カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Nadunisi Naaygal】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/02/23 22:10   >>

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 ガウタム・メーナン監督の新作タミル映画は【Nadunisi Naaygal】。
 実は、私はガウタム監督が本作を撮っていることは意識になく、先週末の公開前日になって、タミル人の友人に指摘されて初めて気付いた。ガウタム監督の新作なら観に行かずばなるまいと、慌てて出かけたのだが、よくよく考えれば、私はあまり同監督の作品が好きでもないのであった。【Vinnaithaandi Varuvaayaa】(10)の紹介のときにも似たことを書いたが、どうもガウタム監督は自分の映画的世界に酔いすぎているように思え、また、がっちりと作り込んだ作風は私には重い。とはいえ、ガウタム作品といえば今のタミル映画のお手本みたいに見做されたりもするので、やっぱり観ておかなければならないのである。
 題名の「Nadunisi Naaygal」は「真夜中の犬」という意味らしい。テレビで流され始めたトレイラーから、はっきりとスリラーだと予想された。
 本作はテルグ語タビング版も作れら、【Erra Gulabilu】という題名で同日公開されている。こちらは「赤いバラ」という意味らしい。
 本作の製作費は3500万ルピーで、最近のガウタム作品にしては破格の低予算作品である。(参考に、【Vettaiyaadu Vilaiyaadu】は2億4000万ルピーらしい。)

【Nadunisi Naaygal】 (2011 : Tamil)
物語・監督 : Gautham Vasudev Menon
出演 : Veera, Sameera Reddy, Swapna Abraham, Deva, Ashwin Kakumanu, Samantha Ruth Prabhu(特別出演)
撮影 : Manoj Paramahamsa
編集 : Anthony
制作 : Kumar, Jayaraman, Madan

《あらすじ》
 チェンナイの郊外で3人の警官が殺害される。このうち1人は、殺害される直前に、怪我を負った若い女性を病院に搬送していたが、その女性も何者かによって誘拐される。捜査の結果、警察副本部長ヴィジャイ(Deva)はヴィーラ(Veera)という男を逮捕する。そして、ヴィーラの口から恐るべき犯罪歴が告白される。
 ・・・
 ヴィーラの本名はサマルで、少年期には父とムンバイで暮らしていた。母とは死別していた。父は裕福だったが、性癖に問題があり、夜な夜な男女の友人を集めては変態セックス・パーティーを開いていた。ある晩、サマル少年もそのパーティーを目撃してしまい、父に参加するよう強要され、性的虐待を受ける。
 隣に住む一人暮らしの女性ミーナークシ(Swapna Abraham)は、隣家の淫行に気付き、警察に通報する。サマル少年の父は、踏み込んできた警官の前で自殺する。
 ミーナークシは、孤児となったサマル少年を引き取り、名前をヴィーラと改名させ、息子のように育てる。やがてヴィーラ少年は大人へと成長し、ミーナークシに対して特別な愛情を抱くようになる。ヴィーラはまた少年期に受けた虐待の悪夢に苦しめられ、その不安から逃れるために、ミーナークシの体を求めるようになる。その頃からヴィーラに変質者的行動が現われ始める。
 ミーナークシは友人のクリシュナと結婚する。激しい嫉妬に襲われたヴィーラは、二人の寝室に忍び込み、クリシュナを刺し殺してしまう。その時、ローソクの火が寝具に燃え移り、ミーナークシも全身に大火傷を負う。
 ヴィーラは、火傷で醜い姿となったミーナークシと共に、チェンナイ郊外にある一軒家に引っ越す。
 ヴィーラはカレッジの学生となるが、インターネットで知り合ったサンディヤという女性に惚れ、家に連れて帰る。だが、ミーナークシはサンディヤをナイフで刺し、「復讐だ」と告げる。やむなくヴィーラはサンディヤにとどめを刺す。以来、ヴィーラは次から次へと若い女を誘拐し、ミーナークシと共に殺害を繰り返す。
 ヴィーラはクラスメートのスカンニャ(Sameera Reddy)という女性に惚れるが、彼女にはアルジュン(Ashwin Kakumanu)という恋人がいた。ヴィーラは、スカンニャとアルジュンが映画を観に行った際に、アルジュンを殺害し、スカンニャを誘拐する。だが、家に連れ帰る途中で3人の警官に見つかり、警官の1人がスカンニャを保護して病院へと搬送する。だが、ヴィーラは2人の警官を撃ち殺し、スカンニャが運ばれた病院まで行き、もう1人の警官も殺して、スカンニャを再び誘拐して、家に戻る。
 一連の出来事を目撃して不審に思った一般人が、ヴィーラの家の前から警察に通報する。それを受けて、警察副本部長のヴィジャイが動く、、、。

   *    *    *    *

 もう、これですわ、皆さん。(と、当惑モードのカーヴェリ氏。)
 前回紹介した【Yuddham Sei】の記事の中で、「こういう猟奇的事件を描いた映画というのは、インドでもタミル映画に多く現れているように思えるが、何か特別な理由でもあるのだろうか」と書いたばかりだが、またまた純度の高い猟奇スリラーの出現となった。(チェンナイに明るい陽は昇らないのか?)

