カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Shiridi Sai】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2012/09/30 21:37   >>

ナイス ブログ気持玉 2 / トラックバック 4 / コメント 2

 本ブログをお読みの方なら、「シルディーのサーイーバーバー」のことは、深く知らないまでも、名前と顔ぐらいは記憶されていることと思う。19世紀中頃から20世紀初めにかけて、現在のマハーラーシュトラ州のシルディー村を拠点に活動した聖者で、没後(聖者に「没」という語は適切ではないが)100年近く経つ今も非常に人気が高く、篤い崇拝を集めている。インド人の間でも、「プッタパルティのサーイーバーバーはうさん臭くて、、、」という人はいても、「シルディーのサーイーバーバー」のことを悪く言う人に私はまだ会ったことがない。サーイーバーバーを有名にしたのは数々の奇跡譚のようだが、根本思想として伝えられている、ヒンドゥー教やイスラーム教、キリスト教などの特定の宗教・宗派を超えた普遍的な宗教的立場は、現在でも聞くべきところが多い。
 そんなインド屈指の聖者のことだから、過去に何度も映画化、テレビドラマ化されたようだが、今回新たに、トリウッドのトップスター、ナーガールジュナが挑戦する。

画像

 ナグさんは過去に【Annamayya】(97)、【Sri Ramadasu】(06)と、デヴォーショナル映画の分野でも卓越した働きを見せているだけに、本作でこのインド精神史上の巨星にどう挑むか、見ものだ。
 監督は同じく【Annamayya】と【Sri Ramadasu】でナグさんとコンビを組んだK・ラーガヴェンドラ・ラーウ。私はこの人の作品では他に【Sri Manjunatha】(01)しか観ていないが、この3作にはどれも強い感銘を受けた。
 なお、この聖者の名前は「シルディー・サーイーバーバー」もしくは「シルディ・サイババ」とカタカナ表記されるのが一般的だが、テルグ語ではどうも「シリディ・サーイバーバー」と表記されるようで、映画中でもそのように発音されていたので、この記事では後者に従っておく。

【Shiridi Sai】 (2012 : Telugu)
物語 : Bhaktha Suresh Kumar
台詞 : Paruchuri Brothers
監督 : K. Raghavendra Rao
出演 : Nagarjuna, Srikanth, Srihari, Sayaji Shinde, Kamalinee Mukherjee, Sarath Babu, Rohini Hattangadi, Vinaya Prasad, Rujuta Deshmukh, Sai Kumar, Ali, Ananth, Tanikella Bharani, Dharmavarapu Subramanyam, Dipali Dodke, Devendra Dodke, Nagesh Bhosale
音楽 : M.M. Keeravani
撮影 : S. Gopal Reddy
編集 : Shravan
制作 : Mahesh Reddy, Girish Reddy

《あらすじ》
 19世紀の中頃、シリディ村に見知らぬ青年が現れ、ニームの木の下で瞑想を始める。それは名前も家族も故郷もない、風変わりな青年だった。僧侶のマハルサパティ(Sarath Babu)とその妻ガンガー・バーイ(Rohini Hattangadi)は青年に只ならぬ霊性を感じ取る。村の有力者バーティヤ(Sayaji Shinde)はこの青年をうさん臭く感じ、嫌がらせを始める。ほどなく、青年は忽然と姿を消す。
 青年はヒマーラヤで修業をしていた。彼はヒンドゥー教、イスラーム教、仏教、キリスト教などの師や信者らと交流し、独特の宗教的境地に達する。そして、再びシリディ村に戻る。
 マハルサパティとガンガー・バーイはこの聖者(Nagarjuna)の帰還に大喜びする。聖者は村人たちから歓迎され、「サーイバーバー(聖なる父)」と呼ばれるようになる。サーイバーバーは数々の奇跡を起こし、困窮した人々を救済したため、たちまちに帰依者が現れる。帰依者には、マハルサパティ夫妻を始めとして、バーイジャ・バーイ(Vinaya Prasad)とその息子ターティヤ、ラクシュミ・バーイ(Rujuta Deshmukh)、チャンド・パティル(Nagesh Bhosale)、ナーナーワリ(Sai Kumar)、元警官のダース・ガヌ(Srikanth)、そして、熱烈なクリシュナ信者だったスンダリ・バーイ(Kamalinee Mukherjee)らがいた。
 しかし、バーティヤは頑なにサーイバーバーに敵意を抱いていた。ある夜、彼は手下に命じてサーイバーバーを殺しに行かせる。だが、彼らがサーイバーバの在所に到着したとき、バーバーはすでに五体が切り刻まれた状態だった。驚く悪漢たち。しかし翌日、バーバーは五体完全な状態で現れ、一同を驚かせる。
 ある日、サーイバーバーは信者らに「魂が肉体を離れ、三日後に蘇る」ことを告げる。バーバーの体は果たして死体のようになり、イギリス人医師から死を宣告され、土中に埋められそうになる。しかし、予言どおり、バーバーは復活する。
 時は過ぎ、サーイバーバーがクリシュナ寺院の建立に従事していた頃、イギリス人のウェールズ大佐(Srihari)がやって来る。彼はサーイバーバーに対して懐疑的だったが、試しに撮ったバーバーの写真がイエス・キリストに変わっているのを見、バーバーにひざまずく。また、あれだけサーイバーバーを拒んでいたバーティヤも、足の怪我をして歩けなかったときに、バーバーの写真に手を触れただけで怪我が治ったため、バーバーにひれ伏す。
 さらに時が経ち、サーイバーバーが地上を去る日がやって来る、、、。

