カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Andala Rakshasi】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2012/08/24 22:50   >>

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 今回紹介する【Andala Rakshasi】は楽しみにしていた1作だった。というのも、これはテルグ映画でありながら、テレビで流されていたトレイラーを見る限り、タミル・ニューウェーブ・シネマの匂いがぷんぷんしたからである。「ほぉ、トリウッドもタミル風の映画を作るようになったか」というのが私の興味を引いた理由だが、さらに、このテルグ映画としては異色作と予想される作品をプロデュースしたのが【Eega】(12)のプロデューサーと監督、すなわち、サーイ・コッラパーティとS・S・ラージャマウリだというのだから、なおさら興味が掻き立てられる。
 監督はハヌ・ラーガワプーディという人で、本作がデビュー作となる。この人はChandra Sekhar Yeleti監督の助手か何かをやっていた人らしい。
 題名の「Andala Rakshasi」は「美しき羅刹女」という意味。

【Andala Rakshasi】 (2012 : Telugu)
物語・脚本・監督 : Hanu Raghavapudi
出演 : Lavanya Tripathi, Naveen Chandra, Rahul Ravindran, C.V.L. Narasimha Rao, Mickey, D. Murali Krishna, Pragathi
音楽 : Radhan
撮影 : G. Murali
編集 : G.V. Chandrasekhar
制作 : Sai Korrapati, S.S. Rajamouli

《あらすじ》
 時は1991年。ガウタム(Rahul Ravindran)は裕福な実業家の息子だが、ビジネスには関心がなく、パブでギタリストをしていた。ある日、バイクに乗っていたガウタムは、飛んで来たサッカー・ボールのせいで転倒する。そのボールを蹴ったのはミドゥナ(Lavanya Tripathi)だが、ガウタムは彼女を見るなり、惚れしてしまう。だが、ガウタムが密かにミドゥナの追っかけをしているときに、彼女は交通事故に遭い、生死の淵をさまようことになる。ミドゥナの家族は貧しかったため、ガウタムとその父が高額の治療費を受け持つ。
 4ヶ月後、ミドゥナは意識を回復する。彼女は、まず第一に家族に「スーリヤ」の安否を問うが、スーリヤは死亡したと告げられる。スーリヤはミドゥナの恋人の名前だった。
 退院したミドゥナは、それまでの経緯から、ガウタムと結婚することになるが、スーリヤのことが忘れられないでいた。それを知ったガウタムは、とりあえず結婚式はキャンセルし、ウーティにある父の別荘へ彼女を連れて行く。そこでガウタムは彼女に対して懸命に愛を表現する。その甲斐あって、死んだようだったミドゥナもガウタムに心を開くようになる。
 だが、そんな時に、とんでもない事実が分かる。ガウタムはひょんなきっかけから、スーリヤが実は生きていることを知るのである。彼は父にスーリヤの話をする。
 ・・・
 ガウタムがミドゥナに一目惚れしたのとまさに同じ日に、スーリヤ(Naveen Chandra)もミドゥナに一目惚れしていた。スーリヤはスクラップ・アーチストであったが、荒くれ者で、街のごろつき連中としょっちゅう諍いを起こしていた。彼はミドゥナに猛烈にアタックするが、彼女はスーリヤのことを不気味に思っていた。だが、いつしか彼女もスーリヤの個性的な人間性に惹かれ、彼を愛するようになる。そんな時に、交通事故に遭ったのであった。
 ・・・
 誠実なガウタムはミドゥナにもスーリヤが生きていることを伝える。だが、この瞬間から、3人の運命が狂い始める、、、。

   *    *    *    *

 『ハムレット』のような、「知らぬが仏」の、皮肉な運命の物語だった。お察しのとおり、沈痛な悲劇だった。はっきり言って、ちっとも面白くなく、混乱したエンディングで、後味は非常に悪い。期待はずれだった。

 コリウッドでは、例えばシャンカルやムルガダースなど、超ド級の娯楽映画を撮っている監督が、ひょいとニューウェーブ系の低予算・実験的作品のプロデュースをして、成功を収めたりしている例があるが、それをトリウッドでS・S・ラージャマウリがやるか。本作は、変な喩えになるが、【KSD: Appalraju】(11)で劇中のアッパルラージュ監督が作ろうとしていたような映画で、S・S・ラージャマウリが手を出すような線ではない。

 上で、トレイラーを見て「タミル・ニューウェーブ・シネマの匂いがした」と書いたが、全編を観てみると、かなり違った性質のものだということが分かった。写実的な手法を取っているという点では同様だが、タミル・ニューウェーブの場合は、「田舎者」であれ「わ゙か者」であれ、登場人物が具体的というか、「こんなヤツ、いる!」と来るのだが、本作の登場人物はまるで新人作家の書いた純文学作品中のキャラクターのように、リアリティーがまるでない。情感への訴え方も両者はぜんぜん違っており、タミル・ニューウェーブではけっこう感動できる私でも、本作はさっぱりだった。
 多くのレビューでは、口裏を合わせたかのように、マニ・ラトナム監督の初期の名作【Mouna Ragam】(86)や【Geethanjali】(89)との類似性を挙げているが、私はどちらかというと、マラヤーラム映画界のシャーマプラサード監督の作品に似ていると感じた。

