カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Dhoni】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2012/02/16 20:46   >>

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 先週末は大作・超話題作の公開はなかったものの、簡単には無視できない映画が多数公開された。まずタミルではプラカーシュ・ラージ制作・監督・主演の【Dhoni】(これはテルグ語版とのバイリンガル)、ソニア・アガルワール復帰作の【Oru Nadigaiyin Vakkumoolam】、テルグでは(【Dhoni】以外に)異色作品っぽい【Rushi】、タミル映画【Siva Manasula Sakthi】(09)のリメイクである【SMS】、マラヤーラムではマンムーティの息子のデビュー作である【Second Show】、シビ・マライル監督の【Unnam】、カンナダではオームプラカーシュ・ラーオ監督の【AK 56】、タミル映画【Boss Engira Baskaran】(10)のリメイクである【Parijatha】、オフビート作品っぽい【Tuglak】などである。
 仕事が忙しく、とても全部は観られないが、まずは【Dhoni】から。

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 プラカーシュ・ラージが俳優業以外にプロデューサーとしてもまずまずの業績を上げていることは周知の事実だが、ついに監督業にまで手を染めたということはカンナダ映画【Naanu Nanna Kanasu】(10)評で報告したとおりである。本作【Dhoni】は彼のテルグ/タミルでの監督デビュー作となる。【Naanu Nanna Kanasu】同様、これもオリジナルではなく、マヘーシュ・マンジュレーカル監督のマラーティー映画【Shikshanachya Aaicha Gho】(10)のリメイクらしい。
 題名の「Dhoni」は、言わずと知れたクリケット・インド代表チームの現キャプテン、M・S・ドーニに由来するもの。
 本作はテルグ語とタミル語のバイリンガル作品で、どちらを観るか迷ったが、主役の少年を演じたのがテルグのプーリ・ジャガンナート監督の息子アーカーシュくんなので、テルグ語版を観ることにした。

【Dhoni】 (2012 : Telugu)
物語 : Mahesh Manjrekar
脚本・監督 : Prakash Raj
出演 : Prakash Raj, Akash Puri, Radhika Apte, Nasser, Murali Sharma, Tanikella Bharani, Talaivasal Vijay, Sriteja, Brahmanandam, Gollapudi Maruthi Rao, Melkote, Chaams, Hema, Sarath Babu, Prabhu Deva(ゲスト出演)
音楽 : Ilayaraja
撮影 : K.V. Guhan
編集 : Kishore Te.
制作 : Prakash Raj

《あらすじ》
 男やもめのスッブ(Prakash Raj)には娘のカーヴェリ(Sriteja)と息子のカールティク(Akash Puri)がいた。スッブは公務員で、生活は楽ではなかったが、それでも無理をして子供たちを有名私学に通わせていた。ミドルクラスの子弟たちが社会で成功するためには良い教育を受けることが第一だと考えていたからである。スッブはカールティクにMBAになってほしいと願っていたが、カールティクは大のクリケット好きで、インド代表キャプテン、M・S・ドーニのような選手になるのが夢だった。カールティクは地元のクリケット・チームに所属していたが、コーチ(Nasser)は彼の才能を見抜いていた。
 他方、娘のカーヴェリは近所のナリニ(Radhika Apte)という女性と親しくしていた。ところが、ある時、スッブはナリニが高級娼婦であることを知り、カーヴェリにナリニと親しくしないよう言い渡す。
 第9学年のカールティクは、全国共通試験を翌年に控えたものの、学業のほうはさっぱり。スッブは校長(Tanikella Bharani)に呼び出しを食らい、このままではカールティクを進級させないと警告される。スッブはカールティクにクリケットの練習に参加するのを禁じ、代わりに学習塾に通わせる。しかし、それでもカールティクの成績は伸びず、学内試験の結果が悪かったため、校長は彼を退学させるとスッブに告げる。憤ったスッブはカールティクを突き飛ばしてしまう。その勢いでカールティクはテーブルに頭を強打し、病院に運び込まれ、そのまま意識不明の状態となる。この暴力事件でスッブは警察に逮捕されるが、そこはナリニの計らいで釈放される。
 学校で息子の荷物を整理していたスッブは、カールティクが本当にクリケットを愛し、また優秀な選手であったことを悟る。事を猛省したスッブは、自分を教育魔に駆り立て、カールティクをこんな状態に追いやった元凶は現代の教育システムだと考え、それを批判する活動を開始する。彼は知人を通してテレビの討論番組に出演し、自分の経験を基に、教育のあり方の問題点を訴える。この番組は好評を博し、スッブは多くの支持者を得る。また、ロンドンから神経科の名医(Talaivasal Vijay)がやって来、カールティクの手術を請け負う。
 事は順調に進むかと見えたが、公務員であるスッブがテレビで公然と現行の教育制度を批判したことにより、彼は停職処分を食らう。息子の手術を目前に控え、途方に暮れるスッブであったが、彼は州首相(Sarath Babu)に直訴することを思い立ち、車椅子のカールティクを連れて出かける、、、。

   *    *    *    *

 プラカーシュ・ラージのプロダクション「Duet Movies」といえば、メインストリームの娯楽映画から外れるものの、それでも娯楽性のある比較的良質の作品を送り出してきたが、本作もぴったりその線を狙っている。採り上げたテーマは「インドの教育システムの問題」で、はっきりとメッセージ志向の作品に仕立てている。
 少年がクリケットのバットを持って天を仰いでいるスチルが出回っていたし、題名も「Dhoni」なので、てっきりクリケットを主題とした映画、テルグ映画では例えば【Golconda High School】(11)の類作かと思いきや、クリケットはほぼ重要ではなかった。主人公の少年の夢がサッカー選手でも歌手でも野生動物の写真家でも成り立つストーリーだった。テーマ的にはヒンディー映画の【Taare Zameen Par】(07)や【3 Idiots】(09)に近い。これで題名が「Dhoni」とは、まったくクリケット・ファンを寄せ集めるための姑息な策略としか思えない。

 レビューの評価は概ね好評のようだが、私はあまり面白いとは思えなかった。と言うより、よく分からなかった。
 インドの現行の教育システムを巡る諸問題、例えば点数至上主義、詰め込み教育、子供の個性を無視した教科書偏重教育、業績本位の学校、子供の個性と能力を見抜けない教師と親、自分の理想を子供に押し付ける親たち、等々が手際よく提出され、言っていることはもっともだし、カッコよくさえあるのだが、それらが映画後半で徒に叫び立てられているだけで、映画作品としてちっとも胸を打つ形で迫ってこなかった。「教育問題」は確かにインドの今日の重要課題だとは思うが、それをテーマに採り上げさえすれば良い映画とされるわけではない。
 ストーリーが論理的にしっかり結び付いた形で展開しないところが問題だったかもしれない。なぜ勉強しない息子に暴力を振るって大怪我をさせた父親が、自分の過失の原因を「教育制度」だと断じることができるのか、さっぱり分からなかった。物語は回復したカールティク少年がクリケットの試合で活躍する場面で終わる。ここは映画的にドラマチックに作られているのだが、論理的にはこれで父親(スッブ)の主張が正当化されるわけではなく、どこか騙された気分になった。

 そもそも私は、「教育問題」を扱ったインド映画を観ると、いつも多少の腑に落ちないものを感じるのだが、本作もそうだった。類作の【Taare Zameen Par】はあまり好きではないので捨て置くとして、【Nanban】(12)評の中で「傑作」とコメントした【3 Idiots】にしても、メッセージそのものについては手放しで評価しているわけではない。確かに子供や大学生が窮屈な思いをしながら勉強したり、それがプレッシャーとなって自殺者が出たりするというのは事実だろうし、放置できない問題であったとしても、結局は「フリーター」や「ニート」を多数生み出す要因となった教育的背景や、「ゆとり教育」の失敗を経験した日本人の目には、現段階のインド映画で語られる「教育制度批判」は理想主義的すぎるというか、楽観的すぎるように思えるのである。
 本作のスッブが「改心」する前に述べていた考え(つまり、本作で「誤り」とされた考え方)、例えば「ミドルクラスの家庭の子弟が社会で成功するためには、良い教育を受けさせるのが一番」とか、「クリケットが息子の将来を保証できるか?」というセリフは実に正当で現実的なものだと思う。「教科書以外でも子供の可能性を育てる」という本作のメッセージは、確かに間違っていないが、結局はステレオタイプな掛け声ぐらいにしか聞こえなかった。

◆ 演技者たち
 さすがにプラカーシュのおっさん、「どやっ!」といった感じの気魄十分な演技には感服するが、その分ややオーバーアクティングだったかもしれない。しかし、子煩悩な父親、金策に苦労する小役人、怒れる中年オヤジと、それぞれの局面において様々な情念を実に上手く演じ分けていた。一見の価値あり。
 (写真下:撮影監督の邪魔をする、もとい、撮影監督に指示を出すプラカーシュ監督。)

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 カールティク少年を演じたのは、上述したとおり、テルグ映画界のプーリ・ジャガンナート監督の息子、アーカーシュ・プーリくん。【Businessman】(12)でもマヘーシュ・バーブの子供時代の役で出ていた。特に上手い子役とも思えなかったが、顔立ちが親父に似ており、時おり笑えた。(下)

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 私的にヒットだったのは、娼婦ナリニを演じたラーディカー・アプテー。マラーティーの女優だが、【Rakta Charitra】(10)にも出ていたので、南インド映画ファンでも知っている人は多いだろう。本作では役柄も良かったが、笑うとくちゃくちゃっと形が崩れる顔がなんとも可愛かった。しっかりとした黒眉もナイスだ。(下)

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 その他、ガニー・バーイ役のムラリ・シャルマ、クリケット・コーチ役のナーサル、州首相役のサラット・バーブ辺りが印象的。ブラフマーナンダム(スッブの上司役)は中途半端な役回りで、不発だった。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は巨匠イライヤラージャを投入。私的には音楽もBGMも良かったと思う。
 ただ、音楽シーンはあまり効果的な形で挿入されていなかったし、上に書いたとおり、プラブデーヴァがカメオ出演したものは、なぜここでプラブデーヴァが出なければならないのか意図不明だったし、彼の凄いダンスを見せるわけでもなかった。これも単なる客寄せの手段か?

 撮影はK・V・グーハン。この人はプラカーシュ・ラージのお気に入りなのか、【Mozhi】(07)や【Vellitherai】(08)、【Payanam】(11)など、よく「Duet Movies」の作品でカメラを回している(【Inidhu Inidhu】(10)では監督もしているようだ)。

 クリケット選手のM・S・ドーニ自身がカメオ出演するという前情報もあり、楽しみにしていたが、ガセだった。

◆ 結語
 監督デビュー作【Naanu Nanna Kanasu】と同様、「子供の成長と親」をテーマに投入した本作だが、上手い出来とは思えなかった。「教育問題」はトレンドだとは言え、胸を打つ要素が乏しく、ヒットは難しいだろう。プラカーシュ・ラージのファン、インドの教育問題に関心がある方以外は、パスだろう。

・満足度 : 2.0 / 5

《 勝手トレイラー 》
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スッブ 「さ、触ってまへんねや〜、ほんまに!」
警官1 「話やったら署で聞かせてもらおか。」










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警官2 「お嬢さん、あなたの勇気ある通報のおかげで、悪質な連続痴漢魔が逮捕できました。」
ナリニ 「市民として当然のことをしたまでですわ。」
スッブ 「しょ、初犯ですねんて〜、、、」










 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
勝手にトレイラーで大笑いしました。

とっつぁんの豊かな表情、熱演は何故かツッコミを入れたくなります〜〜

サウスの映画を観ていると、とってつけたような人間愛を喚起する台詞なのにストンと心に入ってくる時もあれば、メッセージが一人歩きをしているように感じる時もあり、ドラマとメッセージの関係は不思議です。
あいや〜
2012/02/17 10:20
はい、メッセージは微妙なものですね。心に響けばいいですが、押し付けがましいのはちょっと、、、。

しかし、この映画はとっつぁんファンなら見ておいてもいいと思います。
 
カーヴェリ
2012/02/18 02:28

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