   *    *    *    *

 結局のところ私は日本人なのだし、仏教徒の端くれとしてインド起源の宗教はかすめているとはいえ、ヒンドゥー教やイスラーム教には特段の思い入れのない部外者として言わせてもらうと、本作はちっとも面白くなかった。
 きっと良い映画なのだろう。作り手の真摯な姿勢は伝わってきたし、品格のある作品だったと思う。残念ながら、私にはその良さを理解するための様々な要素が欠けていたということだ。インド人やサーイバーバー信奉者の目には私とはまったく違ったふうに見えていただろうし、当然、違った価値を持つ映画であるに違いない。

 ただ、私の感性の不備を正当化させてもらうと、テルグの宗教映画の秀作というのは、特定の宗教の信者やある種の教養層のみが理解できればいいという次元ではなく、私のような異教徒の外国人でも熱い感動と共に鑑賞でき、そして、それが契機となって「お寺参りの一つでもしようか」という気持ちにさせてくれる、そういうものであると思うし、そういう作品を期待したい。しかし、本作は渋すぎた。

 要は、「ナグさんがシリディのサーイバーバーを演じた」という事実以外、特に何もない映画だった。それで十分じゃないか、と満足できるなら、それでいい。しかし、本作の単調で抑えすぎた脚本と古くさい演出法のせいで、私は何度も居眠りしかけた。
 決定的に、【Annamayya】や【Sri Ramadasu】で見られたような宗教的情熱が足りない。敵対者バーティヤとのやり取りも、もっと火花の散る激烈なものであってほしかった。
 「真の聖人の生涯を描くのに、何のけれんが要るのか?」とラーガヴェンドラ・ラーウ監督に反論されそうだが、それならいっそ陳腐なコメディーとセンチメンタルな場面も排して、さらに渋味のある作品にしてほしかった。

画像

 私を最も失望させたのは、上のスチルに見られるようなイメージだ。これはサーイバーバーがヒマーラヤで自己の宗教的立場を確立したときに挿入された音楽シーンのもので、「万教同根」、「神は一つ」、「宗教的対立は克服できる」という観念を表現したものだが、インド人がこれを見ると間違いなく印パ紛争の問題を思い浮かべるだろう。これを見たとき、私は「あ〜、やっちゃった」と思った。
 そりゃあ、サーイバーバーの今日的意義というものを考えれば、テロやコミュナル暴動などの宗教に関連する問題への対立項として聖者を捉えるというのは有効なことだし、上のようなイメージを用いれば、一般大衆にも分かりやすい。しかし、「聖人(宗教的天才)」の「悟り」というものを、この次元まで貶めていいものか? ラーガヴェンドラ・ラーウ監督も70年もインド人をやっているのなら、もっと宗教的に深みのある映画を作ってくれよ。(もっとも、スピリチュアル大国のインドと言っても、有名なアシュラムで配られるパンフレットでさえ、「真理のチラシ広告」みたいなところがあるが。)

◆ 演技者たち
 本作は作品の性格上、サーイバーバー役のナーガールジュナ本位の映画であり、味わいどころとしてはナグさんが8割、カマリニーが1割(←個人的好み)、キーラワーニの音楽が1割だと言える(他はDVDのパッケージに貼られたシールぐらいの値打ちだった)。
 ナグさんのパフォーマンスは際立っており、酔える部分も多かったが、しかし、私は満足していない。部外者のくせにこんなことを言うのも何だが、私が漠然と抱いていたシルディー・サーイバーバーのイメージと本作に現れたバーバーとはどうも隔たりがあるのである。ナグさんの演じたバーバーは優しすぎ、これでは「聖人」ではなく「善人」だと思った。ここでもラーガヴェンドラ・ラーウ監督は「聖者」や「奇跡」の意味を分かっていないのでは、と疑いたくなった。
 (写真下:外見的にはかなりそっくりに演じていたナグさん。)

