カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Saarathee】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2011/10/11 21:58   >>

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 ‘チャレンジング・スター’ダルシャン主演のカンナダ映画。
 ダルシャンといえば、ここ1ヶ月カルナータカ州のマスコミを騒がせ続けた時の人だ。というのも、先月7日に「妻に対する暴行事件」で逮捕されてしまったからである(こちら)。その後、各方面からの働きかけがあり、妻ヴィジャヤラクシュミも告訴を取り下げる意思を示すなどして、今月7日に彼の条件付き保釈が認められ(こちら)、事件は収束へと向かいそうである。
 この件でとばっちりを食ったのは女優のニキタで、どうもヴィジャヤラクシュミの訴状の中に、夫婦の不和の原因の一つに「ダルシャンとニキタの関係」というのが言及されていたらしく、それを知ったカンナダ映画プロデューサー協会が拙速に「ニキタの3年間のカンナダ映画出演禁止」を決定してしまったのである(こちら)。これは「根拠なし」ということで、プロデューサー協会は「禁止令」を撤回し、ニキタに謝罪するという形で収まった(こちら)。それはめでたしだが、被告のダルシャン自身ではなく、第三者の女優ニキタに攻撃が向けられたということで、「なんで女ばかりが?」という疑問を呼び(こちら)、南インド映画界の男性本位の体質が改めて明るみに出る結果となった。
 ダルシャンといえば、サンダルウッドきってのアクション・ヒーロー俳優であり、映画の中ではカッコいいセリフを吐きまくっていたのに、とんだ失態を演じてしまったようだ。それでも彼の業界における存在は大きく、ファンだけでなく、著名俳優や監督、プロデューサーたちからも擁護する発言が相次ぎ、別段彼の映画が上映禁止になるとかはなさそうである。(大体、インドの映画産業というのは、こういう出来事が起きたときこそヒットのチャンスだと見なしているふしがある。)
 本作【Saarathee】もこの事件の最中にあって堂々と公開されたものだ。監督はダルシャンの実弟のディナカルで、過去にやはりダルシャン主演で【Navagraha】(08)などを撮っている。
 題名の「Saarathee」は「御者」という意味で、ここでは「オート三輪タクシー」の運転手と、もう一つ、『マハーバーラタ』でアルジュナの御者を務めた「クリシュナ」の意味も込められているようである。

【Saarathee】 (2011 : Kannada)
物語・脚本・監督 : Dinakar Toogudeepa
出演 : Darshan, Deepa Sannidhi, Sarath Kumar, Sharath Lohitashwa, Ajay, Rangayana Raghu, Bullet Prakash, Lohitashwa, Kote Prabhakar, Sangeetha, Seetha
音楽 : V. Harikrishna
美術 : Eshwari Kumar
アクション : Ravi Varma
撮影 : Krishna Kumar
制作 : K.V. Satya Prakash

《あらすじ》
 ラージャ(Darshan)はしがないオート三輪タクシーの運転手だが、正義感の強い男。ルクミニ(Deepa Sannidhi)は心理学を学ぶ大学生。彼女はラージャの行いに感銘を受け、惚れる。ラージャもルクミニの愛に応える。
 だが、ルクミニはドゥルガーコーテという村の首長の一族の娘で、従兄のプラタープ(Ajay)が結婚を迫っていた。プラタープは彼女を村へと連れ去ってしまう。それを知ったラージャは友人たちと共に彼女を追ってドゥルガーコーテまで赴く。
 この村に来てラージャは不思議な感覚に捉われる。実は、彼はしばしば悪夢に悩まされていたが、村の様子と夢の場面が一致したのである。それは大きなチャームンデーシュワリ女神の像の前に来たとき、決定的となる。村の年老いた僧侶はラージャの右肩の刺青を見、お前はスーリヤナーラーヤナの息子、クリシュナだと告げる。
 ・・・
 スーリヤナーラーヤナ(Sarath Kumar)はかつてこの村を治めていた首長で、徳をもって村人から慕われていた。彼には弟のナーガッパ(Sharath Lohitashwa)とその息子のプラタープ、及び妹のシュルティ(Sangeetha)がいた。スーリヤナーラーヤナにも息子のクリシュナが誕生し、やがてシュルティにも娘のルクミニが生まれる。
 クリシュナは、物心ついたかつかないかのころ、水牛の大群に襲われそうになる。そこは父スーリヤナーラーヤナが救出に来たため、クリシュナは助かるが、父は死亡してしまう。その場面を見ていた叔父のナーガッパはクリシュナに、父の死の責任はお前にあり、村にいると危険だから村を出るように、と忠告する。幼いクリシュナはその言葉のままに出奔し、長じてラージャとなった、というわけである。
 ・・・
 クリシュナ(ラージャ)は実母(Seetha)やルクミニとも再会する。だが、ナーガッパとプラタープはスーリヤナーラーヤナの死の責任を問い、クリシュナを村から追い出す。せんかたなく村を去ろうとした際に、クリシュナは幼児の時と同様、水牛の大群に襲われる。その場はなんとか逃れるが、その過程で彼は父の死の真相を知ることになり、再び村へときびすを返す、、、。

