カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Yuddham Sei】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/02/19 01:17   >>

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 ミシュキン監督のタミル映画。
 ミシュキン監督は、ウィキペディアのフィルモグラフィによると、【Chithiram Pesuthadi】(06)と【Anjathey】(08)と【Nandalala】(10)の3作しか発表していない割には、なぜだかタミル映画界でのツラがでかく、あちこちで偉そうな発言をしている。例えば、こちらの記事によると、近ごろのタミル映画界には碌な映画がなく、自身の【Nandalala】(10)は良い映画なのに未だに買い手が付かないことを嘆いている(注:昨年の12月に公開された)。また、ヒットした【Chithiram Pesuthadi】と【Anjathey】についても、商業主義に屈したC級作品だと、自らこき下ろしている。
 私は【Chithiram Pesuthadi】は観ていないが、【Anjathey】はDVDで鑑賞していたく感銘を受けたので、この発言はカッコよすぎると思う。もっと素直に成功を喜んでもよさそうなものだ。【Nandalala】については、これは北野武監督の【菊次郎の夏】(99)の翻案ということもあり、ぜひ観たかったが、公開が私の一時帰国中に当たってしまった。
 そんな事情もあり、同監督の新作である本作はなんとしても見逃すまいとした。
 ちなみに、上に紹介した記事の中で、ミシュキン監督はダメなタミル映画の例として「ラジニ映画」を引き合いに出しているが、当のラジニカーントはこの【Yuddham Sei】の試写を観て、ミシュキン監督に対して大きな賛辞を贈っている(こちらの記事)。
 題名の「Yuddham Sei」は「宣戦布告」といった意味。
 なお、この監督の「ミシュキン」という名は本名ではなく、ドストエフスキーの『白痴』の主人公「ムイシュキン公爵」から取ったものらしい。
 (写真下:ミシュキン氏近影。「ボトルの2,3本は軽いぜ」といった面構えだ。)

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【Yuddham Sei】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Mysskin
出演 : Cheran, Deepa Shah, Jayaprakash, Y.Gee. Mahendra, Lakshmi Ramakrishnan, Manicka Vinayagam, Yugendran, Selva, Marimuthu, E. Ramadoss, Shruthi, Iniya, Neetu Chandra(特別出演)
音楽 : K (Krishna Kumar)
撮影 : Sathya
編集 : Gagin
制作 : Kalpathi S. Aghoram

《あらすじ》
 チェンナイではしばらく前から奇怪な事件が続いていた。連続バラバラ殺人事件と若い女性の失踪事件である。
 JK(J・クリシュナムールティ:Cheran)は中央情報局の捜査員。彼は最近事故で両親を亡くし、また妹も行方不明になったりで、鬱屈した気分の中にいた。彼は上司に辞表を提出するが、引き止められ、逆に連続バラバラ殺人事件の捜査を任される。
 JKは、プラカーシュとタミル(Deepa Shah)、それに検死官のジュダス・イスカリオット(Jayaprakash)らと捜査チームを組む。バラバラ殺人の被害者の身元が判明し、粘り強く聞き込み調査を行った結果、関連人物として2人の名前が挙がる。ドゥライパンディ(Manicka Vinayagam)とプルショーッタマン博士(Y.Gee. Mahendra)である。
 ドゥライパンディは大手衣料店のオーナーだったが、以前に女性用更衣室を覗き見して、警察に連行されたことがあった。その覗き見被害にあったのがプルショーッタマン博士の娘スジャーだった。ところが、その後プルショーッタマン博士と妻のアンナプールニ(Lakshmi Ramakrishnan)が嫌がらせを受けることになり、一家は焼身自殺をしてしまう。だが、遺体が見つかったのは夫妻と息子のニシャントのみで、スジャーの遺体は見つからなかった。
 JKはこのプルショーッタマン事件の話を担当警官のイサーキから聞き、捜査のやり直しを要求する。彼はまたジュダスのところへ行き、プルショーッタマン夫妻とニシャントの検死記録を確認する。
 そうしている間にも、同じ手口のバラバラ殺人事件は続き、女性の失踪も起きていた。また、JK自身も暴漢のグループに命を狙われたりする。焦るJKであったが、彼はバラバラ殺人事件の遺体遺棄現場がすべて警察副本部長ティリサングの管区であることに気付き、この事件と警察との関係を嗅ぎ取る、、、。

