カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Billa II】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/07/22 02:44   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 4 / コメント 0

画像

 公開の待ち遠しかったタミル映画がこれ、アジット主演の【Billa II】。同じくアジット主演の【Billa】(07)のパート2となる。
 ヴィシュヌヴァルダンが監督した【Billa】は当時のタミル・アクション映画の標準からすると図抜けてスタイリッシュなもので、大ヒットを記録した。この【Billa II】も当初はヴィシュヌヴァルダン監督の下で話が進んでいたが、同監督がテルグ映画【Panjaa】(11)のほうを優先してしまったため、降板。代わってチャクリがメガホンを取ることになったが、それが不安材料だった。というのも、チャクリ監督のデビュー作【Unnaipol Oruvan】(09)は、モーハンラールとカマル・ハーサンの熟練した演技もあって、それなりに見られるものとなったが、オリジナル【A Wednesday!】(08)のストレートなメッセージ性には遠く及ばず、チャクリ監督の力量に疑問符が付いたからだ。
 それでも、迷わず本作を観るべしと考えたのは、やはりこれが【Don】のバリエーションとなるからだ。周知のとおり、アミターブ・バッチャン主演の傑作ヒンディー映画【Don】(78)は多くのリメイク作品を生み、同じヒンディー映画ではシャールク・カーン主演の【Don】(06)が作られ、タミル映画ではラジニカーント主演の【Billa】(80)を経て、アジットの【Billa】(07)に至る。ところが、面白いことに、ここまではリメイク世代なのだが、その後、ヒンディー映画では【Don】(06)の続編として【Don 2】(11)が、そして、タミル映画では【Billa】(07)のパート2としてこの【Billa II】が現れることとなった。こういう、一つのオリジナルから別個にリメイクが作られ、それがまた独自の展開を遂げるというのは、『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』が土地土地によって別様に受容・変容・定着されたのと似ており、文化的に見て興味深い現象だ。幸い私は【Don 2】も劇場で観ているので、両パート2作品のコンセプトの違いなどにも注目してみたい。

【Billa II】 (2012 : Tamil)
物語 : Chakri Toleti, Eric Felberg
脚本 : Chakri Toleti, Sarath Mandava, Jaffer Mohammed
監督 : Chakri Toleti
出演 : Ajith, Parvathy Omanakuttan, Bruna Abdullah, Vidyut Jamwal, Sudhanshu Pandey, Yog Japee, Ilavarasu, Manoj K. Jayan, Dinesh Lamba, Krishna Kumar, Sriman, Sricharan, Rohit Khurana, Rahman, Janaki Sabesh, Gabriela Bertante(アイテム), Meenakshi Dixit(アイテム), Nicole Amy Madell(アイテム)
音楽 : Yuvan Shankar Raja
撮影 : R.D. Rajasekhar
編集 : Suresh Urs
制作 : Sunir Kheterpal, Suresh Balaje, George Pius

