カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Badrinath】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2011/06/15 21:01   >>

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 V・V・ヴィナーヤカ監督、アッル・アルジュン主演のテルグ映画。
 ‘スタイリッシュ・スター’として高い人気を誇るアッル・アルジュンは、しかし【Parugu】(08)のヒット以来、他のテルグ若手スターと同様、興行的に苦戦している感がある(【Vedam】は批評家ウケは良く、興行的にもまずまずだったはずだが、アッル・アルジュンのファンからのウケは悪かった)。そんな彼だが、今回は強力プロダクションであるギーター・アーツの下、ヒットメーカーのV・V・ヴィナーヤカ監督と組み、タマンナーをヒロインに迎え、大ヒット間違いなしの布陣で臨む。しかも、ジャンルは今のテルグ映画でトレンドとも言える「戦士」物で、予算は3億5千万ルピー、まさに横綱級の話題作となっていた。

【Badrinath】 (2011 : Telugu)
物語 : Chinni Krishna
脚本・監督 : V.V. Vinayak
出演 : Allu Arjun, Tamannaah, Prakash Raj, Kelly Dorjee, Ashwini Kalsekar, Raghu Babu, Krishna Bhagawan, Pragathi, Tanikella Bharani, Kovai Sarala, Sayaji Shinde, Rao Ramesh, Dharmavarapu Subramanyam, Brahmanandam, M.S. Narayana, Master Bharath
音楽 : M.M. Keeravani
美術 : Anand Sai
撮影 : Ravi Varman
編集 : Gowtam Raju
制作 : Allu Aravind

《あらすじ》
 インドのヒンドゥー教寺院は、イスラーム勢力、ヨーロッパ列強と、外敵の攻撃に悩まされる歴史であり、現在もテロリストの格好の標的となっていた。そこで高名な僧侶たちは自衛のための戦士を育成することを決議し、ヒマーラヤ山麓タクシャシラの僧院に住むビーシュマ・ナーラーヤン(Prakash Raj)にその任務を託する。ビーシュマは多くの少年たちの指導に当たるが、中でも羊飼いの息子バドリーをその才能と勤勉さゆえ愛していた。バドリー(Allu Arjun)は長じて優秀な戦士となり、バドリーナート寺院の守護者に任命される。
 アラカーナンダー(Tamannaah)が病気の祖父の治癒祈願のため、祖父と共にバドリーナート寺院にやって来る。彼女は寺院での事故で両親を亡くしたせいで、ヒンドゥー教の神々を呪い、無神論者となっていた。敬虔なバドリーはアラカーナンダーのこの態度を嫌い、彼女に神を愛させようと、様々な霊験を示す。また彼は彼女の両親の供養際(Pinda Pradhanam)も執り行う。おかげでアラカーナンダーは神を信じるようになり、またバドリー自身をも愛するようになる。
 ビーシュマはバドリーをタクシャシラの僧院の後継者にしようと決意し、バドリーの両親(Tanikella Bharani & Kovai Sarala)に告げる。しかし、そのためにはバドリーは生涯独身であらねばならなかった。それを知ったアラカーナンダーはショックを受ける。アラカーナンダーがある男を愛していることを知ったバドリーは、それが自分だとは露知らず、恋が成就するようにと、彼女をバドリーナート寺院のプージャに参加させる。
 ところで、アラカーナンダーには性質の悪い叔母(Ashwini Kalsekar)がおり、マフィアのサルカル(Kelly Dorjee)と結婚していた。アラカーナンダーはそのことで叔母をひどく侮辱したことがあった。叔母はそれを根に持ち、嫌らしく復讐するために、自分の息子とアラカーナンダーを結婚させようとしていた。サルカルの手の者はアラカーナンダーと祖父を拉致し、カルナータカ州バッラーリにある自宅に監禁する。その際にバドリーも負傷して入院する。
 傷の癒えたバドリーは、アラカーナンダーの乳母より彼女が監禁状態であることを知らされる。彼はバッラーリに飛んで来て、サルカルの手の者をなぎ倒し、アラカーナンダーを救い出してバドリーナートまで連れ帰る。
 サルカルと叔母は一味を引き連れ、バドリーナートまで乗り込んでくる。またビーシュマは、バドリーとアラカーナンダーがただならぬ関係に発展しそうなのに気付き、危機感を感じる、、、。

