カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Life is Beautiful】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2012/10/04 20:56   >>

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 シェーカル・カンムラ監督といえば、作品の性質から言えば典型的なテルグ映画の作り手とは見なされないはずなのに、非常に印象深い過去のヒット作のおかげで、テルグ映画界を代表する監督の1人となっている。むしろ、シェーカル・カンムラ自身がトリウッドの領域を押し広げたと言うべきか。
 内容的には、趣を異にする【Leader】(10)を除いて、どこにでもいそうな若者の感覚が素直に、特にカッコつけることなく描かれたものが主で、それが私の心を捉えた。インド映画を観始めて以来、かなり長期間に亘って私の頭の中にあった観念は、「インド映画に『若者』はいない、インドに『若者映画』はない」ということだった。しかし、日本人が自然にイメージする若者の様態とはやや違うが、インドにも子供でもなく大人でもない領域を享受する層が現実にいたわけで、それが映画というメディアに現実のとおり反映されていないのが不思議だった。そんな時に、このシェーカル・カンムラ監督の【Happy Days】(07)やカンナダ映画の【Moggina Manasu】(08)、タミル映画の【Chennai 600028】(08)などに出会って、私のインド映画地図の空白地区が埋まるような感覚を覚えたし、時代の変節みたいなものも感じた。
 そんなわけで、【Happy Days】の姉妹編とも噂された本作【Life is Beautiful】は楽しみな1本だった。
 (写真下:シェーカル・カンムラ氏近影。コンピューター・サイエンスが専門のデジタルなお方なのだが、「農学部卒、専門はキノコ栽培です」といった感じにしか見えないのは何故?)

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【Life is Beautiful】 (2012 : Telugu)
物語・脚本・台詞・監督 : Sekhar Kammula
出演 : Abhijeet Duddala, Sudhakar Komakula, Kaushik Darbha, Shagun Kaur, Zara Shah, Shriya Saran, Rashmi Shastry, Kavya, Surekhavani, CVL Narasimha Rao, Naveen, Vijay Devarakonda, Sriram, Charan Akula, Anjala Zaveri, Amala Akkineni
音楽 : Mickey J. Meyer
撮影 : Vijay C. Kumar
編集 : Marthand K. Venkatesh
制作 : Sekhar Kammula, Chandrasekhar Kammula

《あらすじ》
 シュリーヌ(Abhijeet Duddala)は母(Amala Akkineni)と2人の妹――サティヤ(Rashmi Shastry)とチンニ(Kavya)――の4人家族。父はおらず、母が働いて生活を支えていた。ある時、母が仕事で単身赴任することになる。シュリーヌとサティヤとチンニは、学業を続けるためにハイダラーバードの伯父の許で1年間暮らすようにと、母に命じられる。
 ハイダラーバードに到着した3人は、伯父の家のある「サンシャイン・バレー」というコロニーで生活を始める。このコロニーは2つの区画に分かれており、「ゴールド・フェーズ」には富裕層が、「B・フェーズ」には中流庶民層が暮らし、両フェーズは塀で仕切られ、ゲートも別だった。シュリーヌの伯父の家はB・フェーズにあった。
 シュリーヌは同じB・フェーズに暮らす従妹のパッドゥ(Shagun Kaur)、それにナーガラージ(Sudhakar Komakula)、アビ(Kaushik Darbha)、ラクシュミ(Zara Shah)らと友達になる。妹のサティヤとチンニはそれぞれ地元のPUCと小学校に入学することが決まる。また、このフェーズにはセクシーな美容師のマーヤー(Anjala Zaveri)もおり、シュリーヌ、ナーガラージ、アビはすっかり魅了されてしまう。
 ところで、B・フェーズの若者たちとゴールド・フェーズの若者たちは反目し合い、しょっちゅう諍いを起こしていた。困ったことに、B・フェーズのアビはゴールド・フェーズに暮らす美人のパール(Shriya Saran)に憧れていた。しかし、パールに対しては同じゴールド・フェーズのスレーシュも目を付けていた。また、ゴールド・フェーズの若者のリーダー格であるラケーシュ(Naveen)には妹のソニアがいたが、そのソニアがシュリーヌの従兄アショークと交際していることが発覚する。この件で両フェーズは大揉めとなるが、当事者二人の意志が強かったため、結婚させることにする。
 アショークとソニアの結婚式の会場で、シュリーヌとナーガラージは、きれいに着飾って現れたパッドゥとラクシュミを見て、それぞれ惚れる。また、アビもパールと会話を交わす機会を得、距離が縮まる。
 しかし、両フェーズの対立は続き、ゴールド・フェーズのB・フェーズに対する嫌らしい策略も開始される。パールは美人コンテストに出場する予定だったが、シュリーヌの提案で、対抗馬としてパッドゥも出場させることにする。パッドゥは内心乗り気ではなかったが、彼女のほうもシュリーヌに惚れていたため、承諾する。ところが、パッドゥの誕生日にちょっとしたすれ違いがあり、シュリーヌはパッドゥを遠ざけるようになる。パッドゥは失意のうちに美人コンテストの日を迎える。
 パールやアビは飛行機で美人コンテストの行われるヴァイザーグへ向かう。その飛行機は乱気流のためパニック事態となるが、スレーシュの臆病で利己的な態度と違って、アビはパールを勇気づけたため、パールは本当にアビに惹かれるようになる。
 さて、コンテストではパールが優勝するが、キャットウォークでひっくり返ったパッドゥは泣き出してしまう。しかし、それがきっかけで、パッドゥとシュリーヌは再び心が通い合うようになる。また、コンテストからの帰り道、パールはスレーシュを遠ざけ、アビらと一緒の車に乗る。だが、富裕な実業家であるパールの父は娘の感情的な行動を諌める。
 他方、かねてよりラクシュミに惚れていたナーガラージは思い切ってプロポーズする。しかし、彼女は無職のナーガラージのプロポーズを受け入れない。絶望するナーガラージ。ところが、ラクシュミの誕生パーティーの場で、彼女がゴールド・フェーズのアジャイ(Vijay Devarakonda)からセクハラを受けているのを目撃し、救い出す。これを機に、ラクシュミのナーガラージに対する見方が変わる。しかしその後、両フェーズの間で乱闘となり、ナーガラージやシュリーヌは警察に逮捕されてしまう。しかし、そこは美容師マーヤーの仲介で、ナーガラージらは釈放される。
 友人たちが山あり谷ありの中、シュリーヌも問題に直面する。まず、せっかくパッドゥとよりを戻したシュリーヌだが、パッドゥの母(Surekhavani)に二人の仲を知られてしまい、猛烈に反対される。次に、シュリーヌの母に関する重大な真実が知らされる。そんな時に、妹のサティヤがゴールド・フェーズの青年マニーシュ(Charan Akula)と恋仲になっていることも発覚する、、、。

   *    *    *    *

 シェーカル・カンムラ監督らしい、心地よい満足感と共に映画館を後にできる作品だった。
 【Happy Days】と同じように、構造的なストーリーはなく、エピソードが淡々と連なるという形式だった。これで上映時間2時間49分は長すぎるが、幸い、それほど退屈とは感じなかった。

 物語の中心となっているのは「サンシャイン・バレー」のB・フェーズに暮らす6人の若者、すなわちシュリーヌとその妹サティヤ、ナーガラージ、アビ、パッドゥ、ラクシュミだが、これがそのまま3つのカップルになっているわけではない。シュリーヌとパッドゥ、ナーガラージとラクシュミはカップルだが、アビとサティヤはそれぞれパールとマニーシュというゴールド・フェーズのお相手との展開があり、合計4組。これは【Happy Days】と同じカップル数だが、本作の場合はさらにシュリーヌの母やもう1人の妹チンニの重要なエピソードもあって、複雑さを増している。ちょっと主要登場人物が多すぎると思った。
 ここではいちいち指摘しないが、やはり【Happy Days】との類似点はあちこちで見られ、小学児童にさえ「キノコのおじちゃんの映画だよね、ママ」と分かる作品になっている。ただ、【Happy Days】よりは本作のほうが主要登場人物の世代が広がっており、また、扱っているテーマも多様なので、【Happy Days】の拡張版と言ったほうがいいだろう。ヒンドゥー寺院に彫られたレリーフのように、平面的な広がりを持つ物語構成だった。

 上で心地よく満足できる作品だと書いたが、冷静になって考えてみると、内容的には決して分かりやすい映画ではないように思える。
 テーマとして目立っているのは「ゲーテッド・コミュニティーの格差と対立」と「家族や友人との紐帯の大切さ」の2点だと思うが、この二つがどう必然的に絡んでいるのかが分かりにくい。たぶん、シェーカル・カンムラ監督の高スペックなデジタル頭脳の内部ではしっかりまとまっているのだろうけど、並みのアナログ頭の私にはちょっと消化しきれない。
 もしかしたら、社会的ステータスの差による差別意識は克服されるべきもので、人々は皆単一で平等だというメッセージが一つにあって、しかし、シェーカル監督としては近代西洋型の個人主義による平等という道は取らず、あくまでもインド的な倫理観の中でも他者を尊敬し、対等に共存できるということを強調しようとしたら、こういうストーリーになった、ということかもしれない。

 シュリーヌとその周囲の若者の成長の物語という視点では、比較的すんなりと観られる。1年間という期間に起きた山あり谷ありの経験を通して、シュリーヌのグループだけでなく敵のラケーシュでさえ一皮むけて、他者を肯定的に受け入れられるようになる。そういう目覚めの瞬間に見られた人生というのは、確かに美しいだろう。

 最後に、本作は内容的に解釈しにくいだけでなく、映画としての完成度もそれほど高くないように思える。主要登場人物の多さはやはり難点だし、涙腺起爆装置として用意されたマザー・センチメントのシーン(例えば、「チンニのスピーチ」)は反則っぽい。また、シュリーヌの母と美容師のマーヤー(共に理想化された母性/女性の象徴)はデウス・エクス・マーキナーのように強引なものだった。

◆ 演技者たち
 ナグさんの奥方であるアマラ・アッキネーニやアンジャラ・ザウェーリ、それにシュリヤー・サランと、往年の大女優や人気女優なども配役されていたが、やはり【Happy Days】と同様、主要登場人物の多くは新人かほぼ新人だった。
 製作チームはかなり入念にオーディションをしたようで、俳優の中には北インド系の名前を持つ人もちらほら。
 (写真下:パッドゥ役のShagun Kaurさんとシュリーヌ役のAbhijeet Duddala。)

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 いちいち名前を挙げてコメントしないが、こういう素人の扱いは天才的に上手いシェーカル監督のこと、それぞれ適切な演出がついていた。
 (写真下:ナーガラージ役のSudhakar Komakulaとラクシュミ役のZara Shahさん。)

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 ただ、私自身、下の写真のお二方、アビ(Kaushik Darbha)とパール(Shriya Saran)の展開にはどうも違和感を感じた。二人ともキャラはきちんと確立されていたし、芝居も良かったし、ストーリー上重要な役回りも担っていたのだが、作品の他のパートと比べて、一段リアリティーがないように感じられた。

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 シュリヤーちゃんも、きれいに撮れていたとは思うが、フレッシュな顔の若者たちに混じると、さすがに老けた感じに見えた。

 さて、シュリーヌの母親役のアマラさんだが、非常に気品のあるスクリーン・プレゼンスで、さすがだった。20年ぶりの映画出演ということで、現地人のみならず邦人の間でも大層話題となっていた。私も大騒ぎしたいと思ったが、よく考えれば、アマラさんの出演作は【Siva】(89)しか観ておらず、騒ぐに騒げなかった。

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 最後に、美容師マーヤー役のアンジャラ・ザウェーリさんも特筆に価する。【Happy Days】でカマリニー・ムカルジーが演じた英語教師のように、青くさい野郎どもの憧れを集める姉キャラなのだが、年寄りくさいカーヴェリおじさんもノックダウンだった。(下)

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はミッキー・J・マイヤーの担当で、【Happy Days】と似たようなコンセプトの曲・BGMが全編で鳴り響いていた。私が本作を観て感動したというのは、ストーリーとかではなく、実はこの音楽に騙された?

 「サンシャイン・バレー」のB・フェーズは、現実の町でのロケではなく、セットらしい。これは見事だった。
 なのに、飛行機内のセットは出来が悪く、最初、飛行機だとは分からなかった。

◆ 結語
 おそらく、雑木林に生えるキノコさえ美しく見えているであろうシェーカル・カンムラ監督による人生肯定のきれいな一編。一見の価値あり。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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