カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Maattrraan】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/11/09 23:31   >>

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 カーヴェーリ川の水騒動が解決したわけではないが、カルナータカ州で取られていたタミル映画に対するボイコット措置が解かれ、スーリヤ主演の【Maattrraan】も公開されたので、観て来た。本作のタミル・ナードゥ州での公開は10月12日で、カルナータカ州では26日だったので、たかだか2週間のブランクで済んだ。実はカルナータカ州でも本作のテルグ語ダビング版【Brothers】なら堂々と上映されていたので、そちらを観ておくという手もあったが、スーリヤのあの顔からタミル語以外の言語が出てくることが想像できない私としては、辛抱強くオリジナルの公開を待つことにした。
 監督は前作の【Ko】(11)が大当たりしたK・V・アーナンド。スーリヤとはやはり大ヒット作となった【Ayan】(09)以来2度目の仕事。ヒロインはカージャル・アガルワール(こいつか〜)。スーリヤが「結合双生児」の役をやるということで話題となっていた。
 題名の「Maattrraan」は「代わり」という意味らしい。

【Maattrraan】 (2012 : Tamil)
脚本 : K.V. Anand, Subha
監督 : K.V. Anand
出演 : Surya, Kajal Aggarwal, Sachin Khedekar, Tara, Ravi Prakash, Ajay Ratnam, Irina Maleva, Isha Sharvani(特別出演)
音楽 : Harris Jayaraj
撮影 : S. Sounder Rajan
編集 : Anthony
制作 : Kalpathi S. Aghoram

《あらすじ》
 ラーマチャンドラン(Sachin Khedekar)は優秀な遺伝子工学研究者だったが、業績が認められず、不遇の身をかこっていた。だが、後に子供向け栄養飲料として開発した「エナジオン」が大ヒット商品となり、企業家として成功する。エナジオンの材料・製法は門外不出の企業秘密だった。
 ラーマチャンドランには結合双生児の息子、ヴィマルとアキル(Surya二役)がいた。彼らは腹側部で若干結合している程度で、体の器官もそれぞれ2組揃っていたが、ただ心臓だけが1つしかなく、ヴィマルの側にあった。それで、分離手術を行うとアキルが死んでしまうことになり、母のスダー(Tara)がそれに強く反対したため、二人は結合したまま育てられる。ヴィマルは知的で物静かな若者、アキルは遊び好きのやんちゃ坊主に育つ。
 ラーマチャンドランの会社にアンジャリ(Kajal Aggarwal)という女性が翻訳・通訳者として働いていた。ヴィマルとアキルは会社のパーティーでアンジャリに出会い、共に彼女に惚れる。だが、アンジャリが気に入ったのはヴィマルのほうだったため、アキルはヴィマルのサポート役に回る。
 アンジャリにはヴォルガ(Irina Maleva)というロシア人ジャーナリストの友人がいたが、彼女は取材のためにラーマチャンドランの会社を訪問する。だが、ラーマチャンドランはヴォルガが産業スパイだと見抜き、追い出す。ヴォルガはさらにヴィマル・アキル兄弟に接近し、彼らと共にラーマチャンドランの会社の乳牛飼育場へ行き、密かに情報収集を行う。後にヴィマルはこのヴォルガの不審な行動に気付き、彼女を問い詰めるが、逆に彼女がスパイではなく、エナジオンに含まれる有害物質(子供の成長に深刻な害をもたらす)の告発を行うために調査していたことを知る。だが、ほどなくヴォルガはラーマチャンドランの部下ディネーシュ(Ravi Prakash)らの手に掛かり、殺される。
 幸い、ヴォルガは殺される直前にエナジオンに関する不正の証拠を保存したUSBメモリを飲み込んでいた。アンジャリはヴォルガを解剖した検死係を買収し、USBメモリを手に入れ、それをヴィマル・アキル兄弟に手渡す。だが、それを察知したディネーシュの一味が兄弟を襲撃し、結果、頭部を痛打されたヴィマルが脳死状態となる。二人の分離手術が行われ、ヴィマルは犠牲となるが、心臓を移植されたアキルが単独の人間として生きることになる。
 アキルは父の会社に就職し、アンジャリとも親しくなっていた。しばし平穏な時が流れるが、エナジオンに関する悪い噂を耳にしたスダーが夫に疑いの目を向ける。妻の疑惑を晴らすため、ラーマチャンドランは食品安全局の検査を受け入れる。その結果、エナジオンには特に問題のないことが証明される。だが、ちょうどその頃、アキルは父の金庫からヴォルガのUSBメモリーを見つけ、記録されていたデータからエナジオンには確かに禁止物質が使われている事実を知る。また、ヴィマルと自分を襲い、ヴィマルを死に追いやった出来事には父とディネーシュが関係していることも知る。
 USBメモリのデータから、エナジオンの件は1992年のバルセロナ・オリンピックで活躍したウクライナ選手団がヘリコプター墜落事故で死亡した事件と関係があること、また、この時期にラーマチャンドランもウクライナにいたことなどが分かる。アキルとアンジャリはウクライナまで飛ぶ、、、。

   *    *    *    *

 これは面白い。
 レビューの評価はばらついていたし、タミル・ナードゥ州で大ヒットしているという噂も聞かなかったので、期待もほどほどに鑑賞したが、十分に楽しめた。
 上映時間は2時間48分という長いものだったが、これが観客の不評を買ったため、再編集で20分ほどカットしたというニュースもある(こちら)。ところが、私が観たのはなぜか2時間48分の未カット版だったが、長さによる苦痛は感じず、すんなりと鑑賞できた。きっと作品のリズムが私に合っていたのだろう。

 遺伝子工学をモチーフにし、スーリヤが二役を演じるという点で、ムルガダース監督の【7aum Arivu】(11)を思い起こさせる。科学ネタをベースとしたSF調の映画はインドではどうもタミル映画界でよく作られているようで、ラヴィクマール監督の【Dasavathaaram】(08)やシャンカル監督の【Enthiran】(10)なども同じカテゴリーに入ってきそうだ。こうした作品は空想力豊かなストーリーを持ち、大予算の豪華な作りの娯楽映画で、村落部や都市部の問題をリアリスティックに描いた低予算のタミル・ニューウェーブ映画とは対極のものだ。ニューウェーブが一服した感のある中で、娯楽本位の映画が新しいスタイルと共に復活してきたことは、コリウッドにとって明るい傾向だろう。K・V・アーナンド監督は、こうした流れの中で、ムルガダースと並んで今後も注目すべき監督であるに違いない。

 本作は「スーリヤの結合双生児」を強く売り文句にした作品だが、「結合双生児」がインド映画初/タミル映画初というわけではない。結合双生児を主役としたインド映画には、私が思い付くだけでもつい最近公開された【Chaarulatha】とテルグ映画の【Hare Ram】(08)があるし、主役ではないがカンナダ映画の【H2O】(02)には本物の結合双生児が重要な局面で登場していた。

 レビューのどれかに、この「結合双生児」の設定とストーリーの間に必然的な関係がない、と批判してあったように思うが、私が見た限りでは、本作は結合双生児のモチーフを非常に上手くストーリーに組み込み、作品のテーマに反映していたと思う。
 本作を観ると、やはりハリウッド映画などとは違うインド(タミル)映画らしさを感じるのだが、そう感じる原因は「兄弟愛」の強さだ。なにせヴィマルとアキルは通常の兄弟以上に密着した結合双生児で、しかも1つの心臓を共有しているほど密接な関係にある。両者はほぼ完ぺきに1対の人間としてあるのに、心臓だけが1つというのは科学的に考えにくいが、これはまさに「体は別でも心(heart)は1つ」という兄弟愛の強さを比喩的に表現したものなのだろう。(ついでに、題名の英語表記が「Maattrraan」と奇妙の綴りになっているのも、同じ文字を2つ並べて「ツイン」ということを強調したのだと思う。)この強い兄弟愛の感情があったればこそ、ヴィマルを亡くしたアキルは悪と戦うことができる。
 この場合、アキルの倒すべき悪は科学者の父ラーマチャンドランであり、彼のエゴイスティックな野心からインドの子供たちの健全な成長が侵されるという事態だ。これは父に対する反旗を意味し、インド人の倫理観からすると歓迎されにくいものだが、当の父がアキルに対してヴィマルとアキルの結合双生児が自分の実験結果の「失敗作」だと断じたことにより、アキルは父討ちの「大義名分」を得る。アキルにすれば、生まれてきた子が「失敗作」であるはずがなく、どちらが「欠陥」ということもないからである。そして、本作は結合双生児をごく自然なものとして受け入れるというエンディングで閉めている。

 遺伝子工学者ラーマチャンドランのネガティブな所業としてもう一つ、20年前のバルセロナ・オリンピックに際して、彼がウクライナの選手団向けに開発したドーピング製剤のもたらした悲劇がある。こちらのプロットは荒唐無稽な感じがし、展開ももたついたが、遺伝子操作の怖さを描いたものとして、興味深い。もっとも、ウクライナにしてみれば、勝手にタミル映画の中で悪徳国家みたいな扱いをされて、いい迷惑だろうが。(ちなみに、「鳥人」ブブカはウクライナ人だが、インド人科学者によるドーピング剤を使用しなかったと見えて、バルセロナ・オリンピックでメダルを取っていない。)

◆ 演技者たち
 どうやらスーリヤが二役をやるのは【Perazhagan】(04)、【Vel】(07)、【Vaaranam Aayiram】(08)、【7aum Arivu】に続き、5回目のことらしい。ちょっとしすぎ。しかし、本作は結合双生児ということで、2人のスーリヤが密着してダンスやアクションをする視覚的な面白さはあった。
 全体的なパフォーマンスは良かったと言えるが、双子の演じ分けは型にはまった感じで、特に上手いとは思わなかった。
 (写真下:ヴィマル(左)とアキルを演じるスーリヤ。インドでは真面目な男子は襟付きチェック柄のシャツを着るという服装コードがあるようだ。)

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 カージャル・アガルワールは特に褒めるべきパフォーマンスはしていなかったが、「ロシア語通訳者」という役柄はユニークだった。吹き替えはチンマイが担当したそうだが、つまりチンマイさんはタミル語やテルグ語に加えて、ロシア語もできるってこと?

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 諸悪の根源、ラーマチャンドランを演じたのはサチン・ケーデーカル。確信犯的な科学者をやらせても上手かった。

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 珍しいところでは、カンナダ女優のターラがヴィマル&アキルの母親役をやっている。彼女はカンナダ映画の【Hasina】(04)で国家映画賞を取ったほどのお方だが、タミル映画ではマニ・ラトナム監督の初期の作品にも出演していたことを初めて知った。

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はハリス・ジャヤラージの担当。「いつも同じ」と言われても仕方がないような曲が並んでいたが、聴き心地は良い。
 ‘Theeye Theeye’という曲でコンテンポラリー・ダンサーのイーシャ・シャルヴァーニがエアリアル・ダンスを披露している。楽しみにしていた部分だったが、彼女の登場はほんの1分程度。その後はあろうことかカージャルとデカ尻ロシア女のダンスに移行してしまい、腹立たしかった。
 (証拠動画:http://www.youtube.com/watch?v=QwLoFXyjvZ0

 ロケ地はインド国内・海外を豪華に飛び回ったようだ。
 【Ko】と同様、こんな奇岩の上でのダンスもあった。

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 アクションはピーター・ハインの担当。遊園地で結合双生児が悪漢と繰り広げるアクション・シーンはかなり高度なもので、本作の見どころ。

 VFXは、【Enthiran】も担当したシュリーニワース・モーハンの担当。
 アクション・シーンのいくつかにモーション・キャプチャの技術を採用しているらしいが、これがインド映画「初」ということではないだろう。

◆ 結語
 【Maattrraan】は先端科学技術の危うさを娯楽映画のフォーマットで表現した秀作。私からはお勧め作としたい。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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