カーヴェリ川長治の南インド映画日記

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zoom RSS 【Kadal】 (Tamil)

<<   作成日時 : 2013/02/13 23:26   >>

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 【Raavanan】/【Raavan】(10)に深い失望を感じた私は、マニ・ラトナム監督その人にも幻滅することになったわけだが、それでも氏の新作【Kadal】を観ることにしたのは、今回はアビシェーク・バッチャンもアイシュワリヤー・ラーイもシャールク・カーンもおらず、ヒンディー版も作られず、プロモーションもそれほど派手ではなく、どうやら南インドの漁村の人々を描いた物語のようであり、さらには、マニ・ラトナム監督の初期・中期の重要作品に出演したアルヴィンド・スワーミがカムバックしていることなどから、「もしやマニさんは初心に帰ったか」と期待されたからである。

【Kadal】 (2013 : Tamil)
物語 : Jeyamohan
脚本 : Jeyamohan, Mani Ratnam
監督 : Mani Ratnam
出演 : Arvind Swamy, Arjun Sarja, Gautham Karthik, Thulasi Nair, Lakshmi Manchu, Ponvannan, Kalairani
音楽 : A.R. Rahman
撮影 : Rajiv Menon
編集 : Sreekar Prasad
制作 : Manohar Prasad, Mani Ratnam

題名の意味 : 海
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 2月1日(金)
上映時間 : 2時間44分

◆ あらすじ
 バーグマンス(Arjun Sarja)は非常に優秀なキリスト教神学生であったが、ある夜、娼婦と寝ているところを級友のサム(Arvind Swamy)に見つかってしまう。真面目なサムが断固とした態度を取ったため、バーグマンスは神学校を放校処分となる。バーグマンスはサムに復讐を示唆して、学校を去る。
 その後、サムはとある漁村に神父として赴任する。そこで彼はトーマスという少年に出会う。トーマスは漁師チェッティ(Ponvannan)の庶子で、母は海辺の小屋に独居するポリオの女だった。母の死後、トーマスはチェッティを頼ろうとするが、家族には入れてもらえない。ぐれたトーマスは村の厄介者となってしまうが、それをサムが見事に手なずけ、漁師として更生させる。トーマスはサムを強く敬慕するようになる。
 成人したトーマス(Gautham Karthik)はビア(ビアトリス:Thulasi Nair)という女性と出会い、恋心を抱く。ビアは修道女学校の生徒で、後に看護婦となる。
 ある夜、サムが瞑想しているときに、付近で銃声が聞こえる。見ると、かつての級友バーグマンスが海辺に倒れていた。サムはバーグマンスを廃船の中に匿い、村の女とバーグマンスの知り合いの女チェリナ(Lakshmi Manchu)に手当てに当たらせる。ところが、夜更けにサムが2人の女といるのを目撃した村人たちは、彼が娼婦と遊んでいると騒ぎ出す。この騒動の中で、村人の一人が事故死してしまうが、それもサムのせいにされてしまい、彼は4年の禁固刑に処せられる。実は、この一連の出来事はサムを陥れるためにバーグマンスが仕組んだ罠だったのである。
 バーグマンスは今や密輸を事とするマフィアのドンとなっていた。彼はトーマスを手なずけ、悪事の片棒を担がせるようになる。また、バーグマンスは獄中のサムを訪ね、わざわざ復讐のタネを明かす。
 出所したサムは、トーマスがバーグマンスの手下になっているのを知り、失望する。しかし、ビアと恋仲になっていたトーマスは、彼女との結婚のことでサムに相談する。だが、事もあろうに、ビアの父はバーグマンスだったのである。
 サムはトーマスとビアを連れてバーグマンスの屋敷を訪れる。しかし、バーグマンスはビアの母を殺した張本人であり、少女期よりビアを冷たくあしらっていたため、ビアの心にトラウマが蘇る。
 激しく怒り、動揺したバーグマンスは、殺すつもりでビアとサムを船に乗せ、嵐の海へと出る、、、。

◆ アナリシス
・公開2週目にして大フロップ宣言が出され、レビューの評価もあまり芳しくない本作であるが、私自身は非常に気に入っているし、鑑賞中、3度ほど泣きそうになったことを告白しておく。

・批判のポイントは、後半が良くない、マニ・ラトナム監督らしい「マニ・タッチ」、「マニ・マジック」を欠いている、ということのようだが、私的には後半も十分面白かった。また、「マニ・タッチ」、「マニ・マジック」とは何だろう?

・マニ・ラトナム監督がデビュー作以来描こうとしてきたのは「人と人との葛藤」、または「一個人内の葛藤」であり、そのために葛藤する主体としての「人間」が具体的に描かれていた。私が【Raavanan】/【Raavan】を評価しないのも、人間がまるっきり描けていなかったからである。ところが、本作には(多少リアリティーを欠くが)生身を感じさせる人間が登場しており、「サムとバーグマンス」、「バーグマンスと娘のビア」、「サム及びバーグマンスの個々人内」で葛藤が成立している。過去作では【Nayagan】(87)や【Kannathil Muthamittal】(02)を思い起こさせるものがあり、そういった点では本作は十分マニ・ラトナム的であり、マニさんの原点に帰ろうとする意思みたいなものも感じ取れた。

・また、本作がキリスト教的な「善と悪の闘い」を描いたものであり、サムが善(神・天使)の象徴、バーグマンスが悪(悪魔・堕天使)の象徴だという二元論は単純すぎる、という批判もあるようだが、これは正しくない。確かに、サムは善を意志し、バーグマンスは悪を意志しているが、実は両者とも自己内で善(良心)と悪(非秩序的な衝動)の葛藤に苦しむ存在であり、単純に善(サム)が悪(バーグマンス)に打ち克つ「勧善懲悪」の物語ではない。

・特に圧巻だと思ったのはバーグマンスの葛藤で、神学生でありながら衝動に屈して娼婦と寝てしまい、神学校を追われる。以来、自称「悪魔の子」として悪事に徹し、家族も顧みなくなる。それなのに、娘のビアに天使のような笑顔で「お父ちゃん」と呼ばれ、動揺し、ビアを殺そうとする。しかし、この殺意は自我の防衛のために起きたもので、バーグマンスの精神になお良心が宿っていたことの裏返しであり、後に彼もそれに気付き、娘を受け入れる。

・もう一つユニークな人物がトーマスで、孤児で教育も受けなかった彼には精神的な方向性がなく、機械のように環境に応じて善に付いたり悪に付いたりする。だが、ビアと一緒に村女の出産に立ち会い、新生児を手にした瞬間に初めて「人間」というものに気付き、彼自身も人間性を獲得し、ビアとの結婚を決意する。この辺のエピソードの入れ方はマニ・ラトナムらしくて、実に上手いと思った。

・とはいっても、本作が傑作かというと、そうとも思われない。マニ・ラトナム監督の作品中でもアベレージだろう。毎度そうだが、どうもマニ監督の作品はストーリーの仕掛けが遅く、本作でも、上映時間が2時間44分もあるのに、十分語られていない部分が多い。特に、バーグマンスとビアの複雑な関係がよく分からなかった。

・本作がフロップに沈んだ要因は、映画の出来がまずかったということではなく、一に「スター不在」、二に「テーマ」だろう。漁村のクリスチャン・コミュニティーを舞台とし、生真面目な道徳議論をしているような映画が多数派大衆に好まれるとはどうも考えにくい。また、昨年末に【Neerparavai】(未見)という類作が公開されており、こちらの評判が良い。私もタミル人の知人から「【Kadal】より【Neerparavai】を観たほうがいいよ」とアドバイスされた。

・なら、キリスト教に基づいた物語なんか採用しなければよかったのに、とも言えるが、宗教が何であろうと「みんな同じ人間じゃないか!」と叫びたいマニ・ラトナム監督としては、キリスト教的倫理観を通しても普遍的な人間愛に到達できるということを示したかったのかもしれない。(言わずもがなだが、本作は特にキリスト教を推奨する映画ではないし、マニさんがクリスチャンになったというわけでもない。)

・マニ・ラトナム監督の作風が今日の一般観衆にアピールしなくなっているのも事実だろう。彼は「芸術的娯楽映画」の作り手と見なされてきたが、最近の彼の作品(本作も含めて)は「芸術的でもなく、娯楽でもない映画」に見える。やはりマニ・ラトナム監督は時代遅れになったと言えるかもしれない。

◆ パフォーマンス面
・本作は老若4人の登場人物を軸に物語が展開するが、年寄りの2人、つまりアルヴィンド・スワーミ(サム役)とアルジュン・サルジャー(バーグマンス役)は非常に良い。

・アルヴィンド・スワーミに関しては、この顔にキリスト教神父の役はあまりにもはまっていたので、ただただ笑うだけだった。役柄に合わせるためにかなりダイエットしたらしい。声が良くて、セリフに説得力が感じられた。

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・アルジュン・サルジャーは、「アクション・キング」の称号を捨てての悪役挑戦だが、かなり上手く行っている。今後もちょくちょく悪役で頑張ってもらいたい!

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・青年トーマス役は新人のガウタム・カールティク。タミル俳優カールティクの息子ということだが、私はそのカールティクについてほとんど知らないので、特に思い入れはない。インド映画の俳優というより、サッカー・Jリーグでボールを蹴らせたら人気が出そうな風貌だった。演技の実力のほどは分からないが、決して足は引っ張っていない。こんなふうに、新人でも大根でもそれらしく見せるマニ・ラトナム監督の演出力は相変わらず素晴らしい。(少年時代のトーマスを演じた子役のほうが上手かったとも言えるが。)

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・ビア役はやはり新人のトゥラシ・ナーイル。往年の女優ラーダの娘で、【Ko】(11)のカールティカの妹。カールティカの宇宙人顔に比して、こちらはまだ地球人だと言えるが、個性の点では姉より落ちる。まだ16歳ということで、カメラの前に立つのが精一杯という感じだったが、無垢な女性のイメージはなんとか出せていた。姉よりも体格的にはむっちりしており、下卑た表現で申し訳ないが、枕にするならこの妹ちゃんのほうかな。

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・トリウッドよりラクシュミ・マンチュが出演しているのが話題の一つで、私自身も注目していたが、ネガティブな役回りで、しかも出番は少なかった。

◆ テクニカル面・その他
・音楽はマニ作品にはレギュラーのA・R・ラフマーンだが、出来そのものは微妙。単に聞くだけなら心地よいが、場面の内容に合っていない曲もあった。(私の感触では、本作の内容からすると、イライヤラージャーのほうがよかったと思う。)
 マニ・ラトナム作品らしいとも言えるが、相変わらず体操のような振り付けのダンス・シーンもあった。

・ラジーヴ・メーノーンの撮影は良い。
 クライマックスの「嵐」のシーンは、実際に昨年10月末にサイクロン「ニーラム」が南インドを襲った際に撮ったものらしい。しかし、さすがに嵐の海の船上で展開されるシーンは特撮だろう。

・美術も良かったと思う。特に海辺の朽ちかけた古教会(それをサムが改修する)は私の好み。

◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★☆☆

◆ 鑑賞データ
・鑑賞日 : 2月9日(土),公開第2週目
・映画館 : PVR Classic,16:10のショー
・満席率 : 2割
 

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