 大雑把に言えば「三角関係」物になるが、ハヌ監督自身の言によれば、「地球」と「太陽」と「月」を巡る愛の物語らしい。まずミドゥナが地球で、スーリヤが太陽、ガウタムが月ということだろうが、こういう類型的な設定自体がアホくさい。ただし、興味深いといえば、カンナダ映画の【America! America!!】(95)でもこれと同じモチーフが用いられていたことで、結婚なんかも天体の運行(占星術)で決められるインドにおいては、こういう発想は割とすんなり受け入れられるものなのかもしれない。

 ガウタムのミドゥナに対する報われない愛や、スーリヤとガウタムの間で板挟みになるミドゥナの葛藤など、「愛の苦しい側面」を主題としたことは評価できる。ただ、「救い」となるようなポジティブな側面も提示してほしかった。
 最大の疑問は、この物語の時代をなぜ1991年に設定しなければならなかったのか、ということだ。題名の「美しき羅刹女」というのはおそらくミドゥナのことを指すと思われるが、このフランソワ・トリュフォー監督の映画に出てきそうな、愛において自分の気持ちに忠実な女性が20年前のインドにいたとはどうも考えにくい。むしろ、これは現代の物語にすべきであり、この映画全体を2012年の物語だとしても、何ら不自然はなかったと思う。
 もう一つの疑問として、この沈鬱だが単純な物語を語るのに、どうして2時間33分も必要なのか、さっぱり分からなかった。

◆ 演技者たち
 この鑑賞記では主人公とさせてもらったミドゥナを演じたのはラヴァンニャという人。おそらく新人だろう。オーディションで慎重に選ばれたという感じで、役柄によく合っていたし、上手く演じてもいた。南印アイドル女優としてやっていくのは難しいと思うが、ドラマになる顔はしている。なかなか印象的で、本作は映画本編はつまらないにもかかわらず、DVDが出たら買っちゃうだろうなぁ、と私に思わせるのは、ひとえに彼女のおかげだ。もっとも、チンマイさんの吹き替えが良かったとも言えるが。
 (写真下:ラヴァンニャさん。ガウタム役のラーフル・ラヴィンドランと。)

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 ガウタムを演じたのはラーフル・ラヴィンドラン、スーリヤを演じたのはナヴィーン・チャンドラ。ラーフル・ラヴィンドランはいくつか出演作があるようだが、ナヴィーン・チャンドラはデビューだろう。それぞれ「月」と「太陽」ということで、対比的な男性として描かれていた。片や裕福で、都会的なスマートガイ、片や貧しく、自由奔放な荒くれ者。前者はシッダールタにちょいと似ていたが、後者はタミル田舎映画に出てきそうな風貌だった。たぶん本作を観た女性客の間で、どっちが好きかで意見が分かれるだろう。映画中の印象度ではナヴィーン・チャンドラのほうが上だった。
 (写真下:スーリヤ役のナヴィーン・チャンドラ。ラヴァンニャと。)

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 とにかく、本作は知らない人ばかり出ていたが、唯一知っている顔は、ミドゥナの母親役を演じたプラガティさんだった。

◆ 音楽・撮影・その他
 本作が注目を集めた理由の一つは音楽なのだが、担当したのはラダンという人。まったく知らないが、新人の音楽監督か? 曲自体はなかなか良く、けっこうヒットしているようだ。

 撮影も良かったと言える。担当はG・ムラリという人で、これも新人か?

◆ 結語
 監督もスタッフも俳優も新顔が並び、テルグ映画としては異色な作品でもあるのだが、残念ながらハヌ監督の気合が空回りする失敗作となってしまった。フロップに終わったようだが、それはトリウッドにとって幸いだったと言える。(しかし、NTRジュニアがハヌ監督の次回作に出たいと言っているらしい!)とにかく、こういう辛気くさい映画はマニ・ラトナムとシャーマプラサードだけでご勘弁願いたい。

・満足度 : 1.5 / 5
 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
Unnale Unnaleの頃から読ませていただいておりますが、初投稿です。

チェンナイでAttakathiという「わ゙か者失恋集」を見てまいりまいた。
典型的なタミルの田舎物で、
多分ここで仰られているリアリティに溢れていたのでしょう
真後ろで若者達の野次と声援が沸き起こってひどい目に会いました。
バックにギターの調べが流れる淡々としたコメディー。
もしかして他の南部州ではヒットしない類のタミル映画かとも感じました。
2b
2012/08/27 09:34
2bさま
貴重な鑑賞コメント、ありがとうございます。
Attakathiはバンガロールでは公開されていないので、私は未見ですが、上のコメントを読んで気にかかり始めました。
「野次と声援」とありますが、2bさんの印象では、劇場内の観客は喜んでいるようでしたか、「つまらない」といった感じでしたか?
 
カーヴェリ
2012/08/27 19:35
「悲鳴」ですかね。田舎のわ゙か者の青春そのままを痛々しく見せてるコメディーですから。多分タミルの、特に地方では可笑しく楽しく観てられていることでしょう。ただコメントに書いたように自分は哀愁の田園サンバをゆったりと鑑賞していたい気分でしたのでこうした歓声とか笑いは邪魔でした。
2b
2012/08/27 22:44
「悲鳴」ですか。これはびっくり。ますます見たくなりました。
どうもありがとうございます。
 
カーヴェリ
2012/08/29 10:22

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