   *    *    *    *

 ダルシャンは私の好きな俳優の一人だが、彼の作品はそう何本も観る必要のなさそうな単純なアクション映画がほとんどなので、【Porki】(10)以降に公開された3作は見送った。それなのに本作を観る気になったのは、上の事件の影響もあるが、「面白い」という口コミ評価をあちこちで耳にしたからである。
 で、実際に観てみたら、これが本当に面白いのである。ダルシャンの作品の中では最高の部類に入るだろう。
 もっとも、カンナダ映画らしい野暮ったさと大雑把さはあり、ストーリーは情けないほど幼稚で荒唐無稽、シャンカル・ナーグ主演のカンナダ映画【Auto Raja】(82)やラジニカーント主演のタミル映画【Baashha】(95)、テルグ映画の【Magadheera】(09)などを真似たかなと思える部分も多々あるのだが、とにかくカッコいいし面白いので、文句は言えないのである。徹底してヒロイズムにこだわった作品で、ひと昔前のタミルやテルグのアクション映画を思い出した。

 監督のディナカルは意外に(失礼!)頭の良い人のようで、本作でははっきりと狙ってきており、その狙いが的中した形だ。本作の公開日は9月30日で、ダサラ(ダシャハラー)祭に合わせており、もう一つ、シャンカル・ナーグの命日にも合わせている。
 ダサラ祭は、カルナータカ州ではマイソールのものが有名で、チャームンデーシュワリ女神が悪魔マヒシャースラを退治する神話にちなんで祝われる。これはカルナータカ州では非常に人気の高い神話で、本作ではこのチャームンデーシュワリ女神をうまくモチーフとして取り込み、ダルシャン演じる主人公をこの女神にオーバーラップさせている(下)。(参考に、ダルシャンとディナカルはマイソールの出身。)

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 他方、シャンカル・ナーグは非常にカリスマ性のあるカンナダ映画界の俳優・監督であり、惜しくも早死にしてしまったが、この人が現在も生きていたら、カンナダ映画の歴史も変わっていただろうと言われるほどの人物であり、今も人気が高い。本作は彼の命日にちなんで、人気作の【Auto Raja】をモチーフに取り込み、グラフィックスで再現したシャンカル・ナーグとダルシャンを一緒にダンスさせている。
 (写真下:オートのフロントガラスに張られた写真はもちろんシャンカル・ナーグ。)

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 本作が好意的な評価を得ている理由は、これらのポピュラーな英雄的存在に対してカンナダの庶民が自然に抱く「崇拝の実感」というものに、映画の内容をうまくリンクさせることに成功したからではないだろうか、と私は見ている。

 私は、南インドのアクション映画というのは昔の神様映画の一段世俗化したものであり、しかし、なおかつ神様映画の精神を保持しており、ヒーローは神様の似姿である、という説を取っている。外国人には消化のしにくい主人公の特徴やストーリー展開は、そう考えなければ説明が付かないのである。祭りの際に伝統的に野外で演じられるような宗教劇に対して抱く感覚、悪しきものが浄化され、新たな生命を得るような感覚、それと同じような感覚を南インドの大衆はアクション映画に見出しているのではないだろうか。優れたアクション映画というのはそうした信仰と結び付いた素朴な「実感」に触れるものであり、この実感が失われない限り、南インド型アクション映画というのは有意味なものとして存在し続けるのである。そうした観点からすると、本作は実によくできたアクション映画だと言える。(逆の例として、アクション映画の範疇に入らないが、マニ・ラトナム監督の【Raavanan】/【Raavan】がインテリ層や外国人からの受けは良かったものの、インドの庶民層からそっぽを向かれた理由というのは、同作が神話的世界をなぞりつつも、庶民の「信仰的実感」に触れることがほとんどなかったからだと私は見ている。)

◆ 演技者たち
 とにかく、ディナカル監督は徹底して兄ダルシャンを持ち上げており、多言は無用、ダルシャンのパフォーマンスは端的にカッコよかった。
 持ち上げ例、その1、前半でオートリクシャに乗っていた主人公が、後半では白馬に!

