カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Mayakkam Enna】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2011/12/02 22:11   >>

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 セルワラーガヴァン監督のタミル映画。
 セルワラーガヴァンはこれまで監督作品を5作発表しているが、それらはすべてセンセーショナルな形で語られ、ヒット作となっている。まだ年齢も若く、名監督と呼ぶことはできないが、タミルの新世代監督の中では重要な存在である。私的には、好きで好きでたまらない監督というほどではないが、【7G Rainbow Colony】(04)は私のインド映画鑑賞歴の中では十指に入る衝撃的体験だったし、テルグ語作品の【Aadavari Matalaku Ardhale Verule】(07)も好きだ。
 本作の主演はセルワラーガヴァンの実弟ダヌーシュ。この兄弟が共同するのは本作で4作目らしい。【Aadukalam】(11)で国家映画賞・主演男優賞を取り、あちこちで‘National Award winning actor’との肩書付きで呼ばれるようになってしまったダヌーシュだが、本作での演技はどうか?
 題名の「Mayakkam Enna」は「この眩暈は何だ」といった意味。

【Mayakkam Enna】 (2011 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Selvaraghavan
出演 : Dhanush, Richa Gangopadhyay, Sunder Ramu, Mathivanan Rajendran, Soni Barring, Pooja Balu, Shilpi Kiran, Rajiv Choudhry, Ravi Prakash
音楽 : G.V. Prakash Kumar
撮影 : Ramji
編集 : Kola Bhaskar
制作 : Gemini Film Circuit

《あらすじ》
 カールティク(Dhanush)は、両親と死別して以来、妹のラミャ(Soni Barring)と二人暮し。二人には親友のスンダル(Sunder Ramu)、シャンカル(Mathivanan Rajendran)、パドミニ(Pooja Balu)、ヴィンディヤ(Shilpi Kiran)がいた。
 カールティクはしがないフリーのカメラマンだったが、野生動物の写真家になる夢があった。それで彼はその分野の大家である憧れのマーデーシュ(Ravi Prakash)に会いに行き、助手にしてくれるよう頼むが、冷たくあしらわれる。
 親友のスンダルは、カールティクら5人に、自分の恋人としてヤミニ(Richa)を紹介する。この抜け駆けに5人は怒る。殊にカールティクとヤミニは相性が悪く、会えば口喧嘩といった有様だったが、しかし何度か顔を合わせるうちに、お互いに意識するようになる。
 ヤミニは、自分の会社の広告写真の撮影をカールテイクに任せる。だが、その写真は評価が低かったため、ヤミニはカールティクに写真家を諦めるように言う。だが、彼は逆に自分の写真に対する情熱を彼女に伝える。
 カールティクは再びマーデーシュに会いに行く。この時も侮辱されるが、しかしマーデーシュは彼に森で動物を撮影して来る仕事を与える。
 カールティクは森に出かけるが、この撮影旅行にはスンダルとヤミニも同行していた。この機会にカールティクとヤミニはさらに意識し合うようになる。カールティクの撮影はうまく行き、鳥や象などの素晴らしい写真をものにする。ヤミニはその写真を見て感心する。
 カールティクは撮影した写真をマーデーシュに見せに行く。だが、マーデーシュはその写真をボロクソにけなす。カールティクはひどく落ち込むが、この話を聞いたヤミニは慰めるために彼を抱擁する。しかし、このことで親友スンダルに対して罪悪感を感じたカールティクは、友人たちに何も告げずに姿を消す。
 マーデーシュはカールティクの撮った野鳥の写真を自分の名前で雑誌に発表し、高評価を得ていた。その話をヤミニからのボイスメールで知ったカールティクは、マーデーシュに抗議に行くが、取り合ってもらえない。
 なす術もなく実家に戻ったカールティクを友人たちは手荒く歓迎する。ヤミニは、カールティクがいない間の寂しさを彼に伝える。二人は抱擁し合うが、その場面をスンダルたちに見られてしまう。
 スンダルは激怒するが、カールティクと酒を飲みながら議論した結果、今後どちらもヤミニを愛さないことに決まる。しかし、カールティクはヤミニに未練があった。また、カールティクの妹ラミャがスンダルを愛していることが分かったため、スンダルの父ラメーシュ(Rajiv Choudhry)が仲介役となり、カールティクとヤミニ、スンダルとラミャを結婚させる。
 夫婦となったカールティクとヤミニは幸せに包まれる。だが、新婚旅行先でカールティクは、マーデーシュがカールティクの撮った写真で賞を得たニュースを知り、ショックでロッジの2階から転落してしまう。
 そこからカールティクの自暴自棄の生活が始まる。彼は酒浸りとなり、周りの人間に暴力を振るうようになる。妊娠中だったヤミニも彼の暴力が原因で流産してしまう。以来、ヤミニはカールティクと口を利かなくなる。
 ところが、ここに転機がやって来る。ヤミニは以前にカールティクの撮った写真をあちこちの雑誌社に送っていたことがあった。ひょんなことからそれがある雑誌社で目に留まり、カールティクは大手雑誌社と2年契約を結ぶことになる。彼は酒も止め、撮影に励む。
 時を経て、カールティクは気鋭の写真家となり、写真家にとって最高峰であるIPC(International Photographic Council)の賞にノミネートされる、、、。

