カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Businessman】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2012/01/18 02:35   >>

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 今年のマカラ・サンクランティは南インドでは話題作が複数公開され、映画ファンにとってうれしい悲鳴期間となった。注目はタミル映画の【Nanban】と【Vettai】、テルグ映画の【Businessman】と【Bodyguard】、カンナダ映画の【Ko Ko】となろう(マラヤーラム映画に関しては把握しておらず)。一応全部観るつもりでいるが、時間の都合で【Bodyguard】は割愛するかもしれない。まずはプーリ・ジャガンナート監督、マヘーシュ・バーブ主演のテルグ映画【Businessman】から。

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 言わずもがな、【Pokiri】(06)のコンビの再現とあって、注目度、期待度は非常に高い。しかし、プーリ・ジャガンナート監督に関しては、なぜかヒンディー映画の【Bbuddah Hoga Terra Baap】(11)はそこそこヒットを記録したものの、テルグ映画では【Pokiri】以降いまいち振るっていない(当たったのは【Golimaar】ぐらいか)。もしや一種のスランプとも考えられ、それが気掛かりだ。
 一方、マヘーシュのほうは前作【Dookudu】(11)が大ヒットし、相変わらずスターとしてのスタミナは維持しているようだ。

 ところで、本作の特殊な、または邦人テルグ映画ファンの間で大騒ぎとなっている事柄は、これが日本でも上映されるということだ。今月の21日、埼玉県川口市の某ホールにて1回きりの上映であるが、日本でインド映画が現地公開とほぼ同時期に観られるという機会は滅多にないことなので、ファンにはぜひお楽しみいただきたい。なんでも英語字幕付きということで、インドで「字幕なし」での鑑賞となった私などはうらやましい限りだ。
 負け惜しみというわけではないが、インド本国にいながら日本のファンより遅れて映画を観るというのも癪に障るので、今回はなんとしても第1週目の週末に観ようと、大混雑の中、気合いを入れてチケットをゲットした。意地悪して、以下にネタバレも入れておいたので、21日を楽しみにしている方はここでストップ!

【Businessman】 (2012 : Telugu)
物語・脚本・台詞・監督 : Puri Jagannadh
出演 : Mahesh Babu, Kajal Aggarwal, Nasser, Prakash Raj, Sayaji Shinde, Raja Murad, Brahmaji, Dharmavarapu Subramanyam, Subbaraju, Bharath Reddy, Mahesh Balraj, Jahangir Khan, Ayesha Shiva, Master Akash, Shweta Bhardwaj
音楽 : S.S. Thaman
撮影 : Sam K. Naidu
編集 : S.R. Shekhar
制作 : Dr. Venkat

《あらすじ》
 ムンバイ警察の尽力により、「バーイ(マフィアのドン)」が一掃される。警視総監のアジャイ・バーラドワージ(Nasser)は「もはやムンバイにバーイはいない」と高らかに宣言する。
 そんな時に、スーリヤ(Mahesh Babu)という若者がハイダラーバードからムンバイにやって来る。彼の目的はただ一つ、ムンバイで「バーイ」になることだった。彼はスラム地区に暮らす友人(Brahmaji)と合流する。
 まずスーリヤは、対警察対策として、アジャイ・バーラドワージの娘チトラ(Kajal Aggarwal)に接近する。最初スーリヤを胡散臭く感じていたチトラも、ほどなく彼に心開くようになる。
 次にスーリヤは地元の政治家ラルー(Sayaji Shinde)と懇意になり、支援と引き換えにラルーから活動資金を得る。スーリヤはその金で浪人中だったムンバイのヤクザ連中を雇用し、手始めにラルーにとって邪魔者となる男を始末させる。また、後にラルーの対立政党の政治家を脅迫し、ラルーをムンバイの市長に祀り上げる。
 スーリヤがいるスラムの住民は銀行からの借金に苦しんでいた。そのためスーリヤは手下を銀行に侵入させ、スラム民の借用データをすべて消滅させる。おかげでスラム民はスーリヤに絶大な信頼を寄せるようになる。
 今や「スーリヤ・バーイ」と呼ばれるようになったスーリヤは、‘Surya Exports and Imports’という会社を立ち上げ、マフィアビジネスを本格化させる。この動きを察知したアジャイ・バーラドワージはスーリヤの会社に乗り込むが、逆に彼にやり込められる。
 ラルーの対立政党の政治家は、デリーにいるジャイデーヴ(Prakash Raj)にスーリヤのことを報告する。ジャイデーヴは与党の大物政治家で、中央政府で大臣を務める人物だが、やはり悪徳政治家であった。ジャイデーヴは早速手下をムンバイに送り込み、スーリヤ殺害の罠を張る。スーリヤはその場を切り抜けるが、その過程で警察に逮捕されてしまう。しかし、そこもスーリヤはうまく立ち回り、釈放される。
 今やスーリヤにとって対決すべき敵はデリーのジャイデーヴとなった。スーリヤは、総選挙を制圧することも踏まえ、自身のビジネスを全インドに拡大し始める、、、。

