カーヴェリ川長治の南インド映画日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 【Pizza】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/11/19 22:44   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 11 / コメント 2

 今年のタミル映画界はこれまで不作だったと言える。興業として華々しい印象がない。それというのも、著名スター、著名監督の話題作が振るわなかったというのがある。話題作でヒットしたのは、シャンカル監督の【Nanban】とリングサーミ監督の【Vettai】ぐらいで、【Aravaan】【3】【Billa II】【Mugamoodi】【Thaandavam】はこけた。K・V・アーナンド監督の【Maattrraan】もヒットとまでは行かなかったようだ。
 代わって、【Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi】【Vazhakku Enn 18/9】【Attakathi】【Sundarapandian】などの地味系作品がヒットしたり、高い評価を得たりした。
 本作【Pizza】も後者の部類で、新人監督によるスター不在・低予算映画なのだが、堂々とヒットを記録している。

画像

 監督はカールティク・スッバラージという人で、これまでは短編映画を撮っていたらしい。上に挙げた【Attakathi】と同じC・V・クマール(Thirukumaran Entertainment)という人がプロデュースしている。
 なお、本作のタミル・ナードゥ州での公開は10月19日だが、例のカーヴェーリ問題でバンガロールでは公開が遅れた。

【Pizza】 (2012 : Tamil)
物語・脚本・監督 : Karthik Subbaraj
出演 : Vijay Sethupathi, Remya Nambeesan, Aadukalam Naren, Karuna, Jayakumar, Simha, Pooja, Veera Santhanam
音楽 : Santhosh Narayanan
撮影 : Gopi Amarnath
編集 : Leo John Paul
制作 : C.V. Kumar

《あらすじ》
 マイケル(Vijay Sethupathi)はピザ屋の配達係。彼は幼馴染みの恋人アヌ(Remya Nambeesan)と同棲していた。アヌは幽霊や超常現象の愛好家で、ホラー小説も執筆していた。マイケルは幽霊などてんから信じていなかったが、そんな彼に対してアヌはマイケルも怪奇現象を体験する時が来ると断言していた。
 ある日、マイケルはアヌから妊娠したことを告げられる。思い悩んだマイケルだが、彼女と結婚する決意をし、二人だけで結婚式をする。
 マイケルのピザ屋に怪しげな男がやって来る。それはピザ屋のオーナー、シャンムガム(Aadukalam Naren)が呼んだ祈祷師(Veera Santhanam)だった。シャンムガムにはプリヤーという娘がいたが、どうやら彼女に「ニティヤ」という名の少女の霊が取り憑いたようなのであった。シャンムガムの家でプリヤーの異常な様子を見たマイケルはそれをアヌにも知らせる。
 ある夜、マイケルはいつもの如くピザの配達に出かける。ところが、何時間も経った真夜中になってから、彼は血みどろの姿で戻って来、怯えた様子でシャンムガムや店のスタッフにたった今体験した異常な出来事を物語る、、。
 ・・・
 マイケルが配達したのはスミタ(Pooja)という女性の屋敷だった。財布に細かいお金がなかったため、スミタは2階まで取りに行くが、そのまま何者かに殺されてしまう。驚いたマイケルは屋敷を出ようとするが、ドアのオートロックが掛かってしまい、出られなくなる。そこへスミタの夫ボビー(Simha)が帰って来、玄関に立つ。マイケルは携帯電話越しにボビーとドアの開け方についてやり取りするが、その途中でボビーも何者かに殺される。
 怯えるマイケルだが、そこへアヌから電話が掛かってくる。マイケルは彼女に事情を説明する。アヌは警察に連絡すると告げる。
 屋敷の中の家族の写真から、この家には殺された若夫婦以外に小さな娘がいること、そしてその少女の名前が「ニティヤ」であることが分かる。マイケルはおそらくニティヤであろう少女の幻影も見る。
 果たしてアヌの言葉どおり、警官がやって来るが、奇妙なことに、警官はアヌの通報に応じて来たのではなかった。実はこの屋敷は4人の男女が変死した事件現場であり、その管理のために来たのであった。死んだのが4人だと聞き、マイケルは不審がる。そして、若夫婦とニティヤの他に、死んだのが「アヌ」という名の若い女性だと知り、愕然とする。警官はマイケルを逮捕しようとするが、これも謎の力に引っ張られ、殺されてしまう。それでマイケルはほうほうの体で屋敷から逃れて来たというわけであった。
 ・・・
 その時からアヌが行方知れずになる。また、マイケルはシャンムガムに、屋敷にいた少女の幻影がプリヤーの様子に酷似していたと証言する、、。