   *    *    *    *

 いやぁ、カーヴェリおじさん、しみじみモード。
 セルワラーガヴァンというのは、一体どんな人生を歩んで来た男なんだろうね。

 セルワラーガヴァンの作品といえば「情念的」という言葉が思い浮かぶが、今回もみっちり情念の詰まった「激情ドラマ」だった。
 部分的には【7G Rainbow Colony】や【Kaadhal Kondein】(03)と似たイメージがあるが、テーマなどは違っている。【AMAV】と【Aayirathil Oruvan】(10)とはさらに違っている。本作は、大局的にはカールティクという男の成長のドラマなのだが、セルワラーガヴァン監督自身の成長もよく見て取れる。

 物語は前半と後半とでポイントが異なっている。前半はヤミニを巡るカールティクとスンダルの三角関係に焦点を当てたラブストーリー仕立てだが、後半はマーデーシュに裏切られたカールティクの苦悩と更生のドラマとなっている。全体として、本作は恋愛物ではなく、「裏切り」と「信頼」がテーマの人間ドラマとなっている。

 前半の「三角関係」では、まずヤミニの人物造形が面白い。そして、積極的なヤミニに対して、彼女に惹かれつつも、親友スンダルへの友情から常に罪悪感を感じるカールティクの性格付けも正確だ。二人の局面局面における心情の変化もかっちり描かれており、この辺はセルワラーガヴァン監督ならではのもの、他のインド映画監督には真似のできない表現スタイルだろう。そして、結局二人の心が融合する場面は実に魅力的で、タミルの若者に強烈にアピールするに違いない。(大体、【7G Rainbow Colony】の功罪は何かと言えば、タミルの純な若者に「恋愛とは何ぞや」を教えてしまったことだと思うのだが、本作もそれに近いインパクトがあると思う。)
 しかし、その緊張感のあるはずの「三角関係」も、結局はカールティクとヤミニ、スンダルとラミャのダブル結婚という、「まぁ、こんなところでOKさ」みたいな形で収まるところが実にインド的で面白い(南インド的、否、タミル的と言うべきか)。この一連の流れは「タミル型恋愛劇」のサンプルとして、分析の価値ありだと思う。

