カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Muran】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/10/07 22:28   >>

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 スターシステムが今もしっかり機能しているインド映画にあっては、どうしても大スター・人気スターを擁した話題作を中心に鑑賞していくことになるが、大スター・人気スターのカテゴリーに入らないけれど、実力ある個性的俳優の出演作も要チェック!
 このタミル映画【Muran】はそうした作品で、チェーランとプラサンナがメインキャスト。この二人の顔合わせというだけで、タミル映画ファンなら「きっと何かが違うはずだ」と予想するだろう。
 チェーランは国家映画賞を3度も取ったほどの優秀な映画監督だが、主演級俳優としても渋い仕事をしている。このブログでは【Raman Thediya Seethai】(08)と【Yuddham Sei】(11)を紹介した。本作では主演の他にプロデュースも行っている。
 対してプラサンナは、かなり特徴のつかみにくいキャラクターだが、【Anjathey】(08)で見せた悪役像は忘れがたい。実は彼は、昨年4月に東京で行われた「タミル・ニューイヤー」のイベントにゲストとして招待されており、その場に居合わせた日本人女性たちの心を虜にしたというニュースが遠くバンガロールまで聞こえてくるほど、「萌え系」の男優らしい。
 ところで、本作に出演している女優はニキタとハリプリヤとスマー・バッターチャーリヤ。この3人の名前を見て「これは観ずばなるまい」と反応するのはおそらく私だけだろう。これまた人気女優のカテゴリーに入らない面々だが、私的には注目している。特にハリプリヤは、ずっと以前からこのブログで紹介したいと思っていた、カルナータカ州出身の美系女優である(実は一度この作品で紹介している)。
 監督はラージャン・マーダヴという新人で、【Yuddham Sei】でミシュキン監督の助手を務めた人らしい。同作品で仕事を共にしたチェーラン(本作のプロデューサー)がわざわざ彼を監督に指名したようだ。
 本作はオリジナル・ストーリーではなく、ヒッチコック監督の1951年の作品【Strangers on a Train】(邦題:見知らぬ乗客)の翻案とのこと。
 題名の「Muran」は「葛藤」といった意味らしい。

【Muran】 (2011 : Tamil)
脚本・監督 : Rajjan Madhav
出演 : Cheran, Prasanna, Nikita, Haripriya, Suma Bhattacharya, Jayaprakash, Prathap Pothan, Neelima Rani
音楽 : Sajjan Madhav
撮影 : Padmesh
編集 : Arun Durairaj
制作 : Cheran, UTV Motion Pictures

《あらすじ》
 ミュージシャンのナンダ(Cheran)は、映画の音楽監督を志していたが、今は広告音楽の仕事しかもらえていなかった。ある日、ナンダは、バンガロールのホテルで打ち合わせをしているときに、アルジュン(Prasanna)という男が酒に酔って騒いでいるのを目撃する。翌日、ナンダがチェンナイに戻る際に、途中で車が故障してしまい、国道で立ち往生する。その時たまたま通りかかったのがアルジュンで、ナンダは彼の車に同乗してチェンナイまで向かうことにする。アルジュンは裕福な実業家の息子で、スリリングなことが好きな遊び人タイプだった。
 道中、親しくなったナンダとアルジュンはお互いの身の上話を始める。
 ・・・
 ナンダには妻のインドゥ(Nikita)がいたが、夫婦仲は最悪だった。ある日、彼はラヴァンニャ(Haripriya)という素直な女性と知り合い、心安らぐものを感じる。ラヴァンニャはナンダの音楽にも理解を示していた。ナンダはラヴァンニャに愛情を抱くが、インドゥがいる限り、結婚は無理だった。
 一方、アルジュンは、父デーヴァラージャン(Jayaprakash)の会社で働いていたが、女性社員のリンダ(Suma Bhattacharya)と恋仲だった。だが、リンダはデーヴァラージャンにレイプされ、そのために自殺してしまう。以来、アルジュンは父を激しく憎んでいた。
 ・・・
 アルジュンはナンダに突拍子もない提案をする。すなわち、アルジュンがナンダの妻インドゥを事故と見せかけて殺害し、同じくナンダがアルジュンの父デーヴァラージャンを殺すという、「交換殺人」だった。こうすれば、ナンダとアルジュンの関係は誰も知らないし、それぞれ殺害の動機がないので、安全にお互いの邪魔者を消せるというのである。しかし、ナンダはこの申し出をきっぱり断り、アルジュンの車を降りる。
 だが、ほどなくして、実際にインドゥが交通事故死する。アルジュンの仕業であった。その時からアルジュンはナンダにつきまとい、デーヴァラージャンを殺すよう脅し始める、、、。

   *    *    *    *

 ヒッチコックの作品を下敷きにしているとはいえ、インド(タミル)のスリラー映画の水準からすると、よくできているほうだろう。ネタ元の【Strangers on a Train】は観ていないので比較はできないが、現代のタミル映画として観ても違和感は感じなかった。主演のチェーランとプラサンナの演技も優れている。
 おかげさまで批評家からの評価も高いのだが、ただ、本作がヒットするかどうかとなると、私は客は呼べないと思う。上手に作っているのだが、結局は面白みが足りないのである。

 まず第一に、本作には笑い(ユーモア)の要素がほとんどない。ヒッチコックの作品自体がそうであるように、いかにスリラーとはいえ、緊張と緊張の合間に(適切なタイミングで)ふっと笑える要素は必要だろう。別にヴァディヴェールのコメディーを入れろとは言わないが、まったく笑えないタミル映画というのは、標準的なタミル人なら敬遠するはずだ。