   *    *    *    *

 なかなか楽しめる映画だった。
 タミル語の映画ではあるが、所謂「タミル映画」とはずいぶん趣を異にしているし、もっと言うと、これはインド映画ではない。音楽シーンが複数用意されていると言っても、ダンスなどはなく、挿入のコンセプトもインド映画的ではない。それで、ハリウッド映画や韓国映画などのリメイク、パクリかと思ったが、そうではないようで、逆にハリウッドのほうで本作のリメイク企画が出ているらしい。

 ジャンル分けするとスリラー映画になるはずだが、超常現象との関連付けが強く、ホラー映画と言ってしまってもいいと思う。少なくとも、私がこれまで見たインドのホラー作品の中ではけっこう怖いほうだった。インド映画ではホラーが独特の形で発展し、ホラー・コメディーというジャンルが確立しそうなのであるが、それは裏を返せば本当に怖い映画が作れないということなのかもしれない。しかし、本作を観て、インドにも怖い映画の作り手がいることが分かり、安心した(もっとも、カールティク・スッバラージ監督が次回もホラーを撮るとは限らないが)。

 作品の性質から本作はニューウェーブ系になるかと思うが、特にメッセージ性などはなく、2時間座って映画的感興が味わえればOKの、娯楽本位の作品だと言える。そういった意味で、カールティク・スッバラージ監督はニューウェーブの娯楽派になりそうだが、しかしウェンカト・プラブ監督ほど脱線はしていない。資質的に似ている人を探すとすれば、プラブ・ソロモン監督か、テルグ映画界のラヴィ・バーブ監督が近いと思う。
 物語の終盤に大規模などんでん返しがあり、これは面白いが、分かってしまうとそれまでなので、2度3度繰り返し見たい映画でもないだろう。また、エンディングは変則で、「ここから先は観客が考えてくれ」的な作品なのだが、これには賛否が分かれるだろう。

 スリラー的・ホラー的エレメントは良くできており、それだけでもタミル映画としては新鮮なのだが、もっと新鮮で、たぶんシネコンで本作を観るヤング層にアピールしそうな点は、登場人物の設定・描き方だろう。ピザ配達係の主人公とオカルト愛好家のヒロインができちゃった結婚するという展開とか、この二人の会話やピザ店のスタッフ同士のタメ口など、これまでのインド映画と違ってナチュラルな語り口で描かれ方ている。こういう作品がタミル・ナードゥ州でヒットしているという事実には軽い驚きを感じる。

◆ 演技者たち
 こういうスター不在型映画の出演者についてコメントするのは難しいことだが、本作の主人公、マイケルを演じたヴィジャイ・セードゥパティについてもコメントしにくい。私が観た作品では【Vennila Kabaddi Kuzhu】(09)と【Naan Mahaan Alla】(10)に出ていたらしいが、まったく記憶にない。彼は国家映画賞を取った【Thenmerku Paruvakaatru】(10)と今年のヒット作【Sundarapandian】の2作で注目され、評価を上げたようだ。外見的にはジャイに似た感じで、声も似ている。私が観た限りでは、ルックス的にも演技的にもどうかなぁと思うが、本作のような役柄では特に問題はない。顔面毛深系で、停電中の幽霊屋敷のシーンでは光の加減で眉毛の太さが3センチぐらいに見えたのが面白かった。

 南インド映画では一風変わったヒロイン、アヌを演じたのはラミャ・ナンビーサン。ほの暗い映像の中で、黒く光る大きな瞳が印象的だった。
 (写真下:「できちゃったの」、「えっ!?」で、さあ大変な二人。)