 後半の「カールティクの苦悩劇」では、さらにシリアス度、激情度が増し、「どこまで行くんだ」と、セルワラーガヴァン監督のやりたい放題みたいな展開になる。
 この部分はダヌーシュの演技に尽きる。何と言うか、スープを取り尽くした鶏がらみたいに、ボロボロ、ヘナヘナな状態にまで落ちてしまうのだが、この展開がまたタミル人にはたまらんのだろう。
 ただ、カールティクの悲惨な状態をリアルに描くのに熱心なあまり、彼の写真家への野心というメイン・モチーフが見えにくくなっているのが残念だ。また、急ぎすぎたせいか、脚本に矛盾点も見られる。
 しかし、欠点はあるにせよ、鑑賞後にはかなりすがすがしい感覚が残る。

◆ 演技者たち
 主演のダヌーシュについては、おそらく弟のことを知り尽くしている兄が監督しているだけあって、実にうまい使われ方をしている。【Aadukalam】に匹敵する適役と言っていいだろう。私的には、ラジニカーントの娘婿だというのはさておき、この麦藁みたいな男がどうしてスターとして支持されているのか不思議なのだが、この「ボロボロになっても最後には、、」といった「どん底型のヒーロー像」がタミル人の琴線に触れるのかもしれない。
 現在、ダヌーシュが歌うタミル映画【3】の‘Why This Kolaveri Di’という歌が何故かインド的規模でヒットしており、しばらく彼の勢いが続きそうだ。

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 ヤミニ役のリチャ・ガンゴーパーディヤイについては、タミル映画デビューということだが、まったく幸運なデビューとなった。これまでテルグ映画界で【Leader】(10)、【Nagavalli】(10)、【Mirapakaay】(11)と、なんとか及第点で通過してきた彼女だが、タミルへ来ていきなり化けたようだ。
 【7G Rainbow Colony】のヒロイン、アニタ(ソニア・アガルワール演じる)と人物像が似ていて、ステータスは主人公より上で、初めは主人公を嫌い、軽蔑さえしているのだが、一たび惚れるや、尽くすわ支えるわの、男にとっては女神のような女性として描かれている。【7G Rainbow Colony】を観て何が驚いたかと言うと、このアニタが登場するや否や、フロントベンチャーの連中が一斉に「アニタ〜、オレと結婚してくれ〜!」、「アイ、ラブ、ユー、アニタ〜!」と騒ぎ出したことだ。本作のヤミニはそこまでの魅力はないと思うが、かなりタミルの若者を惹き付けるに違いない。
 ただ、ヤミニというキャラクターはよくできていたが、それはリチャの努力以上に、セルワラーガヴァンの演出、ラームジーのカメラ、ディーパ・ウェンカットの吹き替えが良かったからだと言えるだろう。
 彼女も話題作の【Osthe】が控えており、タミルで引き続き注目されそうだ。
 (写真下:苦悩するヤミニ。セルワラーガヴァン監督作品らしい陰影の使い方。)

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はG・V・プラカーシュ・クマールの担当。私はてっきりユワン・シャンカル・ラージャの担当だと思い、「今回もユワンくんらしい曲が並んでいるなぁ」と思いながら観ていたら、後でG・V・プラカーシュ・クマールだということが分かった。何であれ、映画の内容に合った良い音楽だった。
 歌の歌詞はすべてセルワラーガヴァン監督とダヌーシュが書いており、彼ら自身が歌っているナンバーもある。

 面白いことに、クライマックスでカールティクが賞を取る写真は、日本の「温泉につかる猿」の写真だった。日本人として、日本のネタがインド映画に使われるのはうれしいことだが、しかし本作の製作チームがわざわざ日本まで猿を撮影しに行ったとは考えにくく、おそらくどこかからパクってきたものだろう。「写真のパクリ」を大きく問題としていた本作が、ちゃっかりパクリ写真で映画を仕上げているとは、これいかに。

◆ 結語
 【Mayakkam Enna】は、セルワラーガヴァン監督らしい「情念ドラマ」。メインストリームの娯楽映画とは大きく趣を異にするが、それでもタミル映画らしいタミル映画だと言え、直球勝負をしている。私からはお勧め作としておく。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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