star Jet’となっていたが、これはもちろん架空のもので、たぶん‘SpiceJet’か‘Kingfisher’をイメージしたものだろう。

 映画中の言語はほぼタミル語で、ヒンディー語/ウルドゥー語、英語が若干混じる程度だった。乗客たちももっぱらタミル語で会話し、テロリストも対策本部にタミル語で話すよう要求している。(テルグ語版ではこのタミル語の部分がそっくりテルグ語に換わるのだろう。)
 セリフと俳優の口の動きはほぼ合っていたので、おそらく多くの場面で2言語別テイク撮ったものと思われる。

◆ 結語
 端正にまとめられた南インド版ハイジャック映画。南インド映画には珍しく、日本人鑑賞者を選ばない作品じゃないだろうか。お勧めできる。

・満足度 : 3.5 / 5

《 見ても害なし・勝手トレイラー 》
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ヴィシュワナート「ユースフ・カーンが死んでな、テロリストとの交渉が長引きそうや。今夜は泊まりになるさかい、お前、酒とツマミ買うて来いや。」
ラヴィンドラ「イエス、サー。」
ヴィシュワナート「ツマミは柿の種とアジの缶詰やで。」








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ラヴィンドラ「えっ、、、台本によると、缶詰は『イワシ』になってまっせ、プラカっさん。」
ヴィシュワナート「げげっ、そやったか! 『魚へん』に『弱い』はアジとちゃうんかぃ!?」








 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
勝手トレイラーのおかげで「ちっともシリアスでない映画」というインプリンティングが行われてしまいますた(笑
メタ坊
2011/02/17 07:58
スリルと笑いは紙一重、ってとこでしょうか。
あんまり外してませんよ、この勝手トレイラー。
 
カーヴェリ
2011/02/18 00:24
いやぁ実に面白かったです(英語字幕も比較的読みやすかった)。脚本も練り込まれていて…。
ラヴィンドラの奇策がなんとも…。最後までハラハラしました。ベルの紐とか…。あんなところに時限爆弾をセットしてあるとか…。
おっしゃるように乗客にあまり緊迫感がなくなんとなくほのぼのとしている感じはありましたが…f^_^;。
プラカシュラージさんは相変わらずの存在感でしたが、決して主役を食うことはなくて上手いなぁと思いました。
ブラフマーナンダムさんのギャグシーンはしつこくない感じであっさりとしてましたが…。トリウッドの時と違ってコリウッドとアウェイなので少し真面目な感じがしました。声もイケボな感じで…。あんな演技もできるんだと見直しました。

もしかしてあの飛行機ブリンダヴァナムのインドゥとクリシュの関係を歌った最初のダンスの背景で使われていた飛行機ではないでしょうか?ダンス中の背景の飛行機のエアライナーの名前がSTARjetですし、垂直尾翼の企業ロゴが似てますし…。
ナン
2013/07/19 19:42
>プラカシュラージさんは相変わらずの存在感でしたが、決して主役を食うことはなくて上手いなぁと思いました。

はい、これは脇に徹してましたね。
影の薄い役意外なら何でもできる、ユーティリティー・プレーヤーです。

>トリウッドの時と違ってコリウッドとアウェイなので少し真面目な感じがしました。

そういえばそうでしたね。
ブラフマーナンダムはタミル映画にもたまに出演していますが、やっぱり大人しめなのが多いようです。

>もしかしてあの飛行機ブリンダヴァナムのインドゥとクリシュの関係を歌った最初のダンスの背景で使われていた飛行機ではないでしょうか?

よく見ていますね。Brindaavanamのディスクは持っていないので、確認できませんが、もしかして映画撮影用にどっかにあれが置いてあるのかもしれませんね。
 
カーヴェリ
2013/07/26 00:38

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