   *    *    *    *

 私は「近ごろのテルグ映画は面白くない」という嘆きをこのブログでもしばしば記してきた。ヒット作がないとか面白い作品がないとかいう意味ではなく、とにかく人気スターを配したメインストリームの娯楽大作(つまりテルグ映画らしいテルグ映画)に、ごく一部を除いて、ほとんど冴え・勢いが感じられないのである。
 この【Badrinath】も酷いもんだ。こんなににぎやかなアクションとダンスがありながら、観ているほうは退屈、という映画も珍しいだろう。ヒーローの熱さに反して、鑑賞後感は冷え冷え、製作費は超高額なのに、中身はチープ。まったく、何をやってんだ。これはテルグ映画ではない! テルグ映画の張りぼてだ!
 テルグ映画やアッル・アルジュンに対するこれまでのよしみから、「イマイチ」の評価を与えてもいいが、実際にはそんなレベルではない。

 こんな映画でも、内容を知らずにファンその他が映画館にどっと押し寄せ、先週(公開第1週)末だけでかなりの興収を上げたらしい。しかし、その大観衆の何割が本作を観てずっこけたことか。おそらく、先週末はAP州でささやかな地震が観測されたに違いない。
 プロデューサーのアッル・アラヴィンド(アッル・アルジュンのオヤジ)はほくほく顔かもしれないが、ことの深刻さを認識せず、これで満足するようなプロデューサーは48時間以内にインドを去れ!

 インド映画つうのはね、幼稚と言われようとアホくさいと言われようと、観たらほのぼのとした感覚が残り、その安堵感が巡り巡って寿福増長、遐齢延年、天下泰平をもたらす方便となるものだと私は思っている。それなのに、酒がまずくなるようなインド娯楽映画を作る監督なんて、その罪業ゆえ、来世では「カンナダ映画を観る会」の会長職でも押し付けられればいい。

 とにかく、ストーリーがよう分からんかった。
 いや、実はストーリー自体はサルでも分かるほど単純なものなのだが、何を目指してこのストーリー構成を考え、脚本を書いたのかが分からない。
 外敵(特にイスラームのテロリスト)からヒンドゥー寺院を守護するために戦士を養成する、そしてその戦士の一人がバドリー(Allu Arjun)だという動き出しからすると、テロ(悪の力の比喩)に対する寺院の守護者(平和を維持する力の比喩)の闘いがメインテーマだと思われたのだが、そんなのはさっさと消え、物語の焦点はバドリーがビーシュマ(Prakash Raj)の後継者となるべく独身生活を貫くのか、それともアラカーナンダー(Tamannaah)との愛を選ぶのか(つまり、バドリーを巡ってのビーシュマとアラカーナンダーの三角関係!)ということに移る。このプロットはなかなか面白いと思ったのだが、それも弾けないまま、実はアラカーナンダーには阿漕な叔母(Ashwini Kalsekar)とそのマフィアの夫(Kelly Dorjee)がいて、彼女に対して狼藉を働くのだが、それに対してバドリーがせっせと聖剣を振り回すという展開になる、、、。しかしね、倒されるべき悪はカルナータカ州バッラーリに住んでいるような田舎ヤクザだったのかね? インドの山奥で修行して身に付けた聖なる武術は、こんなことのために用いられるのかね? つまり、ビーシュマとバドリーのプロットと、アラカーナンダーの家族問題のプロットがどうも折り合いが悪く、物語として求心力がない。