《あらすじ》
 デーヴィッド・ビッラー(Ajith)はスリランカ在住のタミル系クリスチャンだったが、同国内戦の煽りを受け、両親が死亡、自身は難民としてインドに渡り、ラーメーシュワラムの難民キャンプに入る。年の離れた姉(Janaki Sabesh)とその娘ジャスミン(Parvathy Omanakuttan)は早くからマドラスに定住していた。
 キャンプでの難民への扱いは酷いものだった。ビッラーはキャンプを取り仕切る悪徳警官ラグビール・シンハ(Krishna Kumar)と諍いを起こし、目を付けられる。ラグビールは罠を仕掛け、ビッラーをダイヤモンド密輸の廉で投獄しようとするが、ビッラーは難を逃れ、逆にラグビールを殺す。この一件で、ビッラーはローカル・マフィアのドン、セルワラージ(Ilavarasu)と親しくなる。
 相棒のランジット(Yog Japee)と共に、セルワラージの下で頭角を現したビッラーは、麻薬の密輸に手を染める。彼はコーティ(Manoj K. Jayan)という男を介して、ゴアの大物ドン、アッバーシ(Sudhanshu Pandey)に紹介される。ここでも目覚しい働きを見せたビッラーは、すっかりアッバーシの信頼を勝ち取る。
 そんな折に、マドラスの姉が死亡したため、ビッラーは姪のジャスミンをゴアの自室に住まわせることにする。
 アッバーシはロシアのマフィアのドン、ディミトリ(Vidyut Jamwal)と取り引きしていたが、新たな商談のため、ビッラーがコーティと共にロシアへ赴き、ディミトリに会う。その場でビッラーは世界的な大物マフィアのドン、ジャグディーシュ(Rahman)と顔見知りになる。
 アッバーシは勢力を拡大するビッラーを恐れるようになる。また、腐敗政治家プラヴィーン・クマール(Dinesh Lamba)との関係を巡ってビッラーと意見が対立したため、アッバーシはビッラーを暗殺しようとする。だが、窮地を脱したビッラーはアッバーシを殺し、彼の組織をその愛人サミーラ(Bruna Abdullah)もろとも手に入れる。
 大物ドンとなったビッラーには敵も増える。コーティとプラヴィーン・クマールはディミトリと結託し、ビッラーを抑え込もうとする。ビッラーは州首相暗殺の廉で逮捕されるが、裁判官を脅迫し、難なく釈放される。身の危険を察したビッラーは、ジャスミンをマレーシアへ避難させるため、彼女を愛人サミーラに託す。だがサミーラが裏切ったため、ジャスミンはコーティらの一味に殺されてしまう。
 憤ったビッラーはロシアに飛び、ディミトリを殺害する。彼はそのままマレーシアに飛ぶが、インドで彼の部下が裏切り者をすべて抹殺する。

   *    *    *    *

 【Don 2】と【Billa II】の違いは明瞭だった。【Don 2】が【Don】(06)の続編として「後日談(sequel)」となっているのに対し、【Billa II】は【Billa】(07)の「前日談(prequel)」であり、「スリランカ難民」だった男がいかにしてマフィアのドンとなったか、というビッラーの過去を描くものだった。
 「前日談」というのはチャクリ監督のアイデアなのか、そもそもヴィシュヌヴァルダンが構想していたものなのか、分からないが、自然な選択だったと言える。【Billa】(07)ではビッラーは死んでしまっているので、後日談は描くに描けないのである。まさか庶民のヴェール(ビッラーの替え玉を務めた男)の後日談というのもあるまい。
 おそらく作者は【ゴッドファーザー PART II】を意識したのだろう。ヴィトー少年がシチリア島の村を脱出してアメリカに渡り、マフィアのドンとなる物語は、難民としてスリランカからインドに渡ったビッラーの物語と重なる。だが、ヴィトー・コルレオーネのような人間味のあるドンを描く場合、この手法は有効だが、それがビッラーに適用できるか? 【Billa】(07)のビッラー(または【Don】のドン)というのは虚構性の強い、荒唐無稽な娯楽映画の中にしか存在し得ないような超人的ドンであり、そんなキャラクターの過去がどうだったとか描くことにほとんど意味がないように思える。「ビッラー」はなんだか分からないけど、凄いヤツ、悪いヤツ、でいいのである。どうも本作は企画の段階から間違っていたような気がする。
 その点、シャールク・カーンの【Don】(06)ではドンは生き延びているので、後日談も可能だし、ドンのキャラクターも継承できる。
 ただ、こちらにも構造上の無理はある。私は【Billa】(07)の評の中で、【Don】(06)への「苦言」として、「悪のシンボル」のような男が善良な庶民を殺してまで生き延びる物語はどうかと思う、みたいなことを書いた。私のセンスでは、シリーズとして転がすには、ドンというキャラにはインド映画の標準からして何か重要なものが欠けているような気がするのである。それで、そのことはファルハーン・アクタル監督も意識してか、【Don 2】ではドンの人物像のローンダリングみたいなことをやっており、物語の終盤では「ドンって、もしかして善いヤツ?」と思わせるような部分があった。しかし、これは【Don】(06)の初期設定とは矛盾することになるので、このキャラクターの揺れに戸惑った鑑賞者も少なくないだろう。おそら、このくローンダリングは【Don 3】(間違いなく作られる)ではもっと徹底され、「人間ドン」が出てくると予想されるが、さて、そこからファルハーン・アクタル監督がどのようにオチを付けるかは見ものである。いずれにせよ、ややこしい脚本になるのは間違いないだろう。
 結論として、ヒンディー版であれタミル版であれ、【Don】シリーズのパート2には論理的困難が見られた、ということだ。

