カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【7aum Arivu】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/11/08 22:06   >>

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 ディーパーワリ公開の話題作・第2弾は、A・R・ムルガダース監督、スーリヤ主演のタミル映画。
 このお二方に加え、音楽監督はハリス・ジャヤラージ、、、と来れば、【Ghajini】(05)のトリオの再現となり、それだけで話題性は十分なのに、ヒロインがシュルティ・ハーサン(タミル映画デビュー)とあって、さらに話題度アップ! スーリヤが一人三役をやるとか、歴史上のヒーローを演じるとか、異色のSF作品になるだろうとか、予算は8億ルピー以上だとか、いろいろな前情報が飛び交い、またテルグ語ダビング版も用意されているということもあって、まさにこの時期の南インド映画一番の注目作だった。(まぁ、上のスチルを見ても、ただならぬものを感じますわな。)
 題名の「7aum Arivu」は、読み方が「エーラーム・アリウ」で(誰ですか、「セブン・オーム・アリウ」と読んだ人は)、意味は「第7感」らしい。(テルグ語ダビング版では「7th Sense」となっている。)

【7aum Arivu】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : A.R. Murugadoss
出演 : Surya, Shruti Haasan, Johnny Tri Nguyen, Guinnes Pakru, Ilavarasu, Dhanya Balakrishna, Ashwin Kakumanu, Saahil Chitkara, Abhinaya, Azhagam Perumal, その他
音楽 : Harris Jayaraj
美術 : Rajeevan
撮影 : Ravi K. Chandran
編集 : Anthony
制作 : Udhayanidhi Stalin

《あらすじ》
 6世紀の南インド。パッラヴァ朝の第三王子ボーディダルマン(Surya)は、医学、薬学、武術、念力に長じた仏教僧。当時、中国では疫病が流行しており、それがインドに伝播するのを防ぐため、ボーディダルマンは師の命により中国へと派遣される。
 3年の旅の末、彼は南中国の村に到着し、早速疫病の治療に当たる。また、村に侵入してきた外敵を武術と念力によって撃退する。当初、ボーディダルマンを恐れていた村の衆も、彼を深く敬愛するようになる。
 数年後、ボーディダルマンは祖国へ戻ろうとするが、村の占い師の託宣により、毒殺されることになる。だが、村人たちはボーディダルマンを死後も崇拝し、彼の医術や武術を今日まで伝える。
 時は下って、現代。中国情報局はドング・リー(Johnny Tri Nguyen)というスパイに対インド工作として「レッド作戦」を指示し、インドへ送り込む。ドング・リーはボーディダルマンの武術を完璧に身に付けた男だった。また、彼の任務にはチェンナイにいる遺伝子工学の研究者スバ(Shruti Haasan)の殺害も含まれていた。
 その3ヶ月前のチェンナイ。「グレート・ボンベイ・サーカス」の団員アラヴィンド(Surya)は、実はボーディダルマンの直系子孫であったが、サーカスの猿ほどの価値もないと言われる無益な若者だった。ある時、このサーカス団に遺伝子工学の研究者スバが「実験のために猿を貸してほしい」と言ってやって来る。アラヴィンドは彼女を見て、一目惚れする。彼は早速あの手この手でスバに接近し、親しい間柄となる。
 ところが、アラヴィンドは叔父の証言から、実はスバは以前からアラヴィンドのことを知っており、何らかの意図があって接近して来たことを知る。失望したアラヴィンドはスバを問い詰める。彼女はアラヴィンドに、ボーディダルマンとアラヴィンドの遺伝子が83パーセントまで一致している事実を示し、現代科学・医学の限界を乗り越えるためにボーディダルマンの知識と能力を現代に蘇らせたい、そのためにはアラヴィンドの協力が必要なのだと訴える。
 そうこうしているうちにドング・リーがチェンナイにやって来、作戦に取り掛かる。彼はスバを襲撃するが、殺害に失敗する。スバとアラヴィンドは思いがけぬ東洋人からの攻撃にショックを受ける。二人がドング・リーを尾行したところ、彼がスバの指導教官であるランガラージャン教授と関係があることが分かる。スバとアラヴィンドはランガラージャン教授の家に忍び込み、コンピューターのEメールから、教授が中国から30億ルピーもの大金を得ていることと「レッド作戦」の名前を知る。アラヴィンドはランガラージャン教授を誘拐し、「レッド作戦」について問い質す。その結果、中国政府の恐るべき陰謀が明らかとなる、、、。

   *    *    *    *

 「中国政府の恐るべき陰謀が明らかとなる!」って、どんなストーリーを作っとるんや、ムルガダースは!?