 本作品におけるガウタム・メーナン監督の意図ははっきりしている。映画館で入場料を取って公開しているわけだから、商業娯楽映画には違いないのだが、作品全体からは「教育的」、「実験的」なコンセプト映画といった印象を強く受ける。ガウタム監督は観客としてシネコン層にターゲットを絞り、大衆的な娯楽要素を一切排して、ひたすら禁欲的にメッセージを伝えたかったかのようだ。こういう作品はヒットしないものだが、監督が興行収入に目をつぶったことは、本作の製作費を見れば分かる。

 テーマは、幼少期の子供への精神的・肉体的虐待がいかにその人格形成に悪影響を及ぼすか、ということで、映画の終結部で精神科医(おそらく本物の)が登場し、「触法精神障害者」の事例紹介などを行っている。同内容のタミル映画としてバーラティラージャ監督の【Sigappu Rojakkal】(78)があるらしいが、私は観ていない。最近の作品では、セルワラーガヴァン監督の【Kaadhal Kondein】(03)が近い。作品の核となるサイコ・キラーの発想はヒッチコック監督の【サイコ】を思い浮かべればいい。
 本作はまた、若い女性に対するきつい教訓を含んでいる。スカンニャ(Sameera Reddy)は恋人のアルジュンに誘われて、夜、「親に内緒で」窓から家を抜け出し、映画を見に行くが、その軽はずみな行動が血も凍る事件へと直結する。そして、サイコ・キラーのヴィーラ(Veera)はスカンニャに対し、過去の被害女性のケースに触れ、「女というのは概して賢いものなのに、インターネットで簡単に引っ掛かったりするのさ」としゃあしゃあと語っている。被害者に対するヴィーラの変態的責め苦は気が滅入るほどえげつなく、これを見た女性客は自ずと自分の行動をチェックしてしまうだろ。(事実、相当ショックだったらしく、私の近く座っていたインド人女性は、映画が終わっても、「気持ちが悪くなった」と言って動けなかった。)

 実験的ということでは、本作は音楽がまったくない。先日紹介した【Payanam】も「歌なし、ヒロインなし、コメディーなし」の実験的作品という触れ込みだったが、この【Nadunisi Naaygal】はその比ではなく、とにかく音楽シーンはおろかBGMさえないのである。それで、映画のエンドロールでは、普通は音楽が流れ、楽しいNG集があったりするのだが、そこは上に書いたとおり、医師の解説が延々と続くという趣向になっていた。ガウタム監督といえば、これまで比較的質の高い音楽シーンを作ってきただけに、これは異例のことだ。
 当然、笑いの要素もない。ただ、シニカルな笑いはあり、例えば連続殺人鬼のヴィーラが自分の番犬を警察に殺されて、「犬を殺すなんて、お前、それでも人間か!」と叫ぶシーンなど、笑いどころと言えなくもない。

◆ 演技者たち
 主人公のヴィーラを演じたのはヴィーラという人で、ガウタム監督の助手を6年間やっている人らしい。以前にも同監督の作品に端役で出演しているようだ。
 主演は本作限定だと思われるが、それはもうキモいことキモいこと。監督は彼の顔にインスピレーションを受けて、本作のストーリーを考えたのではないかと思われるほどだ。(写真下)

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 スカンニャ役のサミーラ・レッディは非常に良かった。ほとんどが恐怖に歪んだ表情で、演技をしているのかなんだかよく分からなかったが、泣かせても怒らせてもリアルな感じだった。おそらく1つぐらいは賞を取りそうだが、この役で賞をもらっても、あんまりうれしくないだろうなぁ。(下)
 ちなみに、吹き替えはチンマイさんが完璧にこなしている。

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 重要なミーナークシを演じたのはスワプナ・アブラハムという人。まったく知らない人だったが、ケーララ出身のクリスチャンで、歌手らしい(こちら)。ヴィーラに襲われるシーンの顔のアップはなかなか見ものだった。

 サマンタがカメオ出演するということで、このグロテスクな作品のどこに登場するのか楽しみだったが、何ともコメントのしにくい使われ方だった。

◆ 音楽・撮影・その他
 上に書いたとおり、音楽はない。
 撮影は【Vinnaithaandi Varuvaayaa】も担当したマノージ・パラマハムサで、非常に良い。

 ところで、本作でヴィーラが犯行に使った車はトヨタ・キルロスカルの「INNOVA」で、【Yuddham Sei】で殺人犯が乗っていた車もトヨタ・キルロスカルの「Qualis」だった。メイド・イン・バンガロールの日本ブランド車が映画で使われるのは名誉なことだが、使われ方がどうもなぁ、、、。

◆ 結語
 本作は検閲で「A」指定(成人限定)が付いたが、まさにA指定にふさわしい作品だ。しかし、興味本位のエロ・グロではなく、真面目な意図を持つ教育的映画だと言える。間違いなくヒットしないだろうし、私も「お勧め」とは言いにくいが、異色作として観ておいてもいいかも。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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