 そうは言っても、宗教(信仰)という現象をばりばりの娯楽映画のフォーマットに練り込むのはテルグ映画の得意とするところであり、その点で本作は興味深いと思った。従来の神様映画とはまた違った、新しい様相を持つテルグ映画が開発されつつあるのではないか、そんな気配は感じる。この種の映画では【Anaganaga O Dheerudu】【Shakti】、それに本作と、今年に入って連続して失敗しているが、いくつかの試行錯誤を経て、そのうち傑作が現れるのではないだろうか。
 しかしながら、この「ネオ宗教風娯楽映画」という面でも本作は及第していない。信仰に対する熱い意志を描くというより、なんだかヒンドゥー教のパロディー映画かな?と思える部分もちらほらあった(第一、寺院の灯火でそんなに簡単に人が焼け死にません!)。

◆ 演技者たち
 ことアッル・アルジュンのパフォーマンスに限って言えば、十分に見応えがあった。
 相変わらず感覚だけで見せているところがあり、演技などしていないのだが、ダンスとアクションはさすがだと言える。ダンスシーンの撮影では固定カメラと長回しを多用し、アッル・アルジュンの振り付けが寸断されずに見ることができる。こうしたショットに耐え得るダンスのできる俳優というのは、そうざらにいるものではない。

 本作に対する文句は山ほどあるが、タマンナーの使い方もその一つ。彼女のファンとしては、これはミスキャストだったと言いたい。
 まず第一に、無神論者という設定が彼女のイメージに合っていない。次に、肌の露出が多すぎる。いくら高額ギャラをもらっているからといって、タマちゃんもここまで監督・プロデューサーに譲歩しなくてもよかろうに。痛々しいものを感じた。
 タマンナーの実力が十分生きるような役柄でもなかったのだが、しかし、そんな中でも上手さを見せているところはさすがだった(特にクライマックスの表情)。
 また、彼女(アラカーナンダー)がプージャでバドリーの持っていたアールティの火を吹き消すシーンがあるのだが(相当罰当たりな行為)、あれは私が一度はやってみたいと思っていたことなので、それをタマちゃんがやってくれて、スカッとした。
 (写真下:バニーとタマちゃん。テルグではこんなお花畑路線はもう消滅したと思っていたが。)

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 白髪白髭のビーシュマ役のプラカーシュ・ラージは、脚本のまずさの影響を蒙っているが、良かったと思う。ただ、このオッサンが「ブラフマーチャーリヤ」の役だとは「ウソや!」と思ったが、アッル・アルジュンの「神に仕える敬虔な戦士」のほうは「もっとウソや!」と思ったので、まだマシだった。
 面白いといえば、このビーシュマ翁がバドリーを巡ってアラカーナンダーと三角関係のような形になり、ビーシュマがすねるシーンがあるのだが、この辺りは本作のささやかな見どころ。

 悪役はケリー・ドールジーとアシュウィニ・カルシェーカル。前者は【Don】(07)にも出ていたスマートな悪役俳優だが、本作ではまったく良いところなし。彼の演じるサルカルはクライマックスで腰を抜かしていたが、見ている私も腰を抜かした。
 アシュウィニ・カルシェーカルは【Phoonk】(08)や【Rakta Charitra 1】(10)などにも出ていた強面オバサン。私はけっこう好きなのだが、これまた本作では鈍かった。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は当然のごとくキーラワーニの担当。音楽自体は悪くないのだが、聴いたことのあるような曲ばかりで、新鮮味はなかった。
 また、ダンスシーンは似たような趣向のものが3曲ほど並んでしまい、しかも挿入タイミングも悪かった。

 撮影はまずまず。
 映画の舞台となった「バドリーナート寺院」は実在する有名なバドリーナート寺院のことなのだが、実物そっくりのセットを作っての撮影のようだ。この手間暇のかけ方は評価したい。

 アクションは相当「首チョパ」「腕チョパ」があったようで、編集でぶちぶち切られていたり、画面の半分が白く消されていたりした。これは興醒め。V・V・ヴィナーヤカ監督ほどの経験者なら、どんなことをすれば検閲で引っ掛かるかぐらいは分かっているだろうから、この辺は企画段階から計画的に考えてほしかった。

◆ 結語
 【Badrinath】は、近ごろのテルグ映画の大作にありがちな締まりのない失敗作。経験の浅い監督がやってしまいそうな間違いだが、V・V・ヴィナーヤカ監督を始めとする経験豊かなスタッフ陣がこういう映画を作っていては、トリウッドの将来も心許ない。猛省を促したい。