 いくつかレビューを覗いてみたところ、思ったほど芳しい評価はされていないようだが、私的には十分楽しめたし、いくつかの点に目をつぶれば(しかし、それが致命的な点だったりするのだが)、立派な、尊敬に値する映画だと言える。

 作品のスケールは大きい。6世紀の中国と現代のインド(タミル・ナードゥ州)と、大きく隔たる時空の枠組みの中で、遺伝子治療やバイオ戦争、インド(タミル)礼賛、頭脳流出などのテーマが詰め込まれている。先行タミル映画では、ラヴィクマール監督の【Dasavathaaram】(08)とかぶるところがある。監督のムルガダースは、テルグ・コメディアンのヴェーヌ・マーダヴの代役が務まるんじゃないかと思われるほど、小柄でひょうきんっぽいお方なのだが、見かけの割には、毎度大掛かりでパワフルな映画を撮っている。しかし本作は、その大掛かりさにムラがあり、バランスを崩しているのが苦しいところだ。

 映画中、スーリヤが演じた6世紀のパッラヴァ朝の王子ボーディダルマンは、周知のとおり、普通はボーディダルマ(Bodhidharma)、菩提達磨 達磨大師、つまり「達磨さん」と呼ばれる日本でもお馴染みの仏教僧。映画で言及されていたとおり、ボーディダルマは医学・薬学、武術(カラリ)を中国に伝え、嵩山少林寺に伝わる少林拳の創始者だという俗信もある。文化史的には、ダルマさんの最も大きな功績は「禅仏教の創始者」ということのはずだが、映画ではまったく言及されていなかった。もっとも、「禅」のような洗練された思想が理解できる現代インド人は稀なので、ムルガダース監督も無視したというわけだろう。

 本作で重要なのは、このボーディダルマが「実はタミル人だ」ということで、世界の様々な分野にインパクトを与えたこの歴史的巨人が、東アジアや東南アジアでは知らぬ者がいないぐらいポピュラーで崇拝もされているのに、ご当地タミル・ナードゥ州ではすっかり忘れ去られている、ということが強調されていた。そんことで良いのか、タミル人よ!というのが本作におけるムルガダース監督のメッセージで、本作はバイオ戦争や遺伝子科学など今日的な面白いテーマを取り上げているものの、タミル人とタミル文化の優越性を確認し、タミル人を叱咤・鼓舞するのが第一の狙いだったと思われる。(これから察するに、ムルガダースはヒンディー語版【Ghajini】を作っているときに、ムンバイの連中によっぽど田舎者扱いされて、頭に来たのだろう。)
 これは強度に民族主義的なもので、タミル人ではない私には関係なさそうだが、ムルガダース監督があまりにもしゃっきっと潔く語ったおかげで、こちらの背筋もぴしっと伸びた。

◆ 演技者たち
 スーリヤは三役ではなく、二役だった。
 6世紀のパートにおけるボーディダルマン役のスーリヤは本当に素晴らしい。王族出身にして人類愛に満ちた聖者、という役柄を力強く、美しく演じている。武術も本格的に練習したようで、隙を感じさせない。(それにしても、長年の座禅の末、四肢が腐り落ちてしまったと伝えられる達磨さんが、本作では筋肉隆々の超人としてイメージされているのは興味深い。)

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 ところが、現代のサーカス団員アラヴィンド役のスーリヤとなると、一気に精彩を欠いてしまう。ひと言で言って、主役の座をシュルティ・ハーサン(スバ役)に奪われている。これはスーリヤが悪いわけではなく、ストーリー上、仕方のないことのようだが、それでもアクション・スリラーとして力強い作品にしたかったなら、「ボーディダルマンの生き写しとしてのアラヴィンド」という設定をもっと活用すべきだったろう。

