カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Krishnam Vande Jagadgurum】 (Telugu)

<<   作成日時 : 2012/12/08 21:39   >>

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 ラーダークリシュナ・ジャーガルラムディ、、、長いのでクリシュ監督のテルグ映画。
 クリシュ監督といえば、なんだか彗星の如く登場し、【Gamyam】(08)と【Vedam】(10)の2作だけでたちまちに次回作の待たれる監督となったが、私の判断では、彼の作品は1本あたりに詰め込んだネタの数が多すぎ(ゆえに私は彼のことを「詰め込み屋クリちゃん」と呼んでいる)、すでに7,8本撮ったような感覚なので、次回作は当分ないと見ていた。しかし、、、おお、来たか!
 しかも、今回はスラビ・シアターをモチーフにした映画だということで、「もしや【旅芸人の記録】みたいな映画?」と身構えた。
 スラビ・シアター(Surabhi Theatre)というのは、アーンドラ・プラデーシュ州で100年以上も前から続く、神話劇を演じる演劇グループのことで、主に家族を母体とする劇団により演じられている。私は運良く4年前に、スラビ・シアターの1つであるハイダラーバードの‘Sri Venkateswara Natya Mandali’が演じる「Maya Bazar」をバンガロールで観ることができた。それは非常に面白いものだったので、クリシュ監督がこの古典芝居をどう映画中にねじ込むのか、大注目だった。(なお、同劇団のデリー公演の模様は『これでインディア』の「Maya Bazar」の項目に詳しいレポートがある。)
 題名の「Krishnam Vande Jagadgurum」は「クリシュナ・宇宙の至高主」といった意味。
 なお、本作は【Ongaram】という題名でタミル語版も製作されている。

【Krishnam Vande Jagadgurum】 (2012 : Telugu)
物語・脚本・監督 : Krish (Radhakrishna Jagarlamudi)
出演 : Rana Daggubati, Nayantara, Milind Gunaji, Kota Srinivasa Rao, Raghu Babu, Murali Sharma, Ravi Prakash, Kishore, Venugopal, Brahmanandam, Posani Krishna Murali, Hema, Satyam Rajesh, L.B. Sriram, Annapurna, Hazel Keech, Sameera Reddy(特別出演), Venkatesh(特別出演)
音楽 : Mani Sharma
撮影 : V.S. Gnanasekhar
編集 : Shravan
制作 : Saibabu Jagarlamudi, Y. Rajeev Reddy

《あらすじ》
 ハイダラーバードのスラビ・シアターの一座に生まれたバーブ(Rana Daggubati)は、祖父で座長のスブラマニヤム(Kota Srinivasa Rao)の希望で同劇団の役者をしていたが、芝居にはまったく興味がなかった。大学の工学部を出たバーブの関心は、アメリカで勉強を続け、就職するということで、そのための準備も万端整っていた。だが、そんな時に祖父が急死してしまう。バーブは祖父の書いた芝居‘Krishnam Vande Jagadgurum’の台本を読み、祖父の遺志を尊重して、最後に1回だけ、バッラーリの演劇祭で同芝居を演じることにする。
 バーブは他の劇団員と共にバッラーリに到着する。この街はグラナイトや鉄の採掘業で有名だったが、レッダッパ(Milind Gunaji)という悪徳実業家が同ビジネスを牛耳っていた。彼は違法採掘も辞さず、現地に暮らす村人を強制立ち退きさせるなど、悪の限りを尽くしていた。ジャーナリストのデーヴィカ(Nayantara)は当地に乗り込み、レッダッパの違法行為を摘発するために取材を続けていた。バーブはデーヴィカと出会い、惹かれるものを感じる。
 バッラーリの演劇祭にレッダッパとその一味も観劇に来る。ところが、バーブの劇団のメンバーとひと悶着あり、その1人(Raghu Babu)がレッダッパの息子(Venugopal)に舌を切られてしまう。翌日、バーブは警察に訴えに行くが、レッダッパの息のかかった警官は相手にしない。逆に、このバーブの行為に腹を立てたレッダッパの息子が、劇団員を脅し、スブラマニヤムの遺灰に小便を引っ掛ける。
 憤ったバーブはレッダッパの息子を探しに採掘現場へ向かう。これにはちょうど取材に行こうとしていたデーヴィカも同行する。だが、現場でレッダッパの手下と乱闘になり、バーブとデーヴィカはなんとか逃走する。その過程でバーブはかつての劇団関係者(Annapurna)に引き留められ、自身の過去を聞かされる。それによると、バーブの両親は「チャクラヴァルティ」という名の男に殺されたということであった。一方、バーブとデーヴィカが後にした採掘現場では、レッダッパの一派とそれに敵対する一派の間で銃撃戦と追跡劇が起こり、バーブとデーヴィカはそれに巻き込まれてしまい、川に転落する。
 二人は近くに暮らす村人たちに救われる。それはレッダッパに先祖伝来の地を追われた人々だった。バーブは村人たちを鼓舞し、劇団員とスブラマニヤムを侮辱したレッダッパ一味を叩き潰し、村人たちに土地を返すと約束する。また、自身は両親の敵、チャクラヴァルティに対する復讐を誓う、、、。

   *    *    *    *

 嗚呼、目ぇ覚めたわ!
 今までテルグのアクション映画はけっこう観てきたつもりだが、本作のように「ヒーロー」の原点を思い出させてくれるような作品は珍しい。私は、インドのアクション映画のヒーローは神の似姿だという立場を取っているのだが、まぁ、神様を見たこともない私がこんなことを言うのも何だが、もし実際にシヴァやヴィシュヌがいるとして、こうした神々が地上の悪を滅ぼそうとした際には、轟音と共に大地が割れ、虚空が裂け、光り輝く御神体が示現し、悪を叩き潰す、踏み潰す、切り裂く、焼き尽くすといった、もの凄い光景があるんだろうなぁ、と想像するのだが、本作にはそれに近い衝撃があった。ガチンと来たね。
 しかも、そういう映画を、これまでややインテリっぽい作品を撮ってきたクリシュ監督が作ったというのが驚きだ。ここ2,3年、テルグのアクション映画にかつての輝きがないと感じていた私だが、それというのもファッション性に流れている感じで、面白い映画、カッコいい映画を撮ろうとしすぎているような気がする。クリシュ監督も同じようなフラストレーションを感じていたのか、武骨に攻めて来たねぇ。いちいち名指しはしないが、これまでテルグ・アクションのスペシャリストと目されていた監督たちも、本作を観て青ざめたに違いない。

 断っておくと、本作は私が想像したような【旅芸人の記録】ふうの、巡回劇団員の目を通してインド社会の諸相があぶり出されるようなカンヌ映画祭向きの映画ではなく、インドの何らかの民話をベースにしたフォークロア映画でもない。
 また、スラビ・シアターをモチーフに使っているとはいえ、その劇団の内部や舞台上の表現がつぶさに分かるといったものでもない。なので、本作を鑑賞予定の方はそちらに過度の期待をしないことをお勧めする。
 比較的正統的なアクション映画と見るべきで、クリシュ監督のこれまでの作品とも違っている。まず、ネタの詰め込みはなく、上映時間も2時間15分と短い。ストーリー構成もシンプルで、2度ある重要な回想シーンも当事者が立ち話ふうに伝えるといった単純なもので、しかもその場面は白黒映像となっていて分かりやすい。つまり、クリシュ監督はより大衆層にターゲットを向けて来たのではないかと想像されるのだが、しかし、バッラーリの不正採掘の問題を中心に据えたりして、教養層が観ても幼稚に感じることはないような作品になっている。

 スラビ・シアターのモチーフは期待したほど具体的でなかったとはいえ、クリシュ監督がスラビ劇団を登場させ、物語中で「宇宙の主クリシュナ」という題名の劇を演じさせたのは伊達ではない。クリシュ監督はやはり宗教的世界観を本作の土台に据えたかったのだろうと思う。
 本作の劇中劇は「クリシュナ神」の名を冠したものでありながら、映画のクライマックスで実際に舞台上で展開されていたのは「クールマ」や「ヴァラーハ」や「ナラシンハ」など、つまりは「ヴィシュヌ神のアヴァターラ」の物語だった。そこで話をヴィシュヌ神に移すと、トリムールティの図式はあまり好きではないのだが、それによるとヴィシュヌは「維持神」ということになる。「維持」といっても、ヴィシュヌは現状維持を決め込んでアナンタ竜王の上で昼寝だけしているわけではない。全能の神ならいくつもの可能的世界を作ることができるはずだが、その中からたった一つの世界(つまり、我々のいる宇宙)を選択したのは、それが「最善の世界」だからであろう。しかし、最善といってもそこにはなお不完全な「バグ」があるはずで、システム管理者としてのヴィシュヌはより完成度の高い世界を目指して「バグ潰し」を繰り返し、絶えず宇宙のバージョン・アップを図っているはずだ。そのバグ潰しを行ったのが神話上の「アヴァターラ」だが、クリシュ監督は本作の主人公バーブをヴィシュヌのもう一つのアヴァターラと位置付けていたようである。(私が上で本作を「ヒーローの原点を思い出させてくれる」と評したのはそのためである。)

 非常に面白く、気合いを感じる作品なのだが、欠点を言えば、テルグ映画に特徴的な「アホくさい」ところが希薄だったことだ(テルグ映画に馴染んでいる方なら、私がテルグ映画を「アホくさい」と言っても、ネガティブな意味で使っていないことは理解されていると思う)。特にコメディー・シーンが、あるにはあるし、一応笑いも取ってはいたのだが、どひゃ〜と来るものがなかった。本作は教養層にも受けそうなマサラ・アクション映画だが、フロントベンチャーには物足りないかもしれない。

◆ 演技者たち
 主人公のバーブを演じたのはラーナー・ダッグバーティ。私はこの人はどうも好きになれない(というより、図体がデカいだけで何もできないと思っている)のだが、本作でのパフォーマンスは素晴らしい。もっとも、演技らしいことはやっていないのだが、直線的で硬質な役柄がピッタリだった。(とは言っても、やはりこの人は映画俳優よりスポーツ選手になったほうがいいと思う。)
 (写真下:神話劇団の役者を演じるラーナー。これはビーマの役?)

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 ヒロイン、デーヴィカ役のナヤンターラも光っている。鼻っ柱の強いジャーナリストというのは彼女に合っているし、音楽シーンでは十分セクシーだった。ここしばらく現地芸能誌を賑わしていたナヤンさんだが、やっぱり女優というのはゴシップに揉まれて魅力が増すものか。
 ちなみに、本作ではテルグ語のセルフダビングもやっており、上手く行っているようだった。
 (写真下:もう男は信じない、、、といった風情のナヤンさん。)

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 悪役レッダッパ役のミリンド・グナージーがこれまた効いている。

 脇役陣で良かったのはコータとラグ・バーブ。
 ムラリ・シャルマとラヴィ・プラカーシュもまずまず。
 カンナダ俳優のキショールが殺される役でひょっこり出演していた。

 上に書いたとおり、コメディーは低調だったが、目立っていたのはティープー・スルターンという名の運転手を演じたポーサーニ・クリシュナ・ムラリ。
 ブラフマーナンダムとヘーマは、見方によっては面白いかもしれない。

◆ 音楽・撮影・その他
 音楽はマニ・シャルマの担当だが、自分がトリウッドのトップ音楽監督であることを思い出したかのような良い仕事だった。
 音楽シーンも総じてしっかり作られている。強いて言うなら、終盤のヘーゼル・キーチを起用したアイテム・ナンバーが余計な気がした。
 ヴィクトリー・ウェンカテーシュとサミーラ・レッディを擁したダンス曲もあり、ここだけ妙に大衆的だった。
 (写真下:いやぁ、オバサンっぽくなったねぇ、サミーラさん。)

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 物語の舞台となった採掘スポットはアーンドラ・プラデーシュ州とカルナータカ州の州境にある。バッラーリという街自体はカルナータカ州に属するのだが、映画中の登場人物は基本的にテルグ語を話していた。バッラーリの違法採掘はカルナータカ州ではホットな問題で、それを扱った映画には【Prithvi】(10)や【Super】(10)などがあるので、関心のある方は本作と併せてご鑑賞あれ。

◆ 結語
 気合い十分の超絶傑作アクション映画。強くお勧めしたい、、、と思っていたら、なんと来たる15日(土)に、1回こっきりではあるが、日本で上映されるではないか! しかも秋葉原で。日本のインド映画ファンは大挙して詰めかけていただきたいと思うが、座席数が84しかないて、そりゃ、アカンわ、、、。

・満足度 : 4.0 / 5

 (オマケ画像:カッコいい。)
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