・満足度 : 2.0 / 5
 

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
>酒がまずくなるようなインド娯楽映画を作る監督なんて、その罪業ゆえ、来世では「カンナダ映画を観る会」の会長職でも押し付けられればいい。

この部分に反応して「面白い」気持ち玉を一個つけちゃいました。

自分にとって、昨年公開のテルグ映画で一番楽しくて充足感があったのはMaryada Ramannaだったんですが、そのこと自体にテルグ映画の将来に対する一抹の不安を感じたりしました。
Periplo
2011/06/15 21:53
早速のコメント、ありがとうございます。

まぁ、私もこの年になるとぼやきが多くなり、どうせぼやくなら面白可笑しゅうぼやこうと、そんな気持ちで今回の記事を書かせてもらいました。

テルグ映画は混迷期にあるように思えますが、これまでの遺産とタレントの豊富さで、再びどかんとやってくれると思いますよ。
 
カーヴェリ
2011/06/16 00:52
いつもなら貶すとこは貶しても別のところではちゃんとヨイショしてバランスとる川縁さんなのに、ここまで酷評するとは珍しいですね。

私はお珠ちゃん+くそがきダンスという「見るべきエレメント」が2つ以上ありますので、光碟になったら見ると思いますが、参考にしたいと思います。

こういうSword & Sorcery的なファンタジーは、アメリカ人は単純バカだからすぐに善と悪の原理的戦いみたいなダイコトミカルなストーリーに走ってしまいますが、インドの神さんって一神教的なタームでは善といいきれん場合が少なくないじゃないですか。その分「巨大な悪」というかたちのアンタゴニストは提出しにくいのかなという気がしないでもありません。
メタ坊
2011/06/16 05:59
はい、映画の出だしから、「こりゃ、ヒンドゥー教徒の剣士がイスラーム教徒のテロリストをばったばったと切り倒すヒンドゥー原理主義映画かな?」と危惧したんですが、さすがにそれは回避していました。
「巨大な悪」である必要はありません。重要なのはストーリーの中での悪役の位置付けと観客に与える印象度ですね。やっぱり、カタルシスのない結末は問題だと思いました。
 
カーヴェリ
2011/06/16 20:02
まずはオススメいただきありがとうございました。特撮ヒーロー風の雰囲気のある映画でしたね。
YouTubeで見てみました。と言っても、テルグ語で英語字幕なしなので、雰囲気だけ味わった感じですがf^_^;。
スワミ〜プラカシュラージさんの老け役でお腹いっぱいになりました。いやぁ合いますねw。怪しさの中に強さがあるあの雰囲気。イイですね!拳法を教えるシーンもとても雰囲気がありました。
逆ドラゴンボールインフレーションって感じでだんだん敵の規模がしょぼくなって行きましたね…。あの拳法は、あんな連中のために培ったのか?と…。雰囲気はある映画だと思いました。ドラゴンボールの道着風味の衣装を着た主人公が師の言いつけを守るすごい真面目な感じなのに好感を持ちました。アルジュンさんのアクションは筋肉質な感じで熱いなあと思いました。
ブラフマーナンダムさんとかヴェーヌさんとかお馴染みの顔がいるのに、NTRジュニアさんが出てこないのに違和感を感じるのはどうにかしたいですw。
アクションの合間合間の白いのは…ひどいなと思いましたf^_^;。ピー音の映像版なんですね。逆に見てみたくなりますねw。

いろんな作品を見たいと思っていますが、インド映画は長いので、なかなか消化出来ないですねf^_^;。


ナン
2013/07/18 23:41
>スワミ〜プラカシュラージさんの老け役でお腹いっぱいになりました。

はい、イイですよね。

>アルジュンさんのアクションは筋肉質な感じで熱いなあと思いました。

ダンスもキレキレで、好きです。

>インド映画は長いので、なかなか消化出来ないですねf^_^;。

急ぐことはありません。気長にお付き合いください。
 
カーヴェリ
2013/07/26 00:29

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