   *    *    *    *

 一体、スーリヤとは何者なのか? 彼の野望の背後にあるものは何か? 彼とジャイデーヴの関係は? などが後半からクライマックスにかけての注目点となる。

 映画は完璧にマヘーシュ中心の作りで、マヘーシュのファンなら十分楽しめる。私もマヘーシュ・ファンの一人として満足したが、しかし、映画作品としてはそれほど面白いとは言えない。というより、どうしても【Pokiri】と比較してしまい、そうなると、物足りなさを感じるのである。(もっとも、この種の映画は「マヘーシュ良ければすべて良し」で万々歳なのだが。)

 しかし、プーリ・ジャガンナート監督が単純に【Pokiri】の再現を狙うわけがなく、【Pokiri】とは違ったことをやろうとしていることは明らかだ。
 それは、まずヒーローのキャラクターに端的に表れている。【Pokiri】のパンドゥは「ならず者」として現れるが、実は警官で、マフィア殲滅の特務を遂行していたというオチだったが、本作のスーリヤはそういう際立ったどんでん返しはなく、最後まで善玉か悪玉か分からない、ひたすら「グレー」な存在を貫いている。やっていることはマフィアと同じ非合法、暴力的なものだが、しかし義賊の一面も見せ、言っていることはいちいちもっともだったりする。これは通常の南インド・アクション映画のヒーロー像とは異なっており、面白いとも言える。
 また、映画的な様式面でも違っている。【Pokiri】にはテルグ・バイオレンスの最高峰とも言えるアクション・シーンが満載だったが、本作ではジャガンナート監督はもはやそういったものを作ることに興味をなくしたのか、キレはあるものの、比較的地味なアクション・シーンを見せている。【Pokiri】にあったようなえげつないコメディー・トラックも本作にはなく、コメディアンらしいコメディアンは登場せず、笑いの部分も主役のマヘーシュが引き受けている。本作は明らかにプーリ・ジャガンナート監督の作風であるが、従来のテルグ映画とはやや趣が違うようだ。

 内容面では、本作はむしろ【Pokiri】の発展形と言えるかもしれない。
 本作の物語は「マフィアのドンが一掃されて、めでたしめでたし」と宣言するところから始まる。そしてこれは【Pokiri】のモチーフでもあった。しかし、これに対して当然「マフィアのドンを排除すればそれで事が片付くか?」という疑問が起きる。答えはノーで、インドの「浄化」のためには、さらなる難敵、すなわち「政治家」を正す必要がある。
 しかし、この腐敗政治家、汚職政治家、悪徳政治家を正す(なくす)というのはさらに難題で、例えばアンナー・ハザーレーの反汚職運動も、外部からのムーブメントとして展開されていた間は全インド的に盛り上がりを見せたが、ロークパール法案が一たび国会という土俵に上げられ、政治というシステム内に取り込まれると、必ずしも正しいものが勝つというわけではないのである。
 この問題に対してジャガンナート監督は、結局システムの外部から「毒を以って毒を制す」という論理で政治家に対抗するしかなく、そのためにスーリヤという「バーイになるためにやって来た男」を作り出すことになったのだろう。ただ、全インド的規模で政治家を制圧するマフィアのドンを描くために、映画のストーリーと言うよりは、分裂病患者の誇大妄想とも言えるようなストーリーになってしまい、これをマヘーシュが演じなければ、げらげら笑い転げるものとなったに違いない。