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 ヒロインとしてタミル映画デビューのシュルティ・ハーサンは、まずは成功だったと言っておこう。カマル・ハーサンの娘だとはいえ、演技に秀でたという印象はない。しかし、女科学者という役柄には合っていたし、主役に近い重要な役でありながら、作品をぶち壊しにはしていない。ちなみに、テルグ映画【Anaganaga O Dheerudu】(11)では「美しい」と感じたが、本作では「可愛い」と思った。
 ところで、シュルティ・ハーサンといえば、父がタミル人でチェンナイ生まれなので、タミル語が流暢かと思いきや、そうでもないらしく、本作で彼女はセルフ・ダビングしているのだが、そのタミル語の「訛り」がいくつかのレビューで指摘されている。言語的には、おそらく母親のサリカー(北インド人)の影響のほうを強く受けているのだろう。
 (写真下:南インド映画の「血の洗礼」を受けるシュルティ。)

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 あと1人、悪役ドング・リー役のジョニー・トリ・グエンについて触れれば、本作の主要登場人物は尽きる。
 ウィキペディアの今日現在の記述によると、この人はベトナム生まれのベトナム人(母は中国人らしい)だが、アメリカに移り、ハリウッド映画などでちょいと知られた活動をしているようだ。実は先日、本作のプロモートを兼ねてチェンナイに来ており、タミル語のテレビ番組にも出ていた。彼はクンフーができるという触れ込みだったが、そのとおり、テレビの生ステージでばりばりのアクションを披露し、映画本編が期待された。
 ところが、どうなのかなぁ、彼のパフォーマンス自体は悪くなかったし、中国人の悪役を登場させるというのが本作のウリでもあったと思うのだが、いかにも「私は中国から来た殺し屋です」といった顔でチェンナイの街をうろうろされてもなぁ、、、と浮いたものを感じた。(一体、こ奴は何ビザでインドに入国したんだ? 近ごろインド政府はそう簡単に中国人にビザを出さんぞ!)

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はハリス・ジャヤラージの担当で、期待したが、平凡だった。この人はどうも近ごろ創造力を失っているようだ。

 アクションはやはりこの人、Peter Heinだった。相変わらずど派手なアクション・シーンは見もの。(ちなみに、この人もベトナム系移民らしい。)

◆ 結語
 【7aum Arivu】は、アクション・スリラーとしてはいまいち緊迫感を欠くストーリー構成だし、SF映画としては科学的根拠付けに幼稚なものが見られる。しかし、難しいことを言わなければ十分楽しめるし、観て損はない。私からはお勧め作としておく。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
川縁さんのレビューお待ちしておりました。

こちらのインフォーマントの中にも、日本では達磨さんが皆に知られてるのに、民族の英雄ボーディダルマのことを今まで全然知らなかったなんて恥ずかしい、てなことを言ってる奴いたんで、少なくとも前半はその手のフォークロア・フィルム(シッドゥの「昔ある戦士が」みたいな)だろうと予測つきました。寧ろシノフォビアがモロに出てるに違いない後半に関心ありましたが、川縁さんのレビュー読んで合点がいきました。

しかしピーター・ヘインがベトナム系移民とははじめて知りました。名前からしててっきり現地のクリスチャンだとばかり思ってました。
メタ坊
2011/11/09 07:03
前半のフォークロアの(ような)部分はほんの2,30分程度で、前置きといったほうが適切だと思います。しかし、私の目には、こちらのほうが後続のメイン・ストーリーより印象的に見えました。

「シノフォビア」というのは今後インド映画の中でも目立ってくるんじゃないかと思われますが、本作は比較的はっきりした例として、マイルストーンになるかもしれません。

何であれ、作品の完成度はさておき、本作は興味深い点が多いです。
 
カーヴェリ
2011/11/10 08:58
以前ならヒーローが昔の英雄の生まれ変わり(そして大概が二役)というのはごろごろありましたが、八割がた遺伝子配列が同一という屁理屈は、この作品を嚆矢とするのでしょうね。ま、実際見てる天竺國の衆の認識にはなんら差がないのでしょうがw
メタ坊
2011/11/10 09:54
アイデアは面白いと思いました。
あとは、ストーリーをもっと工夫すれば、ってところでしょうか。
 
カーヴェリ
2011/11/11 09:27

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