カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Mugamoodi】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/09/25 02:05   >>

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 このミシュキン監督の新作【Mugamoodi】は、上のスチルを見ても分かるとおり、「タミル映画界初のスーパーヒーロー物」という触れ込みで、大々的に宣伝されていた。しかし、私的にはこの宣伝文句に対してもやもやっとした気持ちが沸き起こる。
 本当に「初」と言い切れるのか?【Kanthaswamy】(09)や【Velayudham】(11)は何だったんだ?ひょっとして、昔の大スターの作品にスーパーヒーロー物やそれに類したものはありはしないか?というもやもや感が一つ。
 確かに、本作は「初」を謳いたくなるほど、アメリカ型のティピカルなコスチューム物、マスク物を作ろうという意気込みが感じられる。しかし、そもそも南インド映画では、アクション映画や神様映画に「スーパーなヒーロー」が確立されているという伝統があるのに、わざわざハリウッド型ヒーローを導入する必要があるのか、というもやもや感が二つ目。
 それよりも、三つ目にして最大のもやもや感は「なんでミシュキンがコスチューム物なの?」ということだった。過去の【Chithiram Pesuthadi】(06)、【Anjathey】(08)、【Nandalala】(10)、【Yuddham Sei】(11)を観る限り、私の感触では、ミシュキン監督とスーパーヒーロー物というのはどうも結び付きにくいものなのだが、、、。
 何はともあれ、アメリカでは普通のスーパーヒーロー映画も、インドでは異色作に違いないので、大いなる好奇心と共に鑑賞した。
 題名の「Muamoodi」は「仮面」という意味らしい。

【Mugamoodi】 (2012 : Tamil)
脚本・監督 : Mysskin
出演 : Jiiva, Narain, Pooja Hegde, Nasser, Selvaah, Girish Karnad, その他
音楽 : K (Krishna Kumar)
撮影 : Sathya
編集 : Gaugin
制作 : Ronnie Screwvala, Siddharth Roy Kapur

《あらすじ》
 「ドラゴン」ことアングチャーミ(Narain)はクンフーの達人だった。彼の主催するクンフー学校は、表向きは健全な道場だったが、陰では強盗事件を繰り返す犯罪組織だった。チェンナイで連発する強盗殺人事件に頭を痛めたタミル・ナードゥ警察は、ACPのガウラヴ(Nasser)にこの事件を担当させる。
 アーナンド(Jiiva)は無為徒食の若者だが、優秀なクンフーの使い手で、周りから「ブルース・リー」と呼ばれていた。彼はクンフーの師であるチャンドルー(Selvaah)を非常に尊敬していた。アーナンドには両親と二人の祖父がいた。父はクンフー以外能無しの息子を馬鹿にしていたが、祖父たちは孫を可愛がっていた。祖父の一人(Girish Karnad)は科学者で、珍奇な発明品をこしらえていた。もう一人の祖父は特殊衣装を作る職人だった。
 ガウラヴの娘シャクティ(Pooja Hegde)は、父の仕事の影響か、正義感の強い女性だった。ある日、彼女は魚市場でひと悶着起こしているアーナンドを目撃し、警察に通報する。おかげで警察のご厄介になったアーナンドは、シャクティに対して敵意を抱くが、逆に彼女の美しさに心奪われ、すっかり惚れてしまう。
 アーナンドはシャクティの気を引くために、ある晩、仮面にマントというスーパーヒーローの衣装を着て、シャクティの家まで行く。シャクティとその幼い妹・弟は、この謎のヒーローのパフォーマンスに関心を抱く。その帰り道、アーナンドは偶然、強盗事件を犯したドラゴンの一味を警察が追っている現場に遭遇する。彼の活躍で強盗団の1人が逮捕されるが、アーナンドはヒーローの衣装を着たままだったため、警察の質問に対して「私はムガムーディ(仮面男)だ」と答える。翌日、この「ムガムーディ」の出現がTVニュースで報道される。
 逮捕された強盗団のメンバーが裁判所に搬送される際に脱走を試みたため、射殺される。しかし、その男はドラゴンの弟だったため、ドラゴンは警察に対する復讐に動き出す。
 ガウラヴは逮捕した男のデータから、この強盗犯罪に関係する人物の手掛かりをつかみ、ファイルにまとめる。ところが、そのファイルを持って帰宅した際に、ドラゴンの手下に銃で撃たれてしまう。間の悪いことに、ちょうどその場にアーナンドがシャクティにプロポーズしようとやって来ていたため、彼はガウラヴの部下とシャクティにガウラヴ殺しの犯人だと疑われてしまう。また、この事件に巻き込まれて、アーナンドの友人もドラゴンの手下に殺されてしまう。
 ガウラヴ銃撃と容疑者アーナンドのニュースはたちまちに報道される。アーナンドは、シャクティの抱く疑いを晴らし、また殺された友人の復讐を果たすために、仮面のヒーロー「ムガムーディ」としてドラゴンと闘う決意をする、、、。