 さらに言うと、インドが民主主義国家である以上、政治家の問題は結局市民一人一人の問題となり、人々の内面(良心)の問題に還元される。監督はそれを意識してか、本作のマヘーシュ(スーリヤ)のセリフは、他の登場人物との対話と言うより、スクリーンを越えて、直接観客に投げ掛けるようなものがほとんどだった。そういった点で、本作は非常に教育的な映画だと感じた。

◆ 演技者たち
 上に書いたとおり、本作はマヘーシュ・バーブあってのものであり、どこかのレビューに書いてあった「マヘーシュ以外はみんなエキストラ」という意見は当たっていると思う。実際、セリフを発する際の彼の集中力、間の取り方、力の溜め方は驚異的なもので、他の俳優がやっては映画自体が大コケしてしまったと思われる。本作では緊張感のあるセリフだけでなく、コメディー面でも冴えていた。
 (写真下:後光さえ射しているマヘーシュ大明神。)

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 ところで、マヘーシュは男性ファン以外にも広大な女性ファンを擁しているが、今回私が観た映画館でも、こんな硬派なアクション映画なのに、観客の3割は女性だった。しかも、女同士で観に来ているグループもあり、そんな娘たちがいちいち金切り声を上げるのである。これはNTRジュニアやプラバースの映画ではあり得ないことだ。
 本作のスーリヤは「マヘーシュのキャリア史上初」とも言われる「グレー」な役柄で、汚い言葉も連発していたようだ。例えば、「オレがムンバイへ来たのは、人々をションベンちびるほど震え上がらせるためだぜ!」みたいなことを言うのだが、おそらくこのセリフを聞いて、本当にションベンをちびった女の子もいたことだろう。

 ヒロインのカージャル・アガルワールは、ぶさいくな泣き顔と下手なダンスを披露するためだけに登場したようなものだが、なにせエキストラの1人なので、大目に見てあげよう。

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 脇役陣では、警視総監役のナーサルと政治家ラルー役のサヤージ・シンディが印象に残る。
 少年時代のスーリヤを演じた子役はおそらくプーリ・ジャガンナート監督の息子だろう。

◆ 音楽・撮影・その他
 S・S・タマンの音楽は平均的。私の耳には【Dookudu】のほうが心地好かった。
 音楽シーンのダンスの振り付けもいまいちだったように思う。
 ヒロインのチトラが出て来るシーンで使われたテーマは、【荒野の用心棒】(セルジオ・レオーネ監督)の「さすらいの口笛」(エンニオ・モリコーネ作曲)だったと思う。印象的だったが、どうしてマカロニ・ウェスタン?という疑問はある。

 映画の冒頭、タイトルが出る前に、「本作はムンバイが舞台だが、登場人物はテルグ語を話す」という「お断り」があったのが面白かった。 

◆ 結語
 【Businessman】は、【Pokiri】よりプーリ・ジャガンナート監督の思想的な前進が見られて興味深いが、娯楽アクション映画としては【Pokiri】ほどの面白さ、華やかさはない。マヘーシュ・ファンなら楽しめるが、さもなくば、荒唐無稽な割にフラットなストーリー展開に辟易することだろう。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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【Dhoni】 (Telugu)
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カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2012/02/16 20:47

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
>ヒロインのカージャル・アガルワールは、ぶさいくな泣き顔と下手なダンスを披露するためだけに登場したようなもの

パチパチ拍手!

>女同士で観に来ているグループもあり

吃驚!皆無とはいいませんが、なかなか希有な現象ではありませんか。悪い奴に絡まれたらどうするんだろ?川縁さんがご覧になったのはどこかのマルチプレックスですか?
メタ坊
2012/01/18 10:07
>川縁さんがご覧になったのはどこかのマルチプレックスですか?

はい、例のジャヤナガルにあるINOXです。
土曜の10時45分からのショーだったんですが、満員でした。
目視では女性客は3割以上いたように見えましたが、まぁ、それも考えにくいので、ざっと3割としました。単館だと、もっと率は下がるはずですね。

ところで、どこかで本作のラニング・タイムが話題となっていたかと思うのですが、2時間強でした。参考に、CBFC認証のフィート数は3,631ftでした。
 
カーヴェリ
2012/01/18 17:21
普通なら川縁さんの見た映画を私が見る頃には最低でも半年以上の歳月が経っておりタイムラグが大きすぎるのでコメント控えてるのですが、今回は昨日観る機会を得ましたので一言言わせてもらいます。

結論は…つまんなかったです。マヘーシュの演技以外見るべきところが全然ない。出来の悪いポリティカル・フェアリーテイルでプリジャガ作品としては最悪の部類でしょう。

日本の会場ではコスタ・アーンドラの中産階級が観客の大半でしたがマヘーシュの科白で政治的色彩の強いところでは皆んなゲラゲラ笑ってました。その意味ではこれはヒーローものというよりは一種のサタイアとして捉える方が正しいのかも。少なくとも諷刺喜劇として見てるネイティヴ観客がいることは忘れてはならないと思いますよ。

ソングも貧相なものばっかりだし、いずれにせよコメディトラックがないのがいかん。テルグのヒーローものには必須のこってりした部分が余りにも少ない。唯一笑い取れるのがプリジャガ自身がタクシー運ちゃんで出てくる場面だけというのは寂しすぎる。

これではヴェンキーのBodyguradにはとても勝てないのではないでしょうかね。
メタ坊
2012/01/22 18:53
いつもカーヴェリ川様のブログを楽しみにしております。私のような外国語わからない人がインド映画を見るため、このページとても勉強になります。ありがとうございます。
今回埼玉でマヘーシュのかっこよさにチビル寸前になっておりましたわ。日本にもテルグ映画がこれからどんどん入ってくるといいんですがね。
漁師N
2012/01/22 22:37
メタ坊様
>結論は…つまんなかったです。

私も「あら?」と思ったのですが、その感覚は間違ってなかったわけですね。

>一種のサタイアとして捉える方が正しいのかも。

はい、そのとおりだと思います。私が観た劇場でも、現地観客が随所でげらげら笑っていました。しかし、私は言葉がほとんど分からないため、内容的に検出できず、その点に触れることができませんでした。
 
カーヴェリ
2012/01/23 00:30
猟師Nさま

コメント、ありがとうございます。
いつもブツクサ書いているだけのブログですが、よろしくお願いします。

>チビル寸前になっておりましたわ。

正直な告白、おそれいります。
マヘーシュ、カッコいいですよね。他の作品もがんがん観てください。
 
カーヴェリ
2012/01/23 00:35
ネットで探せばインド映画はかなり見つかるのでまへっちの作品はたくさん見ましたよ。naniのようなかわいい役も結構好きです。アミシャパテルに迫られたおしてるのとかw
今回のビジネスマンはインド上映直後に流れてた動画で予習してから行きましたので英語字幕読めなくても充分楽しんできました。(で、ちびらずにすみました。あはは)
でもじつは私はちゃらん様のファンだったりします。 「らっちゃ」「イェヴァドゥ」楽しみですねん。
残念なのはちゃらん様がウパサナさんと婚約しちゃったこと・・・うちのテレビMAATV映っちゃうので婚約式中継ずっとみてましたわ。しくしく
漁師N
2012/01/23 23:10
チル太のファンですか。
私ゃ、一応ぜんぶ映画館で見てますけどね。もっとばんばん映画に出んといけませんね、若いなら。婚約も早すぎます、まだ半人前のくせに。(と思いません?)
 
カーヴェリ
2012/01/24 01:37

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