 次に、本作のテンポはスリラー映画にしては若干遅い。ラージャン・マーダヴ監督はヒッチコック映画そのものを作ろうとしたわけではないと思うが、お手本のヒッチコック作品に比べると遅い。これも【Strangers on a Train】を観ていないので一般的な話しかできないが、ヒッチコック映画というのは概して展開が速く、不可解な出来事が畳み掛けるように襲ってくる怖さがあるのだが、本作では慎重にタメを作りすぎたようだ。

 上の2点とも関係すると思うが、おかげで本作はカタルシスの作用が弱い。スリラー映画というのは、クライマックスを経て結末に至ると、緊張感がほぐれて、「悪夢」から醒めたような晴れ晴れとした感覚が生まれてくるものだが(ヒッチコックの多くの作品もそう)、本作はも一つスカッとしない後味だった。

 上で私は「現代のタミル映画として観ても違和感は感じなかった」と書いたが、1点だけ違和感はあった。それはナンダ(Cheran)と妻インドゥ(Nikita)の関係なのだが、夫を蔑ろにして他の男と浮気する妻と、その妻に対して殺意を抱く夫という設定は、アメリカ映画なら無理なくても、タミル映画の中にそのまま待ち込んでいいのだろうかと思った。たとえ現実の次元で南インドにもこういう家庭が少なからずあったとしても、「良識ある」南インド人なら、まだ南インド映画のスクリーン上では見たくない事柄だろう。

 これらのことからすると、本作はアメリカ映画に親しんだ層が新趣向のタミル映画として楽しむことはあり得ても、タミルの一般大衆が喜んで観るとはどうも思えないのである。

◆ 演技者たち
 主演のチェーランとプラサンナの演技は本作の見どころだ。どちらも良いが、単純に見て面白いのはアルジュン役のプラサンナのほうだろう。【Anjathey】の悪役と同様、むしろ可愛いとも言える不気味な笑顔が恐怖を引き立てていた。本作の役柄に合わせるために、かなりダイエットしたらしい。(下)

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 対照的に、ナンダ役のチェーランは恐怖に怯える立場だが、こういう内面の表現をさせるとさすがに上手い。恐怖だけでなく、妻インドゥに対する複雑な心情、理解者ラヴァンニャに対する安らぎの表現など、難しい役柄だったと思う。(下)

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 そのナンダの苦悩の源、悪妻インドゥを演じたのはニキタさん。彼女は【Saroja】(08)のカリヤーニ役でタミル・ナードゥ州でもお馴染みのはずだが、カンナダではヒロイン女優でも、タミルでは悪女のイメージがあるようだ。(下)

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 さて、本作で私が楽しみにしていたハリプリヤ(ラヴァンニャ役)であるが、やっとこうした「話題作」に出演できるようになったか、、(感慨)。
 私はずっと前に彼女のことをカンナダ発の美人女優として売り込みたいと思い、「ハリピー」というニックネーム(かなり手抜きな命名だが)と「ハリピーで〜す。でも、覚せい剤はやってませ〜ん!」というキャッチフレーズまで用意していた。(そう、このキャッチフレーズを見て「古っ!」と感じた方は正解。彼女がサンダルウッドで注目され始めたのは2年前、日本ではのりピーの覚せい剤事件があった頃なんですよね。)しかし、その後カンナダ映画界でハラスメントを受け、さして活躍する機会を与えられないまま、やむなく他州に渡り、タミル映画の【Vallakottai】(10)やテルグ映画の【Thakita Thakita】(10)でやっと再注目されるようになったようだ。
 本作では印象的な役をもらっているし、評価も良いようなので、これを機に飛躍してほしい。(下)

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 リンダ役のスマー・バッターチャーリヤも、短い出番ながら目を惹くものがあった(下)。この人はコルカタ生まれで、ミスコン上がりらしい。南インド映画では【Kudirithe Kappu Coffee】(11)というテルグ映画に出演している。私は同作品は観なかったが、テレビCMに出ている彼女が可愛かったので、注目していた。好みのタイプというわけではないが、すらっとした足にはドキッとした。(ま、私ゃ、ラクシュミ・ライの足、ラクシタのケツ、ナミターの腹、シュウェーター・メーノーンの二の腕で結構なんですけどね。)

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽を担当したのはサージャン・マーダヴという人で、監督のラージャン・マーダヴとは双子の兄弟らしい。この二人はケーララの著名な音楽家、Raveendran(故人)の息子たちということだ。
 音楽とBGMは良い。ただ、前半のロマンス部の音楽は良かったが、後半の余計な所にも音楽シーンが入り、失速の原因となっていた。

◆ 結語
 【Muran】は、ラージャン・マーダヴ監督がデビューながら健闘した作品とも言えるが、先日紹介したアンジャナ・アリー・カーン監督の【Veppam】と同様、「新人の習作」といった感が強い。出演者の誰かに思い入れのある方なら観るべきだが、わざわざ映画館まで出かけるより、テレビかDVDで鑑賞したほうがいいだろう。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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【Ugramm】 (Kannada)
 カンナダ映画も変りつつあることを実感させてくれるギャング映画が現れた。監督はプラシャーント・ニールという聞いたことのなかった人だし(新人)、主演はフロップ続きで良いところのなかったムラリ(シュリームラリ)なので、ノーマークだったが、各方面からの評判が良かったので、観に行くことにした。  ヒロインは私が勝手に「ハリピー」と呼んでいるハリプリヤー。こっちにも注目したい。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/03/05 02:43

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