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 持ち上げ例、その2、オートドライバーが「アルジュナの御者・クリシュナ」に!

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 ヒロインはディーパ・サンニディという人で、これがデビュー作とのこと。ボリウッド女優のアムリタ・ラーオにちょっと似たタイプだが、器量はぐっと落ちる。しかし、芝居はできそうな感じなので、すっかり太ってしまったジェニファーの後釜として重宝されるかもしれない。ちなみに、ヨーガラージ・バット監督、プニート・ラージクマール主演の話題作【Paramathma】(現在公開中)にも出演している。(下)

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 脇役陣では、タミル俳優サラット・クマールの特別出演は効いている。テルグからアジャイが出張出演しているが、吹き替えの声が悪かった。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は、ダルシャンのアクション映画といえばこの人、ハリクリシュナの担当。残念ながら、不発っぽい。
 上でも触れたとおり、1曲目のダルシャンとシャンカル・ナーグの「共演」はグッドアイデアだった。

 アクションは、無駄なアクション・シーンもあったのが惜しまれるが、疾走する水牛の大群の場面やクライマックスの場面など、カンナダ映画にしては上出来だった。

◆ 結語
 【Saarathee】は、ダルシャン兄弟が放った思いがけない快作。ヒットは堅い。これでDV事件にけりがつくわけではないが、ダルシャン関係者にとっては明るい材料になったに違いない。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
>私は、南インドのアクション映画というのは昔の神様映画の一段世俗化したものであり、しか
>し、なおかつ神様映画の精神を保持しており、ヒーローは神様の似姿である、という説を取っ
>ている。

スカっと言って下さって気持ちが良いです。ただ、神の似姿をとれる度量をもった俳優というのは、これからは少なくなっていくような気がします。正直なところ、ダルシャンにはそれができると思ってはいませんでした。ですのでDVDになった暁に実見するのが楽しみです。
Periplo
2011/10/12 18:19
>スカっと言って下さって気持ちが良いです。

一度、これぐらい単純に図式化しておいたほうがいいと思いました。

>ただ、神の似姿をとれる度量をもった俳優というのは、これからは少なくなっていくような気がします。

はい、NTR(もちろんシニア)のような巨人がこれから現れるとは考えにくいですね。

>ダルシャンにはそれができると思ってはいませんでした。

微妙なとこですね。
特定のスターにどれだけカリスマ性を見るかというのはイメージ的(相対的)なものですからね。AP州ではあれほどの存在であるチルさんもカルナータカじゃ「お隣のスター」ぐらいの認識だし、カンナダのラージクマールが他州でも愛され尊敬されたということはないですよね。

ダルシャンはカルナータカでは「ヒーロー」としてかなり力強いファン層を抱えており、映画の質の割には興行的に好成績を上げています。ただ、それもカンナダの衆に限った話ですよね。安宅さんが本作を観て、彼に「神の似姿」を見るかどうかとなると、まぁ、あり得ないだろうなぁと思います。
 
カーヴェリ
2011/10/12 22:01
いえ、当方は「アクション映画で神の似姿」俳優として、マヘーシュやジュニアNTRを思い浮かべていました。ダルシャンはもうちょっと理智が走ったタイプなのかなと思い込んでいたのですよ。

とはいえ、最近だいぶ洗脳あるいは同化が進んで来てしまっているようなので、自分の感覚もあまり当てにはしなくなりました。コメディ映画ソングシーンでの美女に囲まれたヴェンカテーシュすらクリシュナ神に見えるくらいになってしまったので(笑)。上にあげられたクリシュナのコスプレのアレンジはまた随分と洒落てますね。カンナダ映画とは思えないくらい(失礼)。ああ、早く観たい。
Periplo
2011/10/13 13:46
>ダルシャンはもうちょっと理智が走ったタイプなのかなと思い込んでいたのですよ。

なるほど。ダルシャンを確としたヒーローに育て上げようという気運もカンナダ映画界には希薄だったかもしれません。

>コメディ映画ソングシーンでの美女に囲まれたヴェンカテーシュすらクリシュナ神に見えるくらいになってしまったので

素晴らしいことです。毎度言いますが、Periploさんは長生きすると思います。

>クリシュナのコスプレのアレンジはまた随分と洒落てますね。カンナダ映画とは思えないくらい

コンセプトは面白かったですけどね。実際に見ると、やっぱり野暮ったかったりするんです。
 
カーヴェリ
2011/10/13 23:51

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