画像

 ピザ屋のオーナー、シャンムガム役はナレンという俳優で、【Aadukalam】(11)で重要な役をやっていた。脇役俳優になるが、この面構えだけで飯が食えそうだ。

画像

 そのシャンムガムの娘で、霊に憑り付かれたらしいプリヤーは、ちらっと出て来るだけだったが、けっこうインパクトがあった。面長で眉毛が濃く、縮れ毛なので、「女優のニティヤみたいな子やなぁ」と思いながら見ていたら、祈祷師に「お前の名前はなんじゃ!?」と聞かれ、本当に「ニティヤーー!」と答えたので、久々に椅子からずり落ちてしまった。
 (証拠画像と音声)
画像




◆ 音楽・撮影・その他
 裏方陣は、音楽がサントーシュ・ナーラーヤナン、撮影がゴーピ・アマルナート、編集がレオ・ジョン・ポールと、私の知らない面々だが、それぞれ申し分のない仕事をしている。
 音楽はロック調、ジャズ調の曲が使われ、南インド映画っぽくない。BGMでは何気にベートーヴェンも使われている。携帯電話の着メロの使い方にも工夫あり。
 音響システムとして、本作はタミル映画で初めて「7.1サラウンド」を導入したらしい。(私の耳には「5.1」も「7.1」もあんまり変わらんのだが。)

 撮影は、停電でほとんど光源のない屋敷の中を這い回るように動くカメラが印象的。

◆ 結語
 突然変異的なタミル映画なので、伝統的なタミル映画を好む日本人ファンには特に観る必然性のない作品だと思われる。しかし、現地人には週末の夜の良い娯楽となっているようだ。私的にも、久々に香辛料の少ない料理を食ったような気分で、胃の調子が軽くなった。