   *    *    *    *

 かなり面白いサスペンスであったが、同時に沈鬱なムードをぐっとこらえなければならない作品でもあった。
 本作は当初【Anjathey】の続編では?と噂されたこともあったが、ストーリー的に関連性ない。確かに、【Anjathey】と同じ犯罪物で、テーマ的にかぶるところも多い。だが、【Anjathey】が、典型的なマサラ映画とは全然違っているにもかかわらず、なお純粋なタミル映画のテイストを持っているのに対し、本作はもっと異色度を増している。レビューではアメリカ映画の【Seven】(95:デヴィッド・フィンチャー監督)や韓国映画の【No Mercy】(10)との類似が指摘されているが、なるほど、この鬱々としたイメージは寒い国の映画という気はする。北緯13度付近に住む人間がこういう映画を作っちゃいかんと思う。

 【Anjathey】と同様、ミシュキン監督の表現スタイルが冴え渡る作品だった。
 明確な意図のあるカメラアングル、移動カメラ、後の展開を暗示する小道具、登場人物の内面を代弁する象徴的映像など、「語る映像」という点ではインドの映画監督の中でもトップクラスの上手さだろう。
 また、映像技術だけでなく、脚本的にも優れており、サスペンスとしてなかなか先の読みにくい展開となっていた。例えば、冒頭シーンで、夜更けに若い女がオート三輪タクシーに乗ろうとするが、乗車拒否に遭う。そのオート三輪には、おそらく死んでいるか眠らされているかの別の若い女が乗っている。そして、オート三輪の運転手がナイフを持って先の女の後を追いかける。その場面の後に、段ボール箱に入れられた手足が街の複数の場所で発見されるという場面が続く。当然観客は、この手足は女のものだと予想するのだが、男のものだと鑑識され、「あれっ?」と煙に巻かれる。
 テンポは、妙に急ぎすぎの近ごろの南インド映画とは違って、非常にスローなのだが、それでも緊張感が途切れない。
 と、なかなか優れた映画なのだが、しかし私は、全体としての完成度は【Anjathey】より落ちると思う。それは、チェーラン演じるJKの人物設定と、彼を軸とした犯罪捜査の展開がリアリスティックなものなのに、クライマックスがまるでホラー映画のように、虚構性の強いものになっていたからだ。この転調は舵の取り誤りだと思う。

 ストーリーの分かりにくさに比して、テーマはもっと単純ではっきりしている。若い女性に対するハラスメント、富裕層のふざけた性的倒錯趣味、犯罪をなくすどころか、それを幇助さえする警察、そういったことに対する「怒り」が、バラバラ殺人事件の犯人に対する共感という形で、切々と語られている。不気味な物語だが、この切ない情感のおかげで、鑑賞後感は不思議と悪くない。
 それにしても、こういう猟奇的事件を描いた映画というのは、インドでもタミル映画に多く現れているように思えるが、何か特別な理由でもあるのだろうか。

◆ 演技者たち
 主人公JKはむっつりとした捜査官で、とてもインド映画の主人公とは思えないヒーロー像だが、それをチェーランが的確に演じている。銃を持つチェーランというのもピンと来ないが、ミシュキン監督が上手く料理している。(写真下)

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 検死官ジュダス・イスカリオット役のジャヤプラカーシュ、プルショーッタマン博士役のY・G・マヘンドラ、及び妻役のラクシュミ・ラーマクリシュナンが印象に残る。このラクシュミ・ラーマクリシュナンという女優は近ごろ母親役でよくタミル映画に出演している人のようだが、今回初めて記憶に残った。

 ヒロインはいない。JKの部下のタミル役はディーパ・シャーというデリーのモデルで、タミル映画デビューらしい。特に目立った活躍はしていなかった。

 アイテム・ソングが1曲あり、その中でニートゥ・チャンドラとアミール・スルターン(監督)がダンスを踊っている。特に面白いアイテム・ナンバーでもなかったが、ニートゥ・チャンドラがいやに太っていたので、言及しておきたくなった。
 (写真下:デビュー当初は「少女」といった感じのニートゥだが、ずいぶんエッチな女に成長したもんだ。)

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 ところで、この歌の中でニートゥ・チャンドラは黄色いサリーを着ているのだが、ミシュキン監督作品のアイテム・ダンサーはすべて黄色のサリーを着ているらしい。単なる監督の好みだろうか、それとも黄色のサリーというのは何か特別な意味があるのだろうか?

◆ 音楽・撮影・その他
 面白いことに、音楽監督のK(Krishna Kumar)、撮影監督のSathya、編集のGaginはすべて本作がデビューらしい。
 音楽は歌が1曲しかなかったが、BGMのきゅるきゅると響くバイオリンが印象的だった。撮影も素晴らしい。

◆ 結語
 なかなか良くできた映画だが、どことなくお勧めしにくいものを感じる。特に、タミル映画は愉快なもの、と思っている人はパスだろう。ミシュキン監督の表現スタイルに関心のある人は、まず【Anjathey】を観ることをお勧めする。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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