   *    *    *    *

 「ミシュキン監督とスーパーヒーロー物」という混じり合いの悪さから、ハリウッド映画とはまったく違うミシュキン型のスーパーヒーロー映画になるか、または、従来のミシュキン作品とはまったく違うハリウッド寄りのミシュキン作品になるか、どちらかしかないと思っていたが、前者だった。
 本作を、「スーパーマン」や「バットマン」のようなハラハラドキドキのヒーロー映画を期待して観ると、ずっこける。ジーヴァ演じる「ムガムーディ」は、スーパーマンやスパイダーマンとは違って、空を飛んだり、ひらりひらりと壁を駆け上がったりせず、クンフーには秀でているものの、畢竟は生身の人間であり、塀を攀じ登るときも「よっこいしょ」という感じだった。
 表現スタイルも、ミシュキンらしいと言えば言えるのだが、観客の忍耐力に挑戦するかのようなスローテンポ、台詞よりは映像に語らせるための丁寧すぎるカメラワーク、9割が夜のシーンという仄暗い映像、グラフィックスを一切使用していないアクションシーン、そのアクションシーンでさえ哀感漂うBGMと、ハリウッド型スーパーヒーロー映画の逆を行くようなものだった。

 それで私は、本作鑑賞直後の推測として、ミシュキン監督はアメリカン・スーパーヒーローなんかにはてんから関心がなく、「UTVが金出してやると言うから、マスク物作ってやったけど、好き勝手やらせてもらったよ」と今ごろ酒飲みながら大笑いしているに違いないと思っていたが、実はそうではないようである。
 こちらのインタビューなどを読むと、どうもミシュキン監督はアメリカン・コミックスも熱心に読んでおり、このスーパーヒーロー映画はもう5年も前から構想していたものらしい。ただ、それを自分の表現スタイルで銀幕化するというこだわりはあったようだ。

 それならなぁ、、、、もうちょっと面白い映画を作ってくれよ、、。

 確かに、ハリウッド映画とは違うスーパーヒーロー物になり得ているが、スローなテンポ、全体的に抑えの利きすぎた調子、悪役のイメージの弱さなどのせいで、緊張感はほとんどない。南インドの伝統的な復讐型アクション映画の面白さにも遠く及ばない。

 もちろん、本作にも良い点はある。それは、独特の美しさがあるという点だ。
 本作は冒頭に「ブルース・リーに捧ぐ」というオマージュがある。ミシュキン監督がどれだけ大真面目か分からないが、彼の東洋趣味からすると、いい加減な気持ちでクンフーを取り上げたのではなさそうだ。その証拠に、映画のあちこちから東洋武術の精神性の美しさみたいなものが感じられるようだった(特にクライマックス)。東アジアの武術に対する理解がまだまだ浅薄なインド映画にあって、本作はなかなか良い線を行っている。
 しかし、こういう高度な美意識は子供には分からないだろうし、インドの大衆にも理解されにくいだろうとは思う。

 ミシュキン監督らしさが見られるといっても、これまでの情念型スリラーで見せたほどの鮮やかさはなく、やはり本作のテーマと彼の手法は合いにくいように感じられた。
 過去作で特徴的だった「妹コンプレックス」も「黄色いサリー」も今回はなし。ただ、警察という組織に対する冷淡なスタンスは本作でも生きていた。あと、「酒臭さ」。

◆ 演技者たち
 安定した俳優に育ちつつあるジーヴァだが、本作でも期待を裏切るようなパフォーマンスではなかった。
 クンフーの所作も様になっていたが、上でリンク付けしたインタビューによると、ジーヴァは8年も武術を習っているらしい。タミル俳優の中では身体能力は高いほうだと思われるが、本作のアクションシーンはスタントを立てずに、すべてジーヴァ自身がこなしているそうだ。

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 注目のコスチュームだが、日本人のセンスからすると「?」だろう。しかし、映画本編を観れば分かるが、これは祖父が孫のために夜なべして手作りしたものなので、これはこれで良しとしよう。しかも、下のスチルにあるのが「ムガムーディ・バージョン1」なので、格段に進化しているじゃないか!

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 ヒロイン、シャクティを演じたのはプージャー・ヘグデという人。デビューらしい。マンガロール出身のカンナディガということで、応援してやりたいが、女優というよりはモデル顔で、ちと面白みに欠ける。

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 悪役ドラゴンを演じたのは、ミシュキン作品ではお馴染みのナレン。実は、ミシュキンは本作の悪役の作り上げに失敗していると思うのだが、ナレンの演技力でなんとかカバーしていた。

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 その他、カンナダの映画・演劇界の重鎮、ギリーシュ・カールナードがなかなか印象的な祖父を演じていた。

◆ 音楽・撮影・その他
 ミシュキン監督は前作の【Yuddham Sei】とほぼ同じ裏方陣で臨んだようで、音楽監督のK(クリシュナ・クマール)、撮影監督のサティヤ、編集のガーギン(カタカナ表記は当てずっぽう)は共通。

 Kの音楽は【Yuddham Sei】と似たようなコンセプトだが、一層の華麗さを増している。音楽シーンの曲は大したことはないが、とにかくBGMが浸れる。

 9割が夜のシーンということで、難しい撮影だったと思われるが、サティヤにはお疲れ様と言いたい。
 クライマックスの港は、ストーリー上はチェンナイ北方のエンノール港となっていたが、実際のロケはカーライカール港で行われたようだ。たぶん、昼見ればそんなにきれいな港でもないのだろうけど、本作では官能的に美しい夜景として撮影されていた。

 「ムガムーディ」のコスチュームは香港に発注したもので、値段は500万ルピーだという報告もある。これを知って、さすがのタミル人も香港人にはボラれるか、と思った。

◆ 結語
 明らかにミシュキン・スタイルのマスク物で、美しさもあるが、もっと面白い映画にできたはずだ。「ミシュキン」、「タミル映画のスーパーヒーロー物」、「インド人とクンフー」というキーワードが気に掛かる人のみ観ればいいだろう。

・満足度 : 2.5 / 5
 

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− タイトルなし −
 私はミシュキン監督のファンであり、彼のことをインドで五指に入るほどの有能な映画監督だと思っているのだが(これは適当に言っているだけなので、他の4人は誰かと聞かないこと)、過去6作のうち映画館で観たのは【Yuddham Sei】(11)と【Mugamoodi】(12)だけだった。どうも巡り合わせが悪いようで、この新作【Pisaasu】も私の一時帰国中に公開され、鑑賞が危ぶまれたが、何とかバンガロールで持ちこたえてくれた。観逃したら観逃したで、DVDで鑑賞すればいいようなものだが、緻密な... ...続きを見る
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