カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Thuppakki】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2012/11/24 14:17   >>

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 前回紹介した【Pizza】鑑賞記の前置きで、今年のタミル映画界は不作だと述べたが、久々に期待に応えてくれそうな話題大作が公開された。なにせA・R・ムルガダース監督とヴィジャイの組み合わせに撮影がサントーシュ・シヴァンですからね。ヒロインがカージャルというのが玉に瑕だが、この際それには目をつぶろう。
 題名の「Thuppakki」は「拳銃」という意味らしい。

【Thuppakki】 (2012 : Tamil)
物語・脚本・台詞・監督 : A.R. Murugadoss
出演 : Vijay, Kajal Aggarwal, Vidyut Jamwal, Jayaram, Sathyan, Gautham Kurup, Deepthi Nambiar, Manobala, Anupama Kumar, Prashanth Nair, Sapan Saran, その他
音楽 : Harris Jayaraj
撮影 : Santhosh Sivan
編集 : Sreekar Prasad
制作 : Kalaipuli S. Dhanu

《あらすじ》
 ジャグディーシュ(Vijay)はインド軍の兵士だが、諜報部員としてテロ対策の特務も帯びていた。
 ジャグディーシュは40日の休暇を利用して、両親と妹のいるムンバイに帰省する。駅に着くや否や、彼は家族に連れられ、見合いの席に臨む。相手はニシャー(Kajal Aggarwal)という女性だったが、ジャグディーシュは彼女の保守的な身なりと立ち居振る舞いを見て、自分には合わないと、この縁談を断る。ところが、実はニシャーはボクシングなどもする現代的で超活発な女性だった。それを知ったジャグディーシュはニシャーに惚れる。
 ある日、ジャグディーシュはバスに乗って出かけるが、自分が下車した直後にそのバスが爆弾テロの餌食となる。彼はその場を去ろうとした不審な男(Gautham Kurup)を捕らえ、自宅の自分の部屋に監禁する。そして、拷問した結果、その男はムスリム系のテロリストであり、3日後の12月27日に他の潜伏員と共にムンバイの12ヶ所で連続爆弾テロを計画していることを知る。
 27日はジャグディーシュの軍の同僚ジュウェルの結婚式の日だった。ジャグディーシュは式の場で11人の同僚に協力を仰ぐ。そして、拘束していたテロリストを解放して泳がし、その男を基点に他の11人の潜伏員の所在もつかむ。ジャグディーシュと11人の同僚はそれぞれ1人ずつの潜伏員を追跡し、射殺し、爆弾テロを未然に防ぐ。
 カシミールにいたテロリストのリーダー(Vidyut Jamwal)はこの事件をニュースで知り、ムンバイに乗り込んで来る。彼は他の協力者と出来事を解析し、仲間を射殺した連中が警官ではなく軍の兵士であると推測し、さらに、彼らが一様に礼服を着ていたことを知る。リーダーはこれらの事柄から27日に教会で結婚式を挙げたジュウェルを割り出し、その家に乗り込む。ジュウェル本人はいなかったが、リーダーはその両親を射殺し、ジュウェルと同僚を写した結婚式の写真を手に入れる。
 この動きを察知したジャグディーシュは11人の同僚に警告を発するが、案じたとおり、彼らの家族が次々テロリストに誘拐される。その中にはジャグディーシュの妹(Deepthi Nambiar)も含まれていた。ジャグディーシュは犬を使ってテロリストの隠れ家を見つけ出し、テロリストを殺害し、人質を解放する。
 殺害されたテロリストにはリーダーの弟も含まれていた。復讐に燃えるリーダーはジャグディーシュに独りで会いに来るよう要求する。そして、ジャグディーシュが断れないよう、彼の同僚の1人を爆弾で吹き飛ばして見せる。
 ジャグディーシュは、テロリストを一掃し、ムンバイの街を守るために、自らの命も捨てる覚悟でリーダーに会いに行く、、、。

   *    *    *    *

 なるほど、これは面白い。
 完成度が高いというほどのことでもないが、1点だけ受け入れにくい点を除いて、娯楽映画としてバランス感のある、安心して観ていられる作品だった。
 何よりも驚きなのは、ムルガダース監督といえば、えげつないというか、強烈なインパクトのある映画の作り手という認識があり、鑑賞にはそれなりの体力が必要とされるのだが、本作はスムーズな喉越しで、胃もたれ感がない。2時間45分という長尺であるにもかかわらず、そうだった。ずいぶん作風を変えてきたようだ。

 どこで書いたか忘れたが、このブログでも「長い試行錯誤を経て、新しいタミル型の娯楽映画が生まれつつある」みたいな趣旨のことを記しておいた。新しい型のタミル娯楽映画とは、「5 songs, 4 fights, no story」とバカにされるようになった従来のマサラ型フォーマットに対して、一応ロジックに配慮したストーリー構成を持ち、モジュール型のコメディー・トラックを排し(そういえば、ヴァディヴェールはとんと見かけなくなったなぁ)、それでいて、家族や友人とのこってりとしたセンチメントや社会的弱者(障害者や子供、老人など)への温かい眼差しなど、ハート面では従来のタミル映画の良さをそのまま残す、というものになると思うが(加えて、音楽シーンのロケ地にやたら凝るという傾向も見られるが)、そういった線では、本作は新型タミル娯楽映画の完成形と言えるかもしれない(ここに至るまで、多くの失敗作が現れたが)。さすが、ムルガダース監督。

 内容的には、ムンバイなどの都市に潜伏してテロの機会を窺う潜伏テロリスト(sleeper cells)を主題に扱い、それに対して身を挺して戦う軍人の姿が礼賛されている。ショッキングだったムンバイ同時多発テロ事件(26/11事件)からちょうど4年、実行犯の1人で、逮捕されたアジマル・カサーブの絞首刑がつい先日(21日)行われたことを考えると、本作はインドの抱える問題をタイムリーに反映した作品となった。
 ただ、本作はあくまでも娯楽映画なので、テロ事件の実態を緻密に伝えるセミドキュメンタリー風の映画を期待すべきではない。あまり深刻にならず、テロから街を守ってくれる兵隊さんの活躍に拍手喝采を送るぐらいの気持ちで見たほうがいい。しかし、本作に描かれたようなことは実際にインドで起きた、または今後も起きる可能性のある出来事なので、本当にジャグディーシュのようなヒーローが5人ぐらい現れてほしいという一般市民の願望を代弁した映画としては良くできている。

 上で「1点だけ受け入れにくい点」と書いたのは、本作があまりにも「汎インド的」であるということだ。タミル映画でありながら、タミル・ナードゥ州での場面は一切なく、タミル語話者もヒーロー/ヒロインとその家族/友人に限られ、ヴィジャイのセリフも頻繁にヒンディー語/英語が混ざる(ヒンディーを喋るヴィジャイというのも初めて見た)。テーマがテーマだし、タミルのヒットメーカーが全インドを狙った映画を作っちゃいかんという掟もないのだが、こうもタミルの比重が軽いと、タミル映画というよりヒンディー版リメイクのほうを優先した?と邪推したくもなる。
 地方映画に対する勝手な期待だが、「タミル人はインド映画を作らなくてもいい。ただタミル映画を作ってくれ〜」(テルグ映画その他も同じ)と考える私としては、せめて片足ぐらいはタミルの地に置いてほしかった。もっとも、【7aum Arivu】(11)でタミルを礼賛しすぎて失敗したムルガダース監督としては、違ったカードを切るしかなかったのかもしれないが。

◆ 演技者たち
 ヴィジャイというスターは、熱烈なファン層を抱える反面、ファンでない人には魅力が理解されにくい俳優だと思うが、それというのもこれまで演じてきたキャラクターに幼稚なものが感じられたからだろう。ところが、本作では「大人なヴィジャイ」が見られ、セクシーだったとも言える。やっと役が実年齢に追い付いて来たか。
 2年前までは映画館主たちからも「ヴィジャイの映画は勘弁」と言われるほど不振だったヴィジャイだが、イメージ・チェンジを模索して以来、【Kaavalan】(11)、【Velayudham】(11)、【Nanban】(12)とハットトリック中。本作も大ヒット間違いなしだが、興行成績よりも、「ニュー・ヴィジャイ」が形をなしつつあるのが朗報だろう。
 (写真下:警察の制服はまったく似合わないヴィジャイだが、陸軍のユニフォームはよく似合っていた。)

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 ヒロイン、ニシャー役のカージャルさんは、前作【Maattrraan】の役ほど重要な役回りではなかったが、娯楽映画のアイドル的ヒロインとしては本作のほうが効いていた。得意(?)のコミカルな演技もうまく行き、及第点だった。
 スポーツウーマンという設定で、彼女がいろいろなスポーツをしている音楽シーンもあったのだが、てんで様になっていなかった。彼女はダンスの下手さが有名だが、根本的に運動神経が鈍いのだということが分かった。

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 ジャヤラームがクレジットに名を連ねていたので、てっきり悪役だと思っていたが、コメディー的な役回りだった(主人公ジャガディーシュの上官ラヴィチャンドラン役)。かなりなタコ芝居を披露する羽目になってしまったが、音楽シーンも用意されており、まぁ、見せ場は作ってもらっていた。

 真の悪役はヴィデュット・ジャームワールだった。私はなぜかこの人を支持しているのだが、本作でも黙々と一生懸命「悪(テロリスト役)」を演じている様が好感が持てた。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽は【Maattrraan】に続いてハリス・ジャヤラージ。【Maattrraan】では新鮮味のない曲を並べていたが、本作では変えてきたようで、良かった。
 ちなみに、音楽シーンの1つにムルガダース監督とサントーシュ・シヴァンがカメオ出演しているのだが、劇場で鑑賞した際はまったく気付かなかった。(後でYouTubeで確認したら、、、おったわ。)

 サントーシュ・シヴァンの撮影は大注目点だが、神懸かり的に美しい映像というのでもなかった。しかし、それはサントーシュ・シヴァンが手を抜いていたというわけではなく、さすがにがっちりと正確なカメラワークを見せている。
 本作はインド映画で初めてアーノルト&リヒター社のデジタル撮影機「Alexa」を使用したという触れ込みだが、弘法筆を選ばず、そんなことはサントーシュ・シヴァンにとって重要なことではないだろう。むしろ、ムンバイの下町の雑踏をナチュラルに撮るために「隠しカメラ」を使ったという事実に気合いを感じた(出演者のヴィジャイにもカメラを持たせて撮ったシーンもあるらしい)。

 ところで、本作はムンバイが舞台のタミル映画で、登場人物も非タミル語話者が多いということで、言語の扱いが複雑だった。タミル語以外のセリフに対し、ある部分ではタミル語の字幕が出たり、別の部分では吹き替えだったりした。吹き替えといっても、本作ではオリジナルのヒンディー語や英語の会話を消してしまわず、その上にタミル語の会話をかぶせるというもので、ムルガダース監督は前作【7aum Arivu】でもこの手法を採用していたが、実は耳障りなものだと言える。
 インド映画に対する批判点として、よく「どうしてインドの言葉がどこでも通じるの?」、つまり、タミル映画なら、主要登場人物がインドのどこへ行っても、世界のどこへ行っても、何気にタミル語で会話が成立してしまうのは不自然だ、というのがある(私も以前はそう感じた)。ところが、最近のタミル映画はリアルさを重視するようになっているので、ムルガダース監督は上の批判をかわすために、つまり、登場人物は実はタミル語を話しているのではないということを示すために、耳障りを覚悟の上で、この手法を採用したのだと思う。
 もっと極端な例は【Maattrraan】で、主人公アキル(スーリヤ演じる)がウクライナへ行ってからは、セリフのすべては通訳者アンジャリ(カージャル演じる)がロシア語に通訳するという手法を取っていた。これは極めて本当らしい描き方だが、緊迫した場面でスーリヤが発する怒りのセリフさえ、ワンテンポ遅れて女性(チンマイさん)の声に変換された形で観客の耳に届くので、映画的効果としてはマイナスになる。
 私的には、ここまでやるのはどうかと思う。インド映画というのは基本的に大衆娯楽であり、大衆がストレスなく耳で理解できる仕様にしておいたほうがいい。【Maattrraan】にしても本作にしても、使用言語の本当らしさにこだわるあまり、かえって不自然な結果に陥っており、疑問に感じた。

◆ 結語
 これまでのムルガダース監督の作品とはずいぶん違った印象を受けるが、娯楽映画としてはよくできている。個人的にはタミル色の薄さが気に掛かったが、日本のインド映画ファンにはこれぐらいのほうが鑑賞しやすいかもしれない。もちろん、ひと味違うヴィジャイにも注目したい。お勧め作。

・満足度 : 3.5 / 5
 

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