・満足度 : 3.0 / 5
 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(11件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
【Swamy Ra Ra】 (Telugu)
 皆さま、ハッピー・ユガーディでございます!  シュリーヌ・ヴァイトラ監督、NTRジュニア主演の超話題のテルグ映画【Baadshah】が公開され、さっそく観に行こうと思ったが、ちょっと待てよ、、、その前にこのテルグ映画【Swamy Ra Ra】をぜひ観ておきたかった。  本作は、主役が【Happy Days】(07)で目立った役をもらったものの、その後ぱっとせず、まったく影の薄かったニキルで、ヒロインがスワーティ。それで、いかにも低予算でやっつけ仕事的なB級映画が来るものと予想され... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/04/12 03:33
【Soodhu Kavvum】 (Tamil)
 こんなふうにせっせと南インド映画を鑑賞し、僭越ながら皆さまに情報提供してはいるものの、いかんせん鑑賞本数に限りがあるので、細かな状況把握やトレンド分析には至らないことを告白せざるを得ない。ひと昔前までは十年一日と思われた南インド映画シーンも、近年では何かと変遷があり、人気スターや著名監督を中心に追い駆けているだけでは「周回遅れのランナー」になりかねない。  こと変化が激しいのがタミル映画界で、去年までは「ニューウェーブ」といった動きを注視していたが、そのトレンドも終焉したようで、最... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/05/24 22:42
【Theeya Velai Seiyyanum Kumaru】 (Tamil)
 現在、スーリ監督、シヴァラージクマール主演のカンナダ映画【Kaddipudi】が上映されており、これはシヴァンナの久々のヒット作となったので、早く観たくてうずうずしているのだが、その前にタミルの話題作【Theeya Velai Seiyyanum Kumaru】が公開されたので、先にこちらを観て来た。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/06/20 23:32
【6-5=2】 (Kannada)
 明確な規制があったわけではないと思うが、カンナダ映画では題名に非カンナダ語(英語やヒンディー語)を使うと、KFCC(Karnataka Film Chamber of Commerce)から「再考しなさい」とのクレームが付くことが多かったが、最近ではお構いなしになったのか、今年は【Election】、【Director's Special】、【Whistle】、【Teenage】、【Victory】、【Case No.18/9】、【Coffee with My Wife】、【Colors... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2013/12/04 23:18
【Jigarthanda】 (Tamil)
 タミル映画の【Pizza】(12)はセンショーナルなヒット作品となり、カンナダ語版、ヒンディー語版、ベンガル語版にリメイクされただけでなく、タミル映画内においても【Pizza II: Villa】(直接的な続編ではないが)が作られ、【Pizza 3】も準備中だと聞く。監督したカールティク・スッバラージはデビュー作でいきなり時の人となった形だが、そんな彼の第2作【Jigarthanda】がついに発表された。彼に2作目のジンクスはあるか?  (写真下:カールティク・スッバラージ監督近影... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/08/05 21:36
【Madras】 (Tamil)
 以前、タミル映画【Soodhu Kavvum】(13)鑑賞記の中で、注目の新進映画プロデューサーとしてC・V・クマールとその処女作品【Attakathi】(12)の名を挙げておいたが、当時未見だった【Attakathi】はその後DVDで観ることができた。同作品はチェンナイ郊外の田舎町を舞台にしたラブコメ(というより青春映画)で、特に衝撃作ということもなかったが、監督のパー・ランジットの描く世界がリアルと言うよりもむしろラウ(英語の‘raw’だが、南インド人はまず「ラウ」と発音する)と言っ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2014/10/06 21:26
【Enakkul Oruvan】 (Tamil)
 【Lucia】(13)といえば、観るべき作品の乏しいカンナダ映画にあって(注:昔は秀作も多かった)、間違いなく必見作の1本だと言えるが、それがタミル映画にリメイクされると聞いても、近ごろリメイク映画に関心を失くしている私としては、あんまり観たい気も起らなかった。  しかし、企画を見てみると、製作チームが【Pizza】(12)で名を上げた面々(プロデューサーのC・V・クマール、音楽のサントーシュ・ナーラーヤナン、撮影のゴーピ・アマルナート、編集のレオ・ジョン・ポール)だったので、期待... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/03/17 21:29
【Purampokku Engira Podhuvudamai】 (Tamil)
 この週末はぼさっと鑑賞できる軽い映画を観たかったが、適当なのがなかったので、このタミル映画にした。本作はランタイムも長そうだし、テーマも重そうだし、監督もS・P・ジャナナータンなので、避けたかったが、仕方がない。ジャナナータン監督は【Iyarkai】(03)という作品で国家映画賞を取っているほどの人だが、私が観た唯一の作品【Peranmai】(09)からは良い印象を受けなかった。アーリヤーとヴィジャイ・セードゥパティが出ていることが私にとって救いか。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/05/20 21:45
【Kaaka Muttai】 (Tamil)
 映画賞を取った映画は何としても観たいわけではないが、このタミル映画【Kaaka Muttai】には観たい理由があった。1つ目は、本作はチェンナイのスラム民の生活を描いたものらしいということ(「インド貧乏物語」は、「インド田舎物語」と並んで、私のチェック対象)。2つ目は、【Polladhavan】(07)と【Aadukalam】(11)で成功したヴェトリマーランとダヌシュがプロデュースしていること。3つ目は、【Attakathi】(12)で端役ながら記憶に残ったアイシュワリヤー・ラージ... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/06/10 12:16
【Orange Mittai】 (Tamil)
 この週末はチャルミー主演のテルグ映画【Mantra 2】を観るつもりで、楽しみにしていたが、公開後の評判が最悪だったので、急遽別の映画を観ることにした。で、選んだのがこのタミル映画【Orange Mittai】。 ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2015/08/05 21:28
【Iraivi】 (Tamil)
 【Pizza】(12)と【Jigarthanda】(14)で感銘を受け、後者の鑑賞記では思わず「カールティク・スッバラシー」と呼んでしまったカールティク・スッバラージ監督の第3作(アンソロジーの【Bench Talkies - The First Bench】は除く)。  カールティク氏が監督ということだけで期待作だったが、ヒロインがカマリニー・ムカルジーにアンジャリという、私の思うツボ。それに男優陣が凄い。S・J・スーリヤー、ヴィジャイ・セードゥパティ、ボビー・シンハーと、消化不... ...続きを見る
カーヴェリ川長治の南インド映画日記
2016/06/22 21:20

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
そうした中で敢えてインド映画的な部分を探すとなるとどこになるのでしょうか?

「面長で眉毛が濃く、縮れ毛」はそうであるのは分りますがねw
メタ坊
2012/11/20 08:32
ないんですが、敢えてと言うなら、主人公の3センチ眉でしょうか。
あと、一応、ラジニカーントの引用がありました。
カーヴェリ
2012/11/21 01:23

コメントする help

ニックネーム
本 文
【Pizza】 (Tamil) カーヴェリ川長治の南インド映画日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる