カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Bettada Jeeva】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2011/06/28 20:47   >>

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 先日、第58回・国家映画賞で最優秀カンナダ映画賞を受賞した【Puttakkana Highway】を紹介したが、カンナダ映画界からもう1作、最優秀環境保護映画賞(Best Film on Environment Conservation / Preservation)を獲得した【Bettada Jeeva】も一般公開されたので、観て来た。
 本作は、カルナータカ州の高名な作家、社会活動家であったシヴァラーム・カーラントのもう60年以上も前に書かれた同名小説の映画化。
 監督はP・シェーシャードリで、この人は過去4度国家映画賞を受賞しており、ギリーシュ・カーサラワッリと並ぶカンナダ芸術映画の雄と目されている。今回が5度目の名誉となる。
 題名の「Bettada Jeeva」は「山の生活」という意味で、カルナータカ州南西部の西ガーツ山脈を舞台とした物語である。

【Bettada Jeeva】 (2011 : Kannada)
脚本・監督 : P. Sheshadri
出演 : Suchendra Prasad, Dattatreya, Rameshwari Varma, Laskhmi Hegde, その他
音楽 : V. Manohar
撮影 : Ananth Urs
編集 : B.S. Kemparaj
制作 : Basanthkumar Patil

《あらすじ》
 インド独立前のカンナダ語地方。独立運動家のシヴァラーム(Suchendra Prasad)は憲兵の弾圧を逃れて、ウドゥピ北方の山間部に逃げ込む。道に迷った彼は、たまたま遭遇した村人の案内で、ケラバイルという集落に暮らす老人ゴーパーラ(Dattatreya)の家で一夜を明かすことにする。ゴーパーラとその妻シャンカリ(Rameshwari Varma)はこの思いがけない客人を手厚くもてなす。当初、すぐに立ち去るつもりだったシヴァラームだが、老夫婦の人柄と好意、それに当地の自然の美しさに感銘を受け、しばらく滞在することにする。
 老夫妻にはシャンブという息子がいたが、インド独立運動に参加すると言ってボンベイへ出たきり、行方知れずになっていた。シャンカリはシヴァラームがボンベイへ行き来していることを知り、息子を探し出して、連れて来てくれるよう依頼する。シヴァラームはシャンブについて何も心当たりがなかったが、それでも夫妻にはノーと言えなかった。
 ゴーパーラはシヴァラームに、近くに暮らすナーラーヤナとラクシュミ(Laskhmi Hegde)夫妻を紹介する。ゴーパーラはこの若夫婦を我が子のように面倒を見ていた。夫婦はゴーパーラから土地を借り、農業で生活していた。ナーラーヤナとラクシュミもシヴァラームを手厚くもてなすが、しかし二人はシヴァラームの存在に複雑なものを感じていた。というのも、もし彼が本当にシャンブを連れて帰って来たならば、自分たちが使っている土地を返さなければならなくなると心配していたからである。シヴァラームはラクシュミに、シャンブについては何も知らないと告げる。
 やがてシヴァラームが充実した山での生活に別れを告げる日がやって来る。
 ・・・
 それから幾年月も経て、すっかり年老いたシヴァラームがケラバイル村を再訪する。

   *    *    *    *

 まさに「国破れて山河あり」といった感じの、深い感慨の残る映画だった。
 そこに住んでいる人が変わっても、人々の考え方や行動が変わっても、山河は相変わらず存在し続ける。人と自然と、どっちが根源的な存在なのだろう。
 しかし、気を付けなければならないのは、山は存在し続けても、そこにある森が存在し続けるとは限らないし、ダムを作れば川の姿も変わるし、汚染の問題もある。そして、そんな小賢しいことをやるのは、他ならぬ人間である。

 環境問題を扱ったアートフィルムだが、いささかも退屈せず、非常に面白い。その面白さの要因は、とにかく西ガーツ山脈の自然の美しさと、当時そこに住んでいたであろう村人の様子が活き活きと描かれていることだ。
 物語の舞台となった山深い集落は、おそらく外界から切り離されたような所で、都市の権力支配の及びにくい所だったのだろう。この集落の住人は、ゴーパーラ老夫妻を始めとして、現在イギリスがインドを統治していること、それに対して都市部では独立運動が起きていることなど、ほとんど実感として意識していない。そして彼ら自身は、もう何百年も前から連綿と受け継いできた伝統的な生活(否、彼らにすれば「伝統的」という言葉さえ意識にないだろう)を実践している。それは農業と狩猟採集を基礎とした自給自足的な生活で、その見事に自然と一致した生活様式に、都会から来たインテリのシヴァラームと同様、映画の観客も驚嘆する。
 しかも、ゴーパーラ夫妻を始めとする村人たちが皆素朴で愛すべき人物として描かれており、こうした人々を失っていいのか、こうした人々を育む自然を失っていいのか、という自問が鑑賞後に残る。

 本作品は「環境保護映画賞」を受賞したが、非常にタイムリーな作品になったと言える。実は、ご存知の方も多いと思うが、インド政府は「西ガーツ山脈」をユネスコの世界遺産に推薦していたのだが、驚いたことにカルナータカ州政府がそれに対して反対を表明した、という経緯があったからである。(結局、日本の「小笠原諸島」と「平泉」も登録された今回の世界遺産委員会では、「西ガーツ山脈」は落選した。)
 カルナータカ州政府の言い分は、当地の保護体制はすでに確立されており、世界遺産登録はかえって邪魔になるし、現地に暮らす部族民の生活を制限することにもなりかねない、というものだが(こちら)、それに対して環境保護活動家は、カルナータカ州政府は結局「開発」を優先することだけを考えている、と反発している(こちら)。(開発には水力発電所の建設、森林伐採、地下資源の採掘などが考えられるが、それに伴い、一儲けできる政治家・役人・業者も多いことだろう。)
 これも難しい問題だが、私は「西ガーツ山脈」はインドの持つ至宝の一つだと見ている。宝には宝に相応しい遇し方というものがあるはずだと、本作品を観て改めてそう思った。

◆ 演技者たち
 老人ゴーパーラ役のダッタトレーヤ、及びその妻シャンカリ役のラーメーシュワリ・ヴァルマが素晴らしい。特にダッタトレーヤは、どうしてこんなに可愛いお爺さんが演じられるのだろうと思えるほど、愛嬌たっぷりだった。まさに自然と人間のナイーブさを背負ったかのような演技だった。
 (写真下:DattatreyaとRameshwari Varma。)

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 独立運動家シヴァラーム役のスチェンドラ・プラサードも申し分ない。この人はカンナダ商業映画ではあまり目立った活躍をさせてもらっていないが、私は非常に才能のある俳優だと見ている。こういう俳優を娯楽映画の分野でも有効に活用できれば、カンナダ映画も厚みが増すというものだが、、、。
 (写真トップ:左端がSuchendra Prasad。)

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はV・マノーハルの担当だが、さすがに良い。
 アナント・アルスの撮影も良い(というより、被写体が美しかったのだが)。

 地方を舞台にしたこの種のアートフィルムにはよくあることだが、本作でも当地の風俗・風習がうまく紹介されている。独特のオイルマッサージやシャーマニズムの儀礼、それにカルプ(karpu)と呼ばれるゾウやトラを捕らえる罠などが興味深かった。

◆ 結語
 原作は60年以上も前に書かれたものだが、内容的には風化していないようだ。この文学作品を取り上げ、タイムリーな映画に仕上げたP・シェーシャードリ監督には脱帽する。まさに国家映画賞に相応しい作品。お勧めできる。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
う〜ん、ひたすら見たいですが、こういうのは光碟にはならんでしょうねえ…

ゴーパーラ老人はブラーミンの地主という設定なんですね。

日本じゃどっかの映画祭がトチ狂って上映してくれるのを期待するしかないですかね(嘆息)
メタ坊
2011/06/29 06:25
可能性はあると思いますよ。シェーシャードリ監督の過去作はけっこうVCD(DVDじゃないですが)になってたりするんですよ。
映画祭のほうは何とも言えませんが、環境保護団体なんかが「環境問題を考える世界の映画祭」なんて、、、まぁ、やりませんね。
 
カーヴェリ
2011/06/29 22:33

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