 さて、本作の評価であるが、残念ながら失敗作だと言える。
 不安材料としてチャクリ監督そのものの名前を挙げておいたが、やはりそれは的中、何をやりたいのかよく分からない作品になっていた。もちろん、ビッラーというキャラクターを使ってアジットのカッコよさを見せるという意図はあっただろうし、それはかなりの程度成功していると思うが、映画作品としては支離滅裂な出来だった。もっとも、チャクリ監督にしても、製作の途中からメガホンを押し付けられて、思った通りのことができなかったかもしれないが、それは観客の知ったことじゃない。
 まずもって、前半と後半でスタイルが全然違っていた。ビッラーの駆け出し時代の前半は【ゴッドファーザー PART II】調の抑えの効いた写実タッチだったが、ビッラーが大物ドンになってからの後半はロジック無視のインド型アクション映画になっていた。質的には前半のほうがよくできているのだが、面白かったのは後半。【Billa】(07)との整合性を考えると、後半のほうが正解で、ハリウッド映画調で攻めた前半は監督の心得違いになるだろう。
 そもそも、「クリスチャンのスリランカ・タミルの難民」という設定がストーリー上まったく重要ではなかったし、その男が運命的な力で暗黒街に押し流される過程も丁寧に描かれていなかった。それで、ビッラーが大物ドンになっても「ここまで辿り着いた」という感覚がなく、観ているほうにドラマチックな感動が生まれてこない。
 技術面では申し分なく、凝った映像が見られただけに、もったいないなぁと思った。

◆ 演技者たち
 アジットのパフォーマンスは本作の評価ポイントとなる。そもそも【Billa】(07)でもアミターブ・バッチャンやラジニカーント、シャールク・カーンとは大きく違ったドン像を見せていたが、本作でも沈思黙考型の頭の良いドンという感じはよく出ていた。
 ただ、こんなことを言うと身も蓋もないのだが、私はアジットという俳優に「育ちの良い若旦那さん」といったイメージを抱いており、本作のような敵対者は遠慮なく始末するといった「悪者」にはどうもしっくり来ないものを感じるのである。タミルの大衆はそんなふうには見ていないのだろうか?

画像

 敵役のディミトリを演じたのはヴィデュット・ジャームワール。ヒンディー映画【Force】(11)でデビューして以来、もっぱら南インド映画に出演しているが、鋭角的な風貌と筋肉質のボディー、それに武道のスキルを以って、私は注目すべき悪役俳優だと見ている。インド人のこの男をロシア人役で使うというアイデアは面白かったが、寒い国じゃあ、ヴィデュットも服が脱げないので、筋肉を見せるチャンスを逸したのは痛い。

画像

 ただ、存在感という点では、ゴアのドン、アッバーシを演じたスダーンシュ・パーンデーイ(カタカナ表記は当てずっぽう)のほうが上だった。まったく知らない俳優だったが、なかなか絵になるイケメンだった。

画像

 モデル風の女はぞろぞろ出て来たが、ヒロインと言えるほど重要な役回りの人はいなかった。
 最も注目されていたのはミス・インディアのパールヴァティ・オーマナクッタン(カタカナ表記は当てずっぽう)で、ビッラーの姪という役だった。ビッラーのキャラクターの要請から、監督はロマンチックなエピソードを排除したようで、結果的に彼女もビッラーの親類という、印象度の低い役回りになってしまった。

画像

 それよりも、愛人サミーラ役のブルーナ・アブドゥッラーのほうが目立っていた。終始ビキニでスリムなボディーを披露していたが、あまり好い女だとも思われなかった。

画像

 ところで、思い起こせば【Billa】(07)でのビッラーの愛人役はナミターだったのだが、、、ビッラーはいつから「お太いのがお好き」になったのだろう?