画像

 他の登場人物はすべてナグさんの引き立て役と言ってもいいが、引き立て方でキラリと光っていたのは、熱烈なクリシュナ神の帰依者だったスンダリ・バーイ(ラーダークリシュナマーイ)役のカマリニー・ムカルジーだろう。クライマックスで、バーバーの昇天に合わせて自らも果てる場面は超エロティック。
 シュリーカーントも適切なサポートだった。警官からバーバーの帰依者となり、後に‘Shri Sai Gurucharitra’というバーバーの伝記を著す人の役だった。

 シュリーハリが鬘をかぶって英国人(ウェールズ大佐)の役をやると聞いたときは、「冗談はやめてくれ〜」と思ったが、本当に「冗談」だった。インパクトはあったが、彼にとっては一世一代のタコ芝居だろう。
 バーティヤ役のサーヤージ・シンデもだめ。

◆ 音楽・撮影・その他
 キーラワーニの音楽は良かった。挿入歌の数も多く、古典調のBGMも絶えず流れていて、心地よいインド的世界に浸れる。

 俳優の演技も総じて時代がかった演出が付いていたが、セットや照明も一目でそれと分かる人工的なもので、カラー映画が始まった頃のインド映画を思わせた。これはおそらく監督が意図的に狙ったものだろう。

◆ 結語
 そもそも私などが観るべき作品ではなかったが、きっと良い映画なので、テルグ映画ファン、ナグさんのファン、シルディー・サーイーバーバーの信奉者なら、安心して本作の鑑賞に臨めると思う。そうじゃない方にはほとんど用のない作品だろう。もっとも、2時間半でサーイーバーバの生涯が分かるという便利さは捨てがたいが。

・満足度 : 2.0 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
ナイス ナイス

トラックバック(4件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Dhamarukam】 (Telugu)
 タミル映画界が地味だったのに対して、今年のテルグ映画界は人気スター、著名監督による話題作が期待どおりの興行成績を上げ、賑やかだった印象がある。【Businessman】と【Devudu Chesina Manushulu】で外したっぽいプーリ・ジャガンナート監督も【Cameraman Gangatho Rambabu】で逆転ホームランを放っている。  多くのスターがヒット作をものにした中で、ボックスオフィス的に渋かったのがラヴィ・テージャとナーガールジュナだろう。ただ、ナグさんの場合は... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2012/11/30 23:37
【Jagadguru Adi Sankara】 (Telugu)
 今回紹介する【Jagadguru Adi Sankara】は、中世インドの大思想家「シャンカラ」の生涯を描いたもの。シャンカラの生没年は例によって定かではないが、「西暦788年〜820年」が有力とされている。生地はインド南部のカーラディという村(現在のケーララ州エルナクラム辺り)だと伝えられている。彼の最大の功績は「アドヴァイタ」(不二一元論)の思想的立場を確立し、ヒンドゥー教の教義を整理・強化した点にあるだろう。「アドヴァイタ」が如何なる思想かは、ご存知の方には私の説明など必要ない... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/09/07 10:07
【Ramayya Vasthavayya】 (Telugu)
 なし崩し的に始まった「テルグ映画・お祭りシーズン・話題作シリーズ」は、第1弾の【Attarintiki Daaredi】がおかげさまでブロックバスターとなり、東京での1回限りの上映も好評だったようである。で、2発目の大砲として登場したのがNTRジュニア主演の【Ramayya Vasthavayya】。  監督は【Mirapakaay】(11)や【Gabbar Singh】(12)でお馴染みのハリーシュ・シャンカル。  ヒロインはサマンタ・ルート・プラブにシュルティ・ハーサンと、豪... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/10/16 01:41
【Om Namo Venkatesaya】 (Telugu)
 ちょっと楽しみにしていたK・ラーガヴェンドラ・ラーウ監督、ナーガールジュナ主演のデヴォーショナル映画。言わずと知れた、アーンドラ・プラデーシュ州チットゥール県にあるティルマラ・ティルパティ寺院と、それに深く関連付けられている帰依者ハーティーラーム・バーワージーの物語らしい。  恥ずかしながら告白すると、私はティルパティからさほど遠くない所に長年住んでいながら、シュリー・ウェンカテーシュワラ寺院には一度もお参りしたことがない。正確に言うと、10年近く前にわざわざツアーに参加し、寺院管... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2017/02/17 21:26

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
う〜む、ではタコ芝居を見にゆくしかないですな…
メタ坊
2012/10/01 17:03
見方を変えれば、面白いと言えると思います。
たぶん、昔の大衆神様劇団の様式に倣った役作り・芝居だったんだと思います。シュリーハーリとブラフマーナンダムはクラウン的役回りで、西洋人に対する茶化しとなっていたのが面白かったです。
それでも、期待したほどの演技ではなかったです。
 
カーヴェリ
2012/10/02 01:11

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Shiridi Sai】 (Telugu) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる