カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Prarthane】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2012/01/11 19:53   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2

画像

 2012年の鑑賞第1作となったのはカンナダ映画の【Prarthane】。非常に地味な、ほとんどアートフィルムと言ってもいいような作品である。新春第1弾ということで、ぱっと賑やかな娯楽大作を観たかったのだが、なにせ南インドでは今週末のポンガル祭が重要で、映画もそれに合わせて話題作が公開待ちとなっており、目下、思わず観たくなるような映画がないというわけである。しかし、本作には好意的なレビューが寄せられ、小品ながらアナント・ナーグやプラカーシュ・ライなどの著名俳優も出ているので、観ておくことにした。
 監督のサダーシヴァ・シナイは、カンナダ語雑誌の‘Lankesh Patrike’で長らくジャーナリストをやっていた人で、映画を撮るのは本作が初の試みらしい。
 題名の「Prarthane」は「祈り」という意味。

【Prarthane】 (2012 : Kannada)
物語・台詞 : J.M. Prahlad
脚本・監督 : K. Sadashiva Shenoy
出演 : Anant Nag, Pavitra Lokesh, Prakash Rai, Ashok, B.C. Patil, Dinesh Mangalore, Srinivasa Prabhu, Sudha Murthy, Master Manoj, Master Sachin
音楽 : Veera Samartha
撮影 : S. Ramachandra
制作 : G.C. Pushpa, N. Harish

《あらすじ》
 プルショッタマ(Anant Nag)はとある村のカンナダ語ミディアム学校の教師。この学校には生徒が40人しかおらず、教師もプルショッタマだけだった。生徒にはプルショッタマの息子のサンジュ(Master Sachin)や、家は貧しいが非常に聡明なチェルワ(Master Manoj)らがいた。この学校は校舎もぼろぼろで、雨季になると雨漏りがする上に、いつ崩壊しても不思議でない有様だった。それで、役所のほうでも廃校を検討していた。しかし、プルショッタマの教育のおかげで、生徒たちの知識は一定の水準をクリアしていた。
 プルショッタマはカンナダ語教育に誇りを抱いていたが、妻のシャンティ(Pavitra Lokesh)は将来を見据えて、息子サンジュには英語教育が必要だと考えていた。そして、自身は近隣の町のコンピュータ学校に通い始める。夫婦は意見の相違からしばしば衝突することもあった。
 プルショッタマはたまたま旧友のマノーハラ(Ashok)に出会う。彼は近隣の町に英語ミディアムの学校を開校する予定で、プルショッタマを教師として誘う。しかし、プルショッタマはそれを辞退する。
 いよいよマノーハラの学校が開校となるが、驚いたことに、シャンティはサンジュをこの英語ミディアム校に転校させてしまう。他にも転校する生徒が出たため、プルショッタマの学校は生徒数が半減する。やむなくプルショッタマは、チェルワのアイデアで、近くの工事現場で働いている日雇い労働者の子供たちを生徒として受け入れる。
 プルショッタマは舞台役者たちにカンナダ語の指導をしていたが、そのうちの1人に俳優として名を成したティンマッパ(Prakash Raj)もいた。ティンマッパはプルショッタマの指導のおかげで舞台が成功したため、感謝の印にプルショッタマの学校に生徒の制服を寄付する。プルショッタマは校舎が一段と老朽化しているのに気付き、ティンマッパにさらに修理費も無心するが、ティンマッパは冷たく拒否する。
 ある時、この地域で児童の文化コンテストが行われる。審査員の1人にインフォシス財団のスダー・ムールティ(Sudha Murthy)もいた。コンテストの最終ラウンドに、サンジュとチェルワが残る。サンジュは英語で、チェルワはカンナダ語で、それぞれスピーチをしたり歌を歌ったりする。結果、チェルワが優勝し、スダー・ムールティがカンナダ語文化の重要性を指摘する。
 やがて再び雨季となり、校舎が崩落の危機に陥る、、、。

   *    *    *    *

 本作の末尾で語られたナレーションによると、世界には、そしてインド国内にも、消滅するかもしれない危機にあるマイナー言語が多数あり、主にカルナータカ州で使用されているカンナダ語もその一つであるというのである。その一現象として、英語で授業を行う英語ミディアム学校に押されて、カンナダ語で授業を行うカンナダ語ミディアム学校が政府の十分な援助を受けられず、生徒数も減少し、廃校となる例が少なくないということである。しかし、言語というのはその話者集団の文化や生活様式と密接に結び付いたものであり、その言語教育を蔑ろにするということは何を意味するのか、、、という問いかけが本作のメッセージであった。

 インドでは、歴史的経緯から、以前より英語ミディアム学校と現地語ミディアム学校が並存していたが、近年になって、進学・就職に有利という観点から、英語ミディアム校の躍進が著しい。実際、現地語ミディアム校で学んだ学生は英語力がネックとなって、良い大学には入れなかったり、就職機会が限られたりするケースもある。ところが、私立の英語ミディアム校は授業料が高く、また主に都市部に集中しているということもあって、非富裕層や村落部の子弟は結局現地語ミディアム校に通うことになり、これも貧富の差、都市と地方のギャップを生み出す原因となっている。本作は、カンナダ語教育の有用性そのものというより、英語教育の侵犯に対する脅威(というより、敵意)といった視点からストーリーが展開されていた。(ここで「学校」というのは、第1学年から第7学年までの、日本だと小学校に当たる教育施設のことを指している。)

 ただ、そうは言っても、カンナダ語はインド公用語の1つであり、話者人口が約5500万人(ネイティブ話者数は約3500万人)の言語があっさり消滅するとは考えにくい。私が現地で生活している実感でも、バンガロールは比較的コスモポリタンな街なのだが、カンナダ語はしっかり生きている(なんだかんだ言って、カンナダ映画も年間100本超の生産力をキープしている!)。現代の「英語族」の象徴とも言えるソフトウェア技術者にしても、すべてが英語ミディアム校で学んだというわけではない。映画で語られたような事柄は心配しすぎであるようにも思えた。確かに、村のカンナダ学校が閉鎖に追い込まれるとか、カンナダ語の古典が理解できない人が増えるというのは問題だが、それを英語教育のせいばかりにはできないだろう。

 こうした「ネイティブ言語を守る」というテーマはインドではコンスタントに語られることであり、そうなると、それが映画的にどう物語化・脚本化されているかが本作を評価するポイントとなる。その点で、本作はかなり正直な直球一本勝負で、映画作品としてほとんど面白味がない。同テーマに触れた作品でも、例えばカンナダ映画の【Pancharangi】(10)やタミル映画の【Kattradhu Thamizh】(07)など、興味深い娯楽作品も可能なわけで、本作はあまりにも単純すぎると思った。
 ただし、クライマックスのチェルワとサンジュがステージで対決するシーンはなぜか面白いと感じたし、この審査員に慈善事業家・教育家・著述家のスダー・ムールティ(インフォシス社の名誉会長であるN.R. Narayana Murthyの妻)を持って来たのはアイデアだったと思う。(写真下)

画像

◆ 演技者たち
 本作にはアナント・ナーグやプラカーシュ・ライ、パヴィトラ・ローケーシュなど、演技力のある俳優が顔を揃えているのだが、演出上、特に工夫のない映画なので、誰の演技がどうだったという印象はない。
 ただ、プラカーシュのおっさんが古典神話劇の役者という設定で、ドゥルヨーダナやラーヴァナの演技をちらっと披露するのだが、これなどはレアな映像かもしれない。
 (写真下:いくらのギャラでこの役を引き受けたのだろう?)

画像

 子役の2人(Master ManojとMaster Sachin)はまずまずだった。

◆ 音楽・撮影・その他
 挿入曲は1曲のみで、Veera Samarthaという人の担当。

 撮影はS・ラーマチャンドラの担当だが、同氏の遺作となったようだ。

 面白かったのは、本作も学校向け鑑賞作品となっていたようで、映画館はどこかの学校の児童で満員で、映画を観ているのか何をしているのか分からないような騒然とした雰囲気だったのだが、要所要所では子供たちも拍手や声援を送っていたので、まぁ、それなりに観ていたということだろう。

◆ 結語
 映画的に面白いとは言えず、テーマ的にも日本人からは遠いので、特にお勧めはしないが、真面目なスタンスには好感が持てる。インドの教育問題や村落部の現状に関心がある方には興味深い映画であるかもしれない。

・満足度 : 2.5 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ドゥルヨーダナ・ラーヴァナ贔屓としまして、プラカーシュのおっさんの古典神話劇役者は是非観たいです〜
一見派手さのない作品にもこのようなレアな映像が入ったりするのでサウスは本当に油断できないですね!
あいや〜
2012/01/13 14:31
おお、こんな地味作品にまでコメントありがとうございます!
プラカーシュ・ラージの出番は少ないですが、それでも印象的でした。(「プラカーシュのとっつあん」でいいですよ。)ただ、この映画がディスクになるかどうかは不明ですね。せめてYouTubeででも見られたらいいのですが。
 
カーヴェリ
2012/01/13 20:37

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Prarthane】 (Kannada) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる