カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【3】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/04/17 20:35   >>

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 私の一時帰国中にサウスではそれほどの話題作・必見作が公開されなかったのが幸いだが、個人的にはカンナダ映画【Shikari】を見逃したのが残念だ。なにせマンムーティが初めてカンナダ映画に出演(主演)したというものだが、どうしたことか、あっと言う間に打ち切りとなってしまった。きっとカルナータカの衆はマンムーティが誰なのか知らないのだろう。
 観たかった話題作のうち、タミル映画の【3】には間に合った。

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 周知のとおり、ラジニカーントの長女アイシュワリヤが監督(デビュー)、その旦那で、一応、国家映画賞受賞者のダヌシュがヒーロー、カマル・ハーサンの娘シュルティがヒロインということで、かなり早くから話題となっていたが、加えて、挿入歌の1つ‘Why This Kolaveri Di’が全インド的規模でヒットし、日本の野田首相が訪印した際に「タミルのタガメ顔男(ダヌシュ)」と会食する羽目になるほどの社会現象となったことが、さらに本作の注目度を押し上げていた。
 さて、映画本編がこの期待を満足させるかどうか?

【3】 (2012 : Tamil)
脚本・監督 : Aishwarya R. Dhanush
出演 : Dhanush, Shruti Haasan, Sunder Ramu, Siva Karthikeyan, Prabhu, Bhanupriya, Rohini, Gabriella
音楽 : Anirudh Ravichander
撮影 : Velraj
編集 : Kola Bhaskar
制作 : K. Vimalageetha

《あらすじ》
 夫ラーム(Dhanush)の突然に死に、ジャナニ(Shruti Haasan)は絶望し、嘆き悲しむしかなかった。彼女の脳裏にラームとの思い出がよみがえる。
 ・・・
 17歳のラームとジャナニ。ある雨の朝、登校途中で故障したジャナニの自転車をラームが修理したのが二人の出会いだった。ラームは故意にジャナニと同じ塾に通い、気を惹こうとする。ジャナニもラームに好意を抱くが、二人の関係はジャナニの父に気付かれ、ラームはぶたれる。しかし、そんなことはお構いなしに、ラームはジャナニに接近し、二人の仲はさらに深まる。
 時が経ち、大学生活も終わる頃、ジャナニにアメリカ留学の話が決定する。彼女はそれをラームに伝えるが、彼は無関心なふりをする。ジャナニは両親の意思に逆らい、留学の書類を焼き払う。それを受けて、ラームはジャナニとの結婚を決意する。
 ラームは父(Prabhu)を説得する。ジャナニも両親を説得しようとするが、うまくいかない。しかし、妹(Gabriella)の思いがけないサポートで、両親も折れる。二人は結婚し、幸せな生活がスタートしたわけであったが、、、。
 ・・・
 ジャナニはラームの死に不審を抱き、ラームの親友クマーラン(Siva Karthikeyan)に会う。また、もう一人の親友センディル(Sunder Ramu)にも会おうとするが、彼はラームが死んだ日以来、行方知れずとなっていた。
 ジャナニはラームの遺品を整理している際に、彼のジャケットの中から遺書らしきものを発見する。そこにはセンディルの名前も言及されていた。ジャナニはなんとかセンディルを探し出し、話を聞く。そして、想像だにしなかった事実を知る。ラームは深刻な躁うつ病に罹患していたというのである、、、。

   *    *    *    *

 やはり新人監督の作品にありがちな、あちらこちらで至らぬものを感じる作品だった。
 とは言っても、そこはラジニカーントの娘に恥をかかせまいと、俳優、裏方が目一杯良い仕事をしてやろうという慈愛も感じられ、それなりにきめ細やかな作りになっている。ただし、面白みがない。効き目がそれほど効いていないように感じられた。

 私的にもっとも気に入らない点は、メッセージを最後に字幕で出してしまったことだ。本作は単純な感覚的面白さを味わうロマンスやスリラーではなく、明らかにメッセージ志向の作品だと思われるが、それをぽっと文章として提出する、これは映画的表現としては下策だと思う。短文で何かを訴えるのなら、最近、ほとんどのインド映画の冒頭に出される「タバコは健康を害します」というのと同じレベルではないか。

 しかも、そのメッセージというのが(ネタバレで申し訳ないが)「自殺は何ら問題を解決しない」と「躁うつ病は治療できる病である」という2点だったと記憶しているが、これは疑問に感じた。この2つを並べてしまったことで、アイシュワリヤ監督が躁うつ病(双極性障害、映画ではBipolar Disorderと呼ばれていた)についてきちんと理解していないことが分かるからである。
 というのも、「躁うつ病は治療できる病である」はいいとして、双極性障害者の自殺というのは本人もコントロール不能の状態で行われるものであり、「躁うつ病の皆さん、何の問題解決にもならないから、自殺はやめましょうね」と言えるような生やさしいものではないからである。「自殺は問題を解決しない」というメッセージは、例えば農民が貧困に耐えかねて自殺するような物語には有効だろう。
 というわけで、本作のメッセージは、どうせ文章で表現するなら「躁うつ病は治療できる病であり、治療によって最悪の事態(自殺)は防げる」だけでよかったと思う。もちろん治療といっても、たやすいものではない。そこで、ラーム(Dhanush)の自殺という形で終わるのではなく、自殺未遂から一命をとりとたラームを、家族や友人たちが懸命に支えていく、という筋立てにしたほうが、ありふれた感じにはなるが、インド映画らしくなり、感動できただろうと思う。「ショック」だけでなく、「泣く」か「笑う」かできなければ、大半の客はチケット代の元が取れたとは感じないだろう。

 ただ、躁うつ病というのは新しい病気でも特別に珍しい病気でもないが、とかく誤解・偏見を伴いがちなこの精神の病に、インド映画として比較的シリアスな態度で取り組んだというのは評価できる。
 また、映画全体の表現に女性監督らしい繊細なタッチが見られ(特に前半のラームとジャナニの恋物語に)、新鮮なものが感じられた。(もっとも、映画表現に男女の差があるのかどうか、私もよく分かっていないのだが。)

◆ 演技者たち
 嫁はんの手前、情けないパフォーマンスもできないダヌシュだが、予想どおりの熱演はしている。後半の感情障害の演技はいかにもダヌシュらしいが、【Mayakkam Enna】(11)ほどの迫力はない。この辺、アイシュワリヤとセルワラーガヴァンの演出力の差か。

 シュルティ・ハーサンもまずまずの演技だが、後半は泣いてばかりの演出だったので、少々気の毒だった。セリフは自身でアフレコしているようだが、やはりタミル語が少し訛っているらしい。
 ダヌシュもシュルティも、PUCの2年目(17歳)から新婚○年目までを演じ分ける必要があったが、17歳のシーンもそんなに違和感はなかった。
 (下:17歳の二人。シュルティのPUC2年目でこのヘアスタイルには疑問を感じるが。)

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 (下:すっかり大人になった二人。あんまり変わらんか。)

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 ラームの父を演じたのはプラブだが、これが非常に優しく理解ある善き父親像で、こんなところにも女性監督のセンスが現れているのかな、と思った。このキャラをもっとストーリーに生かしてほしかった。
 このごろ気になるローヒニーさんはジャナニの母親役だったが、ちょっとおっかないミドルクラスの母ということで、がっかり、私的には【Alaa.. Modalaindi】(11)や【Ishq】(12)のような、ほんわかオバサマ像を期待していたのだが。
 本作の登場人物では、ラームの親友センディルを演じたスンダル・ラームが印象に残る。【Mayakkam Enna】でも似たようなダヌシュを支える友人役だったが、今回の献身ぶりは見ていて涙が出そうになるほどだった。
 もう一人、ジャナニの妹役を演じた子役(Gabriellaという名前らしい)が記憶に残る。子供にしてはバランスの悪い大人びた美貌で、こういう顔はきっと長じて別嬪さんになると思う。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はアニルド・ラヴィチャンダルという人の担当で、どうもアイシュワリヤ監督のいとこか何からしい。音楽シーンの曲は良かったが、BGMは念入りに入れすぎたようにも感じられた。
 話題の‘Why This Kolaveri Di’もこの人の作曲で、ダヌシュ自身が作詞と歌を担当している。この歌のどこが良いのか、どうしてこんなに注目を集めたのかは、私はさっぱり分からないので、他の鑑賞者の分析を待とう。

 ヴェールラージの撮影は良い。
 編集はもっと容赦なく切るべきだったと思う。上映時間は2時間半近くあったように思うが、このストーリーでこれは長すぎる。

◆ 結語
 なにかと話題の膨らんだ作品だが、蓋を開けてみると、近ごろのタミル映画らしい、思いつめたような異色作だった。話題作は一応観ておきたい方、‘Kolaveri Di’がお気に入りだという方以外は、パスしてもいいと思う。

・満足度 : 2.0 / 5
 

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