 アジット以外に【Billa】(07)と共通の役をやったのは、大物マフィアのドン、ジャガディーシュ役のラフマーンと、ビッラーの片腕、ランジット役のヨーグ・ジェーピーだけだった。前者はちらっと顔を出しただけだが、後者は目立っていた。
 マノージ・K・ジャヤンが裏切り者として重要な役回りを担っていたが、彼にしては嫌らしさが出ていなかった。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は、あれ、ユワンくんが担当していたの?というぐらい、ありきたりな出来だった。
 アイテム・ダンサーを贅沢に使った音楽シーンは華やかだったが、似たようなコンセプトのものが3曲も並んでしまった。

 アクション・シーンはむらがあった。アクション・シーンによってコンセプトが違っており、統一感がなかった。

 撮影には「インド映画で初めて『Red Epic camera』が使われた」とのこと。またまた「何じゃ、それ?」と思って調べたが、よく分からなかった。とにかく、高性能なデジタル撮影機のことらしい。

◆ 結語
 近ごろのタミルの失敗作にありがちな、技術とスタイルはあるが、内容はない、という作品になってしまった。熱烈なアジット・ファン、もしくは、【Don】シリーズは押さえておきたいという人以外は特に見る必要もないだろう。ただ、幸い客は集めており、ビジネス的には悪くないようなので、どうせならこの勢いで【Billa III】まで行ってほしい。
 ところで、テルグ版の【Billa】(09)はパート2を作らないのかしら?

・満足度 : 2.0 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(4件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Devudu Chesina Manushulu】 (Telugu)
 仕事が忙しいやら、日本へ一時帰国するやら、体調を崩すやらで、この映画日記も間が空いてしまった。実際、ここ3週間ほどインド映画が観られない状況にあり、また映画関連のニュースにもまったく目を通していなかったので、この程度のブランクでもすっかり浦島太郎。観たい映画もここまで山積み状態となると、億劫な気分のほうが強くなるが、いつもどおり注目作を一つ一つ片付けていくしかない。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2012/09/18 11:39
【Iddarammayilatho】 (Telugu)
 プーリ・ジャガンナート監督は、人気と知名度の割には批評家から叩かれることが多く、年々作品の質が落ちているとの声も聞く。私もそれほど好きな監督だとは思わないのだが、それでも律儀に新作を観てしまうのは、毎回キャスティングに惹かれるからだ。  本作【Iddarammayilatho】も、ヒーローがアッル・アルジュンなので、それだけで私的には「観る!」なのだが、それ以上にアマラ・ポールとキャサリン・トレーサのツイン・ヒロインに惹かれた。実は、四方八方から届く口コミ評価はいずれも「つまらない... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/06/14 03:22
【Thalaivaa】 (Tamil)
 タミルのA・L・ヴィジャイ監督については、【Madrasapattinam】(10)を観て感銘を受け、また、【Deiva Thirumagal】(11)が去年「大阪アジアン映画祭」で上映された際にお目に掛かった縁もあって、注目したい監督に数えている。だが、これまでの作品のほとんどはリメイクかハリウッド映画の翻案だし、前作の【Thaandavam】(12)もいまいちな出来だっただけに、才能にはやや疑問が残る。  本作はそのA・L・ヴィジャイ監督がヴィジャイと組んだ期待の1作。ヴィジャ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/08/29 03:05
【Arrambam】 (Tamil)
 「テルグ映画・お祭りシーズン・話題作シリーズ」第X弾、、と行きたいところだったが、あろうことかディーパーワリだというのにテルグに話題作が公開されず、代わりにヴィシュヌヴァルダン監督、アジット主演のタミルの話題作【Arrambam】を観て来た。  ヴィシュヌヴァルダン監督とアジットのコンビには大ヒット作【Billa】(07)がある。しかしその後、アジット主演50本記念作品をヴィシュヌヴァルダンが撮りたがったとき、アジットはそれを袖にしてウェンカト・プラブ監督の【Mankatha】(1... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/11/06 20:53

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Billa II】 (Tamil) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる