カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Krantiveera Sangolli Rayanna】 (Kannada)

<<   作成日時 : 2012/11/16 02:29   >>

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 このカンナダ映画【Krantiveera Sangolli Rayanna】は、実在した戦士ラーヤンナ(1798年〜1831年)の生涯を描いた歴史物で、題名の意味は「伝説の勇士サンゴッリ・ラーヤンナ」となる。「サンゴッリ」はラーヤンナの出身村の名称で、彼の固有名というわけではない。ラーヤンナの家業は郵便屋だったようだが、彼自身は軍人としてキットゥール王国に仕え、時の王妃チェンナンマから大層重用されたらしい。彼はシパーヒーの乱(1857年)より30年以上も前にイギリスの侵略に対して反旗を翻した人物で、反英闘争のパイオニアとしてカルナータカ州では人気が高い。
 (写真下:バンガロールにあるラーヤンナの像。)

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 ラーヤンナの仕えたキットゥールは、現在のカルナータカ州北部・ヴェラガーウィ県の一画にあった小国で、チェンナンマ王妃(1778年〜1829年)はイギリスと戦った「女傑」として英雄視され、カルナータカ州ではラーヤンナ以上に人気が高い。反英闘争の女君主としてはジャンシーのラクシュミバーイが有名だが、チェンナンマの活躍はそれに先立つことになる。
 (写真下:フブリにあるチェンナンマの像。)

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 本作はカンナダ映画史上最高額となる3億ルピーの製作費を注ぎ込んだ歴史大作ということで、超話題作と見なされていた。企画そのものは2年ほど前に発表されていたが、撮影には時間を要し、途中で主演(ラーヤンナ役)のダルシャンが家庭内暴力事件で逮捕されるという出来事もあったりして、お蔵入りの危機も噂される中、やっと公開に漕ぎ着けた。(ちなみに、州立記念日に合わせた11月1日の公開だった。)

【Krantiveera Sangolli Rayanna】 (2012 : Kannada)
物語・脚本・台詞・歌詞 : Keshavadithya
監督 : Naganna
出演 : Darshan, Jayaprada, Nikita, Umashree, Shashikumar, Srinivasa Murthy, Ramesh Bhat, Dharma, Saurav, Doddanna, Satyajit, Rajesh, Shobharaj, Jai Jagadish, Bank Janardhan, Avinash, Karibasavaiah, Shivakumar, Sadashiva Brahmavar, Biradar, Sangeetha, その他
音楽 : Yashovardhan, V. Harikrishna
撮影 : Ramesh Babu
編集 : Deepu S. Kumar
制作 : Anand Appugol

《あらすじ》
 19世紀初頭の北カルナータカ。ダールワードを版図に収めたイギリス東インド会社は北接する小王国キットゥールに触手を伸ばしていた。東インド会社はキットゥールのチェンナンマ王妃(Jayaprada)に対し、嫡子がいないことを理由に王国の管理と納税を要求するが、王妃は断固として拒否する。これを受けて東インド会社は、1824年10月23日、キットゥールに対して戦争を仕掛ける。だが、キットゥールの軍隊長ラーヤンナ(Darshan)らの目覚しい働きにより、東インド会社側は壊滅的な打撃を受け、敗走する。
 東インド会社はこれに懲りず、キットゥール軍の兵士らを買収した上で、12月5日、2度目の戦争を仕掛ける。この作戦は成功し、キットゥール側は敗北、チェンナンマ王妃は捕縛され、バイラホンガラ城に幽閉、軍隊長ラーヤンナも投獄される。
 5年後、ラーヤンナは釈放される。村に戻ったラーヤンナは村人たちが税金に苦しんでいる様を目にし、出納役のクルカルニ(Avinash)を激しく責める。このことをクルカルニが行政官クリシュナ・ラーウ(Rajesh)に通告したため、ラーヤンナは投獄される。
 釈放されたラーヤンナは再び剣を取り、かつてのキットゥールの廷臣や将軍らと合流し、東インド会社に対して武装蜂起する決意をする。幽閉の身のチェンナンマ王妃はキットゥール再興をラーヤンナに託す。だが、イギリス側の姦計により、王妃はラーヤンナが死亡したと思い込まされ、絶望から自害する。この知らせを聞いたラーヤンナは東インド会社に対する怒りを倍増させる。
 ラーヤンナは部族民や盗賊をも自らの勢力に取り込む。また、近隣のシヴァグッティの王からも援軍を借りる。さらに、チェンナンマの養子シヴァリンガッパを王子として擁立する。お膳立てが整ったところで、1830年1月、ラーヤンナの反乱軍は東インド会社の施設に攻撃を仕掛ける。彼らは神出鬼没のゲリラ戦法を駆使し、瞬く間に失地の多くを回復する。
 だが、イギリス側も黙ってはいない。彼らは金に困っていたラーヤンナの叔父を買収し、罠を張る。ラーヤンナと部下たちはこの罠に嵌り、逮捕されてしまう。
 1830年12月、ダールワードの裁判所でラーヤンナの裁判が行われる。裁判長はラーヤンナの高潔さに敬意を払い、死刑を考えていなかったが、東インド会社からの圧力を受け、結局、死刑を宣告する。
 翌年1月、ラーヤンナとその部下はナンダガードの村で絞首刑に処せられる。

   *    *    *    *

 まずまずの力作。
 レビューの評価も軒並み高評価で、興業的にも大ヒットとなりそうな流れとなっている。
 ただ、私の感触としては、確かにカンナダ映画のスタンダードからすると健闘を讃えたい作品だが、こぞって褒めそやすほどの傑作とは思えない。というのも、どうしても類作の傑作マラヤーラム映画【Pazhassi Raja】(09)と比較してしまうからだ。
 両作品ともインドの本格的な独立戦争が始まる以前に活躍した反英の闘志を描いたもので、都落ちした主人公が部族民などを統合して東インド会社にゲリラ戦を展開するものの、結局は敗北するという物語。ちなみに、死亡したのが本作のラーヤンナは1831年、【Pazhassi Raja】のパラッシ・ラージャは1805年のことだから、フリーダム・ファイターとしてはパラッシ・ラージャのほうがパイオニアとなる。また、パラッシ・ラージャの闘争期間は10年近くに及ぶものだったが、ラーヤンナのほうはたかだか1年余りと、ずいぶん短い。
 内容的に似ているだけでなく、映画の製作費という点でも、本作が3億ルピー、【Pazhassi Raja】が2億7千万ルピーと、ほぼ同規模。しかし、その割には本作のほうが安っぽく見えたのが苦しい。
 【Krantiveera Sangolli Rayanna】が【Pazhassi Raja】より落ちて見える最大の理由は、これはもうパラッシ・ラージャ役のマンムーティとラーヤンナ役のダルシャンのカリスマ性の違いだろう。ダルシャンも頑張ってはいたが、握り拳を挙げて声を張り上げるだけが英雄ではない。静かな裡にも他を圧する力強さがあってこそ英雄だが、マンムーティにはそれが演じられても、ダルシャンには無理というものだ。(もっとも、パラッシ・ラージャは「王」、ラーヤンナはたかだか「軍隊長」と、そもそも格の違う人物なのだが。)
 それだけでなく、【Pazhassi Raja】の描くインド人像が生々しいほどリアルだったのに対して、本作の登場人物は衣装や演技スタイルの点で大衆演劇っぽかったのも、安っぽく見えた理由だろう。

 歴史物/時代物の映画はインドでもかつてはよく作られていたようだが、近年では振るわないジャンルになってしまったのか、あまり現れないし、興行的にも芳しくないようだ。南インド映画界でも、宗教映画やファンタジー映画で過去の時代を描いた作品はあっても、歴史物と呼べるものは(フィクションであれ、ノンフィクションであれ)、傑作・ヒット作はそう出ていない。カンナダ映画で作られたのも【Gandugali Kumararama】(06)と【Kallarali Hoovagi】(06)以来だと思う。ただ、マラヤーラム映画で【Pazhassi Raja】と【Urumi】(11)が大ヒットしたし、この【Krantiveera Sangolli Rayanna】も好調なので、観客が欲していないジャンルというわけではなさそうだ。
 ところで、昔の歴史物といえば、チャンバラ活劇風の娯楽本位の映画が主流だったと思うが、近ごろ作られるのはメッセージ志向というか、妙に熱く「愛国精神」を謳ったものが多いような気がする。現在のインドが抱える印パの問題や生活の急激なアメリカ化に対する危機感が愛国への呼びかけの動機となっているのかもしれない。(と言うより、映画の作り手の「賢い映画を作んなきゃ」という見栄がそういう傾向を生んでいるだけかもしれないが。)
 本作もそうで、イギリス東インド会社の巧みな侵略に対する憤然たる怒りが主題となっている。ただし、ここで注意すべきは、本作が守るべしとしている「マザーランド」は「インド」ではなく、「カンナダの地」であるということだ。上に挙げた2本のカンナダ歴史劇もそうで、カンナダの地を守ってこそ英雄であり、この2作では敵はイギリスではなく、イスラーム勢力だった。

 私が本作に対していまいち物足りないものを感じるのもその点で、本作は「愛国(郷土)精神まっしぐら」といった感じの、ごりごりしたものだった。せっかく大金(カンナダ映画にしては)を注ぎ込んだのだし、上映時間が3時間強もあるのなら、例えば昔風の典雅な宮廷ダンス・シーンを入れるとか、チェンナンマ役のジャヤプラダにヴィーナの弾き語りをさせるとか、もっと娯楽的ガジェットを捩じ込めたはずだ。その点では6年前の2作(特にシヴァラージクマール主演の【Gandugali Kumararama】)のほうが面白みがあった。

◆ 演技者たち
 これまでのベスト演技、と高評価を得ている本作のダルシャンだが、やはり一国の臣民を背負って立つ英雄が演じられるほどの度量はまだない。セリフ回しもボディー・ランゲージもまだまだ単調に感じられたし、「目」も活きていない。しかし、こういう役を一本演じ切ったことにより、俳優として箔が付いたのは確かだろう。ちなみに、本作はダルシャンの50本目の作品らしい。

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 本作の第二の主役と呼ぶべきチェンナンマ王妃にはジャヤプラダ。こちらは元お姫様女優のプライドにかけて、気合い十分のパフォーマンスだった。しかし、さすがに年老いた感は否めなかった。

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 それにしても、チェンナンマ王妃が実際に戦場に出て剣を振り回していたとは考えにくいのだが、絵画でも彫像でも、彼女はほぼ馬に跨り、剣を振るうイメージで描かれている(下)。ジャンシーのラクシュミバーイもかなりの暴れん坊だったと伝えられているから、チェンナンマの大立ち回りもあながち創作ではないのかもしれない。

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 その他、カンナダでお馴染みの脇役陣もまずまずの働き。(特にラーヤンナの母役のウマーシュリー。)
 可愛そうだったのはヒロイン、、になるはずだったニキタ。彼女の出番は前半のほんのわずか(音楽シーン1曲を含む)。おそらく「ダルシャン家庭内暴力事件」の余波を食らって、彼女は降板させられたか、自分から降りたかしたものだろう。(「ダルシャン事件」についてはこちらに簡単にまとめておいた。)

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◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はヤショーヴァルダンという人の担当だが、いまいちと言えばいまいちだし、陳腐な曲調がかえって時代がかった感じで良かったとも言える。
 BGMはハリクリシュナの担当で、全般的に効果的だった。

 前半に2度あった戦闘シーンはかなり頑張って作っている。カンナダ映画だし、金もないし、と言われないようにしようと努力した跡が窺える。ただし、むらがあった。プロタゴニストが大写しになった際に、背景となる兵士たちの殺陣が時々いい加減だった。

 変だったのは、イギリス人の登場人物たちもカンナダ語、しかも、かなり訛りの強いカンナダ語を話していたこと。これは「カンナダ地方に駐留していたイギリス人は不完全ながらカンナダ語を習得していた」という解釈にしか見えなかったが、そんな事実はなかっただろう。しかし、コメディー・トラックのない本作で、ここが意外な笑いどころになっていたので、OKとしよう。

 冒頭とエンディングに入るナレーションはスディープが担当している。

◆ 結語
 マラヤーラム映画【Pazhassi Raja】との比較などから、私的には至らぬものを感じたが、カンナダ人の間での受けは良い。カンナダ映画の愛好家、またはインドの歴史劇も気に掛かるという人なら、観て損はないと思う。

・満足度 : 3.0 / 5
 

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